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  スペーススラッグ研究


スター・ウォーズにおける空気問題

 SWにおける重力と空気の問題はかなり以前から問題になっていた。例えば、空気についていえば、爆発における華々しい火柱が上げられる。空気のない宇宙空間での爆発で、あれほど大きな火柱が上がるのはおかしくないかと。しかし、Xウィングやタイ・ファイターには、長時間の飛行に耐えられるように、十分な酸素が圧縮して詰め込まれていると考えれば、火柱については納得できるかもしれない。
 デス・スターの係留口に、ミレニアム・ファルコンが入ってきたり(
図2)、インペリアル・クルーザーが発進したりするシーンで、宇宙空間にぽっかりと穴が空いているのはおかしいという指摘は、係留口の入り口周囲が怪しく輝いていることから、何らかのバリアーがはられているという仮説によって反論できる。SWユニバースにエア・ロックは存在しない。
 しかし、スペース・スラッグのシーンの反論は、かなり難しいかもしれない。アステロイド・ベルトで帝国軍の追撃を振り切るために、ミレニアム・ファルコンに乗ったハン・ソロ一行は、小惑星の一つにあいた洞窟へとミレニアム・ファルコンを乗り入れる。そして、洞窟内でミレニアム・ファルコンは着陸する。機外で何か異常を感知したため、ハン・ソロとレーアは、簡便なマスクだけを身につけて、おそるおそる機外へと出る(図3)。そこには、ガスがかかって、明らかに空気が存在していた。ハンたちが、マスクをして外に出たのは、事前のセンサーなどのスキャンによって適度の気圧と空気が存在していたことが判明していたからであろう。しかしなぜ、ここに空気が存在していたのであろうか。ミレニアム・ファルコンは、宇宙空間に通じる洞窟を通って、そのままここに着陸したはずなのに。


 
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 図1 火柱をあげて

爆発するXウィング

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図2 デス・スターの係留口から入るミレニアム・ファルコン

 
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 図3 おそるおそる機外に出るレーア

 

 スペース・スラッグの衝撃
 スペース・スラッグという生物は凄い。この生物の登場は、実はSF映画史において特筆される生物である。SF小説ないしはSF映画の世界では、宇宙空間では生物は棲息しえないということが、常識となっていた。宇宙空間には空気が存在しない真空であるから、通常の呼吸をする生物は生きていられないし、体内の空気が全て外に出てしまうため、宇宙服のようなものを身につけないで宇宙空間に出ることは死を意味するというのが、SFの定説であった。
 例えば『エイリアン』(1979年、リドリー・スコット監督)において、エイリアンを殺すことができないため、宇宙空間に放逐すること目的に、リプリーは戦った。実はエイリアンは宇宙空間では死ななかったが、活動停止を余儀なくされ、少なくとも通常の活発な活動は不能となった。
 しかし、スペース・スラッグは宇宙空間で、何のバリアも持たないのに、のうのうと生活していた。恐るべき生物である。スペース・スラッグのプロフィール(図4)は、その宇宙空間での棲息形態について若干の説明を与える。スペース・スラッグは、シリコンから構成されるる生物であるらしい。また、スペース・スラッグは宇宙空間を飛行する宇宙船をしばしば攻撃するという。これは、スペース・スラッグが、単なる岩石中の鉱物を摂取するのみならず、宇宙船などの金属を摂取する可能性を示唆している。全く意味もなく攻撃を加えるという行動はこうした下等生物においては考えられない。下等生物の行動パターンは自己保存(捕食行動)と種の保存(繁殖行動)を基本とする。スペース・スラッグの宇宙船への攻撃は、捕食行動の一環と考えるべきであろう。

 
なぜ空気は流出しなかったのか?
 では、スペース・スラッグの体内に、なぜ空気があったのだろう。ミレニアム・ファルコンが通過したときは、ずっと体内はトンネルのように開いていたはずである(図5)。 ここで次のような仮説を想定し得る。人間の消化管は実は食物が通過しないときは、ぺちゃんこにつぶれている。例えば、胃といえばズタ袋のような形を想像するだろうが、袋状の形になるのは、食物や水が入っている時である。通常空腹時に胃は、若干の空気を含んでいる場合はあるものの、基本的にはつぶれているのだ。消化管は物が通過する時以外はつぶれている。このような生物の基本的な性質が、スペース・スラッグにも通用するのではないか。つまり、ミレニアム・ファルコンが通過したとき、その周囲はトンネルのように空洞になっていたが、通過していない状態ではつぶれた状態になっており、内部の空気を逃がさないようになっていたのではないか、と予想されるのである。

