クラシック演奏会 (2007年)


2007.12.21 新国立劇場 オペラ劇場
Vasily Vajnonen (振付)
Diana Vishneva (Masha), Andrian Fadeev (Prince), Guennadi Iline (Drosselmeier)
新国立劇場バレエ団
渡邊一正 / 東京フィルハーモニー交響楽団
1. チャイコフスキー: くるみ割り人形

 帰国しても家族揃って「くるみ割り人形」を年末の定番にしようと思い,まずは日本の 「国立オペラ座」である新国立劇場にトライしました。調べていると,12月はけっこう いろんなところでいろんな団体が多数公演をやっているのに驚きました。自分が子供のこ ろって,こんなのあったけかなあ?
 新国立劇場は昨年愛称を一般公募した結果「オペラパレス」という呼び名となりました が,日本の施設に「パレス」というのは,どうも違和感か,そうでなければチープ感を 強烈に憶えてしまいます。前の「東京オペラシティ」の方がまだスマートで良いと思うん ですが,いずれにせよ,名前だけでなく中身も「それなり」にして欲しいものです。CD ショップもなくあるのは貧弱なただの土産物屋,いわんや,カフェの一つもないのは全く いただけませんなー。
 さて,本日の「くるみ割り人形」はワイノーネン版というやつで,演出が一番オーソ ドックスなもの。ブダペストのオペラ座で見たのも,キーロフバレエのDVDも,細かい振 り付けは除いて演出は基本的に同じですが,この日は主人公の少女を最初から大人のダン サーが演じていました。ネットで調べたら,ワイノーネン版は通常そうするらしいです。 ブダペストでは最初のパーティーシーンは主人公の少女をはじめ,子供役は全て子供が演 じていましたが,こちらはワイノーネンの初演版なのだそうです。ヨーロッパでバレエの 公演に出てくるような子役は本当に掛け値なしにかわいいので,私はブダペスト版が好き だったなー。しかしこれはハンガリーに国立のバレエ団があり裾野が広いからこそできる ことであって,日本ではプロの公演で使えるような子供ダンサーは,まず数が揃わない気 がします。
 演奏は東京フィルもまあがんばっていて決して悪くはなかったけど,踊りが小さくまと まり過ぎてダイナミックさと躍動感が欠けている気がしました。ぶつぶつと途切れる感じ で流れが悪かったです。よろける人多いし。主役の二人ともマイリンスキーの優等生みた いですが,確かにソロで踊っているのはそれなりに上手かったですが,デュエットだと途 端に動きの流れが止まってぎこちなくなってました。仲悪いんだろうか。それと,王子様 がジャンプしながらくるくる回って拍手喝采を浴びていたところで,ブダペストでいつも 道化をやってた人はその倍の高さで3倍長く飛んでたよなーとか思うと,ブダペストも実 はけっこうレベル高かったんだ,と再認識しました。オペラ座だけでなくバレエ団も来日 してくれないだろうかなあ,「かかし王子」とか「中国の不思議な役人」を引っさげて。


2007.09.28 Lincoln Center, Avery Fisher Hall (New York)
Lorin Maazel / New York Philharmonic
Simon Trpceski (P-1)
1. Tchaikovsky: Piano Concerto No. 1
2. Tchaikovsky: Manfred Symphony

 出張のついでに聴いてきました。マゼール/NYPは今年の5月にブダペスト公演を2日に 渡り敢行したのですが,残念ながら私はその前に帰国となってしまったので,聴けなかっ たリベンジでもありました。
 エイヴリー・フィッシャー・ホールは巨大な箱型のホールで,舞台の木目が暖かさと 歴史を醸し出しています。ざっと見渡すと,客層はシニア世代がほとんどで若者が少な かったです。マゼールも,もう77歳になったようですが,全く老いを感じさせないきび きびとした動きはさすがです。ただ,テンポはだいぶ遅めになったでしょうか。マケドニ ア出身の若手ピアニスト,トルプチェスキは相当のテクニシャンのようでしたが,ホール の音響のせいか,音がペラペラであまり感心はしませんでした。しかし第1楽章が終わる と早速拍手喝采。うーん,今日はおのぼりさんだらけなのかな?(私もそうですが。)演 奏はそのまま淡々と進み,コーダの最終音が鳴り終わるか終わらないかのうちに怒涛のよ うなフライング・ブラヴォーとスタンディング・オヴェーション。ここまで露骨なのは超 久々に体験しました。しかし,そんなに感動的な演奏だっけかな?確かに技術は超達者だ けど,私には玩具のピアノを曲芸でパコパコ弾いているように聴こえて,琴線に触れる演 奏ではありませんでした。これは多分,悪名高いホールの音響のせいなのだろう,それよ りも,ここまで拍手喝采を浴びたら2曲くらいアンコールを弾かないと帰してもらえない のでは,などと考えていたら,2度ほどコールで出てきただけで楽団員があっさりと引き 上げ,客もやけに淡白に引き下がるので意表を突かれました。ひたすらしつこいブダペス トの聴衆とはずいぶん違いますなー。
 メインのマンフレッドもゆったりと濃厚な進行で,おかげで途中少し寝てしまいました が,オケの馬力の凄さは十分に堪能できました。しかしここでも終演では絵に描いたよう なフライング・ブラヴォーの嵐と観衆総立ちの大拍手。盛り上がって結構なことなのです が,マゼールが2度目のコールで出てきたあと,団員は観衆の拍手をものともせず互いの 健闘を讃え合い,早々に撤収していきました。観客も立ち上がったその足であっさりと帰 路に着き,なるほど,スタンディング・オヴェーションはそういう意味やったんかい, と,驚くやら呆れるやら。ニューヨークの常識は,ヨーロッパからは想像できない世界の ようです。
 なお,随一のグローバル都市ニューヨークらしく,楽団員にアジア系の人が多数目に つきましたが,団員リストを見てみると全て中国系か韓国系のようでした。これも,アジ ア系楽団員というとまず日本人ばかりのヨーロッパとはだいぶ事情が異なるようです。


2007.09.20 サントリーホール (小ホール)
松村禎三さんお別れ会
中島香 (P-1), 野坂恵子 (箏-2)
齋藤真知亜 (1st Vn-3), 森田昌弘 (2nd Vn-3), 百武由紀 (Va-3), 苅田雅治 (Vc-3)
1. 松村禎三: 巡礼II〜ピアノのための
2. 松村禎三: 冬日抄〜二十五絃箏のための
3. 松村禎三: 弦楽四重奏曲


2007.09.08 Bunkamura オーチャードホール
チューリッヒ歌劇場 (Opernhaus Zurich) 来日公演
Franz Welser-Most (指揮), Sven-Eric Bechtolf (演出)
Nina Stemme (Marschallin), Alfred Muff (Baron Ochs), Vesselina Kasarova (Octavian)
Malin Hartelius (Sophie), Rolf Haunstein (Herr von Faninal), Christiane Kohl (Marianne)
Rudolf Schasching (Valzacchi), Kismara Pessatti (Annina), Piotr Beczala (Singer)
1. R. シュトラウス: 歌劇「ばらの騎士」

