ダブルドラゴン アドバンスへの道
The Way of Double Dragon Advance
[ Part 3 ]




ストーリー

 ブルース・リーが生前に書き残した未完成の映画シナリオで『南拳北腿』というSF作品がありまして、この内容がまた意外にもモロに『北斗の拳』にそっくりだったのに驚いているところで本作の話になったので、オリジナルのストーリーに部分的に『北斗の拳』や『南拳北腿』のエッセンスを入れ、香港の功夫映画やブルース・リーが生前に追い求めていた「武道の映画」っぽくアレンジしました。
 外見的にはウォルター・ヒル監督の『ウォリアーズ』や『ストリート・オブ・ファイヤー』のようなイメージですが、精神的には極めて東洋的で、『燃えよドラゴン』でブルース・リーが台詞や役柄で示したような雰囲気が本作にあって欲しいという私の中の希望がありました。

 デモは素材がなかったため、苦心の末あのようになりました。動機と結末が全くわからなかった『リターン』のようにはしたくなかったので、テキストは早い段階で用意して、たとえ絵が入らなくても作品内に残すつもりでした。
 起承転結の「承」の部分がゲームになっているので、1本の映画的にまとめたいというのが理想でした。やっぱりよりイイ演出を入れるには容量や時間を要するみたいですね。このあたりはFC版『DD2』が劇的で大好きです。

アイテム

 ブルース・リーの遺作『南拳北腿』のプロローグに、「物質文明が発達し、毒ガスや爆弾などの大量殺人兵器を使用した凶悪犯罪が世界中で行われる」という部分がありまして、たまたまAC版にはダイナマイトがあったので、出現箇所を増やして強調してみました。また数については、調整段階でたくさん持たせてみたら開発チーム内でも受けが良かったので、そのままにしてもらいました。

 本当は毒ガスも入れたかったし、銃などの近代兵器も出して、『魔界村』や『くにおくん』じゃないですが悪質な一発死にや、一定時間ダメージを負うなどのゲームをもう少し入れてみたかったのですが、別な作品になる恐れもあり結果あのようになりました。ナイフをいくつもストックできるというネタは入れたかったのですが残念です。

ボツネタ

 当初企画では2部構成でした。1部は核戦争前。チャイナタウンに老いた恩師がいて、ウォンとハンやレイモンドを絡めた流派争いのドラマがあり、師が病に倒れて亡くなる予定でした(師匠から「生死を賭けた私闘は生涯に一度あるかないかだ。その時にこそ奥義を使いなさい。むやみに使ってはならんぞ」と言われます)。
 各地の道場にいやがらせをして「傘下に入れ!」というウィリーに抵抗するがトドメをささないという序章があり、核戦争により荒廃した街から脱出します。そして最終章のタイトルが「ダブルドラゴン」となり、ここで初めてマリアンがさらわれてAC版『DD1』を一気に再現しよう! というプランでした。
 おい! 長すぎ! 期間、予算、容量を見てくれ! バックアップもないんだぞ! と言われて削りに入り野望は断念。新しく構成し直しました。

 マリアンがアジトから逃げて最終面から逆走する「マリアンの大脱走モード」や、アボボで立ち向かいマリアンを助けだす「アボボのレネゲードモード」は案としては面白かったのですが断念! なごりでは2人ダブドラモードが入りました。
 『コンバットライブス』の3人を出す案や、サバイバルで20人おきにマリアンが現れ! 歩き回るマリアンをつかまえてキスを奪うと体力回復! という案も面白かったのですがカット! それでも何とかまとまって安心しています。

敵の思考のイメージ

 イメージとしてはプロレスゲームのようにできたら面白いなぁと思っていました。体力がなくなるごとに防御や組み技返しの実行率が下がっていき、無防備になっていく感じです。
 また攻撃パターンにも変化が出せると面白かったのですが、今回はできませんでした。例えば足を集中的に攻めると、歩きが遅くなって蹴り技が出なくなったり、蹴り技の攻撃力が少なくなったりするなどです。
 また急所があったり、感情があったりする部分をアクションでオーバーに表現してみたかったのですが、このあたりはアクション数が多すぎるため、アイディアごとざっくりとカットしました。

