クラシック演奏会 (2009年)


2009.12.13 Royal Opera House (London)
Kirill Petrenko / Orchestra of the Royal Opera House, Royal Opera Chorus
John Schlesinger (Director), Andrew Sinclair (Revival Director)
Sophie Koch (Octavian), Soile Isokoski (Marschallin)
Peter Rose (Baron Ochs), Lucy Crowe (Sophie), Thomas Allen (Faninal)
1. Richard Strauss: Der Rosenkavalier

 ロイヤルオペラ座のオペラ公演にようやく到達しました。とは言え15時開始のマチネ だったのでラフな格好の人が多く、ストール席では多少正装の人も見かけましたが、全体 的にノーブルな雰囲気はほとんどありませんでした。
 「ばらの騎士」で最初に買ったDVDがこのシュレジンガー演出のロイヤルオペラでした が、今日もまさに期待通りのゴージャスな舞台と衣装を堪能しました。やはり、総じて 歌手のレベルがブダペストよりも一段高いです。元帥夫人のイソコスキは、新婚旅行の ウィーンでほとんどオペラ初体験のころに「魔笛」でパミーナを歌ったのを見ています が、そのときも思ったのですが、歌は上手いけれど娘役向きの容姿ではないなと。今回 も、歌唱は百戦錬磨の貫禄でたいへん素晴らしかったのですが、あの「おっさん顔」は オペラ歌手としてはだいぶ損をしていることもあるのではないでしょうか。他には、 ゾフィー役のクロウが歌が初々しい上に仕草もかわいらしく、ハマリ役でした。一方の オクタヴィアン役コッホは、細身の「おばさん顔」です(まあ女性だから当たり前か)。 声量は十分でしたが歌は一本調子に聴こえ、演技過多気味のクロウに食われていました。 また、終止無表情だったのも気になりました。オックス男爵も歌は非常にしっかりとして いましたが生真面目な固さがあり、憎まれ役にもピエロ役にも成りきれないもどかしさは ありました。ただし、これらの感想はあくまで些細なことであり、総論としては理屈抜きに たいへん楽しめた、人に勧められるステージだったことを記しておきます。
 余談ですが、今回は小3の娘も一緒に連れて行きましたが、マチネなのに他に子供の姿 は一人も見かけませんでした。やはり、演目が子供向きではなかったかな(というか、 子供にはあまり見せては行けない部類かも…、娘は眠りもせずにそれなりに楽しんでいま したが)。


2009.12.12 Barbican Hall (London)
Mariss Jansons / Royal Concertgebouw Orchestra of Amsterdam
1. Smetana: Overture to "The Bartered Bride"
2. Martinu: Double Concerto for Two String Orchestras, Piano and Timpani
3. Brahms: Symphony No. 4 in E-minor

 年頭から話題になったGramophone誌発表の「世界のオーケストラ・ランキングベス ト20」で見事1位に輝いたコンセルトヘボウの登場です。ロンドンは欧米の主要オケが頻 繁に客演してくれるので、その意味ではたいへん刺激的な都市です。翌日もマーラー「復 活」の演奏会がありそちらは早々に完売御礼だったのですが、ちょっと地味めなプログラ ムのこちらも、ほぼ満員でした。他の演奏会演目を見ても今年はやけにマルティヌーが多 いなと思っていたら、没後50年だったんですね。
 コンセルトヘボウの弦は相変わらず非常に分厚い音です。今日は最前列指揮者の真ん前 という席でしたので、ましてやブラームスだったので、ほとんど弦楽器しか聴こえません でした。席選びについては、同じ価格帯で後方を探すと上の階のずっと後ろか、あるいは 極端に脇の方になってしまうので、それよりは奏者の息づかいまで聴こえるくらい至近の 方が好みであると割り切って(自分自身楽器をやるからそういう志向になるんだと思いま すが)、最近よくそのあたりの席に座っています。ともあれ、その分コンセルトヘボウの 素晴らしい弦セクションは十二分に堪能できましたが、ちょっと今日はあまりに弦以外が かすみ過ぎの席だったのが残念です。
 ヤンソンスは相変わらず全身で飛び跳ねて、外は寒いにもかかわらず汗びっしょりで、 スケールの大きい音楽を作っていきます。「売られた花嫁」序曲ではまず軽めに高速で 突っ走って芸を見せつけ、マルティヌーで弦セクションの層の厚さを存分に披露した後 に、メインではオーソドックスながらたいへん重厚なブラームスを聴かせてくれました。 オケの特質を活かしたなかなかニクいプログラムです。ヤンソンスのオケの牽引は相当に 上手いと感じましたが、前日のサラステとはタイプが異なり、タイトに押し固めるような ことはなく、音楽はあくまでおおらか。嘘臭く感じさせないのは、やはり「芸」だと思い ます。こういう巨匠の風格を持った人がめっきり貴重になりましたね。アンコールもサー ビス旺盛で、ハンガリー舞曲第1番と、スラブ舞曲の何番か(失念)をやりました。バイ エルン放送響との取り合わせはまだ生で聴いていないので、いつか是非、できれば本拠地 のガスタイクで聴きたいと思いました。


