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 『ファントム・メナス』 

デザインの系譜


 「すべてのデザインは、デザインの
ためのものであってはならない」

            ジョージ・ルーカス


 『ファントム・メナス』のデザインが、旧三部作まデザインと違い過ぎするという批判がある。しかし、 『ファントム・メナス』は旧三部作にさかのぼること約30年の話である。同じデザインのメカが活躍している方がおかしいのである。

 『ファントム・メナス』は、旧三部作のデザイン世界を巧妙に受け継いでいる。その『ファントム・メナス』デザインの魅力について、連載形式で少しずつアップしていきた。

第1章 受け継がれたデザイン 
       ボタンのないデザイン
 
 旧三部作の衣装デザインの特徴。それは、ボタンがないということである。旧三部作に登場するキャラクターたちは、全てボタンが服の表面に出ないような衣装を身に着けている。どうやって服を固定しているのか不思議なほど、巧妙にボタンが隠されている。ボタンが表に出ていないということが、スター・ウォーズの衣装デザインの基本である。
 では、『ファントム・メナス』ではどうだったか。そのデザインの原則は受け継がれた、かのように思ったが、バルパティン議員が怪しい服(右画像)を着ている。服の真中に、二段にボタンのようなものがついている。しかし、よく見るとわかるが、このボタン状のものは飾りであることがわかる。後ろの服を固定しているようには見えない。やはり、ボタンを表に出さないという原則は、『ファントム・メナス』でも受け継がれたようだ。
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第2章 デザインが全てを説明する

旧三部作と異なるデザイン
 『ファントム・メナス』のメカニック・デザインについての不満をしばしば目にする。旧三部作のメカ・デザインと『ファントム・メナス』のメカ・デザインが全く違う。昔のデザインの方が好きだったのに、という感想も多い。
 旧三部作におけるスター・デストロイヤーやミレニフム・ファルコンなどのメカ・デザインと比べて、『ファントム・メナス』のメカ、例えばナブー・ロイヤル・スターシップ(通称ヌビアン)やナブー・スターファイター、ファースト・シーンでクワイ=ガンたちが乗っていたリパブリック・クルーザーなどのデザインは、全く異なる。しかし、このデザインは違って当然なのである。いや、違わないとおかしいのである。

 現実の世界で、30年前と同じデザインの車が走っていたらおかしいであろう。デサインは、その時々の社会状況に大きく影響を受ける。その辺の、時代考証が、『スター・ウォーズ』では、厳密になされている。
 宇宙船のデザインによって、その時代背景や、その宇宙船を所有する団体の思想までもが表現されているのである。
 劇中ではワトーが、ナブー・ロイヤル・シップのことをヌビアンと呼んでいるが、ヌビアンとは厳密にはナブー・ロイヤル・シップに搭載されているエンジンJ327型ヌビアンのことである。ヌビアンを積んでいる船という意味で、略称的にヌビアンと呼んでいるが、正式な船名としてはナブー・ロイヤルスターシップである。

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ロイヤル・スターシップ
通称ヌビアン

豊富な物資の証明
 旧三部作のメカは、つぎはぎしたようなごちゃごちゃしたデザインのメカが多い。例えば、スター・デストロイヤー(帝国軍の巨大戦艦)、ミレニフム・ファルコン(ハン・ソロの船)、サンド・クローラー(ジャワの乗り物)などである。一方、『ファントム・メナス』のメカは、流線型を基調としており、優雅で洗練されている。その代表が、ヌビアンことナブー・ロイヤル・スターシップである。
 なぜ、旧三部作と『ファントム・メナス』では、メカのデザインが全く異なるのか。それは、時代が全く異なるからである。旧三部作は、帝国軍が支配する独裁政権の時代であり、『ファントム・メナス』は元老院議会が力を持っている(実際にはかなり弱体化していたが)共和制の時代である。
 帝国軍の時代に、デス・スターという巨大建造物が作られた。デス・スターの建造に、多くの鉱物資源が投入されたため、帝国の時代は非常に物資不足が著しい。したがって、いろいろな部品をつなぎ合わせたようなデザインのメカが多い。あるいは、タイ・ファイターに代表されるように、シンプルで機能重視型のデザインだったりする。
 一方『ファントム・メナス』の時代には、帝国の時代よりは物質的に豊かである。しかし、ワトーのようなジャンク屋が繁盛することからわかるように、ありまるほどの機械部品が流通しているということではない。比較的物質が豊かであるがゆえに、ナブー・ロイヤル・スターシップのような継ぎ目のない一体形成型のような宇宙船が建造することが可能なのである。あるいは、基本的に戦争は滅多におきない安定した状勢が背景にあるために、装甲やシールドなどを厳重にする必要がなく、武装よりもデザインを重視した宇宙船が作られていたのである。
 たかが、宇宙船のデザインではあるが、そこにも考え抜かれた深い設定が存在している。


 ロイヤル・スターシップのピカピカのボディは、ナブーの職人技によるものである。これは大国とは言えないナブーではあるが、一流の技術と、それを支える物資と資源を有することを意味する。
 通商連合が、ナブーのような森と水しかない惑星をなぜ侵略するかという疑問を持った人もいるかもしれない。しかし、ロイヤル・スターシップのデザインは、惑星ナブーはその見た目以上に裕福で、豊かな資源を持っていることがわかるのである。

 注)ロイヤル・スターシップは、継ぎ目がない様に見えるが、実際良く見ると、継ぎ目がついている ! !

