桜の季節もそろそろ終わりに近づく頃、由利夏海はこの界隈で最大の公園である北公園
にきていた。少し前までは桜が満開に咲いていて、夜でもたくさんのぼんぼりの下、花見
客が大勢、長い冬の後の春を楽しんでいたのだが、黄緑色の葉が多くなった桜の木からは
ぼんぼりも取り払われ、午後七時の現在、西側の空からの残照だけが夏海の顔を横から照
らしている。
 周囲に人影は無かった。夏海はベンチに一人で座り、深呼吸をした。
 どんなやつだろう。夏海はもしかしたら現れるかもしれない連続婦女暴行犯の人相を想
像してみた。熊みたいなひげ面かしら、それとも細面に細目の陰湿そうなやつかしら。
 この公園では過去半年の間に五件の婦女暴行事件が発生していたのだ。
 花見の季節は人が多いから起こらなかったが、そろそろ欲望の塊が限界まで膨れ上がっ
てる頃のはずだ。夏海はその男を待っていた。
 夏海に被レイプ願望があるわけではない。
 夏海はむしろサディスティックな性格なのだ。
 今までにも何度も同じ柔道部の男子生徒や、ボーイフレンドを柔道の技で失神させたり
して楽しんできたが、だんだんとそれにも飽きてきてもっとスリルを求めるようになって
きたのだった。
 そんな折に、自分の生活圏内でおこったこの事件は格好の興味の対象になった。
 強い男を柔道の技で屈服させて、屈辱感にさいなまれる男の表情を見るのが夏海の趣味
だが、今度の相手は単に強い相手ではなくて、悪い相手であり犯罪者であるのが今までと
違うところだ。そこは夏海の興奮するところでもあった。
 五件の暴行事件はいずれも単独犯であり、ナイフで脅して衣服を剥ぎ取り、コード類を
束ねるストラップで後ろ手に指を縛ってバックから犯すという手口だった。
 夏海は女一人を相手にナイフを使うような男に脅威は感じていなかった。
 ただ、そんな相手なら、今まで以上に痛めつけて思い切り暴れられるという期待が大き
かった。
 しかし、三回目の待ち伏せも空振りに終わった。
 八時になるのを携帯電話で確認してから、木造のベンチを立った。
 桜並木の間に作られた小道を階段に向かう。
 左側の茂みが微かにゆれて人の気配がしたが、襲ってくるような殺気が無い。
 こっそり覗いてみたら、高校生くらいの男女が絡み合っていた。
 立ち木に抱きつくようにして女が尻を突き出している。そのスカートは腰まで捲り上げ
られて男が後ろから突き上げていた。。
 男はジーンズと下着を膝まで下ろし、腰を律動させている。
 女の膝にピンクの布切れが絡まってるのが妙にわいせつに感じた。
 春はサカリの季節か。
 快感に溺れている二人に気づかれないようにこっそり公園を後にした。

 家に着いて門を開けようとしたとき後ろで人の気配がした。
 一瞬の殺気のあと、蹴りが夏海の背中を襲ってきた。
 身を翻してその攻撃をよける。小さなその人影に面して戦いの構えを取る。
 街頭の光を背にした黒い人影は無言のまま前蹴りから手刀突き、くるっと体を回しての
後ろ回し蹴りを滑らかな動きの中で繰り出してくる。
 後ろ回し蹴りは夏海の頬を掠めていった。その一瞬の隙を突いて夏海は相手の懐に飛び
込む。
 襟と右肩をつかんで腰を入れ一本背負いで硬いアスファルトにたたきつけてやった。
 しかし、その人影は体を回して軽く受身を取り、土ぐものように地を動いて夏海の右足
を払った。バランスを崩して夏海が地面に横たわる。
 そこであっさり戦闘は終わった。
 倒れた夏海に手が差し伸べられる。
「だいぶ上達したみたいだが、攻撃が決まったと思うのが早すぎじゃな。最後まで気を抜
いてはいかんよ」
 しわの深い手を握って引っ張り起こしてもらいながら夏海も返事をする。
「おじいちゃんっていつまでたっても衰えないね。今度からはもっときつく反撃してあげ
るよ」
 その小柄な老人は夏海の祖父だった。立ち上がると夏海のほうが背が高く、見下ろす格
好になる。
 その祖父の顔から笑顔が零れ落ちる。
「まるで手加減したような言い方じゃな、ハッハッハ」
 二人が手を取り合って家の中に入ると、奥の居間のほうから日本酒の匂いがしてきた。
 思わずかばんを放り出して夏海は居間に走る。

