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メガドライブ版『シャドー・ダンサー』とは メガドライブ版『シャドー・ダンサー』は1990年12月に発売された。本作は1989年にリリースされた同名アーケードゲームの移植だが、基本システム以外、ほぼすべての要素が一新され、実質的にはメガドライブオリジナルの新作となっている。これは同時期に発売された『ESWAT(イースワット)』と同様の手法だ。アーケード版とはまったくの別物だが、全体的によい方向にアレンジされている。なお、『ザ・シークレット・オブ・シノビ』というサブタイトルが付けられているが、これは『ザ・スーパー忍』のヒットを受けて、『忍』シリーズとしてのイメージを明確化するためだ。 メガドライブ版『シャドー・ダンサー』の主人公は、ジョー・ムサシの息子「疾風(ハヤテ)」である。ハヤテは忍犬「大和(ヤマト)」とともに、育ての親カトウを殺した秘密結社「ユニオンリザード」に戦いを挑む。本作のストーリーでは、ジョー・ムサシは抜け忍として追われる身となり、幼いハヤテを逃がした後に行方不明となっている。ただ本作と他のシリーズ作品との時系列は明確になっておらず、現在この設定はあまり重要視されていない。しかも海外版では、ヒット作『ザ・スーパー忍』に近づけるため、主人公がハヤテではなくジョー・ムサシ自身に変更されている。
新要素・忍犬システム メガドライブ版『シャドー・ダンサー』は、アーケード版同様、『忍』のゲームシステムを踏襲しつつ、新たな要素として「忍犬」を取り入れた点が最大の特徴だ。忍犬はプレイヤーの後ろをついてくるパートナーで、この忍犬を使った連携作戦が攻略のポイントとなっている。忍犬が敵に飛びかかって動きを封じ、そのスキにプレイヤーが敵を倒す、といった具合だ。常にプレイヤーに付き添い、指示通りに動く健気な忍犬は、本作の大きな見どころのひとつだ。忍犬はダメージを受けると、小さく縮んで攻撃できなくなってしまうのだが、この「チビ犬」の姿も何ともかわいらしい。本来、犬種としては「狼犬」のイメージだが、アーケード版の開発スタッフの間でも「ポチ」と呼ばれていた。 また、メガドライブ版『シャドー・ダンサー』で特筆すべき点は、同じメガドライブの『ザ・スーパー忍』と異なり、アーケード版『忍』シリーズのルールに準じているということだ。つまり、プレイヤーはライフ制ではなく「一発死」で、より『ローリングサンダー』色の強い、ストイックなゲーム性である。本作と『ザ・スーパー忍』は別々に開発されていたのだが、ライフ制や多彩な忍術、八双飛びなど、独自のフィーチャーを次々に導入した『ザ・スーパー忍』が好評を博し、結果として以後のシリーズ作品も、ほぼ同様のシステムを採用している。そのため、メガドライブ版『シャドー・ダンサー』は家庭用『忍』シリーズで唯一、アーケードスタイルのゲームを楽しめる作品となっている。
ボーナスステージに代表される名場面 メガドライブ版『シャドー・ダンサー』のステージ構成は、アーケード版とはまったく異なる。グラフィックの性能面では、最新基板「システム18」を使用したアーケード版には劣るため、アーケード版で印象的だったジャンボ機のシーンなどは再現できていない。だがその代わり、ラウンド1の炎上する街並みや、ラウンド3の自由の女神での戦いなど、メガドライブ版ならではの名シーンも多い。これらの見事な背景グラフィックを担当したのは、『ファンタシースター』でも有名なセガの伝説、小玉理恵子だ。 また、本作でとりわけ印象的なのは、ラウンド間の奇妙なボーナスステージだろう。ビルから飛び降りながら敵忍者を撃ちまくるのだが、ここで流れるボイスパーカッション連発のBGMは、メガドライブ史に残るインパクトがあった。このメガドライブ版『シャドー・ダンサー』の音楽を担当したのは、アーケード版と同じ塚原啓介だ。アーケード版は民族楽器を意識したワールドミュージック調で、今ひとつ存在感が薄かったが、メガドライブ版はまったく雰囲気が異なり、塚原が得意としていたミニマルミュージック、フリージャズが基本になっている。その結果、伝説的なボーナスステージBGMをはじめ、ノリのいい名曲がいくつも生まれたのだ。
アーケード版『忍』の魂を受け継ぐゲーム性 メガドライブ版『シャドー・ダンサー』で興味深い点は、世界観や忍犬システムなどはアーケード版『シャドー・ダンサー』を元にしているが、キャラクターの大きさやジャンプの挙動、敵忍者のアルゴリズムといった根本のゲーム性は、アーケード版『シャドー・ダンサー』ではなく、アーケード版『忍』に準拠しているということだ。これはアーケード版『シャドー・ダンサー』が、若干クセのあるゲームだったことに由来する。 鋒山元茂がディレクターを務めたアーケード版『シャドー・ダンサー』は、最新基板「システム18」による美しいグラフィックを生かすため、『忍』よりキャラクターが大きくなった。だがビジュアル的な迫力は増した反面、ゲーム的にはプレイヤーの見える範囲が狭く、理不尽な不意打ちで殺されることも多くなってしまった。また、開発スタッフが『忍』とは違ったため、プレイ感覚も微妙に異なっていた。 そして、アーケード版『忍』に感銘を受けていたメガドライブ版『シャドー・ダンサー』のディレクター・近藤智宏は、鋒山にアドバイスを受けたり、アーケード版『シャドー・ダンサー』の都会的なイメージは踏襲しつつも、主にアーケード版『忍』のロジックを参考にして、本作を開発したのだ。そうした意味ではメガドライブ版『シャドー・ダンサー』は、アーケード版『忍』とアーケード版『シャドー・ダンサー』、両方のエッセンスを受け継いだ作品であるといえるだろう。
爽快なアーケードスタイルが楽しめる秀作 メガドライブ版『シャドー・ダンサー』は、アーケード版の忠実な移植ではないが、家庭用ゲームらしく、遊びやすい方向にアレンジされている。結果としてアーケード版に負けないどころか、ある面では上回るほどの完成度を持つ作品になっているといえるだろう。ヨーロッパでのみ発売されたマスターシステム版が、強引なまでの技術力でアーケード版の見た目を再現しつつも、肝心のゲーム内容は最悪だったのとは対照的だ。 ただ一般的に見て、メガドライブ版『シャドー・ダンサー』が『ザ・スーパー忍』ほどの人気を得られなかったのも、また事実だろう。まず一発死のパターンゲームなので、その時点で好みが分かれる。また、新機軸をいくつも取り入れた『ザ・スーパー忍』と比較すると、全体に小じんまりとした印象で、ウリの忍犬も思ったほど使いどころがなかったりする。各ラウンドのボスが、どれも今いちパッとしないのも難点だ。 しかし、一発死のゲームはシビアな一方、独特の緊張感や緻密なパターンの楽しさがあるし、サクサクとテンポのいいゲーム展開、そして手裏剣で敵を倒さずにクリアする「忍ボーナス」は、『ザ・スーパー忍』や以後のシリーズ作品にはない、アーケードスタイルの『忍』ならではの魅力だ。また演出面でも、自由の女神での戦いやボーナスステージなど、本作には心に残るシーンがたくさんある。メガドライブ版『シャドー・ダンサー』は完璧なゲームではないかもしれないが、とても楽しめる一級のアクションであり、『忍』シリーズを語る上で決して外せない作品のひとつだ。
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