クラシック演奏会 (2008年)


2008.12.22 ゆうぽうとホール
松山バレエ団
清水哲太郎 (台本, 構成, 演出, 振付), 山川晶子 (Clara), 鈴木正彦 (Prince)
河合尚市 / 東京ニューフィルハーモニック管弦楽団
1. チャイコフスキー: バレエ「くるみ割り人形」

 今年の「くるみ割り人形」は松山バレエ団にしてみました。席が2階の後ろの方だった のでステージが見えるかどうか心配だったのですが,ゆうぽうとホールは客席の奥行きが 浅くこじんまりしていて,バレエやオペラを見るにはなかなかよいホールと思いました。
 演出,振付は清水哲太郎のオリジナルのようですが,読み替えなど奇をてらったところ がなく,家族で安心して楽しめる,極めてオーソドックスなものでした。第1幕では兄に 人形を壊される場面がないのと,くるみ割り人形が西原理恵子が殴り書きしたような笑え る顔だったのが特徴的でした。第2幕はずいぶんいろいろと変化球があって,冒頭に海を 航海して洞窟のような場所にたどり着く場面が全部海の底になっていたり,トレパックが 女性ばかりだったり,ポリシネルではサーカステントを模したコスプレのなかから子供が わらわらと出てきたり,楽しいアイデアに溢れていました。ただ,そうでなくとも中ダレ してしまいがちな花のワルツ以降の展開の中で,コーダの前にくるみ割り人形ではない 長々としたバイオリンソロの曲が挿入されて,クララと王子の別離を切なく演出していた のがくどすぎていただけませんでした。娘も相当退屈しており,松山のは長いからもう来 年はいい,と言うほどでした。私は,子供連れには薦められると思ったんですがねえ…。
 松山バレエ団は男女共,なかなかお歳を召した方が多く,踊りはそれなりに上手と思う のですが,オペラグラスでアップで見るのは早々にやめました…。見に行く前にキーロフ やロイヤルバレエのDVDをさんざん見てから行くのは,やはりギャップがありすぎていけ ませんな。さて,来年はどこにしよう…。


2008.10.11 東京文化会館 (大ホール)
ソフィア国立歌劇場
Plamen Kartaloff (演出), Koen Kessels (指揮)
Emil Ivanov (Riccard), Kiril Manolov (Renato), 佐藤しのぶ (Amelia)
Elena Chavdarova-Isa (Ulrica), Teodora Tchoukourska (Oscar)
1. ヴェルディ: 歌劇「仮面舞踏会」

 1年ぶりのオペラは,ブルガリアのソフィア国立歌劇場来日公演です。ここは聴いた ことがなかったのですが,来日オペラ座でも地方回りの公演をやさられるランク,チケッ トは電子ぴあの半額セールで購入,歌手も佐藤しのぶ以外は知ってる名前がなく,もしか したら大外しという危険もある程度覚悟はしていました。しかしいやいやどうして,蓋を 開けてみると期待を良い方に大幅に裏切ってくれました。
 オケは歯切れが良く,弦も管も最後まで音が野太くしっかりと出ています。ちゃんと 基礎ができているという印象です。あたり前のように思いますが,日本のオケは基礎体力 がないのでなかなかこうはできません。後半,ヴァイオリンやチェロのソロではちょっと 「あれ」と思わせる箇所もありましたが,かつてのハンガリー国立歌劇場の平均レベルと 比べたら十分立派なものです。
 歌手も主役クラスは皆しっかりとした歌唱で,もちろんドミンゴ,ヌッチ級と比べたら そりゃー気の毒ですが,この歌劇場が堅実な土台を持っていることを十分に感じさせま す。特にレナート役のマノロフはパンフによると劇場で最も若い歌手の一人だそうです が,経験を積み表現力を磨けば相当良い歌手になる気がしました。オスカル,ウルリカ役 の人も非常に歌唱が達者で,最後まで安心して聴けました。
 ただ,予想はしていましたが,残念なのは佐藤しのぶさん。さすがにスター然とした その立ち姿はブルガリア人に交じっても全く遜色ありませんが,歌が他の歌手と比べると 数段落ちるのは明らか。無理矢理声を張り上げないとオケにかき消されてしまうし,細か い旋律の技巧が素人目にもイマイチでした。佐藤しのぶさんは東欧のオペラ座が来日公演 をやるときに集客のためゲスト出演することがこのところ多いようで,ビジネス的にはそ れもしょうがないのは理解しますが,次回ソフィアを見に行くときは,ローカル叩き上げ の人で固められた日を極力選ぶようにします(本当はこの公演も,あえて佐藤しのぶの日 選んだわけではなかったのですが,土曜日のマチネはこれしかなかったので…)。
 演出はさほどモダンではなく,舞台装置がシンボライズとまでは言えない,単にカリカ チュアライズされただけのオーソドックスなものでした。とはいえ,大がかりな舞台装置 をわざわざ持ってきた上に,合唱も人海戦術でふんだんに人を使い,バレエのサービスも あり,なかなか人と手間はかかっています。これでチケット半額セールですから,聴衆に はたいへんコストパフォーマンスのよい公演だったと思います。なお,舞台設定はオリジ ナルではなく,いわゆるボストンバージョンというやつでした。
 土曜昼の公演ということもあり,東京文化会館がほぼ満員の客入りでした。これだけ 大きい箱でやることは普段ないのでしょうか,休憩時間にオケのメンバーが物珍しげに ピットから客席をカメラで撮っていたのが面白かったです。