平和の象徴
 ロイヤル・スターシップは、なぜ通商連合の頑丈な包囲網を、楽々と突破でくたのか。ほとんど武装のないロイヤル・スターシップが、あの厳重な包囲網を突破できたのはおかしい、もという批判があるかもしれない。
 しかし、実は全くおかしくない。ロイヤル・スターシップは、ほとんど武装がないのではなく、全く武装がない。攻撃用の武器を全く積んでいないのである。武装が全くない宇宙船は、ナブーの平和主義の象徴である。アミダラがかたくなに実践しようとしたナブーの平和主義が、この女王の船のデザインとして反映されている。

 また、ナブーのようにボランティア軍しか持たない、あるいはオルデラーンのように、軍隊を持たない星が存在する。そうした当時の銀河共和国が、平和に統治されていたことの現れでもある。
 そしてロイヤル・スターシップは、武装がない分シールドを装備している。もちろん本格的な戦闘に耐えうるシールドではないため、アミダラのナブー脱出時にシールドが破られるはめとなった。

 また、武装がなく軽装であるため、スピードが確保されている。すなわち、「逃げるが勝ち」という戦いには、非常に向いている。ナブー脱出時に、ロイヤル・スターシップを通商連合の戦闘機が全く追尾してこないというのも、一見変だが、それは間接的にロイヤル・スターシップが通商連合の戦闘機より、はるかにスピードにおいて優れていることを示す。

 ルーカスは言う「すべてのデザインはデザインのためのものであってはならない。」
 デザインとは架空の世界を築き上げることであり、世界の創造である。ささいなデザインにも、深い背景と設定が存在している。

 旧三部作のデザインが好きだという人も、落胆する必要はない。『エピーソード2』『エピーソード3』と進み、共和国の崩壊とともに、宇宙船のデザインはまた変化していくであろう。

 

第3章 テーマに結びつくデザイン
 自然とのシンバイオント(共生)
 グンガン族のデザイン
 グンガン族は自然と共生する種属として登場している。そのコンセプトは、グンガン・シティのデザインに、強く反映されている。球形を組み合わせた形のグンガン・シティ。これは、水泡のイメージであり、岩に群生するサンゴ礁のようでもある水と一体になって生活しているグンガン族のあり方そのものをデザインが象徴している。でグンガン族の使う道具、ファーシーインと呼ばれる望遠鏡や、パレードのシーンで使われていた楽器は、貝殻のイメージである。カタパルト(投石器)やその他の道具も貝殻の曲線がイメージされている。ボス・ナスや他の指導者たちは渦巻き模様のついたローブを着ているが、これも渦巻き貝のイメージだろう。クワイ=ガンたちが借りた潜水艦ホンゴは、エイやマンタなどの水中生物を思わせる。
 グンガン族をとりかこむ全てが、自然との共生を示している。


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 グンガン・シティの外観
 
水泡の曲線そして、岩に群生するサンゴ礁のようでもある。
 球体は、水圧にも耐えうるという点からも合理的な形状である。

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 グンガン・シティの内部
 水泡をイメージした球体がたくさんある。
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 カタパルト(投石器)
 カタパルトの独特の曲線も貝殻をイメージしたもの
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 グンガン族によく見られる渦巻き模様は、巻貝のイメージ
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 ボンゴ
 エイやマンタなどの水中生物を思わせるボンゴのデザイン

 自然と共生するグンガン族に対比する形で登場しているのが、通商連合である。通商連合は機械に依存している。
 通商連合の部隊は、すべてバトルドロイドやトロイディカなどの機械で構成されている。

 ヌート・ガ゜レレイが、メカノチェアと呼ばれる歩行器で移動しているシーンが、彼らが全てを機械に依存していることを象徴する。
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 機械だけが頼りの通商連合のバトルドロイド部隊
 グンガン族対通商連合の戦いは、「自然」対「機械文明」の戦いの象徴である。ちゃちな戦力しかもたなかったグンガン族が勝ったのはおかしいという批判も、テーマ的な観点から見れば、機械文明に対する自然の勝利を意味しているわけで、グンガン族のとった戦術について批判することは、かなり検討はずれに思える。
 スター・ウォーズには、比喩や象徴がいたるところで使われている。映画の表面的な意味やストーリーにとらわれるのではなく、デザインなどの視覚情報からもっとイメージを膨らませて見ていきたいものだ。