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  確信犯アナキン

 『ファントム・メナス』におけるアナキン描写の中で、最も重要と思われるのは、アナキンがバトルドロイド司令船を爆破するシーンであろう。このシーンを、アナキンが宇宙空間に発進し、敵司令船内部に着陸し、内部から司令船を爆破するくだりが、全て偶然であるかのように、アナキンはセリフで語っている。偶然の力によって司令船を爆破してしまうこと、アナキンの積極的な意思が介在していないことが、ご都合主義、あるいは荒唐無稽と強い批判を浴びている。私も、初めて見た時は、そのような印象を持たないでもなかった。しかし、アナキンがこのシーンで宇宙空間に出撃することを知った上で、映画全体を見直してみると、この司令船爆破のくだりは、決して偶然の産物ではなく、アナキンの強い意志が働いていたことがわかる。クワイ=ガンの命令違反になることを怖れて、アナキンは偶然を装っていただけであると。
その根拠は、以下の六点である。

 

@ 動機はあった
‐反復して語られる宇宙へのあこがれ‐

 アナキンは宇宙に対する強い興味を抱いていた。そのことは、少なくとも四ヶ所にわたって、繰り返し説明される。
最初は、アナキンとパドメの出合いのシーンである。パドメにいきなり「君は天使かい」とキザなセリフを言った直後に、「ぼくは、パイロットだよ。いつかここから飛び立つ(fly away)んだ」と意気揚々と語る。ここで重要なのは、単に「(この惑星を)出る」というのではなく、「飛び立つ(fly away)」という言葉を使っていることだ。自分はパイロットだというセリフと合わせると、自分で操縦して飛び立ちたいという気持ちが表れている。
またこの時アナキンは自分は宇宙パイロットから、宇宙のいろいろな話を聞いていると語る。宇宙パイロットの言葉に、熱心に耳を傾けるのは、宇宙に対する強い好奇心、そして自分も宇宙パイロットになりたいという強い願望からであろう。
アナキンは、宇宙パイロットの話に熱心に耳を傾け、いつか宇宙に出たいと願い、自分もその宇宙パイロットのように、宇宙を駆け巡っていろいろな星に行きたいと思っていたということだろう。実際、それは後のアナキンのセリフにも反映している。
クワイ=ガンとの会話では、アナキンは「宇宙にはいくつの星があるの?」と質問し、「無数だ」と答えるクワイに対して、「ぼくは、その全部を訪れたい」と言う。このセリフも、アナキンの宇宙に対する強い好奇心の存在を示している。
そして、アナキンの宇宙への憧憬は、一瞬しかうつらない小道具にも現れていた。ポッド・レースに勝ち、タトゥイーンから脱出することが決まったアナキンは、自分の部屋に戻って、3POに母のことを頼む。このとき、アナキンのベッドが一瞬うつるが、そこには宇宙船のオモチャが二個のっている。そのうちの一つは、ヌビアンに似ている。
『新しき希望』では、ルークがスカイホッパーのオモチャを手に持って飛ばして遊んでいるワン・カットがあり、ルークの性格がさりげなく描写されていた。このアナキンの宇宙船のオモチャも、『新しき希望』のルークのシーンを意識したものであり、アナキン・スカイウォーカーはルーク・スカイウォーカー同様に、宇宙に強い憧憬をいだいていたことが描かれる。

 アナキンの宇宙好きを表すシーンは他にもある。例えば、クワイがワトーとの賭けのために、ヌビアンの3D映像を見せる。そのヌビアンを見たとき、一瞬アナキンは目を輝かせるのである。アナキンの宇宙船に対する興味と憧れの反映である。
アナキンの宇宙への強い憧れ。そして、自らパイロットとして宇宙をかけめぐりたいという思いは、タトゥイーンのいくつかのシーンで繰り返し描かれていた。これは動機である。

 指令船爆破のシーンでアナキンは、宇宙空間を自在に飛び、敵を翻弄する。宇宙空間を自在に飛びたいという動機が、アナキンにはあった。

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好気の目でヌビアンを見つめるアナキン

 

