ちくり屋
 11
 
 快楽の中で仰け反っていた腰がベッドに落ちる。うつろな目で百合を見ると、百合は手
についた岡持の精液を丁寧に舐め取っていた。
 そのまま顔を近づけてくる。
 百合の顔が岡持の顔に重なる。岡持の口の中に百合の甘い舌が、たった今出したばかり
の自分の精液の味をさせながら侵入してきた。
 百合ちゃんってすごいな。心の中でつぶやきながら百合のねっとりした舌を思い切り吸
った。
「岡持さんって、相手の痛みがわかるんですね」
 顔を離して百合が言う。
「普通そうなんじゃないのかな」
 けだるい中で答えたけど、百合は何を考えてるのだろう。ちょっと気味が悪かった。
「サディストになるにはそれじゃだめなんですよ。相手の痛みなんか気にしていたらきつ
い責めなんてできないですから」
 百合はそんな事を言いながら仰向けになった岡持の両手を万歳させてガムテープで縛り
上げた。さっきとまるで逆の展開だ。しかも岡持のような適当な縛り方ではない。男の力
でも解けないようなきつい縛りだった。
 しかし岡持に危機感は無かった。
 溜まっていたものを放出した満足感でいっぱいだった。
 SMの先輩という事で少しばかり自信があるんだろう。それでサドのレクチャーでも軽
くしてくれるんだろうなんて考えていた。
 裸の百合の胸元を見ると、さっき岡持が刺した乳首に少し血が出て、それが固まってい
たが、百合はそんな事気にもとめていないようだ。
 百合が少しベッドを離れたと思うとすぐに戻ってきた。見ると手に金属バットを持って
いた。男性控え室に入りきらないそんな用具が宿直室には棚の上に山積みされているのだ。
 一瞬それで殴られるのかと思ってぞくりとしたが、すぐにそうじゃないとわかった。
 仰向けになった岡持の膝の後ろにバットを置いて、足を広げた形で百合に縛られていっ
た。そうされると足を閉じる事もできないのだ。
「百合ちゃん。僕はもういっちゃったから元気でないよ」
 けだるく言う岡持の頬に焼けるような痛みが走った。
 何が起きたのか最初わからなかったが、しばらくしてやっと百合にビンタされたことに
気づいた。
「のんびり平和に浸ってる時間は終わりですよ。今からサドのやり方を教えてあげます」
 下着を着けて身づくろいをした百合の前で、岡持は素っ裸で縛り上げられている。
 情けないというよりも、なんだか興奮する状況だと思った。
 しかし、頬の痛みにはだんだん怒りが湧いてくる。
「ちょっと、痛いじゃないか。そんなことされても君と違って僕は気持ちよくならないん
だよ。もっとお手柔らかに頼むよ」
 少しは怖さもあったが怒りのほうが強かった。
「最初は誰でも痛いことは嫌いなんですよ。私だってそうだったんだから。でも、抵抗し
てもどうにもならない状況で痛みと快楽を交互に与えられるとだんだん苦痛が気持ちよく
なっていくんです。岡持さんは絶対素質があると思うから、ゆっくり鍛えてあげますよ」
 岡持のズボンから外したベルトを二つに折って、百合が振りかぶった。
 ああ、だめだ、そんな。
 岡持の気持ちなんか無視して百合の一撃が下腹部に打ち下ろされた。
 ぎゃーと大声で悲鳴をあげたかったが、当直の看護婦とかに今入ってこられるのはまず
いから、うぐうというくぐもった声しか上げられなかった。
 続けて何度かベルトの鞭が振り下ろされた。焼けるような痛みだ。経験した事のない痛
烈な痛みだった。
「止めてくれ、百合ちゃんがSM好きだなんて誰にも言わないから、秘密にしてるから堪
忍して」
「人の弱みを握っていいことしようって思うくらいの悪党がこの程度で泣いてるんじゃな
いわよ」
 百合の表情が変わっていた。目が釣りあがって何かにとり憑かれてでもいるようだ。
「ほら、その貧弱なものを立てなさい。立たなかったら鞭をお見舞いするわよ」
 むちゃくちゃだ。今さっき射精したばかりで、それもこんな怖い思いをしながら立つわけ