Space slug 
 スペース・スラッグ
 
 体長900メートルの長虫様生物。惑星ホス周辺の巨大なアステロイドの深い洞窟内に棲息する。スラッグは硬く、実際大気のない状態で生存することができる。宇宙海賊クラブバーンは、これらの巨大なスラッグを、自分たちの基地を防衛させるために増殖させていると、長い間噂になっている。 シリコン生命体であるスラッグは、岩を砕き、鉱物成分を摂取することで、長期間生存できる。スペース・スラッグはマイノックとして知られる寄生虫に寄生されているが、時にはマイノックを捕食することもある。スペーススラッグの身体は、商用に取引きされる場合がある。スラッグは身体を二つに分け、分裂によって増殖する。[ENC]
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  図4 引用 
スペース・スラッグの説明




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図5 宇宙空間に通じるスペース・スラッグの体内のトンネル

 この仮説には一つ証拠がある。それは、ミレニアム・ファルコンがスラッグ内から出ようとするシーンである。スラッグの口から外に出たミレニアム・ファルコンを、あわててスラッグはパクつこうと、頭をのばして後を追うのである(図4のイラスト参照)。獲物を逃がしたくなければ、ずっと口を閉じていればよかったのだ。ミレニアム・ファルコンが出てきたことは知覚できた(感覚的にわかった)のだから、ミレニアム・ファルコンが体内に入ったこともまた、スラッグは知覚していたはずである。一度体内に入った獲物を口をあけたままでいて、みすみす逃すとは、スペース・スラッグは、何てバカな生物なのだろう、と嘲笑してはいけない。下等な生物であるから、原始的な反射によって、生体機能が制御されていると考えるべきである。物が通過するとき、その周囲がトンネル状に開いてしまうという性質を、スペース・スラッグは本能的に持っていたのではないか。つまり、出てきた時、口を閉じていればいいものの、原始的な反射が優先されて、口が開いてしまったというわけである。

