タミム・アンサリー氏(作家・アフガン系アメリカ人)によるエッセイ
--- アフガニスタンの実状と、ビン・ラディン、タリバンの狙いについて


(筆者の許可を伴わない非公式の日本語訳。2001.09.22/修正: 2001.09.23)


(原文はこちらに掲載)

このエッセイについて:

これはメールで全世界に流通しつつある、アフガン系米国人作家、タミム・アンサリー(Mir Tamim Ansary)氏のエッセイです。調べた範囲では、彼はまず9/13頃にこのエッセイを友人に送り、直後に一部加筆修正をして、より多くの知人に送ったと思われます。したがって、この文章には大きく分けて2つの異なった版がある訳ですが、ここではより詳細な描写がなされている後者の版を掲載・翻訳しています。

タミム・アンサリー氏の著作を読んだことはありませんが、この一文はなるべく多くの人の目に触れるべきものと考え、ここに原文と日本語訳を掲載することにしました。パキスタン国内で反米機運が高まる今、改めて読み返すべき内容を持っていると思います。

お断りと注意事項:

以下の全訳は、関心のある人なら誰にでも読んでほしいという筆者の意向に沿うと考え、私(ひょみ)が筆者の許可なく行ったものであり、つまりは非公式訳であります。したがって、何らかの形でこの日本語訳をご利用されるときは、以下の点にご注意いただきたいと思います。

(1) 引用される場合は、できるだけ原文の対応箇所と併せて引用いただければと思います。それが諸事情により難しい場合も、訳文の引用は改変を加えず、また訳者名を明記の上お願いします。

(2) 訳文を要約して引用することは避けて下さい。要約は各自の責任において行い、元の訳文もしくは英語の原文への参照リンクを付けていただきたいと思います。

参考: Web上で紹介されている例の一部をご紹介します。

第1版(と私が考えるもの): (a) (b) --- (b)には筆者へのインタビューも掲載されています。

第2版(と私が考えるもの。ここに掲載した訳文の原文): (1) (2) --- (1)が見たところ最初期の紹介のようです。


各位:

 

昨日、「アフガニスタンを石器時代同然になるまで爆撃する」という話を沢山耳にした。KGOトークラジオのロン・オーウェンズは、このことが罪もなき人々、つまり今回の凶行と何の関わりもない人々を殺すことを意味すると認めつつも、「これは戦争なのだ。それに伴って民間人に与える損害はやむを得ないだろう。他に何ができる? 何か考えがあるか?」と問いかけた。その少し後にはTV評論家たちが、我々に「やらねばならぬことをやる覚悟がある」かどうか議論していた。

私はこれらの問題について特に真剣に考えてみた。というのは、私はアフガニスタン出身であり、ここ(米国)に住んで35年になる今も、かの国で起こっていることについて絶えず追い続けてきたからだ。そこで、耳を傾けてくれる人たちに私の考えを伝えたいと思う。

私は、タリバンとオサーマ・ビン・ラディンを憎む者として発言している。私の考えでは、ニューヨークとワシントンDCでの大殺戮が彼らの責任であることは間違いない。この怪物たちが処罰されることを、私は強く願っている。しかし、タリバンとビン・ラディンは、アフガニスタンではない。彼らはアフガニスタンの政府ですらないのだ。タリバンは無教育な異常者たちのカルト集団で、1997年にアフガニスタンを掌握し、以来この国を虜囚としている。ビン・ラディンという人物は、具体的な青写真を持った政治犯である。

タリバンを考えるとき、ナチスを思い起こしてほしい。ビン・ラディンはヒトラー、そして「アフガニスタンの民」は「強制収容所のユダヤ人」だと考えてみてほしい。アフガニスタンの人々は、あの大規模テロに関係がないというばかりではない。彼らはこの犯罪者たちの最初の犠牲者なのだ。彼らは、誰かがタリバンを殲滅し、国内に身を隠している国際的悪党の巣窟を一掃してくれないかと願っている。それは間違いない。

こう訊く人もある。もしそうなら、何故アフガニスタン人は立ち上がって自力でタリバンを転覆しないのか、と。答えはこうだ。彼らは飢えて、疲れ果て、傷つき、無力化されているのだ。数年前、国連はアフガニスタンに---経済も、食料もない国に、50万人もの体の不自由な孤児がいると概算した。そして百万を超えるアフガン女性が、ソ連との戦争で死んだ約200万の男性の未亡人となっている。タリバンは彼女らを女性であるという理由で処刑し、反対勢力を大きな墓穴にまとめて生き埋めにしてきた。アフガニスタンの国土は地雷で埋め尽くされ、ほとんどの農地が破壊されている。アフガニスタンの人々はタリバンを打倒しようとしてきた。ただ、できなかっただけだ。

