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「チームワークの勝利ってところかな。しかし俺の予想以上にやるねえ君たちは。まった
く、楽しくなってくるぜ」
 木谷の言葉で、夏海がつまずいたのは桜の仕業だったのだとわかった。
 その機転がなかったら、夏海は今頃気を失って裕輔に裸にされていただろう。
「面白いねーちゃんたちだな。今度は俺にやらせてくれよ」
 奥のテーブルに座っていた中の一人が立ち上がった。プロレスラーみたいな巨漢の男だ。
「もうすぐ買い手が来る頃なんだがな。まあ、それまでの暇つぶしにはいいかもな」
 木谷は巨漢と入れ替わりにテーブルについた。
「おい。お前まで伸されたらしゃれにならんからな。田尻。しっかりその女を裸に向いて
くれよ」
 浜岡が余裕の表情で言っているということは、この田尻という巨漢は裕輔よりもさらに
強敵ということになる。
 太く短い足葉重心が低くて安定感たっぷりだ。分厚い筋肉の上半身が汗にぬれたTシャ
ツの下から盛り上がっている。身長180センチくらいありそうだ。 夏海の鼓動が再び
早くなっていく。

「ちょっと。夏海ばっかりいじめないで、あたしたちも楽しませてくれないかなあ」
 田尻が今にも襲い掛かりそうになったとき、桜の声がした。
「何だお前。俺に犯やられたいのかよ」
 田尻が桜の足元に近寄って見下ろした。
「夏海じゃあ。あんたには勝てそうにないからね。疲れてるしさ。だから選手交代ってわ
け。いいでしょ。それともあたしが相手じゃ怖い?」
 見上げる桜の顔をじっと見た田尻が笑った。
「よく見りゃ中々かわいい顔してるじゃねえか。不良っぽいところもいいぜ。わかった、
お前の相手をしてやるよ」
 田尻がそういって、桜の縄を解こうとしゃがんだとき、倉庫の入り口が開いて数人の男
たちが入ってきた。

「余興はおしまいみたいだな。お客さんが到着だ」
 浜岡が立ち上がって、入ってきた男たちの方に迎えに行く。
 舌打ちして桜から遠ざかる田尻。
 夏海も舌打ちしたい気持ちだった。今までいた男たちだけでも三人で倒すのは無理があ
るのに、これ以上増えたらとても太刀打ちできなくなる。
 右京たちは何してるんだろう。居場所は知れてるはずなのに。それとも、あまりに遠く
に連れて来られてしまって電波が届かなくなっているとでも言うのだろうか。
 大体今何時くらいなんだろう。
 どのくらい気を失っていたんだろう。捕らえられたときに時計や携帯電話は取り上げら
れていた。
 
 英語でしゃべる声が近づいてくる。
 後から来た男たちと、浜岡がにこやかに談笑しながら夏海たちのそばに歩いてきた。
 見上げると、後から来た人身売買組織の一員と思われる男は東洋系のようだった。
 中国人かと思ったが、流暢な英語を聞いていると、香港の人間のようにも思えてくる。
 しかし、夏海は思った。
 自分たちを買うという目的だけでわざわざ香港から来るだろうか。
 何か別のもっと大きな目的で日本に来ていて、そのついでに自分たちを買っていこうと
しているのではないだろうか。
 やくざといえば麻薬密売、というありふれたイメージがすぐに浮かんできた。
 
「おい。こいつらを解いてやれ」
 浜岡がサングラスをかけた部下に命令した。
 何をする気だろうという疑問はすぐに氷解する。
「お客さんがこいつらの身体を良く見たいそうだ。素っ裸にして立たせろ」
 サングラスの部下がやってきて、桜と郁子を解いた。
 お客さんと呼ばれた男は丸く太った身体に薄笑いを浮かべて少し下がった位置で腕組み
していた。目つきにいやらしさがこびりついている。
 それほど大物には見えなかった。ただの買い付け人というところじゃないだろうか。
 いよいよ暴れる時が来たかと思ったが、ほかの部下たちの手元に握られた拳銃を見ると、
それが不可能なことだというのがわかる。
「ほら、服を全部脱いで、このお方に見定めてもらいな」
 木谷が油断なく三人を見回しながら言う。
 桜を見ると、ため息を吐いて上着を脱ぎにかかっていた。
 郁子も同じだ。夏海もここは観念して覚悟を決めることにした。
 