が無い。
「無理だよ。立たないよ」
 では行くわよと、低い声で百合が言ったあとすぐにベルトが振り下ろされた。
 もろにペニスに痛みが走る。
 今度はためらい無くぎゃっと声が出た。
「まだ立てきれないの? それじゃあ、さっき貴方がしてくれたのをお返しにしてあげる
わ」
 さっきやったことと言えば注射針。それを思い出して岡持の顔から血の気が引いた。
「冗談じゃないよ。勘弁してくれよ」
「奴隷がそんな口の聞き方していいと思ってるの?」
 また鞭が振り下ろされた。岡持の下腹部に電撃のような痛みが再び走った。
「ごめんなさい。許してください。注射針は許してください」
 思わず言葉が飛び出るが、最後の方は涙声になってしまった。
「だめ。許さないから。というか、これは貴方のためなのよ。本当の岡持さんを知る事を
手伝ってあげてるんだから」
 すっと岡持の視界から百合が消えて、再び現れたときには、百合の手には何本かの注射
針が握られていた。
「どこに刺してあげようかな。さっき貴方ができなかった部分がいいかな。サドの人は相
手の痛みなんか気にしないということを教えるのにはそれがいいかもね」
 百合が独り言のように言いながら岡持のペニスを握ってしごき始めた。
 しかしびびってしまった岡持のそれはしぼんだままで全く勃起する気配も無い。
「しかし毛深いわね。毛の中に隠れてしまって見えなくなってる、おかしい。そうだ。こ
こには髭剃りもあったわね、ここきれいにしてあげるわ」
 ちょっと待って、そんなことされたら慰安旅行なんかのときに困っちゃうよ。と言いた
かったが、その言葉を無理やり岡持は飲み込んだ。言ってもまた鞭打たれるだけなのは目
に見えている。
 百合が流しからシェービングクリームと安全かみそりを持ってきた。
「でもそのままだと絡まってうまく剃れないよね。最初ははさみを使わないとね」
 そういうわけで、事務用バサミが用意され、岡持の陰毛はシャクシャクと小気味いい音
を立てて処理されていく。
 ある程度短くなった後、シェービングクリームが塗られて、シャリシャリと残りの毛が
剃られていった。岡持からは見えなかったが、その涼しい股間の感じから自分のそこがま
るで子供のように無毛にされているのがわかった。
 このくらいはどうってこと無い。岡持は泣きそうな気持ちの中で思う。
 一ヶ月もすれば大体元通りになるはずだから。
 その後足を持ち上げる格好で腰を丸めさせられて、丁寧に肛門の周りの毛まで剃られた。
「今度からは自分できちんと処理しておくのよ」
 その言葉が剃毛プレイの終わりを告げるものだった。


12


「仕様が無いな。お尻を刺激してあげますか」
 中々勃起しない岡持に業を煮やした百合の言葉。
「ほら、今度は四つん這いになってお尻を上げなさい」
 両手を万歳で固定されて、両足を縛られていても、寝返りを打てばその格好になるのに
支障は無かった。
「もう止めてくださいよ。あまり遅くなると明日の仕事にも差し障りが出るでしょう」
 どうしてこんなに立場が逆転してしまったのか混乱してしまう。
 最初は百合に責められるのもまあいいかなと思っていた。
 でも射精してしまってからは気だるさと嫌悪しか感じなかった。
 結局は思いがけない百合の気の強さに圧倒されていたのだ。
「言う事を聞かないと、タマタマにさしてあげますよ。クラブではよくやってるプレイだ
からそれほど危険は無いんです。もちろん痛そうですけど、それでタマタマが破裂してし
まうなんて事はないみたいですから」
 サディスティックだった百合の口調が元に戻っていた。剃毛したりしてるうちにだんだ
ん気持ちが冷めてきたのだろうか。しかし言ってる事は恐ろしい内容だ。
「止めてください。それだけは止めて。お願いです」
 とうとう岡持は涙があふれて止まらなくなってしまった。全身から汗まで噴出してくる。
