ハッピーエンドでは終われない

城谷詠人
 二章 もう一つの出会い
 




 次の週の土曜日。
 僕は片岡さんの家に行ってみることにした。
 土日は仕事の忙しい荒木さんには会えない。
 月に一度くらいしか会えないけど荒木さんのことは好きだ。
 でも、もっと頻繁に会って一緒に遊べる友達が欲しかった。
 先週、片岡さんが下って行った私道を車で下りていく。
 前回来た時は夜でよく見えなかったが、昼下がりの太陽に照らされた道は狭いことは狭
いけど、それほどきつくは無かった。
 完全に車一台分の幅しかない狭い道を下りていくと、右ヘアピン状のカーブに差し掛か
った。
 外側はガードレールも無い崖だ。
 じんわりと大回りしながら回る。
 さらに下ると今度は反対向きのカーブが来た。
 結局3回そんなカーブを曲がって下りていった先にいくつか民家が見えてきた。
 メールを送っていたからだろう、一番手前の平屋の前で片岡さんが手を振っていた。

「下りてくるの大変だったろう」
 座卓の上にお茶を置きながら片岡さんが言った。
「ええ、少し。でも207は小回り利くし、それほどでも無かったですよ」
 結構広い家だった。
 平屋だけど部屋数五つはありそうだ。
「青梗菜、持ってかえってくれよ」
「ああ、どうも」
「ベーコンと一緒にバター炒めにするとうまいよ」
 片岡さんは立ち上がって台所の方からいっぱいになったビニール袋をひとつぶら下げて
きた。
「うわ、そんなにですか、食べ切れませんよ」
「炒めればしぼむからこのくらい大丈夫さ、玄関においておくから」
 玄関に歩く片岡さんの背中を見ながら僕はお茶をすすった。
 お尻の処理はしてきてあった。
 ここで抱かれることになるのは予想しているのだ。
 荒木さんに悪いと言う気持ちはもちろんあったけど、最近ぜんぜんかまってくれない彼
も悪いんだと思った。
 それに僕は荒木さんが初めてだったけど、荒木さんは僕が初めというわけじゃない。
 僕も少しくらい遊んでもいい気がする。
 
 戻ってきた片岡さんが僕の後ろから抱き付いてきた。
「めちゃかわいがってやるよ」
 耳元で荒い息を吹きかけられる。
 僕は自分でジャンパーを脱ぐと、そこに横になった。
 片岡さんの手が僕のジーンズのボタンをはずしてきた。
「なんか、真昼間から恥ずかしいな」
「カーテン閉めるよ」
 薄いカーテンを閉めても、部屋の中はまだ明るかった。
 僕のシャツがたくし上げられて、手が胸に入ってくる。
 乳首を転がされてのけぞったところに、片岡さんの顔が迫ってきた。
「キスは勘弁して欲しいな」
「え? 嫌なのか?」
「うん、タバコの味は好きじゃないから」
「わかった」
 彼の顔はそのまま下がり、僕の胸にキスをする。
 男に抱かれるのは、これが二人目で二度目だ。
 荒木さんとは最初に一回したきりだったから。
 その後すでに半年以上の時間が過ぎている。
 だから、実際僕は荒木さんのタイプじゃないんじゃないかと思ってしまう。
 
 でも片岡さんは僕のことが一番好きだと言ってくれている。
 僕の身体でここまで興奮してるんだから。
 なんとなく嬉しかった。
 今までこんな風に誰かを喜ばせることがあっただろうか。
 妻とのセックスでも、少し気持ちよさそうにする程度で、彼女の興奮はそれほどでもな
さそうだったし。
 荒木さんとの時は、僕を喜ばせようとしてくれるのは嬉しかったけど、結局彼はいって
なかったのだ。

「お尻は大丈夫?」
 彼の手が後ろに回る。
「はい、一応処理してますから」
「じゃあ布団に行こうか」
 立ち上がった片岡さんが、隣の部屋に通じる襖を開けると、厚手の布団がしかれてあっ
た。
「昨日干したからふわふわだよ」
「まめなんですね」
「一人だからね、料理から掃除、何でもやるさ」
 これは荒木さんと同じだ。
 荒木さんも奥さんを亡くしてから一人で娘達を育ててるのだから。

 片岡さんが服を脱いで布団にもぐりこんだ。
 先日銭湯で見ていたけど、日に焼けた背中の分厚い男の身体だ。
 僕もそれに続く。
 布団の中で裸の肌が密着する。
 男同士のセックスはまだ二回目だ。

 前回の荒木さんの時は緊張していて何も考えられなっ買ったけど、今は最初のときとは
また違った喜びを感じていた。
 じかに裸で触れ合うことの喜びだ。
 なんだか懐かしい気がした。
 仰向けになった僕に片岡さんがかぶさってくる。

 ずっしりと量感のある身体に押さえつけられる拘束感は女性とのセックスでは決して味
わえないものだった。
 がっしりした身体が僕の上に乗る。
 頭が布団の中にもぐったかと思うと、すぐに僕の物の先端があったかい口に含まれるの
がわかった。
 思わずため息がでてしまう。
 布団が持ち上がったかと思うと、片岡さんの体が起き上がった。
「あんまりすると、先にいってしまいそうだからな。入れるぞ」
 彼の手が僕の両足を持ち上げる。
 手に唾をつけて、僕のお尻に塗っている。
 ゼリーは持っていないのか。
 ちょっと不安だけど、大丈夫だろう。
 でも、コンドームはつけていない。
 そのことを言う前に、彼の先端が僕のお尻を開き始めた。
 ちょっと待って、と言おうとしたけど、痛みで声が出ない。
 僕は口をあけるようにしてお尻の力を懸命に抜くしかなかった。
 ぐいぐいと入ってくる。

「大丈夫か?」
 そんな言葉とは裏腹に、彼のものは侵入を止めない。
「う、くう」
 苦痛に出てしまう僕の言葉を聴きながら、彼のものはさらに入ってくる。
 そして一点を越えた所で、痛みは急激に消え去る。
「半分入ったぞ」
「でも、コンドームつけないと駄目じゃないですか」
 僕にもやっとそれだけ言う余裕ができた。
「俺は病気は持ってない。お前もだろ、ならいいじゃないか」
「でも、尿道炎なるかもしれないですよ」
「終わってから洗えばいいさ」
 能天気なことを言いながら、片岡さんが腰を動かし始めた。
 
 快感がおおきくなり、僕ももうどうでもいいという気持ちになった。
 今はもっと気持ちよくなりたいだけだ。
 二人で協力して、快感を高め合うのだ。
 泥をこねるような卑猥な音の中で、僕達はどんどん高みに上り詰めて行った。






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