クラシック演奏会 (2005年)


2005.12.28 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
Ivan Fischer / Budapest Festival Orchestra
Tunde Szaboki (S-2,3), Katalin Halmai (Ms-5,6), Imogen Cooper (P-4)
"Bag of Surprises" Concert
1. Mozart: Overture to "Cosi fan tutte"
2. Salieri: "Alfin son sola... Sola e mesta" (La Cifra)
3. Mozart: "Mi tardi quell'alma in grata..." (Don Giovanni)
4. Mozart: Piano Concerto No. 24 in C minor, K. 491
5. Salieri: "E non degg'io seguirla!" (Armida)
6. Mozart: "Ei parte... per pieta..." (Cosi fan tutte)
7. Salieri: 26 valiations on "La folia di Spagna"

 祝祭管が毎年行っている「福袋演奏会」で,当日まで演目およびソリストは極秘中の極秘とされています。今年は「モーツァルトとサリエリ」がテーマで,各々の曲を交互に演奏してサリエリのイメージ回復?を図るという演出だったようです。モーツァルトですら実はそう守備範囲でない私はサリエリの曲など初めて聴いたものばかりだったのですが,確かにオペラのアリアはモーツァルトと比べて遜色ないメロディーの美しさが随所にあり,最後の変奏曲などはある意味モーツァルトよりモダンなセンスが感じられ面白かったです。木管を指揮者の周り一番内側に配置し,歌手は指揮者の目の前に置かれたお立ち台(結構高い)で歌うなど,いろいろと実験もしてなかなか興味深い趣向でした。ソリストではソプラノが美声,声量,表現,どれを取ってもたいへん良かったです。一方ピアノは運指がかっちりしていて音の粒もきれいにそろっていますが四角四面で表現に乏しく面白みがありませんでした。
 アンコールはモーツァルトの小曲(多分K.249と言ってた,すいません,知らない曲です)。モーツァルトに始まりモーツァルトに終わった私の2005年演奏会日記でした。


2005.12.25 Wiener Staatsoper (Vienna)
Renato Zanella (Choreography), Michael Halasz (Cond),
Aliya Tanikpaeva (Princess Clara-Maria), Mihail Sosnovschi (Prince Alexej),
Eno Peci (Baron Max von Drosselberg), Shoko Nakamura (Fairy of the North)
1. Tchaikovsky: The Nutcracker

 ホワイトならぬ雨のクリスマスとなったウィーンですが,昨年ブダペストのオペラ座で子連れでも大丈夫だったのに味をしめ,今年はウィーン国立歌劇場に挑戦しました。「くるみ割り人形」は欧州では年末の風物詩ですが,ウィーンのツァネラ版はどちらかというと大人向けなアレンジで,踊りはたいへん美しいものの,かぶり物がないのでうちの娘は途中から退屈していました。ストーリーもかなり普通と違っていて,ヒロインのおじ様はネズミの親玉(に相当する悪者)に変身してしまいます。基本はさらわれた王女クララ・マリアを追いかけるアレクセイ王子というラブストーリー仕立てになっていますが,筋よりも場面場面のシーケンスをいかに見せるかに重点が置かれています。本来主役であるはずのくるみ割り人形は,追跡する王子のための目印にと王女がばらばらに分解してしまいます,ひぇ〜。追いかける道中に世界中を回り,スペイン,中国,アラビア等の有名な踊りが披露される仕掛けなわけです。曲順をだいぶいじってあり,抜けた曲があるかと思えば「ロメオとジュリエット」が挿入されたりして,かなり自由にアレンジされた構成でした。
 この日は中村祥子さんが北方の妖精という,黒白の衣装を使い分け,雪のワルツや花のワルツをソロで踊る,なかなか美味しい役どころを演じていました。この人めちゃめちゃ背が高く,堂々と見栄えのする踊りはたいへん素晴らしかったです。他に日本人では菅野茉里奈さんがクレジットに載っていました(ピエロの踊りのイタリア人役)。そういう事情もあってか日本人観客が非常に多かったです。王女のTanikpaevaもバリバリ東洋系の顔だなと思って調べたらカザフスタン人だそうで,雪の精の中にも何人か東洋系の顔があり,アジア人のウィーン進出は昨今著しい様子がうかがえました。
 比較しちゃいかんでしょうけど,さすがはウィーンフィル,やはりハンガリーの歌劇場と比べてオケが抜群に良いのが感動的でした。さらにこの日は第1コンマスのキュッヒルもピットに座っていました。聴衆はブダペストのように始終ざわざごほごほしていることはなかったのですが,上演中にもフラッシュバシャバシャ焚いて写真撮る奴(もちろん本当は厳禁)が結構いたのは観光大都市ウィーンならでは,ということでしょうかね。