 半年ぶりのオペラ!「ばらの騎士」は妻が大好きなのでDVDを4〜5種類持っています が,ブダペストでは(何故かR. シュトラウスはめったに上演されないので)見る機会が なく,生演は今回が初めてです。
 ちょうど先月NHK教育の地デジで同じ劇場,同じ演目の放送をやっていたので(DVDで 発売されているのと多分同じ),録画して予習しました。この映像,演奏と歌手は非常に よいのだけど,演出がぶっ飛んでいる。お屋敷らしからぬ真っ白い温室みたいな部屋で元 帥夫人とカンカンは床にシーツ敷いていちゃいちゃしてるし,お抱えの歌手は中国衣装で 箱から出てくるし,カンカンが銀のばらを届けるのはファーニナル家の厨房の中で,お嬢 であるはずのゾフィーが一緒にトンカツの下ごしらえなんかしてるし,ツッコミどころ満 載の支離滅裂です。予習せずに舞台をいきなり見ていたら「こんなの,ばらの騎士じゃね え〜〜!」とちゃぶ台の一つでもひっくり返していたことでしょう。しかし何度か見てい ると,特に第3幕は意味不明なファンタスティックさが頂点に達し,喜劇らしい,なかな か楽しい「ばらの騎士」なのかなあとも感じました。また,オックス男爵がステレオタイ プの「スケベオヤジ」ではなく,品のよい「ちょいワルオヤジ」に描かれているのが斬新 なイメージでした。
 今回の日本公演では,歌手陣は主役の4人を始めほぼDVDと同一のキャストを揃え, 装置も全て同じものを持ち込んで,チューリッヒの舞台を忠実に再現していました。カン カン役のカサロヴァはDVDだと白塗りゾンビのようなメイクが怖かったですが,今日は薄 めのナチュラルメイクで,これなら普通に美人歌手。元帥夫人のシュテンメ,オックス男 爵のムフもDVD同様に手抜きの一切ない一流の歌唱を披露していました。ウェルザー=メ ストのオケのドライブも素晴らしく,決して熱くはないのですが,ワルツなどたいへんノ リノリの演奏でした。チューリッヒ歌劇場は今回が初の来日公演のようで,その最終日 だったので,演奏者も聴衆もみんな気分が高揚していたような気もしました。ただ,ゾ フィー役のハルテリウスは,特にクライマックスの三重唱ではシュテンメ,カサロヴァと 比べると,声量も表現力もちょっと弱かったかな。何よりこの人だけ,DVDよりずいぶん と老けてました。「パパー,パパー」の子供たちはさずがにわざわざスイスからは連れて 来ず,NHKの児童合唱団を使っていましたが,ムフは上演中にも上機嫌に隣りの子供に微 笑みかけて頭をなでたりしていました。おいおい,演技に集中しろよ…。あと,第1幕の お抱え歌手がやけに声が良く上手かったので名前を見ると,今回の来日のもう一つの演目 「椿姫」でアルフレードを歌っている看板歌手ではありませんか!このクソ暑い中,連日 の出演まことにご苦労様です。
 それにしても,今回のチケットは今季の他の来日歌劇場(ドレスデン,ベルリン)より 安めの設定とは言え,C席で一人23000円也。2階席でも音はよく聞こえたし,オペラグ ラスがあれば歌手の表情まできっちり見えたので決して悪い席ではなかったのですが,こ れまで見たどのオペラより高いチケットにして,このステージの遠さ。ブダペストでは最 前列ど真ん中とか正面ボックス1列目とか,あり得ないような贅沢な環境でいつも見てい たのだなあ,と,あらためてしみじみと感じ,ちょっと淋しくなりました。


2007.05.06 東京国際フォーラム ホールB7
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2007
Dezso Ranki (P), Edit Klukon (P)
Zoltan Racz (Perc-2), Aurel Hollo (Perc-2)
1. バルトーク: 子供のために Sz.42 より
2. バルトーク: 2台のピアノと打楽器のためのソナタ Sz.110

 ラーンキは今回の音楽祭出演者でもかなり上位のビッグネームですから演目にしては チケットも大人気で,座席が最後列しか取れず,ハンガリーではいつもほぼかぶりつき位 置でラーンキを見てきた私に取ってはたいへん遠いステージでした。もともと音楽演奏用 のホールではない上に距離があったので,「ソナタ」でシンバルのインパクトなども弱 く,聴いてて丸っこさの取れないバルトークらしからぬ演奏でした。もっと近くで聴きた かった。うーん,残念。


2007.05.06 東京国際フォーラム ホールC
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2007
Peter Csaba / Sinfonia Varsovia
Laurent Korcia (Vn-1)
1. バルトーク: ヴァイオリン協奏曲第2番 Sz.112
2. コダーイ: ガラーンタ舞曲

 2つめの演奏会はシンフォニア・ヴァルソヴィアというポーランドのオケ。指揮者は もろハンガリー系の名前ですが,トランシルヴァニア出身のルーマニア人のようです。こ のコンサートは,とにかくロラン・コルシアのヴァイオリンが良かった。特に期待してな かったのですが,野性味溢れる低音と澄んだ高音,激しい超高速パッセージの直後には非 常に濃いい表現力でめいっぱい楽器を歌わせ,分裂症的なこの曲にはまさにハマリの妖艶 な演奏でした。名前を聞いてもいまいちピンと来なくて,朝から思わぬめっけ物だと思っ たのですが,演奏後にCD即売コーナーで同曲CDのジャケットを見て,納得。この人だっ たのね。CD屋に行くとバルトークのコーナーは欠かさずチェックしているので,相当に 見慣れたジャケットでした。こんなに素晴らしいバルトークを弾く人だったとはつゆ知ら ず…。
 オケの方も,はっきり言って無名なのに,馬力があって軸足のぶれないたいへんしっか りした演奏。出てくる音の厚みがいちいち日本のオケとは一味も二味も違って,ヨーロッ パのオケはやっぱり基礎力が違いますなー。


2007.05.06 東京国際フォーラム ホールC
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2007
沼尻竜典 / トウキョウ・モーツァルトプレイヤーズ
児玉麻里 (P-1), 児玉桃 (P-1)
1. マルティヌー: 2台のピアノと管弦楽のための協奏曲 H.292
2. バルトーク: 弦楽器,打楽器とチェレスタのための音楽 Sz.106

 かつては閑散の代名詞だった「ゴールデンウィークの丸の内」を一大観光スポットに 押し上げた音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ」のことは,噂では聞いていましたが,帰国前 後の忙しい日々でそんなものはすっかり頭になく,今年のテーマが「民族のハーモニー」 ということでバルトークが多数演奏され,ラーンキが来日するということに気付いたのは もう開幕の前日でした。せめて一日くらいは見に行ってみようと思い,慌てて「電子ぴ あ」でチケットを買いました。
 この演奏会は朝9時15分開始。正直,頭がまだ覚醒していません。しかしこの休日早朝 から人の多いこと。乳児,幼児を連れた家族も多く,リュックを背負ってハイキングのよ うな格好の親子もいて(大雨だったので急きょ予定を変更したんでしょうか?),クラ シックの演奏会というよりも会場の雰囲気は全くの「お祭り」でした。
 マルティヌーのこれは初めて聞く曲だったのですが,向かい合った2台のピアノがリズ ミカルにせわしなくジャカジャカ弾きまくる激しい曲で,アメリカ亡命後の作曲なので ジャズの影響でもあるのでしょうか。理解しにくい曲ではなく,なかなか面白いと思った のですが,2楽章で睡魔に負けました。児玉麻里,桃のあまり似てない姉妹はピアノのス タイルもかなり違いがありそうですが,この曲を聴いただけでは技巧とか表現力とかはと ても判断できませんでした。
 トウキョウ・モーツァルトプレイヤーズは沼尻氏が若い奏者を集めて結成した小編成 オケで,若いと言ってもそれなりにできる人を揃えているのか,破綻はないけど厚みもな い,典型的な日本のプロオケという印象。来そうで来ない,最後まで盛り上がりに欠ける 演奏でした。まあ朝9時ではみんなまだ頭が寝てたのかも。



2007.03.21 Palace of Arts, Bartok National Concert Hall (Budapest)
Riccardo Muti / The Philharmonia Orchestra
1. Mozart: Symphony in D major (Haffner), K. 385
2. Liszt: Les Preludes
3. Tchaikovsky: Symphony No. 6 (Pathetique), Op. 74

 恒例「ブダペスト・スプリング・フェスティバル」の今年の目玉は,ムーティとフィル ハーモニア管弦楽団による強気の「ノー・ソリスト」プログラムです。まだ曲目が未発表 だった昨年夏の時点ですでに一般売りは完売,プラチナチケット化していました。
 ムーティを見るのは実に8年ぶり,新婚旅行のウィーン以来です。よく見ると指揮中だ け眼鏡をかけていて(意外でした)顔からも老いは隠せないものの,柔軟で格好の良い指 揮ぶりは全く健在で,見ていて惚れ惚れします。8年前も感じたのですが,実演でこの人 の棒が導き出す音はCDで聴く場合とずいぶん印象が異なり,相当に抑制の利いた上品なも のです。今日は席が0階ながら舞台から遠い場所だったこともあって,ハフナーなど,音 量的にちょっと品がよすぎる感がありました。2曲目の「レ・プレリュード」からはぐっ と編成も大きくなり,トゥッティではそれなりに馬力のあるところも見せていましたが, やはり基本的にはデリケートな弱音が命の抑えめの演奏。いわゆる「爆演系」(って何だ ?)とは対極に位置しています。私の好みはどちらかというと爆演ですが,こういう細か くコントロールの利いたお洒落な演奏も,じっくり聴くにはまた良いものです。ご当地物 ということもあって,ブラヴォーの嵐でした。
 フィルハーモニア管を生で聴くのも実は同じく8年前のロンドン以来でした。ここの オケはロンドンにありながらも非常に大陸的というか,ドイツ的重厚さを持ち備えた,私 の中では好感度の高いオケです。派手さはないがいかにも渋い木管,ずんと腹に届く低弦 と雄弁なティンパニは健在で,特にティンパニはムーティの厳しい抑制の中でも彼だけは 別格なのか,ところどころで自分の「見せ場」を勝手にバリバリ作っていました。「悲 愴」は私の好みとしては金管がもうちょっと派手な方が良かったですが,抑えめな第1楽 章と対照的に,溜めていた感傷を一気に解放したような終楽章がたいへん感動的でした。
 アンコールはマルトゥッチの「ノットゥルノ」という珍しい曲で,演奏前にムーティに よる長い解説がありました。「悲愴」の後ではどんな曲でも演奏しにくいが,ハンガリー の聴衆に是非マルトゥーチを紹介したい,彼はこれこれこういう立派な人で,ワーグナー を初めてイタリアに紹介し,リストと親交があったのでハンガリーとも関係がある,など というようなことを話していました。トスカニーニも好んで演奏したらしいのでイタリア 人の誇りなのでしょう。世紀末の曲ですが全くの前期ロマン派風で,穏やかさのうちに終 始する感じの佳曲でした。
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さて,日本帰国に伴い,この「演奏会備忘録」もとりあえず今回で最後です。長らくのご 静読ありがとうございました。