2009.12.11 Royal Festival Hall (London)
Jukka-Pekka Saraste / London Philharmonic Orchestra
Radu Lupu (P)
1. Beethoven: Piano Concerto No. 5 in E-flat major (Emperor)
2. Brahms: Symphony No. 1 in C minor

 もちろんサラステも以前聴いた時にすごく良かったので(もう5年前になるんですなあ) 大いに期待していたのですが、とにかくルプーを聴きたいがために行きました。まずは、 キャンセルされなくて良かったです(10年前に一度やられてますので)。今回はステージ 後方正面の席だったのでルプーの表情や手元はよく見えたのですが、肝心のピアノの音が オフ気味だったのが残念でした。まあそうは言え、独特のやわらかいタッチと軽やかな 節回しは全く健在で、品のいい貫禄にあふれていました。指揮者をすっとばしてオケと 勝手にアイコンタクトしてるのも相変わらずです。まあ今日は、プレイにちょっと雑な ところはありました。一方のオケの方は大御所を迎えてか、ずいぶんと気合いが入って いて固い演奏です。かっちりとした好演だったと思いますが、リラックスしきったルプー との対比が面白かったです。
 メインのブラ1も非常にキレが良く、1楽章の反復もすっ飛ばし(そういう演奏は久々 に聴いた)、早いテンポで快調に引っ張っていました。今回は指揮者の正面側から見たわ けですが、サラステの棒はさっそうとして明快で、かといって教科書なぞりの固さやイヤ ミさもなく、オケのコントロールがたいへんうまい人なのだなあと感じました。良い意味 で「後腐れのない」演奏です。多分コンサートホールで聴き流す分には十分満足できるけ ど、後にひっかかるものがなさすぎで、例えばCDを買って繰り返し聴きたいとはあまり 思わない演奏のような気がしました。ただ、どのオケを振ってもレベルは高いので、また 機会があれば是非聴きに行きたいと思います。


2009.12.05 Royal Opera House (London)
The Royal Ballet
Koen Kessels / Orchestra of the Royal Opera House
Peter Wright & Lev Ivanov (Choreography)
Christopher Saunders (Drosselmeyer), Emma Maguire (Clara)
Brian Maloney (Nutcracker), Marianela Nunez (Sugar Plum Fairy)
Rupert Pennefather (Prince), Yuhui Choe (Rose Fairy)
1. Tchaikovsky: The Nutcracker

 コヴェント・ガーデンのロイヤルオペラ初体験です。くるみ割り人形、しかもマチネ だったので、子供がいっぱいでした。話に聞いていた上流階級の社交場の雰囲気はみじん もなく、ラフな格好の家族連れ、観光客ばかりで(ピシッとした紳士も少しはいました が)、妻もドレスじゃなくてスーツにしといて正解でした。
 今回の席はStall Circleの最後列(3列目)だったのですが、その後ろにさらにD列とい う立ち見席があって、すぐ背後に大勢の人に立たれるのは何とも落ち着かないので(しか も騒がしい子連れもいたりして)、次回からここは避けようと思いました。
 このロイヤルオペラのピーター・ライト版「くるみ割り人形」は今年25周年を迎える プロダクションで、いかにもお金がかかってそうな、とてもファンタジー色の強い演出で す。DVDソフトにもなっていますが、DVDは1985年の収録なので、さすがに大筋では 同じ話でも細かい振り付け・演出は相当変わっているようでした。特に大きな違いは、第 2幕のお菓子の宮殿で各お菓子の精が踊りを披露するところ、主役の二人も一緒になって 踊っていたことでした。その分お菓子の精の人数が減っていたので、もしかして人件費削 減?主役の二人にはたいへんタフなステージになりますが。あと、最後にくるみ割り人形 の魔法が解けてドロッセルマイヤーのおいに戻り、家に帰ってくる場面、DVDではおじ さんが帰宅するとおいが机で寝ていましたが、今は、おいがクララに途中道を尋ねつつお じさんの家に帰ってきて、家にいたおじさん大喜び、という話になってました。
 踊りに関しては全く素人ですが、ダンサーは総じてハイレベルと思いました。主役の若 い二人はたいへんに初々しく、一方のシュガープラムの女王と王子、それに花のワルツの 精(日本人かと思って後で調べたら、福岡生まれの韓国人なんですね)は動きの一つ一つ に迷いがなくキリっとしていて、貫禄を感じました。ドロッセルマイヤーがマジックで花 を出したり、紙吹雪もふんだんに振りまかれるし、舞台道具のクラシカルなゴージャスさ と相まって、たいへんファンタジックで良かったです。オケは、多少のミスはご愛嬌とし て、総じて非常に上品な音だったのですが、クライマックスではもうちょっと迫力が欲し かったところです。
 最後に苦情を一つ。うちの娘は毎年出かけて見慣れているのもあって、最後まで釘付け で見入っておりましたが、周りにはそれほど長時間でもないのにじっとしていられない子 供が多かったですね。ブダペストの方がまだましだったかも。イギリスはパブに子供を連 れて入れないなど、けっこう子供のしつけには厳しい国かと思っていましたが、そんなこ ともないなあと。子供に実演を見せてあげるのは非常に良いことだと思いますが、最低限 上演中じっとすわっていられない子供は、どんなに大きくても、連れて来るにはまだ早い です。