2005.12.17 Hungarian State Opera House (Budapest)
Adam Medveczky (Cond), Miklos Gabor Kerenyi (Dir)
Eva Batori (Cho-Cho-san), Jutta Bokor (Suzuki), Istvan Kovacshazi (Pinkerton),
Tamas Busa (Sharpless), Istvan Rozsos (Goro), Sandor Egri (Bonzo)
1. Puccini: Madama Butterfly

 まあオペラにつっこみは野暮を承知で感想を書きますれば,蝶々夫人は日本人演出家でもない限りいつでもこんなものなのかもしれませんが,やはりというか何というか,怪しさ満開の演出でした。全幕共通の舞台装置は,巨大な障子の壁を背後にフレキシブルに移動できる引き戸が場面に応じて寝室や客間を現し,かなりシンボリックなものでした。蝶々夫人は何故かずっと洋服でしたが,15歳と言い張るにはあまりにも無理な白塗りむちむちおばさん,他の日本人役連中もみな白塗りの顔に怪しい着物で,坊主にいたっては,キミなに人や?と聞かざるをえない無国籍キャラクターで,つっこみどころ満載でした。似て非なる,というよりは,似てもいないし単なる非,としか表現しようがないハンガリーの日本料理や中華料理を何かしら彷彿させるものでした。子役はけなげでかわいかったし,歌手のレベルが総じて高かったのが幸いです。


2005.12.13 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
Zsolt Hamar / Pannon Philharmonic Orchestra - Pecs
Hungarian National Choir
Aniko Fur (Jeanne), Tamas Dunai (Dominic),
Cecilia Szell (S-Maria), Angelika Czaban (S-Margaret), Kornelia Bakos (A-Catherine),
Zsolt Derecskei (T-Voice, Swine, 1st Herald), Laszlo Ladjanszki (B-Voice, 2nd Herald)
1. Honegger: Jeanne d'Arc au Bucher

 オネゲル代表作の劇的オラトリオ「火刑台上のジャンヌ・ダルク」ですが,実演を聴くのは実は初めてです。CDも持っていないので,イングリッド・バーグマン主演の同名映画DVDで予習しました。
 指揮のHamarは若いのに貫禄にあふれ,バトンテクニックも巧みな才能溢れる新鋭です。パンノンフィルはペーチ市のローカルオケで,コンマスを筆頭として団員がほとんど女性なのに驚きました。特に弦楽器はコントラバスを除いて,男性は2名くらいしかいなかった。オケはブラスがちと弱かったです。歌手も小粒で,すぐに伴奏に消されてしまっていました。俳優は二人とも良かったです。ジャンヌ役は途中盛り上がると感極まって声からしながらの熱演,聖ドミニコ役は逆に冷静沈着,渋く威厳のある演技でした。しかし暑かったのか演奏中にジャケットを脱いでマイクを落っことしていたのはちょっといただけませんでしたが。今回のは多少動きはあるものの演奏会形式でしたので,次はオペラ形式で見てみたいものです。