2008.09.11 サントリーホール (大ホール)
Christian Arming / 新日本フィルハーモニー交響楽団
La Fonteverde (1,3,4,6), 栗友会合唱団 (5)
Nancy Gustafson (S-2)
1. モンテヴェルディ: マドリガル曲集第7巻より「眠っているの、ああむごき心」
2. ワーグナー: 楽劇「トリスタンとイゾルデ」より「前奏曲と愛の死」
3. ジェズアルド: 5声のマドリガル曲集第5巻より「お慈悲をと私は泣いて訴えるのだが」
4. モンテヴェルディ: マドリガル曲集第7巻より「ああ。私の恋人はどこに」
5. バルトーク: パントマイム「中国の不思議な役人」(全曲)
6. ジェズアルド: 5声のマドリガル曲集第5巻より「だが、惨しい苦しみの源である貴女」

 新日フィルの今シーズンのメッセージは「秘密」だそうです。一見脈絡なさそうな今日 の選曲も,「愛の死」というキーワードを切り口に連なり,そこに隠された「秘密」を浮 かび上がらせるというコンセプトだという解釈でよろしいのかな?しかし,トリスタンと マンダリンではプロット的にも音楽的にもずいぶんと内容が異質ですし,オケ曲ではない モンテヴェルディやジェズアルドのマドリガルをわざわざ挿入するのも,ちょっとやりす ぎの気がしました。個人的には珍しい曲が聴けたのは収穫でしたが,全体の客入りは6割 いったかどうかという淋しい感じでした。
 この日はもちろんマンダリンを目当てに聴きに行ったのですが,悲劇性に引きずられ すぎの解釈のように思いました。全体的にテンポが遅く,噛みしめるような進行です。そ の分クラリネット等には相当負荷がかかったと思いますが,無事に切り抜けていました。 新日フィルは久々に聴いたのですが,オケのバランスは良いですね。ブラスも頑張ってい ます。私の趣味的には,もっと躍動感が欲しかったところです。


2008.08.19 東京文化会館 (小ホール)
アプサラス第1回演奏会「松村禎三室内楽作品展」
野口龍 (Fl-1), 千葉清加 (Vn-1,2), 土田英介 (P-1), 西谷牧人 (Vc-2), 泊真美子 (P-2), 渡邉康雄 (P-3)
吉原すみれ (Vib-4), 坂本知亜紀 (S-5), 小鍛冶邦隆 / 東京現代音楽アンサンブルCOmeT (Orch-5)
1. 松村禎三: アプサラスの庭 (1971)
2. 松村禎三: ピアノ三重奏曲 (1987)
3. 松村禎三: 巡礼 I, II, III (2000)
4. 松村禎三: ヴィブラフォーンのために 〜三橋鷹女の俳句によせて〜 (2002)
5. 松村禎三: 阿知女 〜ソプラノ,打楽器と11人の奏者のための〜 (1957)

 「アプサラス」は,昨年8月に他界した日本を代表する作曲家,松村禎三氏の業績を 後世に伝えるために結成された音楽家有志の会で,その第1回演奏会は氏の代表的な室内 楽作品を集めたプログラムとなりました。たいへん渋い演奏会ながら客席はほぼ埋まり, 予想以上に人が入っていました。
 「阿知女」と「巡礼」以外は初めて聴く曲でしたのでただの印象になりますが,演奏は 渡邉康雄,吉原すみれ両ベテランの存在感がやはり一際光っていました。特に4は,ヴィ ブラフォーンが鳴りまくった迫力ある音響空間は,録音では絶対に再生できませんので, 生で聴けてよかったです。最後の「阿知女」は歌がもっと聞こえて欲しかった。たった十 数人の楽器に負ける声量ではいけません。百戦錬磨の両ベテランの後だけに,ちょっと割 を食ったのかもしれません。