2007.03.20 Liszt Academy of Music (Budapest)
Ivan Fischer / Budapest Festival Orchestra
Szabolcs Zempleni (Hr-2), Jane Eaglen (Ariadne/S-4,5), Robert Dean Smith (Bacchus/T-5)
Virginie Pchon (Echo/S-5), Claudia Mahnke (Dryade/Ms-5), Valeri Condoluci (Najade/S-5)
1. R. Strauss: Till Eulenspiegel - Symphonic Poem, Op. 28
2. R. Strauss: Concerto for Horn and Orchestra No. 2 in E-flat major
3. R. Strauss: Salome - The Dance of the Seven Veils
4. R. Strauss: Ariadne in Naxos - Aria of Ariadne "Es gibt ein Reich..."
5. R. Strauss: Ariadne in Naxos - Closing Scene of the Opera

 淋しいですが,祝祭管もとりあえずこれで聴き納めです。この日はまず,「ティル・ オイレンシュピーゲル」が感動的に上手かったです。この超難曲を一糸乱れぬ統率で弾き 切る祝祭管と指揮者の技術力,ホルンを筆頭に重要なソロパートも一切外すことなく達者 にこなしていく奏者たち,まさに「ヴィルティオーソ・オーケストラ」の面目躍如たる快 演でした。この曲は祝祭管のデビューコンサートでも演奏した,メンバーにとって思い入 れのある「オハコ」なのだそうで,指揮者はじめ,皆演奏を楽しんでいるのがよく伝わっ てきました。
 この日のメインは何と言ってもジェーン・イーグレンの登場です。開演前ロビーで立ち 話をしていると,すごく地味なジャンパーを羽織ったスッピン巨漢のおばちゃんが,さら に巨大な男性(ダンナさんでしょうか)を伴って入ってきたのですが,その人こそ,かの イーグレンでした。確かにその体格は尋常ではないものの,あのくらい太った人はこちら では全然珍しくないので,言われなければ全く気付かないくらい,イメージとのギャップ がありました。だいたい顔がプロモーションの写真と全然違うし。しかしその歌は評判に 違わぬ素晴らしいものでした。このリヒャルト・シュトラウスのオペラは私には馴染みが なかったので,良し悪しはよくわからないところもあったのですが,さすがに「現代最高 のブリュンヒルデ歌手」と言われるだけあって,まさにワーグナー向きの幹の太い美声で した。惜しむらくは席がオケの真横の2階で,オケを見るには良かったのですが,歌はやっ ぱりできれば正面で聴きたかったです。席のせいか,テナーは小編成にもかかわらずオケ に負けていたような気がしました。
 ところでイーグレンが歌い出すとどうしてもかすんでしまうものの,他の歌手もフラン スやドイツから招聘した第一線の人たちで非常に良かったです。かなりお金のかかった企 画だったと思います。ただ,ハンガリー国内にも歌劇場で普段活躍している素晴らしい歌 手がたくさんいるのに,あえて外国からのゲストで固めたところに,国内におけるフィッ シャーおよび祝祭管の微妙なポジションというかスタンスが表れているような気もしまし た。


2007.03.11 Palace of Arts, Bartok National Concert Hall (Budapest)
Yoav Talmi / Dohnanyi Orchestra Budafok
Tamas Erdi (P-2), Adrian Laszlo Nagy (Organ-3)
1. Talmi: The Double Marriage of Figaro
2. Chopin: Piano Concerto No. 1 in E-minor
3. Saint-Saens: Symphony No. 3 in C-minor

 行けないかなーと思っていたのですが,用事が早く終わったので,夕方6時頃に急きょ 思い立って聴きに行きました。
 ヨアフ・タルミはそこそこ知名度のあるイスラエル出身の指揮者です。NAXOSなどに 録音が多数あり,ブルックナー9番の補筆完全4楽章版という「キワモノ」の録音でも知 られています。作曲家でもあり,本日の1曲目は自作の「フィガロの重婚」。モーツァル トの「フィガロの結婚」序曲をパラフレーズしたもので,面白いけど何だかようわからん 曲でした。
 次のショパンのソリストは全盲のピアニスト,エールディ。ハンガリーのHungaroton レーベルからCDが多数でていますが,実は私,よく考えればすぐわかりそうなものです が,ただ「いつもサングラスかけてる兄ちゃん」としか認識していなくて,全盲だとは気 付きませんでした。私はショパンは全く守備範囲ではないのですが,しっかりした技術に 裏付けされた,非常に繊細なピアノだと思いました。視覚情報から曲をインプットできな いというのは想像するだにたいへんなことですが,あれだけ弾けるのは全く立派なもので す。もちろん,オケと合わせにくいところや,ミスタッチもいくつかあったように思いま したが,第2楽章のラストや,アンコールで弾いたノクターンなど,この上なく叙情的で 良かったです。
 メインのサン=サーンスは昔から私の大好きな曲の一つです。このホールのパイプオル ガンはこれまで何度か聴きましたが,やっぱり一度はこの曲で聴いておかねば片手落ちで す。オルガンの音は高音の抜けがよい点では私の好みでしたが,低音の重量感は私の席に は伝わって来ず,ちょっと迫力不足でした。もしかするとオケとのバランスで音量を調整 していたのかもしれません。オケの方は,管でいろいろと事故らしきものがありました が,弦は総じてしっかりとしていて,感心しました。この曲は演奏効果の上がるよくでき た曲なので,どんなオケでも(と言っては失礼でしょうが)真面目に取り組めばそれなり に立派な演奏に仕上がります。もちろん,指揮者が中堅どころのオケを手堅くまとめるの に手練ある人だったこともあるのでしょうが,オケの「気合い」がこの場合ポイントで しょう。表現力のあるなかなか感動的な演奏でした。


2007.03.09 Erkel Theatre (Budapest)
Istvan Denes (Cond), Viktor Nagy (Dir)
Eszter Sumegi (Aida), Attila B. Kiss (Radames), Ferenc Valter (King of Egypt)
Eva Panczel (Amneris), Andras Palerdi (Ramfis), Mihaly Kalmandi (Amonasro)
1. Verdi: Aida

 昨年見た「椿姫」と同じくシュメギ・エステルとキシュ・B・アティラの共演ですの で,いやがおうにも期待は高まります。しかしながらこの日は,隣りのボックスに6名定 員のところ7人詰め込んでいた中学生くらいの男女ガキ連中が上演中ずっとぺちゃくちゃ とおしゃべりしていてうるさいことこの上なく,途中何度も注意したのですが一向に治ま らず,集中して見れませんでした。グッと睨みつけると瞬間黙って視線をそらすのです が,しばらく経つとまだしゃべり始め,こりゃだめだーと。ふと他を見ると,いつものご とく,そこらかしこでゲホンゴホンと咳がうるさく,客席もざわざわして落ち着きがな く,大人がこれでは子供に道徳やマナーが育つわけもないなと,後半はもう諦めモード。 ハンガリー人に「民度」を期待しても仕方がありませんな。
 ということであまりちゃんと評価ができないのですが,舞台装置は正にアイーダという 感じの大がかりなもので,お金のかかったオーソドックスな演出だったのですが,悪く言 えばあまり工夫のない演出だったかと。まあそれでも,エルケルの狭めの舞台でも得意の 人海戦術でよく頑張っていました。歌手は,シュメギとキシュBは相変わらず良い声でし たが,特にキシュBの方はちょっと疲れが溜っていたような印象です。顔黒塗りのシュメ ギ・エステルはやっぱりちょっとヘン。アムネリスのパンチェルは普段カルメンを十八番 としているだけあって,こういうエキゾチックでゴージャスな王女は正にハマリ役。エジ プト王のワルターはこの中ではちょっと弱く,アモナズロのカールマーンディに終始負け ていました。今日の「めっけもん」はラムフィスを歌ったパレルディ。過去にも何度か聴 いているはずなのですがほとんど印象はなく,こんなによく通る声と堂々とした歌いっぷ りの人とは気付きませんでした。この日に限れば他のバリトン,バスを全く凌駕していま した。なお,オケはもう一歩といったところで,特に肝心のアイーダトランペットがヨレ てしまったのは失笑を買っていました。奏者が気の毒と言えばそうですが,やはりこの曲 では少なくともここだけは全身全霊でしっかり吹いてもらわないと。