2009.11.25 Philharmonie am Gasteig (Munich)
Ion Marin / Munchner Philharmoniker
Frank Peter Zimmermann (Vn-2)
1. Stravinsky: "Feu d'artifice" Op. 4, fantasy for orchestra
2. Martinu: Concerto for Violin and Orchestra No. 2 H 293
3. Ravel: Alborada del gracioso
4. Ravel: Pavane pour une infante defunte
5. Ravel: Bolero

 出張のおりに聴いてきました。ガスタイクは2度目ですが(6年半ぶり!)、ミュンヘ ンフィルは初めてです。イオン・マリンという名前に記憶がなかったのですが、プログラ ム表紙の、長髪に派手な革ジャンを着た、売れないロッカーのような写真を見て一抹の不 安を覚えてしまいましたので、ちょっとネガティブな先入観が入ってしまったかもしれま せん。後で調べてみるとルーマニアの亡命者で、アバド時代のウィーン国立歌劇場の常任 指揮者を勤めたこともあるオペラ指揮者で、ロンドン響、ベルリンフィル、フィラデル フィア管、バイエルン放送響、ゲバントハウス管、ブダペスト祝祭管などの一流どころ や、N響、新日フィルへの客演もある、なかなかの経歴の持ち主でした。
 さて、この日は早朝から起きている出張疲れもあって、前半は半分沈没していました。 せっかくのフランク・ペーター・ツィマーマンでしたが、いかにも「仕事きっちり型」の 堅実な演奏で、曲もマルティヌーの全然知らない曲だったので聴きどころがわからず、ア ンコールまで演奏しながら印象に残らなかったのは残念でした。欲を言えば次回は是非バ ルトークあたりを聴いてみたいです。
 後半はオケいじめのようなラヴェルのきつい曲が列びます。1曲目の「花火」でも感じ ましたが、「道化師の朝の歌」は鳴るところではよく鳴っていましたが、音がぐじゃっと して交通整理がイマイチな印象です。ミュンヘンフィルはチェリビダッケのイメージから もっと透明感ある音を期待していたんですが、レヴァイン以降サウンドが変わってしまっ たんでしょうか。「亡き王女のためのパヴァーヌ」は一見おとなしそうに見えて管楽器の 息が続かないけっこう邪悪な曲ですが、ゆっくりめのテンポ設定で奏者はますます苦しそ うでした。中間部のテンションコードだけはぐじゃっとしたのがかえってふくらみを出し ていて、まずまずよい感じでした。
 切れ目なしに小太鼓が始まり、ラストのボレロに突入です。なんだか気持ちの悪いボレ ロだなと思ったのは、3/4拍子2小節分のリズムで、2小節目の最後1拍(6連音符)にい ちいちクレッシェンドをかけるのです。スコアにはそんな指示はないし、17分かけて一 つのクレッシェンドで盛り上げて行くのがこの曲のミソなので、このニュアンスは興ざめ です。実際に小太鼓を叩いてみると納得するのですが、微弱音の段階ではこういう強弱を つけて演奏する方が実は演奏しやすく、そもそもこれはニュアンスというよりはストイッ クな演奏を放棄しているだけでは、という疑念を早々に感じてしまったわけです。最初は ちょっとゆっくりめかな、と思ったテンポもコールアングレのソロあたりからテンポを増 して行くし、各管楽器のソロも、特にトロンボーンは、なるほど無難に切り抜けてはいま したが、破綻しないことにだけ集中した、面白みも何もない演奏に聴こえました。厳しい かもしれませんが、こういう難曲だからこそ、プロにはプロの凄みを見せてもらいたいな あと。例の6連音符のクレッシェンドも、曲が進んで音量が上がってくるといつの間にか なくなっているし、何か意図があってやってるんなら最後まで貫かんかい!と突っ込みを 入れたくなりました。全体のクレッシェンドが早めだったので案の定最後はかなりのボリ ュームになってしまっていましたが、まあ大音響は好きなので、これはこれでいいかなと。 全体的には、指揮者もオケもソリストも、その持ち味がいまいちよくわからない選曲と演 奏に思えた一夜でした。


2009.11.20 Barbican Hall (London)
Daniel Harding / London Symphony Orchestra
Christian Tetzlaff (Vn-1)
1. Mendelssohn: Violin Concerto in E minor, Op. 64
2. Mahler: Symphony No 10 (compl. Cooke)