 「入れたかったアクションその1(折る!)」
 手や足を折る技もありました。極めて特殊な操作で、組み技中にさらにタイミングで敵の腕や足を折り人体を破壊すると、敵は悲鳴を上げて逃げていく! みたいなアクションもやりたかったのですが残念です。

 「入れたかったアクションその2(武器!)」
 武器の必殺技も入れたかったし、特に中国の武器をたくさん入れたかったのですが、なごりで「ダブルスティック」だけが残りました。武器をつかんで蹴って奪ったり、ヌンチャクを2本拾ってダブルヌンチャクにしたりもやりたかったのですが断念しました。

 その他にもアクションの案は「2部構成の敵」「挑発演出」「カンフー競り合い」「ビリーとジミーの特殊技」「地形別アクション」などいろいろあったのですが、容量や時間の都合もありますし、AC版『DD1』の雰囲気から遠のいていくのでは? という指摘もありまして、引き算をしてどうしても入れたいネタのみ現実的にまとめました。昔よりも熱くなりすぎず冷めすぎず、力みすぎないでうまく作品作りに取り組めたと思います。

原作にある凄い部分で、今回にできなかったこと

 あのAC版『ダブルドラゴン』は、オープニングのシャッターが開く部分から最終面の手前の入り口に入るまで、1カットでスクロールするという凄い芸をやっているスクロールゲームなのです! この構成にはびっくりしました。
 つまりたったの2カットでエンディングまで全て流れます。映画的ですが映画でも実際には難しい、まさにゲームならではの演出芸なのです! それだけにステージがつながっている! というスクロール感が非常にリアルな作品で、プレイヤーはゲームの独特な世界観に没頭できるというゲームでした。
 ステージ間はカット替えなしで、オートで歩き画面は追って次のステージの最初に進み、ゲームが始まります。今回もこれをやりたかったのですが、様々な問題がありまして断念しました。

 それから敵の思考の「バックステップ」についてです。AC版を遊んでいただけるとわかるのですが、まず敵に近づいて殴るか蹴るかすると、敵は攻撃判定を紙一重で避けます(当たり判定外に後退します)。もうちょっと近づくと当たるように見えるので、前へレバーを倒しながら殴ると、案の定ヒットします。ジャンプキックのような放物線の軌道での攻撃も、同じスピードで後退してヒットしなかったりします。
 大体この手のゲームで、こんな風にフラフラ移動して攻撃を見切ってしまう敵はテクノスアーケードゲームの敵の思考くらいのもので、奇妙な難しさがあり、遊んでいて非常に独特な間合いを表現しております。

 ダブドラやるからにはこの2つの部分を完全に再現したかったのですが、FC版のイメージもありますので、今回は完全再現することは断念し、FC版のテイストも考慮して本作用に一新しました。このあたりのポイントはまさにAC版オリジナルの威厳でもあると思っております。

 AC版『DD1』にはやはり勝てませんし、FC版『DD2』のスタッフならもっと違う作品にできたかもしれませんが、私自身今回ほど楽しく開発できたことはありませんでした。また本作が刺激になって新しい案が浮かんだりしてます。32メガでここまでやれたらスタッフには感謝しかありません。最高のゲーム開発を味わいました。

おわりに 〜全てのダブドラファンへ〜

 そんなこんなで1987年の名作『ダブルドラゴン』は近年のゲーム機に新作ソフトとして再生しました。私はそれ自体が劇的な話だと感動しております。また国内、海外の全ての「ダブルドラゴンファン」の方々がHPなどで載せていた記事を読んでは「いつかもう一度チャンスがあったらなぁ」と考えていました。
 長い間このタイトルを忘れないで気に置いてくれた皆様のハートに深く感謝します。本作『ダブルドラゴン アドバンス』は皆さんの気持ちのおかげでこうして完成した作品だと思います。
 これからも末永く『ダブルドラゴン』を大切にしていただけますよう宜しくお願い致します。もちろん私もずっと大好きなタイトルとして大切にしたいと思います。やっぱり世の中の大体は愛で成り立っていると思いますので。

    2003.12.30 海老沼 宗樹



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