2005.11.27 Hungarian State Opera House (Budapest)
Gergely Kesselyak (Cond), Viktor Nagy (Dir),
Szilvia Ralik (Tosca), Istvan Kovacshazi (Cavaradossi),
Anatolij Fokanov (Scarpia), Peter Fried (Angelotti)
1. Puccini: Tosca

 当初はブダペストフィルのシェフRico Saccaniが指揮の予定でしたがいつのまにか新鋭のKesselyakに変更されていました。しかしそれが吉と出たのか,オケがいつになく良く鳴っていて力の入った演奏でした。主役の3人もドラマチックによく頑張っていたのですが,オケの音量が大きすぎて声がかき消されるのが何回かありました。トスカのソプラノは何度か見たことがあるなと思ったら,昨年は「サロメ」やヴェルレクで,今年もコバケンの第九で聴いていました。演出は細部にこだわりを持ちながらも極めてオーソドックスな部類でした。ただ,演奏中に大道具が一か所はがれ落ちたり,ゆらゆら揺れたりして不安定なのが気になりました。見た目より低予算なのかな…。


2005.11.25 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
John Nelson / Budapest Festival Orchestra
Boris Berezovsky (P-2)
1. Beethoven: Leonore Overture No. 2
2. Chopin: Piano Concerto No. 1 in E minor
3. Schumann: Symphony No. 2 in C major

 ロシアの若手ピアニスト,ベレゾフスキーは期待に違わずたいへんなテクニシャンで,音が非常に澄んできれいです。ニュアンスも細やかでいたく感心したのですが,何かが足りない気がする。アンコールで「ショパンのエチュードを編曲した何とかかんとか」と言って演奏した曲が左手オンリーの非常に難しそうな曲だったので,アンコールであえてこれを持ってくるということからして,あーこの人はまず何より「テクニック見せびらかしたい人」だったんだな,と納得しました。(もちろんそれだけではないのでしょうけど)
 メインのシューマンは,すいません,時差ぼけのためか激しい睡魔に見舞われ,半分くらい寝てました。弦を厚くした太めの演奏で,取り立てて個性は感じられなかったものの,良い演奏だったと思います。


2005.10.30 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
Franz Welser-Most / The Cleveland Orchestra
1. Brahms: Academic Festival Overture
2. Ives: Symphony No. 2
3. Brahms: Symphony No. 1 in C minor

 ステージの様子がいつもと違うのであれっと思ったら,雛壇がない。全くフラットな舞台に各楽器が配置されていたのですが,これがクリーヴランドのスタイルなのでしょうか。
 さてこの演目だと無理もないのですが,アメリカ的な派手さは影をひそめ,弦楽器を筆頭に非常にヨーロッパ的で厚みのあるサウンドを奏でていました。雛壇がないせいで金管は直撃ではなくまろやかにワンクッションおいて耳にたどり着くような感じです。とにかく弦と木管がひたすら上手く,それに比べるとホルンなどは危ない場面が何度もありました。
 アイヴズはアメリカ民謡などをモチーフとしながらもひたすらクラシカルな進行を続け,最後の最後でちゃぶ台をひっくり返すようなカタストロフィーがしびれる曲,という認識だったのですが,FWMの解釈では最後の不協和音が極端に短く「ジャン」とあっさり終わって肩透かしをくらいました。これ見よがしに最後の和音をフェルマータするバーンスタインの対局ですが,これだと普通のエンディングで何人かの奏者が音を外した,と錯誤した人が多数いたのでは?
 ブラームスも一切の奇をてらわない演奏で,終始弦楽器が主役でした。FWMは生真面目な指揮ぶりながらもあまり細かいところまでは振り込まず,その重層的スケール感はどちらかというとオケの持ち味という印象を受けました。決して粘らず,かといってさらっと進まず,重厚にきびきびと進行する正統派ドイツ風な演奏ながら,最後のコラールでむしろスピードを上げ一気にコーダまでかけ進むところがちょっと意表を突かれユニークでした。それにしてもFWMは無表情,ちったあ愛想を振りまけよ〜。