2008.07.31 東京オペラシティ コンサートホール
佐渡裕 ヤング・ピープルズ・コンサート Vol. 10
バーンスタイン生誕90年記念「音楽なんて大きらい!!でも歌はすき」
佐渡裕 / 兵庫芸術文化センター管弦楽団
田村麻子 (S), 尾崎比佐子 (S), 渡辺玲美 (Ms), 中鉢聡 (T), Kyu Won Han (Br), 萩原寛明 (Br), 花月真 (Bs)
1. バーンスタイン: 「キャンディード」序曲
2. バーンスタイン: 「5つの子供の歌」より「音楽なんて大嫌い! (I Hate Music)」
3. バーンスタイン: 「キャンディード」より「幸せなふたり (Oh, Happy We)」
4. バーンスタイン: 「オン・ザ・タウン」より「僕は僕でよかった (Lucky To Be Me)」
5. バーンスタイン: 「キャンディード」より「着飾りて (Glitter And Be Gay)」
6. モーツァルト: 歌劇「フィガロの結婚」序曲
7. モーツァルト: 歌劇「フィガロの結婚」より第2幕フィナーレ (抜粋)
8. バーンスタイン: 「ウエストサイド物語」より「トゥナイト (Tonight)」
9. バーンスタイン: 「キャンディード」より「畑を耕そう (Make Our Garden Grow)」
10. バーンスタイン: 「ウエストサイド物語」より「マンボ」
11. バーンスタイン: 「オン・ザ・タウン」より「またいつか, きっと (Some Other Time)」

 しばらく演奏会も行ってないなーと思っていたところ,広告がたまたま目に入ったの で,娘を連れて行ってみることにしました。入場者にはスポンサーNestleのインスタント コーヒー試供品がどっさりと配られ,カフェではコーヒーやミロが1杯200円という,演 奏会場としては破格の値段で売られていて,まさにNestleの独占提供番組です。開演前や 休憩時間のロビーではクラリネットとトランペットの体験演奏やクイズゲームもあり,子 供を飽きさせないための配慮は評価できます。
 さて,このコンサートはバーンスタインの弟子,佐渡裕が師匠のふんどしで 遺志を継いで毎年行っている企画で,10回目の今回はちょうどバーンスタイン生誕90年 ということで,バーンスタインづくしのプログラムになっています。とは言え,この人は 普段からバーンスタインばかり演奏している気もしますが…。
 オケは通称「PACオケ」と呼ばれる兵庫芸術文化センター管弦楽団。年齢層の若いオケ ですが,音は重いです。軽やかさが命の「キャンディード」序曲が,相当に後ノリでし た。技量的にはぼちぼちという感じですが,白人の団員が多いせいでしょうか,特に管楽 器に馬力があり,とにかく鳴らします。日本のオケらしくない個性です。しかしそのせい で,全体的にオケがうるさくて歌がよく聞こえません。後半,ミュージカルナンバーで手 持ちでマイクを使い,やっと程よいバランスになってました。ちなみに,1階のほぼ正面 席で聴いたので,席のせいではないでしょう。歌手の声量不足もあるのでしょうが,指揮 者がいかにもオペラに慣れていない印象がします。
 選曲は,歌詞は英語だし,実のところ子供向けコンサートにしてはハードです。 Tonightはバルコニーのシーンではなく,五重唱の方。プログラムを見たとき,なんで唐 突に「フィガロの結婚」なのかと思いましたが,「フィガロ」第2幕の七重唱を “Tonight”五重唱の前振りにするとは,何と大胆な!
 それにしても,演奏が始まってもずっと(演奏が終わるまで!)ぺちゃくちゃしゃべく っていた隣席の親子は,ちょっとどうしたもんかと思いました。子供のためのコンサート なので子供が騒ぐのはまあ想定内なのですが,演奏会では演奏が始まったら静かに耳をか たむけるものだ,という常識を子供に教える良い機会でもあるはずなのに,親が一緒にな ってマナー破りをしてどうするよ!
 ところで,本家バーンスタインのYoung People's Concerts国内盤DVDは,いったいい つになったら出るんでしょうかね?“Unanswered Question”や“Omnibus”のDVDが 相次いで出たので,Young People's Concertsもすぐ出るナと期待して,米国盤に手を出 さずに様子見しながらもう何年経つことやら。