 先週と同じくテツラフ&ハーディングという取り合わせですが、今日は超メジャー曲が 含まれているだけあって満員の入りでした。先週は現代曲だったので正直よくわからん かったのですが、どちらかというと線の太い男性的なヴァイオリンながら芸が細かい。こ の人は今たいへん充実している時期ですね。堅牢な技術に裏付けされた個性的なアゴーギ グは一瞬の迷いもなく、素晴らしい「メンコン」を聴かせてもらいました。大拍手に応え てアンコールはお得意のバッハのガヴォット、これもまさに名人芸でした。
 メインのマーラー10番は、マーラー好きの私がこれまで唯一実演で聴いたことがな かった交響曲ですが、今日はしかもクックの全曲完成版、これでようやく「画竜点睛」成 りました。打楽器奏者の端くれとしては、クック版終楽章の大太鼓強打はどうしても生で 聴いておかねばなりません。やはりそこはポイントなのか、普段よりも深銅の大太鼓がで んと鎮座しておりました。
 ハーディングは先週も気付いたのですが、かなりの「うなり系」になりました。しかも 緩徐楽章でよくうなってます。この日もオケをよく鳴らし、ともすれば音が薄くなりがち なクック版のスコアを補って十分余りあるほどの音の厚みでしたが、弱音のコントロール には若干の弱さがあるかもしれません。この曲でそのへんの繊細さがないと緊張感が続か ず、冗長さが際立つことになってしまうなと感じました。オケは相変わらず弦も管もよい 仕事をしていましたが、今日は縦の線の甘いところが多少散在していました。しかし気に なってしょうがないというレベルでは全然なく、このオケをブダペストで聴いたときのヘ ロヘロ具合は、相当調子が悪かったんでしょうか。いずれにせよ、本拠地で聴くロンドン 響は、確かに世界のトップ4と言われるだけの実力はダテじゃないと感じます。


2009.11.12 Barbican Hall (London)
Daniel Harding / London Symphony Orchestra
Christian Tetzlaff (Vn-1)
1. Jorg Widmann: Violin Concerto
2. Mahler: Symphony No 6

 昨年サントリーホールでハーディングが東京フィルを指揮した「マラ6」を聴いていま すが、まあ良い演奏だったのですがオケが激しく息切れしていて、「できればオケはロン ドン響かウィーンフィルで聴いてみたかったものだ」などと、あり得ない願望を備忘録に 書いておりました。まさかそれが翌年実現するとは、夢にも思わずに…。
 ハーディングは今や巨匠の貫禄です。相変わらず必死の形相、大きな動きでダイナミッ クな音楽作りをして行きますが、ちょうど10年前に同じ取り合わせを聴いたときの「若 者を温かく見守るベテラン達」というような図式はもはや感じられず、まさに真剣勝負の 場でした。オケはさすがに東フィルとは格が違い、次元の異なるパワーと表現力をいかん なく発揮していました。ブラスの馬力は凄まじく、トランペットなども全く危なげありま せん。終楽章の終盤、ハーディングは怒濤の煽りを仕掛けますが、オケも当然のように きっちり着いていき、これぞ一流のプロの仕事!と感服いたしました。今から思うと、東 フィルのときはオケが全然着いて行けてなかったのですが、ここまでの煽りはやらなかっ たので、その時々でオケの力量を見極め、破綻しないギリギリで音楽作りをしていたのだ なあ、と気付きました。なお、演奏はすっかり定番になった新版に従い、中間楽章はアン ダンテ・スケルツォの順、ハンマーは2回でした。ハンマーは相当重そうな木槌でした が、何故かヘッドの平らな部分ではなく横の腹で叩いていました。
 それにしてもハーディング、まだ若いながら一流どころの場数はすでに相当踏んでお り、同世代に強力なライバルもいないので、ヤンソンスのように将来主要ポストを総なめ してしまう予感がします。弱音のデリカシーがちょっと欠ける気もしますが、ロンドン響 を引っ張ってこれだけのスケールの音楽を仕立てられるのだから、恐るべしです。
 前後しますが、テツラフは初めて生で聴きました。小柄なハーディングよりもさらに小 柄なのが意外でした。曲は1973年生まれのヴィトマンが2007年に作曲、テツラフの独 奏で初演した今世紀の音楽ですが、いわゆる現代音楽の匂いはあまりなく、ベルクを彷彿 とさせる流れのなめらかな音楽でした。


2009.11.10 London Coliseum (London)
English National Opera
Edward Gardner / ENO Orchestra
Daniel Kramer (Dir-1), Michael Keegan-Dolan (Dir/Choreographer-2)
Clive Bayley (Bluebeard-1), Michaela Martens (Judith-1)
Fabulous Beast Dance Theatre (Dancers-2)
1. Bartok: Duke Bluebeard's Castle
2. Stravinsky: The Rite of Spring