2007.03.03 Hungarian State Opera House (Budapest)
Laszlo Seregi (Choreography), Valeria Csanyai (Cond)
Anna Tsygankova (Katherine), Bence Apati (Petruchio)
Dace Radina (Bianca), Gabor Szigeti (Lucentio), Istvan Baliko (Baptista)
1. Goldmark (Hidas ed.): The Taming of the Shrew

 振付師シェレギがシェークスピアの有名な戯曲をベースに台本を書き,ゴルトマルクの 楽曲をつなぎ合わせて2幕もののバレエに仕立て上げたプロダクションのようです。ゴル トマルクはブラームスと友人関係にあったハンガリー出身の作曲家ですが,私は全くその 作品を知りませんので,どの曲をどう編曲して構成したのか,さっぱりわかりません。し かし,何も事情を知らないで聴いたら最初からこういうバレエ音楽が独立してあるものと 思って疑わないくらいに,編曲と構成はうまくできていました。
 さてしかし,見る前はやっぱり「ぱちもん」くさい先入観が拭えず,ほとんど期待して なかったのですが,これが意外と面白かったので得をしました。話の筋はほぼシェークス ピアの原作通りで,演出や振り付けも伝統的なわかりやすいものでした。場面転換にも工 夫して観客が飽きないようよく考えられており,最後は「これでもか」というくらい大人 数が出てくる得意の人海戦術で,これなら子供でも十分楽しめる演目でしょう。もちろん 内容が子供にふさわしいかどうかは別の話で,フェミニストの人たちは眉をひそめるで しょうね。第1幕,じゃじゃ馬のヒロインを小突き回して結局手懐けるところなんぞ,限 りなくレイプに近いですがな。でも,あまり深く考えなければ非常に楽しいバレエに出来 上がっているので,機会があれば是非とオススメしときます。


2007.02.28 Palace of Arts, Bartok National Concert Hall (Budapest)
Sir Colin Davis / London Symphony Orchestra
Mitsuko Uchida (P-2)
1. Mozart: La Clemenza di Tito - overture, K. 621
2. Mozart: Piano Concerto No. 13 in C major, K. 415
3. Tchaikovsky: Symphony No. 4 in F minor, Op. 36

 ロンドン響は1999年と2004年に本拠地バービカンセンターで聴く機会があり,その 華やかな音色と,馬力があり小回りも利くオールラウンドな芸達者ぶりに,さすが世界の LSO!と,2度ともたいへん感銘を受けました。長らく音楽監督を勤めたコリン・デイ ヴィスの指揮ということで,今回も非常に期待をしていたのですが…。
 今日のピアノ独奏は,今や世界屈指のモーツァルト弾きとして名高い内田光子さん。 そのせいか,先日のウィーンフィルにもひけをとらない超満員の客席にはいつになく日本 人の姿を多数見かけました。実は私は内田光子さんを聴くのは初めてだったのですが, 「ため」と「間」をいちいち十分に取りつつじっくり語りかけるような,非常に個性的な 演奏でした。モーツァルトのスペシャリストとして認知されているからには,もっと軽や かにサラサラと進むような模範的モーツァルト演奏を想像していたので,意表を突かれま した。顔芸がちょっと怖かったですが,終始緊張感のあるピアノで,曲のユニークさとも 相まってたいへん良かったです。
 一方オケの方は,特に弦など相変わらず明るく綺麗かつ力強い音でしたが,もう一つ ピシッと合っていません。あれれと思いつつもメインのチャイ4なら十八番だろうと豪演 を期待したのですが,のっけからやっぱりどうもピリッとしません。金管は,馬力はある もののどこか力任せで音が濁っていました。ファゴットやクラリネットは二日酔いのよう に与太った演奏で,特にファゴットとティンパニは音程も悪かったです。チェロやコント ラバスが黙々と無難に仕事をこなしていましたが,ヴァイオリンなどはやっぱり出出しが ピシッと合わなくて雑に聞こえる箇所が多く,どうも期待外れ。今回LSOは2/25から28 まで4日連続のウィーン・ブダペスト演奏ツアーを敢行しており,ウィーンの3日間(し かも3日とも別プログラム)で燃え尽きてしまったのかなあと。あるいは,昨夜の打ち上 げで飲みすぎてしまったのでしょうか。いずれにせよ,ブダペストが嘗められていること に変わりはありませんが,今日のような演奏でも終了後にはここぞとばかりに立ち上がり ブラヴォーと叫ぶ輩が後を絶たず,拍手はいつものように拍子系で盛り上がり,まあこれ では嘗められても仕方がありませんか。:-P
 コリン・デイヴィスも今や齢80歳,見た目はすっかりおじいちゃんです。指揮ぶりは まだまだ元気で,3楽章では「振らずに弾かせる」といったお茶目さも披露していました が,今日のオケを聴くと,いかにも老いたなあと感じてしまいました。ただ,アンコール もなく演奏会が終了し,客席にお辞儀するでもなく,他の奏者と握手するでもなく,さっ さと引き上げて行ったコンマスが何か非常に感じが悪かったので,今のオケの雰囲気や秩 序がベストな状態ではないのかもしれません。もしかして,元凶はゲルギエフ?!


2007.02.21 Hungarian State Opera House (Budapest)
Gyorgy Selmeczi (Dir), Gergely Kesselyak (Cond)
Attila B. Kiss (Andrea Chenier), Anatolij Fokanov (Charles Gerard), Georgina Lukacs (Magdalena de Coigny)
Erika Gal (Bersi), Maria Temesi (Countess Coigny), Bernadett Wiedemann (Madelon)
Adam Horvath (Roucher), Andras Kiss Kaldi (Pierre Fleville), Kazmer Sarkany (Fouquier Tinville)
Zsolt Derecskei (Spy), Tamas Busa (Mathieu), Ferenc Gerdesits (Abbe)
Geza Zsigmond (Chief Judge), Pal Kovacs (Dumas), Tamas Szule (Schmidt)
1. Giordano: Andrea Chenier

 先週17日にプレミエをやったばかりの新演出です。ゲオルギーナ・ルカーチは世界の 歌劇場を股にかけ活躍しているハンガリー人きっての売れっ子歌手ですが,まだ生で見た ことがなかったので,彼女が最大のお目当てでした。加えてキシュ・B,フォカノフと いった男声スターを主役級に迎え,テメシ,ヴィーデマン,シャールカーニ,スーレなど の実力者を脇にスキなく配置した,ここの歌劇場では二つとない超豪華布陣。さらには, 厳しいケシェイアークが指揮だったのでオケもいつになくピッシリと引き締まり,今まで 見た中で間違いなく最高の出来栄えの舞台だったように思います。
 特に良かったのはフォカノフ。この人の声量と表現力,演技力はいつもながら本当に 素晴らしい。キシュ・Bは最高の調子というわけではなさそうでしたが,テナーにあるま じき野太く張りのある声は健在で,このオペラの見せ所である4つのアリアはどれも拍手 喝采でした。ルカーチは,歌もさることながら,化粧映えする派手な顔立ち,がっしりし た身体(といっても決してぽちゃぽちゃぷーではない)に支えられた豊かな声量,きめ細 かい演技力,そのたたずまいそのものが,とにかくこれぞ「オペラ歌手」という貫禄。こ このレギュラー女声陣ではこんな人は他にいないです。以前知人から,飛行機で偶然彼女 の隣席に座り,派手な衣服で身体のゴツいおばちゃんだった,という話を聞いたのです が,そこは「女優」,舞台の上ではたいへん華のある上流階級の美女に見えるからたいし たものです。
 ここの特長に違わず,奇をてらわないオーソドックスな演出で,お得意の人海戦術も あり,衣装も中世貴族風の伝統的なもので,初心者にも安心してお薦めできます。新演出 でこれだと,すれっからしの「オペラ通」からは鼻で笑われるのでしょうが,なんのなん の,オペラはやっぱりこうでなくては,と私は思いますが。
 主役の3人とも,カーテンコールでは満足し切った表情で観客の声援に応えて投げキス し,オケの健闘をたたえていたのが印象的でした。いやー,ここの歌劇場のめいっぱい上 限を見せてもらった気がしました。