 
なぜそこに空気があったか?
 スラッグの体内から空気が宇宙空間に流失しないという理由は説明できた。では、なぜ体内にガスがあったのかが、もう一つ問題になる。それはスペース・スラッグが生来体内にガスを発生させるためか。シリコン生物であるスペース・スラッグが、ガスを発生するというのは、かなり困難であるように思える。スペース・スラッグの構成要素は、シリコン、鉱物、金属などであるから、それらを基盤にしてガスを生成するということは難しい。
 一方、ガスが存在する状態下と、ガスが存在しない状態下では、金属や鉱物が摂取された時、ガスの存在下の方が、より消化が早いということが言えるだろう。例えば、月面の石ころは何千年たっても風化しない、そのままの状態で存在している。それは空気が存在しないためである。空気があれば風化という現象がおきる。空気があって、そこに酸素が存在すれば、酸化が起きるので、金属は崩壊しやすくなる。また、空気が存在すれば、金属を分解するようなバクテリアが生息することも可能である。これらの事実より、スペース・スラッグ内のガスは、スラッグの消化を助けるという目的があって存在している可能性がある。
 ここで、マイノックの形態的特徴を思い出そう。マイノックには、翼があった。そして、ミレニアム・ファルコンの周囲を、コウモリのように器用に飛び回っていたではないか。マイノックの翼について、太陽風をあびて宇宙空間を泳ぐためであるという説があるが、果たして本当だろうか。真空である宇宙空間で、翼をヨットの帆のようにして太陽風をあびるというコンセプトは分かるが、もしそのためだけに翼が存在するのであれば、その翼で空気中をコウモリのように飛行するというのは、不可能である。つまり、マイノックの翼は、少なくとも空気中を飛行するためにも使えるような役割を担っている。
 もう一つ、マイノックの重要な形態的特徴がある。それは、図6の写真でもわかるように、大きな吸盤がついているということである。吸盤とは何か。吸盤内の空気を吸い出して、陰圧にすることで、吸着を促進する器官である。図6のプロフィールには
「吸盤を用いて通過する宇宙船にはりつく」と、さりげなく書かれているが、完全な真空状態では、吸盤は役に立たない。陰圧(大気圧と比べて)を作り出せないためである。したがって、この宇宙空間でマイノックが宇宙船に吸着するという性質は、正しいとは思えない。
 マイノックのプロフィールからは、マイノックは宇宙空間に出ても大丈夫であり、宇宙空間を飛行できると書かれているにもかかわらず、マイノックには空気が存在しないと意味をなさない翼と、吸盤を持っている。というよりも、翼と吸盤が、身体の大部分を占めている。このことは、マイノックは真空中よりも、大気存在下の方での棲息に適しているということである。
 しかし宇宙空間をうろついているマイノックに、大気は無縁のように思える。しかし、マイノック自体がガスを産生する機能を備えていると考えればどうか。スペース・スラッグの体内のような、閉塞した空間をガスで充満させれば、飛行、吸着という、彼らの得意技を発揮できる。マイノックがどのようにガスを発生するかはわかっていないが、マイノックはエネルギーとシリコンや鉱物を捕食するが、その身体は鉱物だけで構成されているとは記述はない、また、マイノックの身体の軟らかさは、鉱物や金属がその主要な構成成分でないことを示しているだろう。
 スペース・スラッグのプロフィールには、スラッグがマイノックを時に捕食すると書かれているが、この記述も大いに疑問である。また、マイノックはスペース・スラッグに寄生しているという記述も、正確さを欠く。
 寄生とは他の生命体に一方的に依存して生活している状態である(図7)。つまり、マイノックがスペース・スラッグの身体そのものを、直接摂取し、スペース・スラッグに害を与えるような状態であれば寄生と呼べるが、実際そうではない。また、「(スラッグは)時にはマイノックを捕食することもある」(図4)いう記述もおかしい。寄生生物を捕食するという表現は、明らかに不適切である。
 スペース・スラッグとマイノックの関係は、寄生ではなく共生ではないのか。つまり、マイノックはスペース・スラッグにとりこまれた、宇宙船や岩石などの巨大な塊を摂取することによって、細かな塊へと変え、スラッグの消化を促進する。そして、マイノックはガスを産生するため、スラッグの消化はさらに促進される。
 一方、マイノックは、スペース・スラッグの体内という、閉鎖した空間に居住することで、ガスに満ちたマイノックのすごしやすい環境を作り出す。そして、だまってそこに留まっているだけで、スラッグが捕食した、宇宙船や岩石塊などが入ってくるため、食物に困ることはない。「互いに利益を得て共同生活を営む」(図7)この形態は、まさに共生なのである。

 Mynock  マイノック

 黒い皮状の飛行生物。宇宙空間にただようシリコン質のプラスチックを捕食してエネルギーとしている。群れで移動する場合の典型的な方法は、吸盤を用いて通過する宇宙船にはりつく。その場合すみやかにマイノックを排除しなくては、宇宙船に大きなダメージを与える。マイノックは星間放射線によって栄養を得て、シリコンと他の鉱物を小惑星やその他の宇宙空間の岩石の破片から吸収する。マイノックが十分に吸収した時、二つに分裂する。マイノックは全宇宙に広がっており、宇宙船パイロットから疎まれている。[ENC]

 
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  図6 引用
 マイノックの説明


きせい[寄生]
 動植物が、栄養の大部分を暮らし場所と他の生命体の一部に一方的に依存して生活すること。

きょうせい[共生・共棲]
 別種の生物が一緒に生息し、互いに利益を得て共同生活を営むと考えられる状態。ヤドカリの貝殻口にイソギンチャクが着生し、前者は後者の触手によって敵の攻撃を免れ、後者は前者の運動によって食餌をあさり得る類。
     [広辞苑、岩波書店]

 図7 引用 
寄生と共生の説明

 あまり見栄えのよくないスペース・スラッグであるが、そこにはマイノックとの重要な関係が存在していた。やはり、スター・ウォーズ・ユニハバースは奥深い。
 このスペース・スラッグのシーンには、もう一つ重要な問題が隠されている。それは重力問題である。なぜ、このスラッグが棲息していた、非常に小さい小惑星に重力が存在していたのだろうか。重力問題についての研究報告まで、もうしばらくお待ちいただきたい。