 イングリッシュ・ナショナル・オペラ初体験です。劇場はもっとモダンなものかと想像 していたら、昔ながらの歌劇場然としていて、なかなかいい雰囲気でした。
 さて、ここはどんなオペラでも英語版での上演が基本なので、「青ひげ公の城」も当然 英語版で、ハンガリー語とは相当語彙が違うので違和感がありますが、なかなか珍しいも のが聴けました。最初、緞帳はすでに上がっており、暗転幕の表には勝手口のような扉が 一つだけ、街灯の下に照らされています。かなりモダンな演出であることはこれだけで想 像されましたが、手抜きの感はなく、仕掛けが凝っていて動きの多い、ずいぶんと動的な 舞台でした。扉が開く度に血糊が飛び交い衣装が血に染まっていく陰惨な演出でしたが、 青ひげ公は扉を開けるのを渋る言葉とは裏腹に、第1の扉(拷問部屋)ではあの音楽に合 わせて!ステップを踏み、第2の扉(武器庫)では幼児用乗り物の戦車に股がって走り回 り、第3の扉(宝物庫)では電飾とおもちゃの兵隊の衣装をまとったマネキンを披露、第 4の扉(花畑)ではミニチュアの岩山に咲いた花をどうだと言わんばかりに見せ、自分の おもちゃ箱を次々と開けていくように、嬉々としてはしゃいでいます。あっと思ったのは 第5の扉、本来はオルガン入りの壮大なハ長調の大音響に乗せて広大な領地を披露する場 面ですが、舞台一番奥のカーテンが開くと三段ベッドからぞろぞろと、合計9人(一番上 の少女は赤ん坊らしきものを抱えていたから本当は10人?)の顔色の悪い子供達が出て きました。第6の扉(涙の湖)までは場面転換なく子供の前で劇は進み、最後の扉で出て 来た3人の夫人はそれぞれ3人ずつの子供の母親という設定で、皆恰幅の良い体型だった のは母性の象徴なのでしょう。最後は、四角いマットの3辺に3夫人が仰向けに寝そべっ て、スカートをたくし上げるとその中は血に染まっており、残りの1辺に寝かせられたユ ディットのまだ純白なスパッツに、おもちゃの兵隊の服を羽織り下半身はズボンを脱いだ 青ひげ公が剣を突き立てて行く、という、何とも身も蓋もない結末でした。結局、青ひげ 公の築こうとした「領地」とは家族であり、城の中が何か巨大な子宮内部のようであっ て、各部屋の血は出産の血であった、というストーリーのようでした。たいへん面白いと は思いましたが、ちょっと品位には欠ける演出だったでしょうか。家族連れではとても見 に行けません。
 「春の祭典」はFabulous Beastというアイルランドのダンスカンパニーとの共同制作 で、モダンバレエというよりはもっとフィジカルな要素の強いダンスパフォーマンスでし た。雪のちらつく殺風景な広場を舞台に、革ジャンを来た男どもが段ボール箱を抱えつつ 踊り、3人の女の子を襲ってリアルなウサギのかぶり物をかぶせ、全員で下半身を脱いで 地面にうつぶせて腰をヘコヘコと振ったかと思えば、持っていた段ボールから取り出した 犬のかぶり物をかぶって、という風に、相当にぶっとんだワケワカラン系の演出でした。 こっちも18禁ですなあ。ENOのオケはまずまず不可もなく、という印象。取り立てて上 手いとは感じませんでしたが、破綻することもなくしっかりと熱のこもった演奏をしてい ました。


2009.11.08 Royal Festival Hall (London)
FUNharmonics Family Concert "The Sea"
David Angus / London Philharmonic Orchestra
Chris Jarvis (Presenter)
1. Walton: Overture "Portsmouth Point"
2. Rimsky-Korsakov: The Sea and Sinbad’s Ship from ‘Scheherazade’
3. Marianelli: The Wale's Tale
4. Wood (arr. Zalva): Fantasia on British Sea Songs (excerpts)
5. Zimmer: Suites from "Pirates of the Caribbean"

 ロンドンフィルのファミリーコンサートで、テーマは「海」。司会進行のクリス・ ジャーヴィスはBBCの子供向け番組に出ている人気者だそうで、会場は幼児を連れた家 族連れでほぼ満員でした。しかしこのコンサート、何と言っても選曲が悪い。もっと子供 がわくわくするような構成にしないと、案の定ほとんどの子供はこの小一時間程度の時間 でも間が持たず、早々に退屈していました。騒がしい子供が多いのはまあよいとしても、 ほとんどの親がそれを全く放置し、逆に自分がはしゃいでいる状態は嘆かわしいです。子 供は楽しんでいる風でもなく、親が子に何かを教える機会として使うわけでもなく、あな た方は一体何しに来たのですか、自分がはしゃぐためだけですか、という疑問が沸々と湧 いてきました。うちの娘は、演奏会よりも開演前の楽器や大道芸の体験コーナーが楽し かったようでまた行きたがっておりますが…。


2009.11.05 Royal Festival Hall (London)
Mikhail Pletnev / Philharmonia Orchestra
Nikolai Lugansky (P-2)
1. Shostakovich: Festive Overture
2. Rachmaninov: Piano Concerto No. 1 in F-sharp minor
3. Rachmaninov: Symphony No. 2 in E minor

