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「さて説明してもらいましょうか。右京がどんな趣味持とうと勝手だけど、映画館であっ
ていたおじいさんって何者なの?」
 再び喫茶店に入るのは気が重かったから、近くの公園で右京の尋問は始められた。
 桜が刑事役だ。
「ちょっと待ってくれよ。さっき助けてもらったのは礼を言うけど、映画館のじいさんっ
て何の事?」
「しらばっくれても駄目よ。ちゃんと聞いて知ってるんだから」
「実際に見たわけじゃないだろ。あそこには君達は入れないはずだから」
「よくもしれしれと言うわね。私達に見られないようにあの場所を選んだって事なの?」
 なるほど、そうゆう考え方も出来るのか。
「さあね。君達が相手にしている男は、君達だけが追っているわけではないってことだよ」
「そりゃそうでしょうよ。警察が第一に追ってるでしょうから。でも警察があんたなんか
利用するわけないでしょ」
「これ以上は言えません。黙秘権を行使させていただきます」
 右京は口を一文字に噤んで横を向いた。
「そう。では身体に聞いて見ようかな。あんたの場合、身体のほうが正直だもんね」
 桜が身を寄せると右京は思わず後ず去って逃げの体制に移った。
 しかしすぐに郁子と夏海に回りこまれる。
 足払いで倒された右京は、仰向けにされた。
 両足は桜の脇の下だ。身をよじって逃れようとする右京を両側から夏海と郁子で押さえ
込んだ。
「うふふ、これするのも中学以来ね」
 何故か桜は楽しそうだった。右京はというと、ちょっと待ってを繰り返している。
 靴を脱いだ桜の右足がすいっと上がると、右京の股間にゆっくり乗せられた。
 それだけで右京に身体がぴくんと跳ねる。
 中学時代仲良かったっていうのは、こういう意味でだったのか。これは充分変な意味だ
と思うけど。夏海は苦笑しながら見守っていた。
 桜の足先が微妙な動きを始める。単に踏み潰すのではなく、揉むような動きだった。

「うう。だ、駄目だ。そんなことされると駄目になっちゃうよ」
 右京の上ずった声が芝生の広場に弱弱しく漏れ出す。
「ほらほら、もっと気持ち良くなっていくわよ」
 桜の足が右京の股間を擦り上げるように動き出した。
 ああ、と右京の声があがる。今にもいきそうな声だった。
 かと思うと、ぐぐうと苦痛の声に変わる。桜の足が右京の睾丸を圧迫したのだ。足先の
動き一つで桜は右京に快楽も苦痛も自由に与える事ができるのだ。
「ほら。いいかげん白状しないと。今度はもう少しきついのをお見舞いするわよ」
 人は苦痛の連続よりも、快楽と苦痛の反復のほうがより苦痛をつらく感じるのかもしれ
ない。
 桜のやり方を見ながら夏海はそんな事を考えていた。
「わかった。言うから。そのきついのは勘弁してください。優しいのだけにして」
 やっと右京が観念したようだ。
 桜の肩に力が抜けるのがわかった。足先は最初のように優しく右京の股間を撫でている。
 その時、あっと声がして桜の手が離れた。
 何かを避けるように後ろに転がる。風を切る音がして黒くて回転するものが夏海にも襲
い掛かってきた。暗い中でほとんど見えなかったが必死に手で払い落とす。
 右京は一瞬唖然としていたが、すぐに立ち上がって逃げ始めた。
 右京を追おうとしていた郁子に、桜が待ったをかける。
「あそこにいるよ。あいつを追ったほうが早いよ。右京にはいつでも会えるから」
 桜の指差す法を見ると、黒い覆面をかぶった背の低い男が立っていた。
 その男の腕が素早く振られると、再びさっき桜たちを襲った物が緩い弧を描きながら飛
んできた。手裏剣だ。
 三人とも避けるのに精一杯で全く近づけない。直線的に飛んでくる矢なんかとは違って、
ブーメランのように曲がりながら飛んでくるから避けようとした方に来たりしてなかなか
避けきれないのだ。夏海もいくつか当てられた。その一つは額にあたったが、思ったほど
の痛みはなかった。
 そしてふと気づくと、すでにその人影は消えていた。
「なんだよ、これ紙で作ってあるよ」
 黒い十文字手裏剣を一つ拾い上げて郁子が声を上げた。
 厚紙を張り合わせて作った手裏剣だった。これなら先はとがっていても眼に受けない限
り怪我をする事はない。
「こんな事ならかまわず突進すればよかったね」
「まさか紙で作った手裏剣とは思わないからね」
 郁子と桜が言い合っているが、夏海は釈然としない物を感じていた。胸に何かがつかえ
たようだった。
 こんな手裏剣を自由に操る人間を一人知っているのだ。ごく身近に。
 でも、その人と右京には何のつながりもないはず。
 あ、そうだ。さっきの言葉で思い出した。警察もあの男を追っているんだ。
 うちのおじいちゃんは、以前警察で格闘技を教えていた事がある。
 警察とおじいちゃんには関係があったんだ。



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