ACT.92 私の条件反射 (2000.11.26)

 『パブロフの犬』という有名な言葉がある。
 これは読んだ通り、パブロフさんの飼っていた犬をあらわしている。
 まあ、実際のところは飼われていたというよりも、実験対象であったらしいのだが。
 で、パブロフは犬を使って、いわゆる条件反射と呼ばれるものの実験を行った。
 それは犬に食事を与えるときに必ずベルを鳴らしてから与えたというものだ。
 これをずーっと続ける内に、ベルだけを鳴らしたときに犬にある変化が現れるようになったという。
 それはベルが鳴ったら食事の時間なんだなと理解したのだ。ってそれじゃ単なるしつけではないか。
 それはベルが鳴ったのに食事がないと不満を漏らすようになったのだ。ってなんかむかつく犬だな。
 それはベルが鳴っただけで体が食事の消化の準備をするため唾液が出始めたのだ。これがほんとだよね、確か。
 つまり、あることとあることをセットで毎回繰り返していると、その片方だけを行ったときにもう片方の事柄に対して、体が無条件に反応するということだ。なんか自分で書いててよく分からん文章だが、そういうことだ。
 これは犬だけではなく、当然人間にも当てはまる。
 実は私はここ最近ある条件反射に悩まされているのだ。
 いきなり汚い話になるが、あなたは裸で小用を足したことがあるだろうか。つまり、おしっこしたことがあるかということよ。
 もう10年ぐらい前になるが、初めて一人暮らしをはじめた冬のある日、シャワーを浴びていた私は猛烈にトイレに行きたくなった。
 当時からユニットバスを嫌っていた私のうちではトイレと風呂は当然別である。となると、本当ならシャワーを浴びるのをやめ、体をタオルで拭いてからトイレに駆け込むのが正解だ。まあ、正解というよりも常識的な行動ということですな。
 しかし、そのときの私の頭は以下のようなことを考えていた。

 ものすごくトイレに行きたいが、我慢できるだろうか? → いや、これはとても我慢できる状態ではない。おまけに頭を洗い終えたばかりだ。 → 一旦、シャワーを浴びるのを止めようか? → もしやめたらそのままの格好でトイレに駆け込まなきゃ間に合わない。 → となると床が濡れてしまう → 面倒な手間を増やしたくない → おまけにこの寒さで濡れたまま歩いていたら風邪をひいてはしまわないか? → では、タオルで体を拭いてからトイレに向かうか? → だから、そんなことしてたら間に合わないっつーの! → それじゃ、どうしろって言うんだよ! → 何だよ!やんのか! → やってやろうじゃねぇか!! → 2人ともいい加減にしてよ! → 男と男の戦いに口を挟むんじゃねぇ!×2 → 2人とも何を馬鹿なこと言ってるのよ!こんなことしている間にも限界は刻一刻と近づいているのよ! → じゃあ、どうしろって言うんだよ!×2 → そ、それは……(赤面) → 何黙ってるんだよ。×2 → 私がマドンナの代わりにお話しよう! → お、お前はクラス一のキザ男!×2 → マドンナはこう言いたいのだよ。「ここでしてしまえばいい」とね。 → え!×2 → 私もこの意見に賛成だ → あ、委員長!×3 → しかし、マドンナがそんなことを考えるとは思えない! → 確かにそうだ。適当なこと言ってんじゃないぞ、キザ野郎が! → フン!無能の者たちには何を言っても分からぬか。 → 何だと、てめぇ。喧嘩売ってるのか! → 所詮、君たちは最後は暴力に頼るしかないんだね。 → くそぉ、馬鹿にしやがって! → 君たち、いい加減にしたまえ!マドンナの顔が見えないのか! → えっ!?×3 → シクシク……(泣) → マドンナはこんなにも真剣に悩んでいるというのに、君たちは争ってばかりだ! → ………×3 → マドンナの流した涙の意味とは一体?次回「玉ねぎはどこまでが皮なの?」お楽しみに!

 ……以上のような流れで、私はシャワーを浴びたまま、おしっこをしてしまうという暴挙に出たのだ。股間から流れ出る液体と体を滴り落ちる液体とが交じり合うのを眺めながら、嗚呼、大の大人が何をしてしまったのであろうなどとは全く考えず、おもいっきり放尿をする快感に身を委ねていた。
 そして、すべて出し切った後に、何を血迷ったか、シャワーを浴びながらおしっこをすればトイレの水代が節約できるではないか、と考えたのである。これが自分の中で風呂場で用を足す確固たる理由となった。もう誰にも責められないという思いまであった。大馬鹿である。
 てなことで、それからしばらくの間、シャワー中に尿意をもよおした時はそのままそこでするようになった。
 しかし、批難されるかもしれないが、全裸ですると意外と開放感があって気持ちいいのだ。未経験のあなたは是非一度やってみるべきだ。人生何事も経験なのだ。これ重要。
 えっと、何の話だったか?そうそう、条件反射だ。
 で、そんな日々を生活しているうちに、私の体に異変が起きるようになった。
 それはシャワーを浴びるだけで尿意をもようすようになったのだ。これこそ条件反射以外の何者ではない。まあ、それでも自宅にいるときは別に誰も見ちゃいないんだから、こっそりやってもいい。しかし、これが旅行先など別の場所だったら問題だ。しかし、体にとってみりゃそこが自宅のシャワーだろうが、銭湯のシャワーだろうが関係ない。つまり、自宅以外でシャワーを浴びるときは、なぜかもようしてくる尿意を我慢しなければいけないのだ。いわゆる最初の状態に逆戻りしているのである。まさに本末転倒とはこのことだ。ちょっと違うか。
 なんてダラダラと書いてみたけど、実はこれはあくまでシャワーを浴びているときなので、湯船に入ると見事に尿意が治まるのである。本当に人体の身体とは神秘なものであるな。なんて最後を綺麗にまとめても無駄なのは分かってますけど。

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