ちくり屋
 


 黒いテーブルの上には小さな紙コップが雑然と並んでいて、その中には黄色い液体が思
い思いの量だけ注ぎ込まれている。
 澄んだきれいな液体もあれば、白っぽくにごって泡立っているのもある。
 見た目どおり、きれいな液体からは素直な尿のにおいが漂い、見た目の汚い液体からは、
饐えたようなどぶのにおいが湧き上がる。
 それらを一つ一つ手に取り、検査用のチップを浸す。しばらくコップのふちに置いてお
いて、時間を見計らってそのチップにいくつか塗られた試薬の色を見て、糖とか蛋白の量
を測定する。
 今日は一日、尿検査の当番だ。検査技師なら誰でも嫌がる尿検査だが、これがないと検
査室の仕事の二割はなくなってしまうという大切な仕事だった。
 検査室は常勤三人で勤務についていた。
 岡持のほかに、澤田保という中年の技師と奥谷洋一という再就職組の初老の技師がいる。
 三人共通の話題も無いので、仕事の事以外はほとんど口をきくことも無かった。
 
 尿コップの中にひとつ、とりわけ色が澄んでいて匂いの良いのが混じっていた。
 岡持はすぐにそれが女子高生のだと気づく。年齢の欄に18と書いてあったのだ。
 本多順子か、どんな顔してるんだろうか。今日尿検査したのはなぜなんだろう。
 風邪から急性腎炎疑いかな。それとも?
 そんな事を想像していたら、先日の時田の言葉がよみがえってきた。
 好きな子のおしっこなら喜んで飲むね、か。本当にあいつならやりそうだ。
 岡持は目の前の尿コップを手にとって、鼻先にもっていった。
 まだほんのり暖かいそれを、鼻の下で軽くゆすると、ぷんと独特の匂いが鼻をついてき
た。本多順子の尿は検査結果も正常で、見た目通り健康そのものの尿だった。
 匂いも悪くない。女性ホルモンのたっぷり溶けこんだ液体は、若い高校生の身体を通り
ぬけて今さっき出てきたばかりの性のエッセンスなのだ。
 味見してみようか。周囲をこっそり見まわしたが、澤田も奥谷も近くにいない。
 もしこれが百合のだったら。何の躊躇もないだろう。百合のもこれと同じ位にきれいな
色をしていて健康的な尿のはずだ。
 今まで何年も尿検査をしてきたのにまったく起こらなかった気持ちが、今強く立ちあが
るのに、岡持は困惑していた。
 一体全体自分はどうなってしまったのだろう。そしてこれからどういう風に変っていく
んだろう。
 思いきって一口、味わってみた。微かな苦味となんともいえない味がした。
 決して美味しいものではなかった。
 百合のを味わってみたい。そして自分は簡単にそれができるんだ。
 歓喜と共に岡持は残りの生暖かい尿を飲み干した。
 
 岡持は一線を越えた気がしていた。これまで自分はやりたいことを我慢するばかり
だった。しかし今日高校生の尿を飲み干した事で、そんな自分が大きく変る予感がしていた。
 

 8
 

 定期報告もこれで何度目だろうか。岡持は記憶の中で数え始めたが、五回目以降は良く
思い出せなかった。それというのも最初のうちこそいろいろ話す事もあったが、最近はせ
いぜい誰それが誰それを好きみたいだとか、確証の無い噂くらいしか報告する事柄が見つ
けられなくなっていたからだ。
 こんな事じゃ、リスクマネージメント委員として失格だと思われるのではないか、一抹
の不安を感じ始めるくらいだ。
 しかし、理事長も局長もそんな岡持の報告とも言えない話を熱心に聞き、記録したりし
ているのだ。
 この二人の真意が岡持にもだんだんわからなくなってくる。
 二人の考えがなんとなくわかってきたのはそれから三日後の事だった。
 