ここで、「アフガニスタンを石器時代同然になるまで爆撃する」という話に戻ろう。この企ての厄介なところは、それが既に達成されてしまっているという点にある。ソ連が万事片付けてしまったのだ。アフガニスタン人を苦しめる? 彼らはとうに苦しんでいる。家々をぺしゃんこにする? もうぺしゃんこだ。学校を瓦礫の山にする? 既になっている。病院を根こそぎにする? 既にされている。インフラを破壊? インフラなどありはしない。医療と衛生管理が届かないようにする? もう遅い、誰かが全部やってしまっている。

新たな爆弾は、以前落とされた爆弾が作った瓦礫の上に着弾するだけだ。では、せめてタリバンに命中するだろうか? それはありそうにない。現在のアフガニスタンでは、タリバンだけが食料にありつき、移動する手段を持っているのだ。彼らはうまくすり抜けて隠れるはずだ(既にそうしている、とも聞く)。爆弾は恐らく体の不自由な孤児に命中するだろう、何しろ彼らは速く移動はできない---車椅子すらないのだから。カブール上空を飛んで爆撃したところで、あの恐ろしい事件を起こした犯罪者たちへの打撃とはならないだろう。実際それはタリバンと共同戦線を張るようなものだ---彼らが蹂躙し続けてきた人々をもう一度蹂躙するという形で。

では他に何ができるだろうか? ここから先は正直、私自身恐怖で身震いするような話だ。ビン・ラディンを捉えるには、地上部隊で進攻するしかない。人々が「なすべきことをする覚悟」と言うとき、その多くは、できるだけ多数の人を殺す覚悟だと考えているだろう。つまり、罪なき人々を殺すことへの良心の呵責を振り切ることだと。しかしここで問題になっているのは、実は、殺すことではなく、死ぬことへの覚悟なのだ。ビン・ラディンを捉えるための地上戦では、アメリカ人が命を落とすことになる。だがこれは単に、ビン・ラディンの隠れ家を目指して進軍したアメリカの兵士が死ぬというにとどまらない。もっと深刻な話なのだ。アフガニスタンに進軍するとなると、パキスタンを通過しないわけには行かない。彼らはすんなり通してくれるだろうか? それも期待薄だ。ならば、まずパキスタンを征服することが必要になる。他のイスラム諸国がそれを黙って見ているだろうか? これで話がはっきりしてきただろう。パキスタン侵攻プランは、イスラム対西洋世界の世界戦争をそそのかす行為なのだ。

そしてこれこそが、ビン・ラディンの狙いなのだ。これがまさしく、彼がこんな事件を起こした理由であり、目的なのである。彼の演説や声明文を読むといい。全てはそこに書かれている。現時点では、もちろん彼の言うような「イスラム」というものは存在しない。イスラム教徒とイスラム教徒の国々があるだけで、イスラムという名の一つの政治的実体はない。しかしビン・ラディンは、戦争を引き起こせば、彼がそれを実体化し、率いることができると考えているのだ。彼はイスラムが西洋世界を倒せると本気で信じている。馬鹿げているようだが、しかし彼は世界をイスラムと西洋に二極化させれば、彼の元に何億という兵士が集うと読んでいるのだ。もし西洋がイスラムの地で大虐殺を行えば、そこには、もはや失うものを持たない何億もの民が生まれる。そしてそれは、ビン・ラディンにとってはむしろ都合がいいことなのだ。彼の勝算はおそらく見込み違いであって、最終的には西洋世界が勝利を---そのような戦争での勝利がどんなものであるかはともかく---収めるだろう。しかしその戦争は何年も続き、何百万人もが死ぬ、それも双方で。誰にその覚悟があるだろう? ビン・ラディンにはある。だが他に誰が?

私には解決案はない。しかし苦痛と貧困こそがテロリズムの育つ土壌であると私は真剣に思っている。ビン・ラディンとその一味は、自分たちとその仲間が栄えるよう、この土壌を増やす企みに我々を誘い込もうとしているのだ。彼にそれをさせてはならない。以上が拙いながらも私の見解である。

 

タミム・アンサリー

(日本語訳: ひょみ)



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