2007.02.19 Palace of Arts, Bartok National Concert Hall (Budapest)
Daniel Barenboim / Wiener Philharmoniker
Lang Lang (P-1)
1. Bartok: Piano Concerto No. 2
2. Bruckner: Symphony No. 7 in E major

 前回楽友協会で聴いて以来,約4年ぶりのウィーンフィルです。立ち見席当日売りの カウンターには今まで見たことないくらい,2年前のシカゴ響の時をもしのぐ長さの行列 ができていたのは,さすが天下のウィーンフィルだけあります。本日の指揮はその2年前 のシカゴ響でも指揮とピアノ独奏(その時の指揮はブーレーズ)を披露していたダニエ ル・バレンボイム。昨年3月の「春の祭典」ではバッハ平均律のピアノ独奏演奏会を急病 のためキャンセルしましたから,今回はそのリベンジでもありましょう。ピアノ独奏は, 昨年の「春の祭典」でブダペスト祝祭管と共演し,たいへんロマンチックなラフマニノフ を聴かせた,弱冠24歳の人気ピアニスト,ランラン。2度目のブダペスト見参です。その せいか,客席にはいつになく中国系の人の姿が目立ちました。
 曲目は当初,バルトークの「舞踏組曲」とピアノ協奏曲第2番,シューマンの交響曲 第4番と発表されていましたが,直前になって急に舞踏組曲がなくなり,メインがブルッ クナーの7番に変更されました。経緯はよく分からないのですが,ウィーンフィルのサイ トを見ると,本拠地の方の曲目変更がツアーにも影響しているようです。めったに(特に 日本公演だとまず絶対に)聴けない「ウィーンフィルのバルトーク」をたいへん楽しみに していたので,舞踏組曲の中止は非常に残念でした。
 まずバルトークは,一見資質が全く合わなさそうなランランがいったいこの曲をどう 料理するのか興味深かったのですが,なかなかどうして,立派な演奏に感心しました。バ ルトークにはさすがに得意の「顔芸」は通用しないだろうと思っていたら,「必死の形 相」と大きな身振りで鍵盤を叩きまくり,アタックの激しさを視覚的にも演出していまし た。かと思えば1楽章途中や2楽章ではしっかり「陶酔の表情」で情感たっぷりに奏で, メリハリ十分でした。バレンボイムとウィーンフィルという大御所中の大御所を差し置 き,終始ピアノがオケを食っていて,全く怖い物知らずの若者ですなー。こう書くと何か 否定的なニュアンスに受け取られるかもしれませんが,実際はリズミカルさとアクセント の鋭さが曲想によくマッチしていて,なかなかの好演でした。惜しむらくはオケが押さえ 気味だったこと。ウィーンフィル自慢の弦セクションは出番が極端に少ないですし,管・ 打楽器もピアノほどには激烈なアタックがなく,意外と大人の演奏でした。やっぱり舞踏 組曲も聴きたかったなあ。なお,アンコールはバレンボイムとの連弾で「軍隊行進曲」を 演奏し,さらにやんやの拍手喝采を浴びていました。
 メインのブルックナーは,正直私の守備範囲ではないのでちょっと戸惑いました。 しかし,実際に聴き終えた感想では,弦のこの上ない力強さ,木管の際立った繊細さ,金 管のここぞというときの馬力など,ウィーンフィルサウンドを十二分に堪能するには絶好 の選曲だったように思います。ある意味,シューマンより良かったでしょう。特に今日は キュッヒル,ヒンクとコンマスが二人共揃っていたこともあり,全体的に雑なところがみ じんもない集中力あふれた演奏で,素晴らしいの一言です。決して派手な音ではありませ んが,これぞウィーンフィルとしか言いようのない奥深い音色は,トゥッティでは最大限 の迫力で高らかに鳴り響き,底知れぬ懐の広さを感じさせました。次に生ウィーンフィル を聴けるのは,果たして何年後になりましょうか…。
 本日も普段と同様,6列目ど真ん中という好位置の席でチケットは8900Ft,日本円に して5500円くらいでしたが,ウィーンフィルの日本公演をそのような席で聴いたら,ヘ タすりゃその10倍近くはかかるだろうから,激しいインフレ経済とは言ってもハンガ リーの音楽会相場にはまだまだ感謝感激であります。


2007.02.18 Erkel Theatre (Budapest)
Gyula Harangozo, Jr. (Choreography), Valeria Csanyai (Cond)
Adrienn Pap (Snow White), Krisztina Vegh (Stepmother), Roland Liebich (Princess)
Sandor Turi (Huntsman), Levente Bajari (Old Woman), Bela Balogh (Doc)
Roland Csonka (Happy), Istvan Kohary (Bashful), Alexandr Komarov (Sleepy)
Andrea P. Merlo (Sneezy), Csanad Gergely Kovats (Grumpy), David Miklos Kerenyi (Dopey)
1. Kocsak: Snow White and the Seven Dwarfs - Ballet

 娘のリクエストにより今年も見に来ました。これを3回も見ている日本人も他にいない でしょうね。花火や火薬の量が若干増えたような気もしましたが,もちろん内容は同じで す。配役表を見て,おお,白雪姫と女王は「かかし王子」の王女と妖精だ,老女はいつも マンダリンを踊っている人だ,などと,しょーもない発見をしながらも,今回はさすがに 途中で眠くなってきました。
 ファンタジーあふれる舞台に,よく練られた踊り,音楽も,通俗的で映画音楽のよう ではありますが,なかなか良い曲がそろった力作だと思います。是非国外にも輸出した り,DVDソフトなども出して欲しいものです。


2007.02.10 Palace of Arts, Bartok National Concert Hall (Budapest)
Adam Fischer / Hungarian Radio Symphony Orchestra, Choir and Children's Choir
Hungarian National Choir
Kodaly Chorus of Debrecen
Anna Korondi (S), Beatrix Fodor (S), Eva Batori (S)
Ildiko Cserna (S), Bernadett Wiedemann (Ms)
Janos Bandi (T), Viktor Massanyi (Br), Istvan Kovacs (Bs)
1. Mahler: Symphony No. 8

 マーラーの「千人の交響曲」は,一度は生で聴いてみたいと長年思っていた曲で,2年 前にフランス国立管の来洪公演でチャンスはあったのですが,出張のせいで逃してしま い,今回ようやく聴けて感無量です。これでマーラーの交響曲は,未完成の第10番を除 き,全て欧州で実演を聴くことができました。
 今日の指揮はイヴァンの実兄,アダム・フィッシャー。ハンガリー国内では今や逆転し ていますが,国際的な知名度ではまだお兄ちゃんの方が若干高いでしょう。噂通り,イ ヴァンとは全く違うタイプの指揮で,あまり足を動かさず,コンパクトで力点のはっきり した鋭いタクトです。ただし動きはいくぶん軽やかで,マーラーのこの長大な作品におい ても何だか古典を振っているような指揮に見えました。急ぎすぎず,かといって重くなら ず,ほどよくソツない流れで全体をうまく盛り上げていたと思います。オケも放送オケら しく無難にまとめるのがたいへん上手なように感じました。息を呑むような瞬間もないか わりに,大外しすることもない。もちろん演奏技術は水準以上ですし,この難曲を大外し しないで通せるだけでも,凄いことなのかもしれません。金管などかなり馬力のあるとこ ろも見せていましたが,今日は半分くらいがトラでしょうからあまり参考にはならないで しょう。
 独唱は最初の発表から,メラート・アンドレアがチェルナ・イルディコに,フェケテ・ アッティラがバンディ・ヤーノシュに代わっていました。実を言うと私にとってこの8番 はマーラーの中で最も聴く頻度の低い曲であり,隅々まで知り尽くしているわけでは全く ないので,最初独唱者が7人登場したときは「あれ,独唱は8人なのでは?」と疑念に思 いました。顔ぶれを見ると,バートリ・エヴァがいない。確かにチェルナは元々ソプラノ ですからカバーできないことはないとは言え,8人必要なところを7人でやったらインチ キなのでは?しかし,第2部の途中から,2階(日本で言う3階)のパイプオルガンの真ん 前,鍵盤の場所にさりげなくバートリが出て来ていて,さらに長い時間待ったあげく,よ うやく立ち上がり,一際高いところから栄光の聖母を歌い上げました。なるほどそういう 仕掛けだったのね,と納得。それにしても,待ち時間が長いわりには出番が少なすぎるの で,ちょっと気の毒な役回りだったかも。
 ステージ上の総勢はオーケストラ150人,合唱500人くらいで,文字通りの千人には 届きませんでしたが,それでもこれだけの人数が奏でる音圧は凄まじい迫力で,オケのど のパートがどうであったとか,ソリストがどうのとか,なんかそんな細かいことはもうど うでもよくなる恍惚の音響空間。やっぱりこの異次元体験は生で聴いてこそのものである なあ,というのがよくわかりました。聴けてよかったです。アダム・フィッシャーとハン ガリー放送響のいずれも,実演を聴くのは今日が初めてでしたが,初体験がこんな特殊な 曲だと,音の洪水に押し流されてほとんど何にもわからないに等しいですね。さらなる分 析はまた次の機会に。
 終演後は拍手喝采が鳴り止まず,今日ばかりは拍手が拍子系になっても許せました。 とりわけ,アダム兄ちゃんへの拍手がひときわ盛大で,彼の人気がブダペストでもここま で高かったとは正直知りませんでした。イヴァンはいかにも気難しそうで妥協なきワンマ ン芸術家タイプに見えますが,アダムの方は町の気さくな職人風で,この人気はその人柄 もあってのことなんでしょうか。実際,その指揮もスターというよりは職人肌の仕事とい う印象で,なるほど,ヨーロッパ各地で活躍する「オペラ指揮者」だけのことはあるなあ と思いました。