 倉庫の中が薄暗いのが羞恥心を少しはやわらげてくれる。
 靴以外全部脱いだ夏海の裸の身体を、男たちの獣のような視線が上から下までくまなく
凝視する。
 郁子も桜も手で身体を隠すような素振りはしていないから、夏海もあえてそれはせずに
堂々と腰に手を当てて立っていた。
 心の中の羞恥の気持ちを押し付けようと必死だった。
 買い付けの男が英語で小さく話し、うなずく。
「なかなか良いと言ってるぞ。今度は後ろを向いて、かがんで両手で足首を持つ格好をし
ろ。ひざを伸ばしてな」
 浜岡が通訳して命令した。
 そんな格好をすれば恥ずかしい所が全部丸見えだ。いくら薄暗い倉庫の中とはいえ、と
ても我慢できなかった。
 心の抑制が切れ掛かる夏海を制するように、まだ我慢して、という声が桜から発せられ
た。
 いくらなんでも、そんなこと。
 言おうとしたが、夏海が声を出す前に、桜と郁子は後ろを向いていた。
 そして命令されたとおりに前かがみになった。
 桜と郁子の尻が並んでいるところが夏海の目に映った。
 郁子の股間の茂みが、後ろのほうまで来ているのがことさら卑猥に見える。
「お前も早くしろよ。李さんはお前のが一番みたいそうだからな」
 木谷が面白そうに夏海に向かって言った。
 夏海は仕方なく後ろを向く。
 今、足を使えば、木谷の股間を思い切り蹴ることができる。
 しかし、そうしたら拳銃が火を噴くかもしれない。
 たぶん大事な商品である自分たちを撃つことは、最後の手段だろうけど、急なことにあわ
てた部下が引き金を思わず引くということは十分考えられた。
 夏海は熱くなる頬を感じながら、言われた通りに前かがみになった。
 さっき見た桜や郁子のように、自分の恥ずかしい所が大勢の男たちの目にさらされてい
る。
 めまいがしそうな情景だ。
「三つ桃が並んでいるみたいだな。ふんふん、右の娘はやせた体に小さな尻。真ん中は思
ったより肉厚のいい尻だな。毛も薄い。左の娘は胸もいい形だったが、尻の形も一番いい
ようだ。左が一番高く売れるな」
 浜岡が寸評した。
 左は夏海で、右は郁子だった。
 
 人買いの男が近づいてきて、夏海の艶やかな尻に手を当てた。
 ぞくりと来る嫌悪感に鳥肌が立つ。
 次の瞬間、夏海は股間にその男の指が侵入するのを感じた。
 襞を分けるようにして太い指が入ってくる。背筋のうぶ毛が逆立つ不快感。
 指は遠慮なく奥まで入ってくる。クリームでも塗っているのか、その侵入は滑らかで、
かえっておぞましさを増していた。
 おなか側の膣壁を刺激されて、一瞬無様な快感を感じてしまった。
 もう限界だ。その快感が、逆に夏海の心を縛っていた鎖を断ち切った。
 妙に冷めた怒りの気持ちのままに、夏海の身体は俊敏に反応した。

 夏海は男の指から逃げるように前転して仰向けになると、身体をひねるよう
にしてその男の顔面に蹴りを入れた。
 李というその男はかえるのつぶれた音のような声をあげて、鼻血を噴出しな
がら太った身体が後方に一メートルは吹き飛んだ。。
 動くな、という声も耳に入らないくらい夏海は怒りに我を忘れていた。
 李の横にいた浜岡に攻撃の手を伸ばす。
 中年男の首筋に手刀を一発入れて倒した。
「撃つな。撃ったらこいつをやるよ」
 桜の声だ。
 桜は人買いの首に、ナイフを突きつけていた。
 拳銃を持った部下の方にその男を立たせて盾にしている。
 郁子はそのサポートに立っていた。
 夏海は部下たちの拳銃が迷うように揺れている間に、木谷に襲い掛かった。
 木谷の強さも、夏海の思慮の中からははみ出てしまっていた。
 



 
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柔道女4