ハッピーエンドでは終われない

城谷詠人
 二章 もう一つの出会い
 

 6


 
『いろんな事が収まるところに収まってきた。久しぶりに会いたいな。明日の晩飲まない
か?』
 二日後の昼休み、携帯にそんなメールが来ていた。荒木さんからだ。
 とんかつ屋で、昼の定食を頼んだところだった。
 お冷をいっぱい飲んで、返信を打つ。
 今日の昼休みは仕事でずれていたから、午後二時を回った店内は空いていた。
『僕も会いたいと思ってました。明日、いいですよ。また七時にアミュでいいですか?』
 送信ボタンを押したところで、頼んでいた定食が運ばれてくる。
 熱々のとんかつがまだ音を立てている。
 揚げた油の臭いが、食欲をそそった。
 割り箸を割り、ソースをかけていると、着信音がした。

『いや、君の会社の近くのバス停にいてくれ、車でひろうから』
 どういうことだろうか。
 お酒を飲みに行くのに車で来るだなんて。
 ご飯を飲み込むと、早速疑問点を送信した。
『たまにはホテルでディナーでもと思ってさ。俺は飲まなくてもいいから、付き合ってく
れるだろう? まあ、飲んだらホテルに泊まることにするよ。もちろん君は帰っていいし』
 そういう事か。
 荒木さんもやっと僕を抱きたくなってきたのかもしれない。
 わくわくしながらOKを送信する。

 その後、定食を食べ終わる頃に、またメールが来た。
 何か追加事項かと思って携帯を開くと、送信元は片岡さんの方だった。
 メールは別のフォルダーに行くようにしている。
 フォルダーKを開く。

『エイト、どうしてる? 俺は今日は休みだったから、畑耕していたぞ。今度焚き火しなが
ら夜飲もうって言ってたよな。場所も作ったから、明日なんかどうだ?』
 こちらは、ずっとワイルドなお誘いだ。
 焚き火でビールもいいな。
 でも、先約を断る気にはならない。
『明日はちょっとまずいです、今度の土曜日でどうですか?』
 メールの返事はなかなか来なかった。
 それが来たのは、僕が昼食を食べ終わって、水を飲んだときだった。
『先約有りだったか、まあいい。そのうちな』
 片岡さんは、僕に荒木さんがいるということを知っている。
 的外れな焼きもちを焼くことも多いが、このときは当たりだった。


 仕事も終わり、家に帰ってから響子に切り出した。
「明日、急な接待が入ったんだ。そういうわけで夕食はいらないから」
 響子は洗物を片付けながら、ところでさ、と別な話を持ち出してきた。
「修一も小学校に上がったことだし、私も少し仕事増やそうかと思ってるんだ」
 タオルで手を拭きながら響子が振り向いた。
 響子は今はパートタイムで仕事をしている。
 だから、昼過ぎには帰ってきて、修一の面倒を見ているのだ。
「でも、修一一人じゃ危ないだろ」
「それほど増やすわけじゃないのよ。今は13時上がりにしてるけど、16時上がりにし
ようかって思ってるの。それなら修一が一人の時間はせいぜい二時間くらいですむでしょ」
 どうして急にそんなことを言い出すんだろう。
 僕の収入だけでも十分やっていけてるのに。
「実は所長に頼まれてるのよ。最近仕事量が増えてるからって。もちろん収入もその分増
えるわけだし、修一の今後の学費もたくさんあったほうがいいでしょ」
 
 とはいえ出来れば響子にはなるべく家のことをしてほしい。
 自分が家事をするのが嫌なのではなくて、響子が家にいない時間が増えれば、修一をお
いて出にくくなることもあるだろうから。

「きっちり16時に帰れるのなら、まあいいけど」
 しかしむげに反対するわけにも行かない。
 それより遅くならないように釘をさしておいた。

「おとうさん、対戦しよう」
 修一がゲームを誘ってきた。
 格闘するゲームだ。
「よし、こてんぱんにしてやるぞ」
 僕はコントローラーを持って、座椅子に腰を下ろした。
 以前は僕の楽勝だったが、最近修一もかなりうまくなってきていて、三回に一回は負け
てしまうくらいだった。
 子供の成長の早さは、驚くべきものがある。
 この子もいずれ中学生になり、高校生になって、脛毛の生えた兄ちゃんになるんだろう。
 もしその頃、この子が好きになった人が男の子だったら。
 変な想像をしていて早速負けてしまった。










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