 朝、タイムカードを押して職員控え室に入ると、中で数人がざわめいていた。
 何かあったのだろうか、不思議に思う岡持に、田中が声をかけてきた。
「おい、岡持、知ってるか? 今度の夏のボーナス1.5ヶ月だってよ。去年と比べて一
ヶ月分も低いよ」
 壁に貼ってある白い紙を指しながら田中は唇を尖らせた。
 他の男達も口々に言い合っていた。
「冗談じゃないよ。上の都合でこんなに下げられちゃローンの返財だって困ってしまう」
「そうだよ、大体何でこんなに下がるんだ? 収益がそんなに落ちてるのか?
 俺のところでは去年と変らないくらいに仕事量もあったし、残業もやったぞ」
 これまでは夏は2.5ヶ月、冬は3ヶ月とほとんど決まっていたのだ。
 よほどの事が無い限り前理事長はそのペースを崩さなかった。
 下がる時には職員全員集会でそれなりの話があったものだった。

「でも、こんなふうに一方的に決めるのって法律違反じゃないんですか」
 くさる時田に若手事務員の佐伯弘治が質問している。
「俺が知るかよ。お前の方こそ事務員なら労働基準法くらい勉強しておけよ」
 やつあたり気味に、背の高い佐伯を見上げて時田が声を荒げる。
「医療事務と労働基準法は関係ないですよ」
 せまる時田の顔を大げさに背を反らして佐伯は避ける。
「だいたい職員が100人もいるのに労働組合のひとつも無いんだもんなあ」
 誰かが言った言葉に一瞬で周囲が静まった。固まったといってもいい。
「え、俺、何か変な事言ったかな。俺の前の病院なんてボーナス時期は春闘並みの賑わい
でしたよ。職員全員で理事会と交渉するんですよね」
 言ったのは最近この病院に就職した、看護師の川久保だった。
 その言葉に静まった周囲が再びざわめき出す。
 それから始業時間になるまで、しばらくの間、労働基準法についての質疑応答が続いた。
 答えるのはもっぱら川久保で、聞くのは岡持と時田を除いた職員連中だった。
 時田は興味無いのかな。少し残念に思っていた岡持の耳に、
「労働組合か、それ良いかもしれないな」という時田の小さな声が微かにだがはっきりと
聞こえた。
 しかし、岡持の期待は空回りだった。時田はそれ以上なにも言わなかったし、目立った
行動は無かったのだ。
 その数日後、今度は理事長通達が、各控え室に掲示された。
 それは、本年度の賞与から、年功序列の給与体系を改め、能力に応じた給与および賞与
を与えるように改正すると言うものだった。また、勤務体系も新たに整えなおすというこ
ともかかれていた。
 それまで、経営者が変わったといっても大きな変化が無く平穏無事に過ごしてきた職員
達は青天の霹靂に色めき立った。
 
「どうだった? あの掲示があってかなり反応あったんじゃないかな」
 イタリア製のソファの前の方まで身を乗り出した理事長が薄笑いを浮かべていた。
 反響あったなんてもんじゃない。一気に労働組合を作る話が持ち上がったくらいだった。
 岡持のその報告に、理事長だけでなく局長も興奮したようにうなずきっぱなしだった。
「それで、肝心なところなんだけど、その組合の主幹になりそうなのは誰かわかったかな」
「実はそれがはっきりしないんですよね。皆がそれぞれ敬遠しあってる感じで。やったこ
と無くてわからない男がほとんどだし」
「やったこと無いというと、組合活動をしたことがないって事かな」
 珍しく横から局長が口を出してきた。
「そうです。職場なんてここしか知らない男が多いですからね。むしろ職場を変わること
の多い看護婦さんあたりが怪しいんじゃないかと思いますけど」
 ある程度納得したのか、理事長がさっと身を引いて深く腰掛けると、わかった、また来
週期待してるよ、と一言言って岡持に下がるよう目で合図してきた。
 目で指図されるのが一番腹が立つが、ここは我慢のしどころだ。岡持はさっと立ち上が
り、では来週また、と礼をして理事長室を出た。

