ハッピーエンドでは終われない

城谷詠人

 

13


 身体を拭いてベッドに移動する。
 大き目のベッドの上に寝転んでみると、天井は鏡張りだった。
 いかにもといった演出に苦笑いが出てしまう。
「だいぶん落ち着いたみたいだね」
 荒木さんの浅黒い身体が僕に覆いかぶさってきた。
 左の乳首を指で刺激しながら右側に口をつけて舌で転がされた。
 こんな風に刺激されるのは初めてだ。
 妻とのセックスでは、こっちが愛撫する側で、妻はせいぜい気持ちいい声を上げてくれ
る程度だったから。

「よかったら声を上げてもいいんだよ、いい声で鳴いてごらんネコちゃん」
 脇腹から荒木さんの声が聞こえてくる。
 彼は身体をずらせて、僕の下半身を攻める体制に移った。
 声を上げていいといわれても、気持ちはいいけど素直に声出せるわけもない。
 なんと言っても恥ずかしい。

 すっかり勃起した僕のものが、荒木さんの口技で快楽の悲鳴を上げそうだった。
 男だからどこが一番感じるかは身をもってわかってる。
 わざと其処を外すようにしてじらせるのがまた憎い。
 すっと身体が離れた。
「ちょっとうつぶせになってごらん」
 足元から声がする。
 僕は言われるとおりに身体を反転させ、やわらかい羽毛の入った枕を抱え込むようにし
た。
 お尻の肉がぐっと開かれる。
「もう少しお尻を突き出してくれないかな」
 恥ずかしい注文だ。
 でも僕には逆らう気力なんて残ってなかった。
 膝を少し曲げて腰を浮かせる。
 お尻の中心部に息がかかるのを感じたその後、熱くてぬるりとした物が僕のアヌスにま
とわりついて来た。
「そんな、そこは汚いですよ」
 思わず引こうとする腰を荒木さんの腕が阻止する。
「きれいにしてきたんだろ、中まで。今の君の身体はどこまでだってきれいだ」
 言った後再びアヌスに舌がねじ込まれてくる。

 ひとりでに甘い声が出てしまう。
 ここまで来たらもう抵抗するのは無理だ。
 だいたい僕の身体そのものが、荒木さんの愛撫を求めてわなないているのだから。

 荒木さんの舌は僕のアヌスを開いておくまで差し込まれる。
 嫌悪感は今の快感に対しては何の抑制にもならなかった。
「いい味だ。だいぶん緩んできたようだし、もういいかな」
 ベッドサイドのソファに置いたバッグから、荒木さんが何か取り出している。
「あんまりすると、一気にいってしまいそうだからな。そろそろお尻に入れてもいいかな、
覚悟はできてる?」
「大丈夫、だと思います」
 あそこまでしてもらって嫌なんていえない。

 いよいよだ。
 もう20年も前から夢想していたことが現実になろうとしていた。
「じゃあ、足を上げて」
 仰向けから足を抱えるような格好にされた。
 心臓は高鳴るというよりも、なぜか心は澄んでいくみたいだった。
 アヌスにねっとりしたゼリーが塗られる。
 荒木さんの指がするりと入ってきた。
 前立腺のあたりを刺激されて、思わず声を上げてしまった。
「いい声だ。女の子みたいにないていいんだよ」
 見ると、荒木さんのものもキンキンに勃起していた。
 僕はそれに手を伸ばしてつかんでみた。
 他人の勃起したものを触ったのは初めてだ。
 手触りはおなじみのものなのに、なんだか変な感じがした。
「コンドームはつけたほうがいいかな」
 荒木さんが聞いてきた。
「一応、お互いのために付けた方がいいと思います」
 本当は生でやりたいんだけどな、そう言いながらも、備え付けのものを彼は勃起した
ものに装着した。

 荒木さんは、それにもゼリーを塗ると、僕のアヌスに先端を当ててきた。
 ぐっと広げられる感触。
 ずきんと来る激痛に、僕は思わず痛いっと声を出した。
「無理なのかな」
 いったん腰を引いた荒木さんが言う。
「いえ、じわじわすれば慣れると思います」
 僕はそう言って口を開けて大きく息をすったり吐いたりする。
 口をあけることは、アヌスの力を緩めることにもつながるのは、実体験として知ってい
た。

「いいかな」
「はい、ゆっくり来て下さい」
 ふたたびゴムのような先端が僕に入ってくる。
 一瞬の激痛の後、緩んだアヌスはやっと観念して荒木さんの侵入を許した。
 ずずっと奥まで入ってくる。
 いったん痛みが治まると、後は快感しか感じなくなってしまう。
 冷たいビンの感触ではなくて暖かい生き物の侵入は、とても優しく感じられる。
「根元まで入ったよ、痛くないか?」
「もう大丈夫です」
 足を目いっぱい広げた格好はカエルみたいでなんとも格好悪く感じるけど、正常位での
場合は女性はいつもこんな感じなわけだ。
 荒木さんの腰が動き始める。
 僕のお尻の中で荒木さんのものが出入りを始める。

 う、うん。
 甘い声が聞こえると思ったら、自分の声だった。
 女みたいな喘ぎ声だった。
 自分にこんな声が出せるなんて思っていなかった。
 しばらくした後、荒木さんは僕の両足を担ぐ形にして僕を犯し始めた。
 角度が変わることで、こっちの感じ方も変わってくる。
 泥をこねるような音がずっと聞こえていた。
 僕の方も次第に上り詰めていく。
 荒木さんの律動で、勃起した自分のものが腹に擦れてたまらなくなってきた。
「いきそうです」
「ああ、たっぷり出していいぜ」
 下から突き上げられる快感にとうとう僕のものが耐えられなくなった。
 爆発するように弾ける衝動が突き抜ける。

 背中が思い切りそってしまう。
 自分がライフル銃にでもなったみたいに、勢いよく弾を発射した。





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