A  方法を知っていた
‐リック・オリーから操縦方法を習うアナキン‐
コルサントからナブーへ向かう途中、アナキンはヌビアンの船長リック・オリーからヌビアンの操縦方法を習っている。そして、オリーはアナキンを「筋か良いぞ」と誉める。なぜアナキンは、ヌビアンの操縦方法を習っていたのか。
前述のように、宇宙に対する強い好奇心と、自分でも宇宙船を操縦したいという願望持っていたことが、このシーンで証明されるとともに、強調される。宇宙船を操縦したいという気持ちがなければ、操縦方法を熱心に聞くはずはないだろう。
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リック・オリーから操縦方法を習うアナキン
 そして、このシーンの映画的な意味は何か。映画全体の流れから、このシーンの意味をふりかえるとどうなるか。指令船爆破のシーンでアナキンは、自ら操縦桿を握る。そして、このシーンでは、宇宙船の操縦シーンを習っている。一方はヌビアン、一方はナブー・スター・ファイター。宇宙船の種類が違うので、操縦方法に若干の違いがあるが、基本的な宇宙船の操縦法をアナキンは会得していたことを説明するのが、このシーンの映画的な意味であろう。
 アナキンは宇宙へと出撃する動機があり、その方法(操縦方法)も知っていた。

 

B 目的を知っていた
‐アミダラの作戦計画に聞き耳を立てていたアナキン‐

ナブーに到着し、グンガンの協力を得られることになったアミダラ一行は、これから始る通商連合との戦いについて、作戦会議を開く。R2の三次元ホロスコープを使って、王宮への侵入経路などについて、アミダラが説明する。
そして、バトル・ドロイドの動きを止めるためには、バトルドロイド司令船を爆破する必要があり、司令船を爆破しなくては、グンガンたちはバトルドロイドの攻撃によって大きな痛手を受けることも語られる。そのやり取りを、アナキンは注意深く聞いていた。実際、このシーンの途中にアナキンのアップが数ヶ所挿入され、この作戦シーンの最後も、アナキンのアップで終わっている。

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作戦に聞き耳を立てる
アナキン

 つまり、アナキンはナブー・スター・ファイターのパイロットたちが、バトル・ドロイドの動きを止めるために、司令船爆破のミッションを帯びていたことを知っていた。つまり、指令船爆破の目的と意義知っていたのだ。それは、アップという映画的な手法によって、強調されていた。
 このシーンの最後、アナキンの顔のアップを見れば、アナキンがこの作戦で重要な役割を演じることが、暗示されているとわかる。

 

C 言葉と行動の食い違い
 ナブー王宮のメイン・ハンガーでバトルドロイドとの戦闘になったさい、クワイ=ガンはアナキンに「どこか安全な場所に隠れていろ」と言う。アナキンはナブー・ファイターの一台へと向かい、コクピットに乗り込む。
ここで、他のファイターたちが次々と出撃していくのを、アナキンは見ている。「ここを動くんじゃない」とクワイ=ガンに念押しされる。しかし、ドロイドカスが現れアミダラたちに攻撃を加えているのを見て、アナキンは何とかしなくては、とスターファイターのキャノンで、ドロイディカを攻撃しようとする。
 しかし、このシーンを良く見てみると、少しおかしいことがわかる。アナキンは、「トリガーはどこだ」と言い、コクピットにあるスイッチの一つを入れる。それは、結果としては、オートパイロットの発進スイッチであり、宇宙船は動き出す。次にまた別なボタンを押して、その次にトリガー(ゲームのコントローラーみたいな引き金)に手をかけて、ドロイディカを攻撃する。
 トリガーとは引き金のことである。単なるオン/オフ型のスイッチを入れて、キャノンが発射されることがないことは、パイロットであれば、誰でも分
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アナキンが最初に入れるスイッチ
 どうみても、これで射撃ができるはずがない
かるだろう。結局、本物のトリガーは、ゲーム・センターなどで見かける典型的なトリガーであり、誰が見ても一瞬でそれらしいと分かる代物である。例えば、ゲーム・センターで射撃系ゲームをするさい、押しボタンと操縦桿に引き金がついたものが二つ並んでいた場合、どっちで射撃するだろう。間違えて、押しボタンを連射する奴はいないだろう。アナキンは、口では「トリガーはどこだ」と言いながら、引き金とは間違いようのない、発進スイッチを入れるのだ。アナキンは口で言っていることと、やっていることが異なっている。他にも、同様の描写がある。