2008.02.15 サントリーホール (大ホール)
Daniel Harding / 東京フィルハーモニー交響楽団
1. マーラー: 交響曲第6番イ短調「悲劇的」

 ハーディングは,9年前にロンドン響を初めて振った演奏会(英雄の生涯,他)をバー ビカンセンターで聴いて以来です。今でも相当若いですが,当時は何とまだ24歳,指揮 者の世界では赤ん坊も同然です。ハツラツとした大きな身振りで,1曲目から汗だくにな りながらモーツァルトを振っていたのを憶えています。才能はまだ未知数,全くあどけな い顔の好青年という印象でしたので,魑魅魍魎の跋扈する音楽界でも何とか消えないでこ のままがんばれーと思っていましたが,心配することなく着々と階段を上りつめ,今や一 流,という表現にはまだ早いかもしれませんが,少なくとも世界的な超人気指揮者の仲間 入りをしたのは間違いないところです。
   その人気に違わず,この日の演奏会も早い段階ですでに全席完売で,ホール入口には 「チケット求む」をかかげた人が多数おりました(英語で書いている人も)。ただし,完 売とはいっても実際には空席がそこかしこにあったのは,平日なので急に来れない人がい たのと,途中入場できない演目だったので遅れて席に着く人もいなかったからでしょう。
 ハーディングは見た目全然変わらず,老けてません。顔はこのまま「とっつあん坊や」 になってしまいそうな気がします。ハツラツとした大きな身振りも昔のままですが,必死 さが消え,第一線の余裕みたいなものが出てきたように感じられました。東フィルへの登 場は昨年の「復活」に続き2回目,DGに移籍第一弾のCDにクック補筆完全版の第10番 (オケはウィーンフィル)を選ぶなど,その他大勢の指揮者と同様,ハーディングもマー ラーに傾倒する路線を歩んでいるようです。演奏はイメージ通り,重くなく,ユダヤ系の 粘っこさもない,スマートで格好の良いマーラーです。少しカラヤンを彷彿とさせました が,終楽章などはそこまであっさり流し系でもなく,イヴァン・フィッシャー(この人は ユダヤ系ですが)に近いかも知れません。
 とにかく東フィルはハーディングの指揮に着いていけていない印象でした。大きな 身振りが空回りしているようなところも多々ありました。線の細い弦,途中で息切れする 管,こういうところはやっぱり日本のオケの限界で,ヨーロッパのオケとはいろんな意味 で「基礎体力」が違う,というのはいつも感じるところです。第1楽章はまあ何とか乗り きったものの,第2楽章(アンダンテ)は特に厳しく,前半にしてすでに消耗激しいのが 痛いほど伝わってきてハラハラしました。終楽章も,入りだけは緊張感高くバンと決まっ て,お,何とか気合いでネジを巻き直したか,と思いましたが,またすぐに息切れしてま した。「マラ6名物」のハンマーも,私の席にはインパクトが全然届いて来ず,拍子抜け しました。そういえばプログラムでは「果たして今日は何回叩くか」などと煽った解説が 書かれていましたが,アンダンテ→スケルツォの順で演奏する人が普通はハンマーを3回 叩かせるはずがありません。実際,2回目を叩き終わった後に奏者は速攻で舞台袖に引っ 込み,反対側から出てきて小太鼓の定位置に着いていましたので,それ以降ハンマーの出 番がないのは明白で,「まあ叩けるだけ叩けばいいやん」派の私はちょっと肩透かしでし た。一番最期の突然の強奏はズレなくバシっと決まって,それで何とか救われたという感 じ。終わり良ければ,まあ良しです。決して悪い演奏ではありませんでしたが,ロンドン 響やウィーンフィルで聴いてみたかったものだと,とんでもなく贅沢な願望を覚えてしま いました。
 それにしても,サントリー大ホールで演奏会を聴くのは超久しぶりでしたが,噂で聞い ていた通り,最近の日本の聴衆はちょっと神経質すぎるかも。この演目で集まってくるの はオタク度の相当高い部類に違いないので(実際,男女問わず,一人で聴きに来ている人 が大半でした)一般化は乱暴かもしれませんが,演奏中は皆ほとんど物音一つ立てない し,最後の音の残響が消えても 30秒以上誰も拍手せずにシーンとしたまま。余韻を静か にかみしめるのは私も良いと思いますが,あそこまで沈黙が長いと逆に落ち着かなくて余 韻が雑念に負けてしまいます。演奏中のザワザワガサガサノイズに腹立ちながらも,演奏 後は至って自然なタイミングで拍手が入っていたハンガリーが懐かしくなりました。ま あ,こないだ聴いたニューヨークのようなとんでもないフライングブラヴォーや,ブダペ ストみたいに何でも拍子系で無理矢理盛り上げてしまうようなのも困るけど。場所によっ ていろいろと流儀があるのは興味深いですけどね。