2007.02.05 Hungarian State Opera House (Budapest)
"Opera for Opera - Gala evening"
Janos Kovacs (Cond), Mate Sipos Szabo (Choreography)
Andrea Rost (S-3,7,20,22), Szilvia Ralik (S-5,14,17), Eva Panczel (Ms-11,12,16)
Annamaria Kovacs (A-9,22), Attila Fekete (T-2,11,13,15,18,22), Levente Molnar (Br-4,6,15,22)
Mihaly Kalmandi (Br-12,13,17), Kazmer Sarkany (Br-21), Laszlo Szvetek (Bs-21)
Eniko Somorjai (8), Milan Madar (8), Anna Tsygankova (19), Levente Bajari (19)
1. Mozart: Don Giovanni - overture
2. Mozart: Don Giovanni - Don Ottavio aria (Act II)
3. Mozart: Le Nozze di Figaro - The Countess aria (Act II)
4. Mozart: Don Giovanni - Champagne aria (Act I)
5. Verdi: Les vepres Siciliennes - Bolero
6. Rossini: Il Barbiere di Siviglia - Figaro's entrance (Act I)
7. Johann Strauss II: Die Fledermaus - Rosalinde's csardas (Act II)
8. Tchaikovsky: The Nutcracker - Pas de deux (Act III)
9. Mussorgsky: Khovanshchina - Marfa's divination (Act II)
10. Bizet: Carmen - Prelude
11. Bizet: Carmen - Seguidilla (Act I)
12. Bizet: Carmen - Torreador (Act II)
13. Verdi: La Traviata - Germont aria (Act II)
14. Verdi: Macbeth - Lady Macbeth aria (Act II)
15. Verdi: Don Carlo - Duet
16. Mascagni: Cavalleria Rusticana - Santuzza's romance
17. Verdi: Il Trovatore - Leonora and Count Luna duet
18. Puccini: Turandot - Kalaf aria (Act III)
19. Prokofjev: Romeo and Juliet - Pas de deux
20. Donizetti: Don Pasquale - Norina aria (Act I)
21. Donizetti: Don Pasquale - Don Pasquale and Malatesta duet (Act III)
22. Kodaly: Szekely Spinnery - Finale

 世界を股にかけ活躍するリリック・ソプラノ,ロシュト・アンドレアをスターゲストに 迎えたオペラ座ガラ・コンサート。ずっと国外での活動が主なので,ハンガリーでは年に 1〜2回しかお目にかかれません。美人と言うよりたいへん可愛らしい容姿と,澄んだ美 声,それに懐の深い表現力は健在で,貫禄を見せつけていました。最後の「セーケイの紡 ぎ部屋」でようやく他の歌手との絡みがありましたが,一緒に並ぶと彼女の背の低さが一 際強調されて,ちょっと意外でした。舞台の上だと存在感が大きい人ほど,実際より身体 も大きく見えてしまうものなんでしょうね。しかし,このハンガリー民謡編曲より,むし ろ「ナンチャッテハンガリー風」であるはずの「こうもり」のチャールダーシュの方が, 踊りの仕草などからいかにもハンガリー人の血を感じさせていたのが印象的でした。けっ こう大きいお子さんがいるはずなのですが,調べたらまだ44歳なんですね。この容姿な らまだまだ娘役でも何でも行けます!今後も是非,幅広く活動して欲しいものです。
 さて,他の歌手の顔ぶれも国立歌劇場のトップどころを揃えた,なかなかのものでした が,こういった一発勝負のガラコンサートでは,声量があり小技の効く歌手がやっぱり美 味しいところをさらっていきます。「カルメン」までの前半戦では,ドラマチック・ソプ ラノのラーリックと早口バリトン,モルナーが一際大きな喝采を浴びていました。パン ツェルのカルメンはオハコですが(今までカルメンというとこの人しか聴いたことがあり ません),エスカミーリョのカールマンディは,元々バリトンというよりはバスなのでイ マイチ乗りきれてなく,やはりこの人は青ひげ公とかザラストロの方がハマリ役なんじゃ ないでしょうか。後半戦になるとしっとりとした曲が続き,前半は影が薄かったフェケ テ・アッティラが「トゥーランドット」のアリアで熱唱大爆発。この日最大の拍手とカー テンコールを獲得していました。「ドン・パスクアーレ」のバリトン二重唱では,先月の ワーグナー「指環」ではヴォータンやハーゲンという重厚な役で存在感を見せつけていた スヴェーテクが,180度異なるコミカルな役もこれまた達者にこなし,芸幅の広さを見せ つけていました。これだけ,カーテンコールで歌をもう一度繰り返していましたが,舞台 転換の時間稼ぎもあったのでしょうね。すごいと思ったのは,確かに「ドン・パスクアー レ」は今シーズンのオペラ座のレパートリーになっていますが,この二人,実はそちらに は出演していないにもかかわらず,ちゃんとここまで歌えるという守備範囲の広さです。 最後はコダーイ没後40年ということもあって,歌手陣もハンガリー民族衣装を身にまと い,いつになく民族色を強調して終わりました。
 なお,オケはイマイチ迫力不足,集中力不足でした。指揮はやっぱりコヴァーチのおっ ちゃん…。メンツも主力ではなかったのでしょう。


2007.01.26 Palace of Arts, Bartok National Concert Hall (Budapest)
"Bag of Surprises Concert"
Ivan Fischer / Budapest Festival Orchestra
Menahem Pressler (P-2)
1. Rautavaara: Cantus Articus (Concerto for Birds and Orchestra)
2. Mozart: Piano Concerto No. 17, K. 453
3. Veress: Threnos - in memoriam Bela Bartok
4. Beethoven: Symphony No. 8