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アナキンが引くトリガー

 アナキンが(おそらく作為的に)押した発進スイッチがオート・パイロットだったために、スター・ファイターは発進してしまう。その後、アナキンは「オート・パイロットを切らなくちゃ」と言いながら、ヘルメットをかぶるのである。これから出撃に向かいますとでもいうかのように。このヘルメットをかぶるアナキンの姿を見れば、彼が戦意満万であることがわかる。オート・パイロットを切って、ナブーに戻るという行為と、ヘルメットをかぶって戦闘の準備をするという行為は矛盾する。
 本当にナブーに帰還する意志があるのなら、ヘルメットを被る暇を惜しんで、オート・パイロットをオフにする操作をするはずであろう。

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やる気満々でヘルメットをかぶるアナキン

これは、「停車しなくちゃ」と言いながら、シート・ベルトをしめるようなものである。
 口では、「間違った」とか「オート・パイロットを切らなくちゃ」と言っているが、彼の実際の行動は戦場へ向かうことであった。

 

D R2の静止を断ったアナキン
 アナキンが、単なる偶然の重なりではなく、明確な意思を持って戦場へ出撃していった、すなわちアナキンが確信犯であったことは、R2とのやりとりが証明する。
R2の協力を得て、アナキンはオートパイロットをオフにすることに成功する。その後、そのまま司令船へと向かおうとするアナキンに対して、R2は電子音で警告を発する。
アナキンの「戻れって? クワイはここにいろと言ったよ」と言って、そのまま戦場空域へと飛行を続けるのである。この時のR2のセリフは、「クワイの命令を無視して良いんでしょうか。早く、ナブーへ戻りましょう」といった内容であろうか。戦場へ向かおうとするアナキンに警告を与えたものであることは間違いない。そして、この時点でR2が警告したということは、オートパイロットは既に切断されており、ナブーへ帰還しようと思えば、帰還可能であったことを示す。帰還可能でなければ、警告自体が成立しない。
しかし、こともあろうにアナキンは「クワイはここ(コクピット)にいろと言ったよ」と、コクピットに入っていれば宇宙空間にいてもいいと、凄い曲解をするのである。
 もし、単にアナキンが間違って発進スイッチを押してしまい、自分は宇宙空間にでる意志もないのに、オートパイロットのせいで宇宙まで連れてこられたのなら、こんなセリフを言うはずがない。「わかったよ。R2」と言って、帰還すればよいだけである。「クワイはここにいろと言ったよ」というセリフが、アナキンの気持ちを全て語っている。「僕は、宇宙空間で戦闘したくしょうがないので、帰りたくない」という意味以外に、どう解釈できるというだろう。単に、後から怒られないような言い訳を、巧妙にしているのである。その言い訳は、「オートパイロットのスイッチを押しちゃった」とうところから、既に始まっているのだ。
 おそらく、スター・ウォーズの世界でも、宇宙船にボイス・レコーダーの様なもので、機内でのやりとりが記録されているのかもしれない。あるいは、アストロメック・ドロイドであるR2が、ボイス・レコーダーの機能を有し、アナキンの言動の一つ一つを記録している可能性が高い。したがって、単なるドロイドであるR2に対して、アナキンは言い訳をしなくてはいけなかった。
 ちなみに、R2によるアナキンに対する警告は、「帝国の逆襲」での一シーンを意識して作られている。

 氷の惑星ホスでの戦闘に敗れた反乱軍は、各自ホスを離脱し、ランデブー・ポイントで再集結する作戦を立てていた。ルークは雪原で会ったオビ=ワン・ケノビの指示に従って、ダゴバ星のヨーダのもとへと向かう。Xウィングに乗ったルークが、ダゴバへ進路を変更しようとしたとした瞬間、R2は警告音を鳴らす。おそらくは、「命令と異なります」「ランデブー・ポイントへの進路とは異なります」といった内容であろうか。常に命令に忠実で、一所懸命なR2の頑固でまじめな性格を表わす描写である。R2の警告を無視したルークは、そのままダゴバへと向かうのだった。
 この『ファントム・メナス』でのR2とアナキンのやりとりと酷似している。『ファントム・メナス』では、アナキンは『帝国の逆襲』のルークと同様に、R2の警告を無視するのである。

 