「それなら言うとおりにしてください。お尻の処女を奪うという事で今日は勘弁しておい
て上げますから」
 岡持は慌てて寝返ると膝を立てて尻を高く上げた。
 オカマほられるのも苦痛だろうが睾丸に針刺しされるよりは数段ましだ。
「それでいいです。ちょっと待ってくださいね」
 さっきまでと違い、今度は横を向いて百合の様子を窺うことができた。
 百合は小型冷蔵庫の横に並んでいたジュースのビンの中からコカコーラの緑色のビンを
手に持つと、どこからか取り出したコンドームをかぶせていった。
「ちょっと待って。コーラのビンは無理です。そっちのオロナミンCにしてください」
 あんなものを突っ込まれたら肛門が裂けるのは必至だ。岡持の嘆願は当然だったが、百
合はそんな言葉を無視して岡持の尻の横にきた。
 潤滑剤代わりに食器洗い用のママレモンを肛門にたらす。
「大きく口を開けてお尻の力を抜いてください」
 言われる通りに口を開けて力を抜いた。
 どの程度効果があるのか知らないが、SM通の言う通りにしておいたほうがいいだろう。
 つんとビンの先が肛門に触れたかと思うと、肛門がぐいぐい押し開かれてビンが入って
きた。
 激痛が襲う。
「痛い痛い、無理だ止めて、抜いてくれー」
 苦痛の叫びで一旦ビンの力が抜けた。しかし、引いた状態から再び入ってくる。
「痛いのは始めだけですから、だんだん広がっていったら痛みは抜けていきますよ」
 引いては入りを数回繰り返した。
 次第に奥まで入ってくるが痛みはあまり感じなくなってきていた。
 肛門を大きく広げられる感触だけがそこにはあった。 
「ほら、あまり痛くなくなったでしょ。この辺をぐりぐりするともっと気持ちよくなるん
ですよ」
 百合の持つビンが岡持の尻の中でうごめく。
 ある部分を刺激されて、岡持は切ない快感を味わっていた。
 なんとも言えない快感だ。放尿を我慢していて一気に出すときの快感に似ていると思っ
た。気が付いてみると、萎えていた自分の物が固くなって腹に接触していた。
「いい感じですね」
 百合の手が伸びて岡持のものを握る。
 そしてやんわりと擦りだした。
 気持ちいい。岡持は口には出さなかったが、尻とペニスのダブルの快感を生まれて初め
て味わわされて、興奮が急激に高まっていった。
「うふふ、もう出そうですね。このままいっちゃったらシーツ汚しちゃうけど、まあいい
か。一気に出しちゃってください」
 百合の手の動きがそれまでのやんわりしたものから、速い動きに変わる。
 うう、声を出さずに入られない。岡持はオカマをほられながら、百合に擦られて二回目
の精液を青いシーツの上に勢いよく撒き散らした。
 シーツは毎日取り替えられるから、翌日の宿直者に気兼ねする事は無いが、さすがにそ
のまま洗濯籠に入れるわけにはいかない。
 ティッシュでふき取り、そのティッシュさえも自分のバッグに入れて持ち帰ることにし
た。
 すべてが済んで百合が出て行ったのは十一時を少し過ぎていた。
 さっきまでしていた事がなんだか夢のように思えてくる。でも、現実なのは確かだった。
 限界まで広げられた肛門はまだ緩んだままで力が入らないし、ペニスも、短い間隔で二
回も射精した痛みにうずいている。
 これから何度も百合とプレイできるんだろうか。
 そして自分は立派なマゾ男に調教されていくんだろうか。
 ちょっと違う。やはり違和感がある。自分は百合をいじめるほうが好きだ。
 でもどうやって百合をいじめてやろうか。百合は痛みには慣れてるから岡持の考える程
度の事じゃあ音を上げそうに無い。
 ではどうしよう。そんな事を考えているうちに、眠気が襲ってきて宿直室のぼろいベッ
ドの上で岡持は眠りに落ちていった。




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