 祝祭管恒例の「福袋演奏会」。当日開演まで曲目やソリストは極秘中の極秘とされてい ます。とはいえ,同じ演奏会を3日連続でやるわけなので,2日目以降の観衆はある程度 内容を知っている人も多いと思いますが。ちなみにこの日は初日だったので,何が起こる か全く見当なしでした。
 開演前,舞台上に何やら巨大な物体が黒いカバーをかけて置いてあり,1曲目の前に その物体はソリストの位置まで持って来られて,カバーを外してみると,それはカナリア が数羽入った巨大な鳥かごでした。このラウタヴァーラの「鳥の声協奏曲」はヒーリング 系の静かな音楽で,鳥の声は基本的にはレコードを使っていたのですが,どうせなら本物 の鳥と共演したらどうか,ということで鳥かごが持ち込まれたようです。リハーサルでは よく鳴いていたらしいのですが,本番では1羽が時々ちーちー鳴いていた以外は,すっか り沈黙。まあ初日だったので,カナリア達も緊張していたのかもしれません。
 2曲目のソリストはアメリカの巨匠,メナヘム・プレスラー。私はその方面に疎いので 名前を知らなかったのですが,ボザール・トリオのリーダーとして,室内楽の世界では超 大物だそうです。見た目は背の低いちんちくりんのおじいちゃんですが,一旦ピアノの前 に座れば,83歳という年齢を全く感じさせない,かくしゃくとして瑞々しい演奏ぶり。 今回の福袋演奏会では「自然」が一貫したテーマだったようで,端正かつどこまでも自然 体のピアノを奏でる彼との共演を,フィッシャーが特に熱望したそうです。
 3曲目は,1940年の皇紀2600年に際し,バルトークの代役として奉祝楽曲を委嘱され たことで日本ではその名が知られる(その時奉納されたのが交響曲第1番)ヴェレシュ・ シャーンドルが,師匠であるバルトークの訃報に際して書いた「哀歌」。ハンガリーにお いてもなかなか聴く機会がない曲で,正直言うとそう強い印象を与える曲ではないのです が,その控えめながらも美しいメロディーはもっと再評価されてもよいような気がしまし た。
 最後はベートーヴェンの8番。まず1楽章を演奏し,当時のメトロノームは今と精度が 違っていた,とか,自然なリズムとは何か,などという話をした後に,いっそメトロノー ムがオーケストラの指揮をしたらどうなるか,と言って,何を血迷ったか,メトロノーム の巨大なハリボテを運んできて指揮台の上に置くと,自分はその中に入り,巨大な振り子 を持って実際のメトロノームのごとく左右に揺らしながら第2楽章を指揮していました。 しかしフィッシャーもお茶目ぶりを発揮して,ただ単純に一定リズムで振るだけでなく, 時々曲に合わせてリズムを変えたり細かく振ったりして会場の笑いを取っていました。奏 者の人たちは,まことにご苦労様です。そういえば,ティンパニは古楽器を使って,何故 か指揮者の目の前(つまりチェロやビオラの前)に位置して演奏していました。これも, 弦楽器奏者も自然なリズムをより身近に感じるように,という意図があったようなのです が,何だかよくわかりません。第3楽章からは普通の形態に戻りノーマルに演奏していま したが,フィッシャーの指揮は結構アゴーギグを効かせた,あまり「自然体」とは言えな いものでした。おちゃらけないで普通に演奏してくれた方が私としては良かったかなと。
 アンコールはシュトラウス2世のポルカ「クラップフェンの森にて」。いかついスキン ヘッドの大男が出てきたので何者かと思えば,この人はフリーの打楽器奏者だそうで,こ のアンコールのためだけに出てきて指揮者の横でオカリナや鳥笛を吹いていました。わざ と調子っぱずれに演奏するそのさじ加減がなかなか上手でした。最後はフィッシャーも鳥 笛を手にして吹き鳴らし(こちらはもちろんうまく音が出ず,スキンヘッド兄ちゃんと対 比させていました),やっぱりおちゃらけて終了。鳥で始まり鳥で終わるという一貫性は 保たれてましたが,結局何だかよくわからない企画でした。観衆を楽しませようという ハートは十分伝わってくるのですが,個人的には,似合わないからあまりギャグ系には 走って欲しくないですけどねえ。


2007.01.20 Palace of Arts, Bartok National Concert Hall (Budapest)
Gabor Hollerung / Dohnanyi Orchestra Budafok
Budapest Academic Choral Society, Budapest Youth Choir (2)
1. Bernstein: Divertimento
2. Vajda: Variations
3. Grofe: Grand Canyon suite

 最上階3階(日本で言う4階)の最後列という,ステージから最も遠い席を初体験した のですが,正面だったので,これが意外と悪くない(そもそも,楽団員用のチケットを工 面していただいたので,贅沢は申せません)。オペラグラスで見てもまだ小さいという舞 台の遠さはどうしようもありませんが,ステージ全体はよく見渡せ,音的にも問題ありま せんでした。
 さてこの楽団は,1970年リスト音楽院の学生らを中心に結成され,1989年に著名な ハンガリー人作曲家エルンスト・フォン・ドホナーニの名を冠して「ブダフォキ・ドホ ナーニ・エルヌー交響楽団」と改名,1993年にプロ化した,比較的歴史の若いオーケス トラです。実演を聴くのは初めてでしたが,演奏会スケジュールを見るにレパートリーに 節操がなく,日程も過密なようなので,慢性的練習不足に陥りやすい楽団なのかなと,正 直言ってあまり期待していなかったところ,なかなかどうして,立派な演奏でした。指揮 棒を使わず,振り方が何となく「テキトー」に見えるのですが,出てくる音はパートバラ ンスがしっかりして,メリハリも効いて,勢いが感じられる演奏でした。団員のほとんど は若く,管楽器は正面突破めざして撃沈,みたいなキズも多々ありましたが,オーボエな どなかなかよい音を出していて感心しました。開演30分前に指揮者による楽曲解説が あったのですが,20分間絶え間なく,まーよくしゃべること。その憎めないキャラク ターと話術で,楽団員を乗せるのが非常に上手い人なんでしょうね。
 バーンスタインのディヴェルティメントは全体的によく鳴り,ちょっと重めの演奏。 ヴァイダはもちろん初めて聴く曲だったのですが,出だしこそハンガリー民謡調だったも のの,あとは古典のカンタータ風で親しみやすい曲でした。メインの「大峡谷」は,ス テージ後方のスクリーンでスライドショーを上映しながらの演奏だったのですが,このス ライドショーがイケてなかった。もちろんグランドキャニオンの写真が中心なのですが, 鳥のさえずりでは鳥のアップ,ロバの行脚ではロバのアップ,日の出,日没,雷雨でもそ のまんまのシーンが恥ずかしげもなく出てくるという,あまりにもベタな写真選択。加え て,安直なトランジット効果の多用が,いかにもパソコンのソフトで取り急ぎ作ってみま した,という空気をぷんぷん醸し出し,会場の失笑を誘っていました。こういう自然描写 を音楽で表現するのが素晴らしいのだし,演奏もそれなりにがんばっていたのに,スライ ドショーは気を散らすだけ,正直言って邪魔でした。無い方が良かったかなー。笑いを取 るのが目的だったのなら話は別ですが。


2007.01.14 Hungarian State Opera House (Budapest)
Janos Kovacs (Cond), Viktor Nagy (Dir)
Andras Molnar (Siegfried), Csaba Otvos (Gunther), Janos Toth (Alberich), Laszlo Szvetek (Hagen)
Erzsebet Pelle (Brunnhilde), Erika Markovics (Gutrune), Bernadett Wiedemann (Waltraute)
Annamaria Kovacs (1. Norna), Eva Balatoni (2. Norna), Szilvia Ralik (3. Norna)
Monika Gonzalez (Woglinde), Eszter Somogyi (Wellgunde), Jolan Santa (Flosshilde)
1. Wagner: Gotterdammerung

 ほぼ満員の場内,最終夜ということもあって,いつになく雰囲気が盛り上がっていまし た。先日のワルキューレと同じくオケピットには所狭しと奏者がびっしり入り,顔ぶれも 主力が揃っているように見えました。実際,この日のオケの演奏は,ホルンが時々外した 以外は,実力の上限いっぱいまで鳴らした,実にしっかりとしたものでした。ホントに, おっちゃんもオケも,いつもこのレベルでやってくれたらいいのになあ。
 今日は装置のトラブルもなく,2階建て,あるいは3階建ての大がかりな舞台装置が 圧巻でした。プロローグの旅立ちの場面では本物の白馬が登場し,もちろん歌手の歌など 我関せずで足をカパカパ踏み鳴らしたり,「ブルルルッ」とうなり声を上げていましたの で,何かの拍子に暴れ出しやしないかとヒヤヒヤ(ちょっとワクワク)しました。
 ラストでは指環を取り返したブリュンヒルデが舞台奥に消え,炎を表す赤い照明が後ろ から煌々と光る中,3階建ての建物がずーんと沈んでいき,背後からスモークと緑のレー ザー光線が滅び行く神々のシルエットを映し出します。これは「ラインの黄金」の冒頭場 面とほぼ同じであり,長い時間を経て最初に帰還していくなかなか感動的な演出で,見応 えがありました。
 歌手陣では,冒頭の3人のノルンにさりげなくラーリック・シルヴィアが入ってたり して,やはり一際キラリと光っていました。ジークフリートのモルナー・アンドラーシュ は,図体がでかすぎるのがちょっとイメージに合わないですが,当たり役だけあって非の 打ち所のない立派な歌唱です。しかし,この日一番の拍手をさらっていたのはハーゲン役 のスヴェーテク。この人,ワルキューレではヴォータンを歌っており,ちょっとパラレル ワールド的ですが,ワイルドな風貌に加えて堂々としたドラマチックな歌唱が異彩を放っ ていました。一方,女声陣で肝心要のブリュンヒルデは歌も声量も(見た目も)いまひと つ。ワルキューレの妹役のヴィーデマンの方がベテランの味で終始ブリュンヒルデを食っ ており,カーテンコールの拍手の大きさが端的にその出来を物語っておりました。ちなみ に,ブリュンヒルデは「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」で各々別の人 が歌っており,一貫性から言って統一して欲しいなとは思いましたが,まあ,連続上演す る際は歌手の負担を考えると仕方がないのでしょうね。あと,オケもよく頑張っていたの で,コヴァーチのおっちゃんがいつになく満場の歓声と拍手喝采を浴びていました。
 しかし,ワーグナー苦手な私は最後に一言言いたい。とにかく,長すぎ。Wikipediaで 「ニーベルングの指環」の項を見ると,「神々の黄昏」のあらすじなんかたった3行です ぜ?というのは半分冗談ですが,なぜにここまで引き伸ばすことがある?とは正直思いま す。第1幕のブリュンヒルデと妹とのやりとりや,第3幕最後の彼女の独白など,そのタ イム感にはとてもついて行けません。それとも,途中の冗長な場面で我慢に我慢を重ねた 結果,初めてラストの感動が真に味わえる,ようなものなんでしょうか?
 同じくWikipediaによると,この「指環」を通しで上演することは一般にはあまりない が,バイロイトの音楽祭,あるいはAクラスの歌劇場などでは目玉としてよく上演され る,とのことなので,ともあれ,ハンガリー国立歌劇場が「Aクラス」の歌劇場でよかっ たです。いやホント,イヤミじゃなくて。貴重な体験ができました。でも,生は一度で十 分ですかなー。