 エレベーターのところにくると、横の観葉植物に荒木百合が水をやっていた。
 周囲には誰もいない。大体この六階は理事長や局長などのお偉いさんの部屋が並んでい
る階だ。一般の職員はほとんど用の無い階だった。
「早速虫取りもやってるのかな」
 会釈して微笑む百合に、岡持は声をかけた。
 そして後ろを向いて腰をかがめた百合のヒップを右手で軽く撫でてやった。
 びっくりして振り向く百合。
「あんな店に行くくらいなら、僕がかわいがってやるよ。どうだい」
 岡持の手が百合のスカートを少しずつ持ち上げる。
 百合はうつむいたまま後ろ向きで観葉植物の根に水を注し始める。
 周囲に気を使いながら、岡持は百合のスカートをめくり、パンスト越しだが黄色いレースの
パンティを丸見えにしてやった。パンストの中に手を入れて、パンティの生地の横から中指を
入れると、そこはぬるま湯であふれていてぬるぬる。指はすんなり谷間の奥深くまで侵入して
いった。
 うく、っという百合の声が静かな廊下にドキッとするくらい大きく聞こえた。
 今はここまでだな。すっと指を抜くと、今日は保険請求で遅くなる百合に、八時に心電図室
に来るように言った。
 
 毎月月初めに行われる保険請求は、大体事務員皆が九時頃まで残ってやっていた。
 今夜も事務長の今尾以外はまじめにパソコン入力をしてるみたいだった。
 七時五十五分になった。岡持は心電図室に機械のメンテナンスという名目で残っていた。
 他の職員はすでに帰った後だ。
 あの目障りな時田も、おまえが機械のメンテナンスするなんて初めてみたよ、といやみ
を言いながら帰っていった。
 そんな事言われてもちっとも気にならない。今夜は今までの気弱で優柔不断な自分が変
わる夜なのだ。卒業式であり、お葬式でもある。
 八時少し前に、ドアにノックの音がした。
 どうぞと声をかけると、うつむいた荒木百合がすばやくドアを開けて入ってきた。
「やっぱり、あの日、あたしの後をつけてきた小太りの男って、岡持さんだったんですね」
 百合は岡持を睨んで言った。
 ちょっと変な展開だ。確認し、命令するのは自分の役どころのはずなのに。
「そうだよ。君が淫乱なマゾ女だってのはばれてるんだ。でも、この事は二人だけの秘密
にして、楽しもうじゃないか」
 怯みながら言う岡持。
「どうすれば良いんですか」
 やっと観念したみたいに、百合が眼の力を抜いた。
「あまり時間も無いから、机に手をついてお尻を突き出して」
 事務机に百合は両手を突いて、腰をぐっと岡持のほうに投げ出した。
 岡持はそのスカートを捲り上げ、パンストと黄色いレースのパンティを、ゆで卵の薄皮をは
ぐみたいにするりと脱がせた。
 いくつか赤い筋が残る以外には、しみ一つ無い弾力のあるヒップが目の前に現れた。
 中央のすぼまりは、周囲が少し黒ずんでいて、そしてその下にはずっと夢見ていた縦長
の溝があった。肉厚な二つの大陰唇はやはり色素沈着でやや黒ずんでいた。
 だいぶん経験してるみたいだ。
 すでに濡れているそこに、岡持の勃起した物がねじ込まれる。
 岡持はすぐに天国に行くような気持ちのよさを感じていた。
 まだ、まだだと思ううちに一気に上り詰めていった。

 あ、あ。という声が漏れ始める。岡持も天国気分だったが、百合の方も相当感じてるよ
うだった。
 あまり大きな声をたてられるとまずい、そんなことを考えながらも腰の動きはどうしよ
うもなくつづく。
 あの荒木百合をバックから犯してるんだ。想像上ではなく本当に。そう思うと、岡持は
リスク委員会に誘われて本当によかったと思った。
 それがなければ百合の本性を知ることもなく、こうして百合を思いのままに操る事もで
きるわけがなかったのだから。
 尻をなでていた手を胸のほうに持っていって、百合の事務服をはだけさせると、ブラジ
ャーを乱暴にどけて思いのほか豊かなバストをもみ始める。
 右の乳首はきりりとかたくなっていた。左は少し陥没気味だった。
乳首をひねられた百合は、さらに快感が高まったのか尻を回すようにして岡持のものを
より深く受け入れようとし始めた。
「ああ、気持ちいいです。もっと、痛くしてください」
 そうだった。この娘は痛くされると感じる性格なのだった。
 かといって音を立てたらまずいのだから、尻を叩いたりはできない。
何かいい方法がないか考えて、隣の処置室にある物を思い出した。
「ちょっと待ってて。いいもの持ってきてやるから」
 湯気の上がるペニスを百合の中から抜くと、百合を心電図室のベッドに横たわらせて処
置室に向かった。




 NEXT