E 敵司令船が爆発した時のアナキンの大いなる喜び
 戦闘空間に突入した、アナキンは、宇宙船を自在に扱い、夢にまで見た宇宙での飛行を楽しむ。まさに、スカイウォーカー(空=宇宙を闊歩する)である。その時のアナキンの喜喜とした表情と、はつらつとした口調を聞けば、もはやアナキンが確信犯であったことは、疑いの余地がない。
 そして、司令船周囲の激戦区に乗り込んだアナキンは、敵機を破壊し、司令船内部に着陸する。レーザー砲の連射によって、内部から爆発を開始した司令船。誘爆の火の粉から逃げるアナキン(この部分は、『ジェダイの復讐』のデス・スターの誘爆から逃げながら、狭いトンネル状の空間を飛行するミレニアム・ファルコンに類似)。そして宇宙空間に出たアナキンは、片手を上げてガッツ・ポーズをして、大喜びをする。そして、次のカットで司令船

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誘爆するドロイド指令船

が大爆発をおこす。ここをよく見ると、少し不自然である。司令船が大爆発するのを確認してから喜ぶのならわかるが、大爆発する前から喜んでいるのである。つまりアナキンは、自分が指令船内部に撃ち込んだレーザーによる誘爆で、もう既に司令船が大爆発するのを知っていたことになる。つまり、指令船内部でのレーザーの連射も、偶然を装っていたが、やはり意図的なものであったと理解すべきである。
 それと、この時のアナキンの喜びかたが、並々ならないことが重要である。その喜びようといったら、比べてみればわかるがポッド・レースで勝利した時よりもうれしそうである。
 なぜ、アナキンはそんなに喜んだのか。もし、これが単なる偶然のレーザーの誤射で、偶然に誘爆して、偶然に司令船を破壊したとしたら、これほど喜ぶだろうか。というよりも、一体何がおこったのかすら理解できないかもしれない。これほど、アナキンが喜んだのは、自分の目的を持ってそれが達成されたからではないのか。
夢にまでみた宇宙船での戦闘。アミダラの戦闘計画を聞いた時から、司令船を破壊してやろうとたくらんで、その目標が達成されたからこそ、これほど喜んだのではないのか。
 クワイ・ガンの命令を無視し、クワイ・ガンから説教をくらうことは間違いないこの状態で、これほどまでに無邪気に喜ぶのは、それ(司令船の爆破)を望んでいたからに他ならないだろう。

 

F言い訳上手のアナキン

これでも、アナキンが確信犯だと信じられない人のために、もう一つ証拠を提示しておこう。アナキンの「オートパイロットのスイッチを押しちゃった」あるいは「クワイはここにいろと言ったよ」といった言葉が、アナキンの言い訳であるのは、アナキンの他の言動にも表れている。
ワトーが、前回のレースでアナキンがワトーのポッドを壊したと言ったときに、アナキンはすかさず「セブルバが熱線ガスをかけたんだ」と言い、「僕はポッドを救ったんだ」と言う。ポッドを壊しておきながら、ポッドを救ったとは、すごい言い訳である。それも、ワトーの言葉に間髪いれず出ている。これを見れば、アナキンは言い訳上手な子供であることが、わかるのである。

以上のように、アナキンは宇宙空間を闊歩し、指令船を撃破するための、動機を持ち、方法と手段を有し、作戦の意義を理解し、R2の警告を無視し、目的達成後には大喜びした。そして、アナキンは言い訳上手であった。これだけ丁寧な描写が重ねられている。もはや、「アナキンが全くの偶然によって指令船を爆破するのおかしい」という批判する者はいないだろう。
そしてこのアナキンの名パイロットぶりは、既に旧三部作で予告されていた。『新しき希望』でルークがオビ=ワンの住居を訪れたとき、自分の父親についての話を聞く。そこでオビ=ワンは言う「(ルークの父親は)宇宙飛行士(galaxy star pilot)としても、戦士としてもずば抜けていた」と。
『ジェダイの復讐』ではダゴバで、ヨーダからベイダーがルークの父であると明かされた後、オビ=ワンが現れてルークに言う。「(彼は)初めて会ったとき、既に名飛行士だった」と。オビ=ワンは、アナキンのことを名パイロットであったと、二回も語っている。そして、それは初めて会ったときの話である。「galaxy star pilot」と言っているから、それはポッド・レーサーとしての技量について言っているのではなく、宇宙での活躍を示唆しているのである。
すなわち、オビ=ワンとアナキンの出会いを描いた『ファントム・メナス』で、アナキンが宇宙空間で活躍することが、スター・ウォーズ・サガの定めであったのだ。