2005.10.21 Academy of Music (Budapest)
Irwin Hoffman / Budapest Concert Orchestra MAV
Jeno Jando (P-2)
1. Kabalevsky: Colas Breugnon - overture
2. Tchaikovsky: Piano Concerto No. 1
3. Prokofiev: Symphony No. 5

 MAV交響楽団はハンガリー国鉄が抱えるオーケストラで,今年設立60周年を迎えるそうです。対外的にはブダペスト・コンサート・オーケストラを名乗っており,何でも1999年の三大テノール日本公演でレヴァインの指揮のもと伴奏したのがこのオケだとか。指揮のホフマンは解説によると1968-69にマルティノンとショルティの間のつなぎとしてシカゴ響の音楽監督を務めたという輝かしい経歴があるそうです。ヤンドーはハンガリーピアノ界の大御所で,NAXOSに多数録音がある看板ピアニストの一人です。実はいずれも演奏を聴くのは初めてでした。
 ヤンドーのピアノはちょっと力みすぎ,音が濁っているように思うのは楽器のせいでしょうか?なんかミスタッチも多くてちょっと興ざめです。NAXOSのDiscographyを見る限りかなり節操なく幅広い守備範囲をお持ちのようですが,チャイコフスキーは得意レパートリーではないようです。
 MAV響は年配者が多く,あまり上手なオケとは言えませんでした。管打楽器はミスが多く,弦もけっこうヘタレで萎えます。それでもこちらのオケはどこもボウイングだけはぴしっと揃っていて,これも一つの伝統でしょうか。しかし,このプロコフィエフ5番が易しい曲ではないのはわかりますが,プロならもうちょっとしっかりしてよと思うこと度々。ホフマンの指揮も特に何ということはなく,四角四面で盛り上がりに欠けるものでした。MAV響の今シーズンにはシモノフやコバケンも振りに来ますが,うーむ,私はもういいかなと。


2005.10.19 Hungarian State Opera House (Budapest)
Janos Kovacs (Cond), Attila Vindnyansky (Dir),
Eva Batori (Katerina), Janos Gurban (Boris), Denes Gyulas (Sergei),
Peter Kiss (Zinovy), Cleo Mitilineou (Aksinya)
1. Shostakovich: Lady Macbeth of Mtsensk District

 名作交響曲第5番誕生のきっかけとなったという逸話で名前だけは有名なこのオペラですが,上演される機会は少ないようで,当然私も聴くのは今回が初めて。主要人物の誰にも同情できず,全くとんでもないストーリーですが,このオペラが退廃的なのは原作がそうなのであって,別にショスタコーヴィチのせいではないのでは…。
 この日の指揮者はやっぱりKovacs Janos。オーソドックス寄りなのでしょうが,なかなか凝った演出で長丁場ずっと飽きることがありませんでした。白いローブの若い青年と少女が要所要所に出てきて男女の愛をシンボリックに表現するのですが,ヒロインが夜這いされる場面では青年の方がいきなりローブをすぱっと脱ぎ捨てすっぽんぽんになったのには驚きました。少女(けっこうかわいい)も脱ぐのかと,あわててオペラグラスを取り凝視しましたが,そぶりだけで結局脱ぎませんでした,残念。


2005.10.14 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
Vladimir Ashkenazy / NHK Symphony Orchestra
Soile Isokoski (S-2)
1. Takemitsu: A Flock Descends into the Pentagonal Garden
2. R. Strauss: Four Last Songs
3. Debussy: Jeux
4. Ravel: Daphnis et Chloe - Suite No. 2