2008.01.12 東京国際フォーラム ホールA
レニングラード国立バレエ (Mussorgsky State Academic Opera and Ballet Theatre, St.Petersburg)
Marius Petipa, Lev Ivanov (振付), Nikolai Boyarchikov (改訂演出)
Irina Perren (Odette, Odile), Artyom Pykhachov (Prince), Marat Shemiunov (Sorcerer)
Evgeny Perunov / レニングラード国立歌劇場管弦楽団
1. チャイコフスキー: バレエ「白鳥の湖」

 UCカード会員向けの貸切公演で,「S席13000円が会員特別料金6500円に,3席 セットのファミリーシートは39000円が14000円」という宣伝文句に乗せられて家族 サービスのため買いましたが,国際フォーラムAホールの2階12列はS席ではないと思う ぞ。あたかもS席3枚を14000円にディスカウントしたかのような後半の惹句は,ちょっ とJAROに告発モンですな(席は抽選だったので,実際にはファミリーシートでS席相当 に当たった人もいるのかもしれませんが)。
 ロシアのオケや歌劇場の事情は大変混乱していて,ロシア国内で活動実績の全くない 団体までもがそれらしい名前をつけて日本ツアーをやっているということも聞いていまし たので,「レニングラード」の文字が大変うさん臭いこのバレエ団もその類かもしれない と,眉にべとべと唾つけながら見に行ったのですが,先月の新国立劇場よりずっと上手 だったので良い方に期待が裏切られました。後で調べてみたら,「レニングラード国立バ レエ(または歌劇場)」というのは日本ツアーの時だけの名称で,正式には「ムソルグス キー記念サンクト・ペテルブルグ国立アカデミー・オペラ・バレエ劇場」という長ったら しい名前を持つ,1833年創立の由緒正しい劇場でした。本拠地の箱はミハイロフスキー 劇場(Mikhailovsky Theatre)と言い,地元民やバレエ通からは「マールイ劇場」と呼ば れて親しまれているそうです。それならそうと,「レニングラード」などという怪しさ満 開の名前は止めればいいのに(本拠地が今でもそう名乗っているならともかく)。
 この日はマチネの公演もあって,そちらは草刈民代がゲストソリストだったらしいです。 UCカード貸切はソワレの方。キャスト表にはロシア系の名前がずらりと並び,ゲストの 但し書きはなかったので皆さん劇場のレギュラーメンバーなんでしょうか。とにかくみん なすらりと長身の白人,バレリーナ然とした体格で,やっぱりバレエはこうじゃなく ちゃ,見た気がしません。踊りの一つ一つが力強くダイナミックです。オデットもトーで ピタっと止まり(あたりまえですがあたりまえでもない),軽やかに飛び,回転するその 佇まいが見事でした。ただ,全体的にスピード感には欠けました。みなさん登場・退場・ 移動の際は良く言えば風格豊かに,悪く言えばのんびりと歩いていて,4羽の白鳥の踊り もオケからどんどん遅れていって最後の1拍を端折るというワザを駆使していました。タ タタターッと風のようにかけこんできて,誘惑したら脱兎のごとく逃げ抜けていったブダ ペストのオディールが強く記憶に残っていたので,ちょっとトロいかなという印象を持ち ました。
 オーソドックスな舞台装置は季節をカラフルに表現し,落ち着ける雰囲気のものでした。 今年の年末の「くるみ割り人形」はここでもよいかも。レギュラーでは新国立劇場より高 めのチケット価格設定ですが,比較で言えばまあ妥当でしょう。ただ,5000人も収容で きる国際フォーラムAホールはクラシックの鑑賞にはちょっと広すぎ。舞台は遠く,音響 も悲しいです。次行くとしたら文化会館かオーチャードにします。


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