 思った通り、そこには日に焼けたひげ面の父が畳にあぐらをかいて、スルメをさかなに
酒を飲んでいた。
「お父さん、いつ帰ってきたの」
 小躍りするように隣に座り込む。
「今朝ついたばかりさ。しかし相変わらずじいさんと格闘技ごっこしてるのか。いいかげ
んにしとかんと嫁の貰い手がいなくなるぞ」
「ふーんだ。あたしより弱いやつと結婚なんかしないもん。あ、でも、だからお婿さん候
補が少なくなるってことか」
 三人の笑い声が狭い居間の中に渦巻いた。
「でも、ごっことは聞き捨てならないわよ。これでも男子の柔道部員にだって負け無しな
んだから」
「俺に言わせりゃ子供の遊びさ。本当の強さはパワーだ。いくら技を身につけても力が足
りなければ海の男には勝てんぞ」
 父親の三造が力瘤を造って見せた。半そでシャツから露出した上腕部に盛り上がる筋肉
には血管が浮いて、夏海はうっとりとした目で見つめてしまった。
 自分はどうがんばってもこんなに筋肉をつけることはできない。
 胸や腕に盛り上がる筋肉美は男性だけの特権なのだ。うらやましくもあり悔しくもあっ
た。
 母を早くに亡くした夏海は、船員である父親が日本にはあまり滞在できないため、祖父
と二人の生活が長く続いた。柔道や空手などを教わったのも祖父からだった。
 父の三造は祖父と違って格闘技にはまったく興味のない人間だったのだ。
 それでも祖父に教わった体術を試したくて父に挑んだ夏海は三造にまったく歯が立たな
かった。蹴りも突きもその弾力のある筋肉で受け止められて、胸に受けた張り手で芝生の
庭を三メートルも弾き飛ばされた。
 こうなったら、祖父からはあまりに危険だからと封印されていた後ろ回し蹴りで踵を延
髄に入れる技を使う以外にない。
 一瞬の躊躇のあと、ダッシュして右まわし蹴りからジャンプし、体を回して左足の踵を
三造の後頭部に入れた。
 決まったと思ったのは間違いだった。
 体力だけでなく反射神経も人並み以上にある三造は前かがみになってそれをすんでの所
で避けたのだった。
「ずいぶん危険な技を覚えたもんだな。こいつは普通の相手にやったら相当やばい技だぞ。
じいさんに封印されていたんじゃなかったのか」
 その後、封印されていた技を使った罰として、夏海は庭でジャージとパンツを下げられ
て、子供のときに何回もされたように尻たたきを受けた。
 柵があるとはいえ屋外で尻を丸出しにされて叩かれる羞恥は、夏海の頬を真っ赤にした。
 ぱん、ぱんと気前よく、風船の割れるような音が耳の奥に今でも懐かしく残っていた。
 思い出すだけで胸の中が熱くなった。またあんな風に尻叩きをされてみたいと思った。
 絶対的にかなわない相手に恥ずかしいことをされるのは、サディスティックな快感とは
また別の気持ちよさを内に秘めているようだった。
 でももうあんなことはないだろう。
 自分が強くなったからではなくて、去年と比べても自分が女っぽくなってるからだ。
 父もからかい半分でできるくらいに無関心ではいられないだろう。
 寂しくもあり、少し誇りにも思った。
「今度は何日くらい居れるの」
 父の空になったコップに日本酒を注ぐ。
「いつもどおりさ、一週間は休みだ。明日は墓参りに行くけど、おまえも来るか?」
 半年に一回しか日本に帰ってこない三造は帰ってきた翌日の墓参りは欠かさなかった。
 日曜日だから夏海も一緒に行く事はできる。
 柔道部の練習はこの際サボって墓参りに行く事にした。
「久しぶりに三人で墓参りにいけるね。かあさん絶対喜ぶよ」
「しかし、随分帰りが遅かったな、柔道部の練習はそんなに遅くまでやってるのか?」
 夕食を作るために席を立とうとした夏海に三造が声をかけた。
 うん、まあねとはぐらかして、夏海は台所に立つ。昨夜多めに作っておいた鯖の味噌煮
を冷蔵庫から鍋ごと出して軽く火にかけた。
 味噌の温まるにおいがぷんと漂う。母親の匂いだ。夏海は目を閉じてほんの少しだけ今
は居ない母親の思い出をまさぐった。