 仕事帰りにふらっと聴きに行ってみました。祝典序曲は中学のオケ部で演奏したことが ある思い出の曲ですので、どうしても懐かしさが先に立ちます。えらい高速で始めたので 大丈夫かなと思っていたら、やはり途中でちょっとスローダウンしていました。POの ティンパニは相変わらず自己主張の強い音でいい味を出しています。2曲目、ルガンスキ は以前ブダペストで聴いて以来2度目ですが、たいへん腕の達者な人であることはすぐわ かります。音や演奏はずいぶんと無機的で、これが今風の新しいラフマニノフ像なんで しょうか。すいません、曲に馴染みがないこともあり、評価はパスします。メインの2番 はたいへん良かったです。この曲、以前は冗長・退屈で大嫌いだったのですが、最近何故 か唐突にマイブームになってしまいました。プレトニョフはどちらかというと即物的な解 釈のように思えましたが、弦はよく歌っており、低音もしっかり効いて、感傷に流されな い節度ある仕上がりになっていました。ただ、木管は即物的すぎるというより素朴すぎて 表情がまるでなく、ここはもう一つ艶やかな音が欲しかったところです。


2009.10.17 Barbican Hall (London)
Bernard Haitink / London Symphony Orchestra
Klara Ek (S-2)
1. Schubert: Symphony No 5 in B-flat major
2. Mahler: Symphony No 4

 シェーファーが体調不良でキャンセルのため出演者変更というメールが来たのが何と前 日の夕方。またしてもソリスト変更ですが、どうなっているんだ、LSO。シェーファー 目当てで最前列ど真ん中というカブリツキ席を取ったのに、残念でした。
 相変わらずハイティンクは遅めのテンポで、揺り動かしも最小限に止め、端正で緻密な 音楽作りでしたが、響きは重厚で聴きごたえ十分です。オケも皆、この巨匠に敬意を持ち 大事にしているのがよく感じられました。前回と打って変わりオケに至近の席でしたの で、楽器の生音や奏者の息づかいまで直接よくわかり、やっぱり私はこちらの方が聴いて いて楽しいです。曲も、マーラーでは特に好きな「4番」でしたので、良い演奏会でし た。
 急に代役となったクララ・エクは、調べると以前N響にも客演し、同曲を歌っているん ですね。遅めのテンポにもよくついて行き、がんばっていました。聴衆の拍手もひときわ 大きかったです。ただ、終楽章最後の直前でカランカランと何かと落とした奴さえいなけ れば…。歌の一番ラストのフレーズで一瞬声が出なかったのは落下音で動揺したせいもあ るのでは、とそのとき瞬時に思いました。


2009.10.13 Barbican Hall (London)
Bernard Haitink / London Symphony Orchestra
Christianne Stotijn (Ms-2), Anthony Dean Griffey (T-2)
1. Schubert: Symphony No. 8 in B minor "Unfinished"
2. Mahler: Das Lied von der Erde

 テナーは、ロバート・ギャンビルが風邪でキャンセルのため、公演2日前に急遽グリ フィーに変更になりました。
 ちょっと席が遠かったせいか、あまり乗れない演奏でした。LSOの金管は相変わらず 馬力十分ですが、おかげで「大地の歌」の独唱がどちらもオケにかき消され気味で割りを 食っておりました。ハイティンクは巨匠時代の最後の巨匠のような人で、ピリオド奏法な ど何のその、「未完成」もフル編成のLSOをずんと重たく鳴らせます。奇をてらわずイ ンテンポで淡々と進みますが、軽さはほとんどありません。彼の生演奏は2度目ですが、 レコーディングで損をしている人ではないかと思います。実演はCDよりずっと重量感が あり、心にずっしり響くものだと感じました。全体的に遅めのテンポで途中じれったいと ころもありましたが、「大地の歌」終楽章ラストはオケのコントロールもよく、絶妙の締 め方でした。
 まだ音の残るうちに咳や拍手が起こるなど、お客はちょっとせっかちでしたかな。それ より、気になったのは客入り。それになりな「名曲プログラム」かと思いましたが、けっ こう空席が目立ちました。6〜7割の入りだったでしょうか。天下のLSOですが一番高い 席で32ポンド(今のレートだと4500円)という良心的な価格設定なので、できるだけ足 しげく聴きに行きたいと思っております。


2009.09.12 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2009 PROM 76 (The Last Night of the Proms 2009)
David Robertson / BBC Symphony Orchestra
BBC Singers (3,8,13,14,15), BBC Symphony Chorus (6,8,13,14,15)
Sarah Connolly (Ms-3,5,6,10,13), Alison Balsom (Tp-4,9,10,11)
Jiri Belohlavek, Goldie, Jennifer Pike (Vacuum Cleaners-7), David Attenborough (Floor Polisher-7)
Rorry Bremner, Stephen Hough, Martha Kearney, Chi-chi Nwanoku (Rifles-7)
1. Knussen: Flourish with Fireworks
2. Purcell (arr. Henry Wood): New Suite
3. Purcell: Dido and Aeneas - 'Thy hand, Belinda ... When I am laid in earth' (Dido's Lament); 'With drooping wings ye cupids come'
4. Haydn: Trumpet Concerto in E-flat major
5. Mahler: Lieder eines fahrenden Gesellen
6. Villa-Lobos: Choros No.10 'Rasga o Coracao'
7. Arnold: A Grand, Grand Overture
8. Ketelbey: In a Monastery Garden
9. Piazzolla: Libertango
10. Gershwin (arr. Barry Forgie): Shall We Dance - 'They can't take that away from me'
11. BBC Proms Inspire composers: Fireworks Fanfares world premiere
12. Handel: Music for the Royal Fireworks - excerpts
13. Arne (arr. Sargent): Rule, Britannia!
14. Parry: Jerusalem
15. Elgar: Pomp and Circumstance March No.1