2007.01.12 Palace of Arts, Bartok National Concert Hall (Budapest)
Zoltan Kocsis / Hungarian National Philharmonic Orchestra
Dezso Ranki (P-2)
Artists from the Budapest Puppet Theatre (Puppet Play-3)
1. Tchaikovsky: Tempest, Op. 18
2. Bartok: Piano Concerto No. 1
3. Stravinsky: Petrushka (with puppet performance)

 昨日は「ワルキューレ」に続き「ジークフリート」を見に行く予定が,娘の急な発熱の ため,あえなく断念。しかし気を取り直し,本日はかねてから楽しみにしていた国立フィ ルの演奏会です。ハンガリーが生んだ往年の巨匠,ヤーノシュ・フェレンチク (1907.1.18-1984.6.12)生誕100周年記念演奏会ということに,いつの間にか,なっ ていました。国立フィルでは珍しく,チケットは早々に売り切れており,立ち見席の当日 売りには長い行列ができていました。一つはラーンキの人気ですが,もう一つ,メインの 「ペトルーシュカ」が人形(パペット)劇付きということで,多数の学童集団および子供 連れ家族が見に来ていました。
 ラーンキのピアノにコチシュ/ハンガリー国立フィルという組み合わせでのバルトーク 1番は,昨年3月に聴いた「バルトーク生誕125周年記念演奏会」と同じです。ピアノの 周囲に打楽器群を配置するという仕掛けも全く同じ。ラーンキのピアノは超精巧でした が,(打楽器のアタックを強調するわりには)オケ伴奏のリズムが悪く,何となく引き ずった感じになっているというのも,前回から変化がありませんでした。ただし今回はパ ペットショーの舞台が最初から出来上がっていましたので,ステージ上に雛壇がなく,背 面の反響板もない状態での演奏で,ピアノの音がより突出して聴こえていました。やっぱ りラーンキはどんなに早くて変態的なパッセージでも音の粒がぴっちり揃っていて,上手 い!の一言です。
 さて,メインではステージが下に沈んでオケピットになり,オペラやバレエの上演の ときと同じかっこうになりました。パペットは素朴で無表情なデザインでしたが,下から 棒で操るタイプ,上から糸で操る小サイズのタイプ,影絵用など,いくつもバリエーショ ンを用意して,場面に応じて使い分けていました。劇は「ペトルーシュカ」オリジナルの バレエのプロットをほぼそのままなぞっていましたが(元々が魔術師に操られるパペット のお話ですし),子供向けにおどろおどろしさを一切排除していました。パペットの動き や場面転換が単調なこともあり,これが意外と退屈して,途中で眠くなってしまいまし た。やっぱり人間が演じるバレエで是非見てみたいものです(実演はおろか,映像化され たものも一切見たことがないのですが)。演奏は,トランペットがソロでちょっと危うい 箇所がいくつかあった他は,なかなか立派なものでした。こういう試みも面白いですが, 今日のコンサートで言えば,人形劇はなくてもよかったかなと。なお,スコアは1911年 版を使っているようでした。
 余談ですが,ケレメン・バルナバーシュとコカシュ・カタリンの人気ヴァイオリニスト 夫婦が,まさに二人を足して二で割ったような顔をしたかわいらしい娘さんと一緒に聴き に来ていました。このお嬢さんも,間違いなくもうすでにヴァイオリンを仕込まれてるん でしょうなー。ケレメンは客席でイヴァーン・フィッシャーとおぼしき人と立ち話をして いましたが,よく考えるとフィッシャーがコチシュの演奏会に来るはずはないので(現在 激しく仲違い中のため),よく似た他人だったのでしょう。お兄さんのアーダーム・ フィッシャーとも顔が違うようでしたし。その人は演奏会終了後ラーンキとも立ち話して いましたので,業界関係者だろうとは思いますが。


2007.01.07 Hungarian State Opera House (Budapest)
Janos Kovacs (Cond), Viktor Nagy (Dir)
Janos Bandi (Siegmund), Ferenc Valter (Hunding), Laszlo Szvetek (Wotan)
Maria Temesi (Sieglinde), Judit Nemeth (Brunnhilde), Eva Panczel (Fricka)
Erika Gal (Grimgerde), Bernadett Wiedemann (Schwertleite)
Veronika Fekete (Helmwige), Eszter Somogyi (Gerhilde), Maria Ardo (Ortlinde)
Gyongyver Sudar (Waltraute), Ildiko Tas (Siegrune), Jutta Bokor (Rossweise)
1. Wagner: Die Walkure

 ハンガリー国立歌劇場の新年は「指環」で明けるのが恒例です。昨年見た「ラインの黄 金」がしょぼい演奏とよくわからない演出だったので恐々としながら「ワルキューレ」に 臨んだのですが,なかなかどうして,コヴァーチおじさんの指揮では今まで聴いたことが ないような堂々として起伏に富んだ緊張感ある演奏に驚きました。よっぽど主力奏者が勢 揃いでもしたのでしょうか。歌手陣も主役どころは皆豊かな声量で熱のこもった歌唱。文 句の付け所がありませんでした。この日の聴衆は皆さんたいへん満足して帰ったことで しょう。ジークリンデとブリュンヒルデ(ついでに言うとジークムントも)が恰幅良すぎ る体格だったのも,まあワーグナーではご愛敬なのでしょうね。
 この日,フンディンクを歌うポルガール・ラースローを一番の目当てにしていたのです が,前日のリサイタルで腰を痛め入院したとかで,配役表の印刷も間に合わないような直 前でドタキャン。最初彼のキャンセルを知らなくて,フンディンクが出てきてすぐに,前 に見たポルガールとは声も頭髪も鼻の形も違うので「あれえ?」と思ったのですが,メイ クが強烈すぎて確信が持てず,半信半疑のまま最後まで見てしまい,後で隣席のおねー ちゃんにキャンセルの事情を教えてもらいました。代役の人もよくがんばっていました し,元々フンディンクの出番は少ないので全体として問題はなかったのですが,やっぱり ポルガールの渋いバスが聴きたかったので,残念です。また,第3幕の開演前にアナウン スがあり,(ハンガリー語だったので再び隣席のおねーちゃんに教わりました)「舞台装 置の故障で場面転換ができないため第2幕の舞台をそのまま使います」ということで,ト ラブル続きの上演でした。もっとも「指環」の場面設定はほとんどが岩山か川岸なので, ステージ上に岩さえあればそれらしい雰囲気になり,違和感は全くありませんでしたが。
 それにしてもワーグナーは長い。私の時間感覚とは根本的に合いません。前にウィーン で見たときはまだ字幕に英語を選べたのですが,今回はドイツ語の歌詞もハンガリー語の 字幕も私にはちんぷんかんぷんなので,あらすじが頭に入っているだけでは,延々と続く 歌のかけ合いが,まあ長いこと。それでもこの日はオケの演奏に力がありましたので,何 とか飽きずに最後まで聴けました。残り2つも同様なテンションだと良いのですが。


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