 2

 さっきの女は一体何者だ? まるで自分を誘うように薄暗いベンチに腰掛けていた。
 この公園で何人もレイプされている事はテレビのニュースでもやっていたくらいだから
知らないわけは無い。警察がおとり捜査でもしだしたのか?
 男はサバイバルナイフで女子高生のショーツを切り裂きながら考えていた。
 この女子高生とさっきまでセックスしていた男子高生は当身で気絶させ手足を縛って転
がしてある。ジーンズを膝までずり下げた彼の股間のものはさっきまでの活躍の面影も嘘
のように消えて縮こまっていた。
 震えながら泣き声を上げている女子高生には、おとなしくしていれば怪我はさせない、
と一言だけ言って芝生の上に四つん這いにさせた。
 頭を押さえつけて尻を高くさせる。スカートのまくれあがった尻は街灯の薄ら青い光の
中で熟れた桃のように甘い匂いを発散させている。
「騒いだらこのナイフをおまえの割れ目に突き刺すからな。じっとしてろよ」
 男の声に女子高生は痙攣に似た動作でうなずいた。
 尻の後ろに跪いて男はその真中に顔を持っていく。
 鼻をつけて肛門の匂いを大きく吸い込む。風呂に入っていないそこの匂いは男の気持ち
を強烈に刺激する。股間のものが血液をためて大きく膨張してズボンをはちきれさせよう
かというほどになる。
 舌を出して中央のすぼまりを舐めると苦い味が口の中に広がっていった。
 しばらくそうして楽しんだ後、男はズボンを下げていきり立っているものを取り出す。
 さっきまで男子高生の物を受け止めていた性器はまだぬるぬるで唾をつける必要もない
くらいだ。
 男の物が押し当てられた時、女子高生がうめき声を上げたのは男のそれが尋常のサイズ
ではなかったからだった。
「うう、痛い。許して」
 小さな声で哀願するのを無視して男は腰を入れた。
 その瞬間、うぎゃっと押し殺した声が女の口から押し出された。
「すぐに彼のものがつまんなく思えるようになるぞ。怪我したくなかったら力を抜け」
 男の腰がさらに入り、ずぶずぶと音を立てながら全体が埋没していく。
「痛い……ゆっくり入れて」
 女はすでに抵抗する気持ちはなくなってるようだった。
 いつもそうさ。男はこれまでを振り返って思う。
 女はいつも最初だけ抵抗するが、入れてしまえば自分から欲しがってくるのだ。
 三回犯してやったのに、四回目を欲しがった女も居た。
 男の腰の動きがリズミカルになるにつれて、女の声も嫌がる感じのものから喘ぎ声に変
わっていった。
「どうだ。いいだろう」
 ズッズッと尻に当たる男の腰。女が、いい、もっとくださいと言い出すのに十分もかか
らなかった。
 女がすっかり上り詰めようとしているとき、やめろ、と言う声が後ろから聞こえてきた。
 かすれた小さな声だった。
 男が首だけ振り向くと、手足を縛られた男子高生が憎しみに引きつった顔で男を睨んで
いた。
「おとなしくしてろ。終われば開放してやる。騒げば後悔するぞ」
 感情のこもっていない冷たい声に、男子高生は目をそむける。
 恐怖に精神ががんじがらめにされているのだ。男は再び女を犯す作業にうつろうとした。
 しかし、予想外に男子高生のプライドは高かったようだ。
「誰か、助けてくれ」
 必死に声を絞り出していた。夜もふけた公園には人影は無い。
 仮に居たとしても他人の災難は見てみぬ振りをする風潮の昨今だ。警官のパトロールで
も近くに居ない限り助けが来る事はありえない。
 男は周囲を窺って人気が無いのを確認すると、女から物を引き抜いて立ち上がった。
 女の中をかき回していたものが湯気を上げながら屹立していた。
「後悔するといっただろう。俺は約束は守る性質なんだ」
 まだ尻を立てたまま陰部をさらしている女を蹴飛ばしたあと、男はズボンをずり上げた。
 ライターを出して火をつけると、サバイバルナイフの刃をあぶる。
「一応消毒してやる。殺す気は無いからな。しかし死んだほうがよかったと思うかもな」
 助けてくれと叫ぶ男子高生の口に女のショーツを丸めて詰め込む。
 足を縛っていたロープを、首に回したロープにつないだ。
 えびのように丸まった彼の股間に手をやる。
 うーうーと唸る事しかできない彼の股間から縮み上がった睾丸を握り、手前に引き出す。
 彼の体がびくんと震える。
 ナイフを火にあぶった訳が、おぞましい恐怖とともに彼の脳裏に浮かんだ事だろう。
「ひい、何するの、止めてください」
 女子高生が男の手元を見つめながらつぶやくように言う。叫ぶ勇気は無いのだろう。
 男を怒らせたら、自分に返ってくる。あそこにナイフを突き刺すといった男の言葉が再
び浮かんでくるのだ。
 静かにしてろと彼女に睨みを聞かせた後、男は手にしたナイフで男子高生の睾丸下の皮
膚を横一文字に切り裂いた。くぐもった悲鳴が辺りに響く。
 お構いなしに男は切り口から睾丸を二個とも引き出し、身体につながっている血管と精
管を切り離す。
 笑みがこぼれる。男はそれを遠くに放り投げると、女子高生に振り向いた。
「じゃあな。携帯で救急車呼んでやるんだな」
 そう言って、泣き叫ぶカップルを後に男はその場を離れて歩き出した。




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