 ロンドンに来ることになって、いる間にこれだけは行っとかねば、というものの一つが このプロムスラストナイトコンサートでした。毎年録画中継をテレビで見ていて、一種異 様な雰囲気に飲まれつつも、最後に会場中の大合唱で「威風堂々」を聴くといつもなかな かジーンとくるものがありました。あの場に一度は行ってみたいなと。
 さて、ラストナイトは他のプロムスのチケットを同じカテゴリーで最低5コンサート分 買わないとチケットが買えません。従って着席はあきらめ、当日売りのみの立ち見席にト ライしました。ラストナイトは特に毎年徹夜組も出るほどの人気なので、混みそうなア リーナは最初から諦めて、ギャラリーの方の列に開場4時間前に行ったらちょうど整理券 を配りだしたところで、番号は98番でした。開場3時間前にも係員が整理券番号を見に来 ますが、一旦整理券をもらっておけばあとは列を離れていても、開場30分くらい前まで に正しい順番のところに戻ってきていれば問題なさそうです。さらに、ギャラリーの方の 列はトータルでも200人も並んでいなかったように見えたので、ギャラリーのキャパを考 えれば結局全員が中に入れたはずで、要は4時間前なんかに並ばなくても、とにかく会場 に入れればいいだけだったら30分前でも十分だったということです。最前の手すりの場 所はどのみち優先的に入場しているシーズンチケットホルダーに全て取られてしまってい ましたし。ちなみに、アリーナの方の列を見に行くと、こちらはまさにお祭り気分、ユニ オンジャックのメイクに旗を振りかざし、テーブルまで持ち込んでワインパーティーを やっている集団もいました。
 ギャラリーはずいぶんと広いので、手すりの場所が取れなければまあ狭苦しく詰めるこ ともなく、どこで見てもどのみちステージはよく見えません。それでもできるだけ背の低 そうな老婦人の後ろに陣取り、オペラグラスを使えばそれなりにソリストの表情まで見え ました。しかし、手すりを確保している人々の中には演奏などどうでもよくお祭り気分の みで来ている人がいて(多数がと言ってもいいでしょう)、前半の演目では手すりを背に 座り込んで(つまりステージに背を向けて)ぐーぐー寝てる人も少なからずおりました。 そういう輩はまず例外なく太ったハゲおやじ。混み合った立ち見席で座り込んで寝られる とはっきり言って邪魔だし、見苦しいことこの上ない。イギリスの恥部をかいま見た気が しました。
 後半戦になるとハゲデブオヤジもむっくり起きだして来て旗を降り始めます。私の前に 立っていた老婦人はさすがにずっと立ち見はつらいと見えて、途中で何度か娘さんと立ち 席を変わり後ろのベンチで休んでいましたが、その娘さんも70歳は下らないと見える老 婦人。ということは100歳近く?それでギャラリー立ち見とは、恐れ入りました。休憩時 間にその老婦人はバッグを置いて一旦手すり前を離れ、戻って来たときには隣のハゲデブ オヤジが老婦人の場所を占拠していました。ハゲデブオヤジのグループはあろうことか全 員デブだったので、みんなで前に押し寄せてくると自然と横に広がってしまったのです。 老婦人(娘の方)が戻って来てハゲデブに何度も「Excuse me」と声をかけるも、ハゲ デブは聞こえないフリをして完全無視。老婦人も負けてはおらず、ならばと、ハゲデブの 隣にいた奥方らしきデブ婦人にもうちょっと詰めてもらえないかと訴え、ハゲデブもよう やく渋々と横にずれて、老婦人は元の手すり前の席に復帰、その後ろに立っていた私も視 界が広がり一安心。それにしてもこのハゲデブは演奏中にもたいへん臭い屁をかまし、こ の野郎は一回突き落としてやろうかと、後ろにいた私は殺意を覚えました。イギリスは紳 士の国と言われていますが、ロンドンで紳士なんか一人も見たことなく、見るのはこうい う恥知らずばかりです。
 今年のラストナイト指揮者はアメリカ人のロバートソン、BBC響の主席客演指揮者で す。演目はいかにも彼らしい、バロックから現代からタンゴ、ジャズまで多彩に取り揃え た非常にユニークな選曲でした。トランペットのバルサムは遠目で見てもたいへんチャー ミングな女性で、できればかぶりつきで聴きたかったところです。アーノルドの「大大序 曲」では電気掃除機やライフルが登場し(しかも主席指揮者ビエロフラーヴェクやジェニ ファー・パイクまで引っ張り出し)、前衛かと思いきや、楽しさあふれる曲でした。
 ルール・ブリタニア以降は大合唱用の定番で、どう見てもアングロサクソンではない周 囲のおっさんが、ユニオンジャック振りつつ、歌う歌う。これはやはりコンサートと言う よりお祭りであり、演奏や観客マナーがどうのこうのというのは全く野暮でしょう。ロ バートソンの棒はずいぶんと淡白だったと思いますが、それでも「威風堂々」の大合唱は 鳥肌ものでした。最後は国歌斉唱のあと、誰からともなくお約束の「蛍の光」を歌い出 し、シメです。チケットの列に並んでからカウントするとかれこれ8時間近く経過し、立 ち見だけでも3時間、後半はさすがに腰が痛くてたいへんでした。これしきの無茶でも、 もうキツい年齢になりましたかなー。来年は行くなら着席券を何とか確保したいところで す。