 超久しぶりのN響。こちらに来てから期待外れの演奏も結構たくさん聴いたので,「おっ,N響もなかなかやるじゃん」と思えるのではないかと密かに期待していたのですが…。こうも歴然と差があるとは逆に思いもしませんでした。まず弦の音が非常に貧相,管もただ一本調子で艶も何もあったもんじゃありません。おかしいなあ,管に比べて少なくとも弦はもうちょっとしっかりしていた記憶だったんですが。自信がないのか,慎重なのか,あるいはただ疲れていたのか,何故かはわかりませんが,楽器が全然鳴ってません。ボウイングもちぐはぐで全くアマチュアオケのようです。アシュケナージの指揮がステージの上の反響板あたりでずっと空回りしているかのようでした。
 それにしてもこの真っ向勝負を避けたような選曲は何なのでしょうか。それならば日本人らしい几帳面なアンサンブルを聴かせてくれるのかなと思いきや,それもなし。このプログラムで一体何をしたかったのか,皆目わかりませんでした。今回の欧州ツアーのこれはBプロに当たるのですが,Aプロの方はベートーヴェンのVn協とショスタコの8番だそうで,このABのアンバランスも大いに謎です。
 最後の「ダフニスとクロエ」は,意外とと言えば失礼かもしれませんが管楽器が最後まで破綻せずに持ちこたえてました。フルートソロも非常に良かったです。アンコールはフォーレのパヴァーヌ,かたくなに一貫したトーンを守り貫いていました。
 しかし,とうとう風邪の季節がやってきて,あっちゃこっちゃでゴホンゴホンとうるさかったです。このプログラムだったから特に…。ハンガリー人は咳をするとき口に手を当てる習慣はないのだろうか?携帯鳴らすヤツも相変わらずいたし,もーええかげんにしなさい!


2005.10.07 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
Zoltan Pesko / Hungarian National Philharmonic Orchestra
1. Mahler: Symphony no. 7

 ペシュコはハンガリー出身ですが途中西側に亡命し,歌劇場を転々としながら地道に活動していたようで,正直私は今まで名前すら知りませんでした。大きな身振りで基本通りのきっちりした指揮をする人で,それでも固い演奏にならなかったのは年の功でしょうか。2,4楽章の「夜の歌」がたいへん叙情的で素晴らしく,とことん陰々滅々な1楽章,鋭く諧謔的な3楽章,大咆哮の終楽章も負けじと良かったです。全体的にかなりロマンチックにかたよった演奏で,今では古臭いタイプと言われるのでしょうが,私はこういうのが結構好きです。オケも序奏部でトランペットがトチった以外は最後まで緊張が切れることなく見事なアンサンブルを聴かせていました。コーダでは両手で指揮棒を握り全身を振り回して(最近こういう人をあまり見なくなりました)オケの音を頂点まで持っていきます。国立フィルが今までにないくらいよく鳴っており,なかなかの快演だったと思います。アンコールはマイスタージンガー前奏曲,こちらも快速飛ばし気味ながらたっぷりロマンチックに聴かせていました。
 余談ですが,だいたいいつも2ndバイオリンの一番前に座っている,メグ・ライアンばりの笑顔がとってもキュートな眼鏡のお姉さんの私はファンなのですが,今日は特に彼女がよく見える席だったのでさらに満足度アップでした。


2005.09.29 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
Ivan Fischer / Budapest Festival Orchestra
Radu Lupu (P-2)
1. Weber: Der Freischutz - Overture
2. Schumann: Piano Concerto in A minor
3. Brahms: Symphony No. 2 in D major