2009.08.18 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2009 PROM 44
Ivan Fischer / Budapest Festival Orchestra
Leonidas Kavakos (Vn-2)
1. Prokofiev: Overture on Hebrew Themes
2. Bartok: Violin Concerto No.2
3. Dvorak: Symphony No.7 in D minor

 ヨーロッパ帰還後初の演奏会は、プロムス初体験です。スケジュールを調べたところ、 ちょうどフィッシャー/ブダペスト祝祭管があったので、これは外せないと早速チケット を取りました。
 初めて中に入ったロイヤルアルバートホールは、まさにテレビで見るそのまま。日本 武道館くらいに広く、天井が非常に高いのでクラシックの演奏会には全く不向きでしょ う。しかしプロムスは元々シーズンオフのお祭りのようなものですし、何せ久々の演奏 会、超久々の祝祭管、しかも大好きなバルトークのVn協2番だったので、感激はひとしお でした。カヴァコスは以前にも増してアグレッシブなスタイルになっていて、バルトーク にはちょうど良い加減のワイルドさが加わったような気がします。ちゃんとしたホール で、また是非あらためて聴いてみたいものです。プロコフィエフではクラリネット奏者を 指揮者の横に置いてクローズアップしていたのがいかにも祝祭管的でした。ドヴォルザー クは土臭さなど一切ない端正な演奏でしたが、これもホールがバルトークホールであれば なあ、などと思いつつ、とにかく今日は懐かしさが先に立っていけませんでした。



2009.02.14 NHKホール
Carlo Rizzi / NHK交響楽団
Miklos Perenyi (Vc-1)
1. ドヴォルザーク: チェロ協奏曲 ロ短調 Op. 104
2. ドヴォルザーク: 交響曲第9番 ホ短調 Op. 95「新世界より」

 ペレーニおじさんが来日してN響に客演するというので、とりもなおさずチケットを買 いましたが、一般発売当日の販売開始直後でS席はすでに完売。正面近傍の席が取れずか なり端のほうになってしまったのが残念です。ブダペストのころ目と鼻の先の至近距離で 聴けたのが奇跡に思えてきました。
 当日はほぼ満員の入りで、週末の昼間だからか年配の層が多かったほか、チェロのハー ドケースを抱えた若い人もちらほら見かけました。しかしNHKホールは何年ぶりでしょ うか。実はここでクラシックを聴いたことはほとんど記憶にありません。
 ペレーニさんはあいかわらず猫背の無表情で淡々と仕事をこなし、音楽は力まず淀まず 自然に流れていきます。もちろん派手な音作りやジェスチャーは一切ありません。伴奏も それを阻害しないよう抑制されている様子がうかがえました。何カ所か少しうわずったよ うなところもありましたが、ペレーニらしい渋いドヴォルザークでした。この人は本当 に、音がきれいというか、チェロという楽器本来のすっぴんの美しさを感じます。ただ、 この日の席では、オケの音は木管を中心に非常によく響いてきたのですが、肝心のペレー ニさんの音の届きがいまいち弱かったのが残念です。できれば真正面で聴きたかったで す。
 リッツィはネトレプコの椿姫などで指揮をしているイタリアのオペラ指揮者で、N響は 初登場だそうです。なぜドヴォルザーク?なぜ新世界?という疑念もありましたが、歌謡 性の高い曲なので所々で思いっきり旋律を歌わせたりしつつも節度を守っていて、それな りにハマっていました。またN響もこの曲はオハコなのでしょう(金管の持久力も芯の太 い弦の音も必要ありませんし)、ゆとりのある演奏でした。
 CD即売コーナーでは、ハンガリーではさんざ見かけたが日本では入手に時間がかかり そうなペレーニのHungarotonのCDが予想以上にいろいろ置いてあり、思わず買ってし まいました。同曲の昔のCDを聴くと、まだ30代の頃の演奏ですから当然かもしれません が、もうちょっと音はギラついている感じがして意外でした。
 ところで,N響のWebサイトではマエストロ・ペレーニの扱いがずいぶんとぞんざいで すな。英語ページで「Pereyni」と誤記されているのはご愛敬としても(「ペレイニ」だ と思ったのでしょうか?)、シーズンの「公演の聴きどころ」で、チェリストは若手の ディンドとモルクしか紹介してないのは、ちょっと失礼では?この公演もチケットが早々 に完売してしまったのは、リッツィよりペレーニのおかげだと思うのですが…。


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