 くしくもシューマンのピアノ協奏曲を連続して聴き比べる機会を得たわけなのですが,前回のグリモーとルプーでは,いやー,役者が違いましたな。ルプーにとっちゃあこの曲など夕食の献立を考えながら足でも弾ける,くらいに弾き慣れた曲なんでしょう,見るからに余裕のよっちゃんでした。意外と武骨なグリモーとは対照的に,女性的というわけでもないのですが,表現は緩急強弱変幻自在,実にエレガントでチャーミングなピアノでした。オケも重厚で良くコントロールされており,正統派名演と呼ぶにふさわしい演奏だったと思います。魔弾の射手,ブラームス2番も均整の取れた好演で,総合的にもなかなか良い演奏会でした。これで隣りのおばあさんがもうちょっと静かにしていてくれたら…。本日も演奏中に靴をきゅーきゅー鳴らしたり,pppの箇所でおもむろに上着を脱ぎ出したり,いろいろやってくれました。お願いだからもう来ないで下さい。(と言ってもシーズンチケットなので,今シーズンはこの先ずっとこの人が隣りなのだよなあ…。しくしく)
 アンコールはハンガリー舞曲の21番と14番というマニアな選曲。やる前に聴衆に「何番が良いですか」と聞いていて,4番という声が多かったのですが(私は6番を主張しましたが),ただ「聞いてみただけ」だったようです。なぜなら,14番や21番という声は一つもなかったぞ!


2005.09.18 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
Sir Roger Norrington / Stuttgart Radio Symphony Orchestra
Helene Grimaud (P-1), Anu Komsi (S-2)
1. Schumann: Piano Concerto in A minor
2. Mahler: Symphony No. 4

 会場に行ってみると,ブラームスのP協第2番からシューマンに急きょプログラムが変更になっていました。演奏中に何度も咳をするなど,見たところグリモーの体調は万全ではなかったので,それも理由の一つかもしれません。とは言え,さすがに今売出し中の人気ピアニストだけあってテクニックはほぼ万全でした。美人で華奢なそのいでたちからは想像つかない,ずいぶん硬質で男勝りのピアノを弾く人です。多少雑に思えた部分もあったのは体調のせいでしょうか。そのグリモーとは対照的に,オケはずいぶん女性比率が高く,コンサートマスターもうら若き女性で,全体的にマイルドで柔らかい音色でした。弦楽器がノンビブラートを基本としているのも要因でしょうか。演目がマーラーだったので多少ふぬけた印象も禁じ得ませんでしたが,時々オルガンが鳴っているのかと錯覚するような透明感と質感が新鮮でした。ノリントンの解釈は想像通りテンポゆらしは最小限に止め,いろんな音がクリアに聞こえてくるクールなものでしたが,全体的にはアンバランスな演奏に思えました。ただ,終楽章のソプラノは表情豊かで非常に良かったです。このマーラー4番は最後良ければ全て良し,みたいなところがありますから,これはこれで結果オーライかもしれません。でもわたしはやっぱりバーンスタインの熱いマーラーの方が好きだなあ。それにしてもノリントンがマーラーにまでレパートリーを拡げるとは,何か隔世の感があります。
 アンコールはハンガリー舞曲の5番,次いで1番,というサービスぶり。聴衆大ウケ。ノリントンも「どうだ」と言わんばかりに見栄を切り,最後はちょっとおちゃらけた雰囲気になってしまいました。
 今回は隣りに座った超デブおやじが,寝ているわけでもないのに始終「ぶひー」と音を立てて呼吸をしていて,参りました。息をするな,と言うわけにもいかないし…。不運でした。マーラー終楽章で携帯鳴らす阿呆がこの日もやっぱりいました。ブダペストの聴衆はもうちょっとマナー向上してくれないものか,と毎回切に思います。


2005.09.15 Hungarian State Opera House (Budapest)
Janos Kovacs (Cond), Andras Molnar (T-1),
Janos Gurban (Suitor-2), Annamaria Kovacs (Mistress-2), Jolan Santa (Neighbor-2),
Erika Markovics (Girl-2), Istvan Kovacshazi (Young man-2), Sandor Egri (Rich man-2)
1. Kodaly: Psalmus Hungaricus
2. Kodaly: Szekely Spinnery

 コダーイ二本立て。演奏前に全員起立で国歌斉唱したのは始めてでちょっと驚きましたが,この「ハンガリー詩篇」演奏前には必ずやる慣習のようです。曲に特に思い入れのない私は「ふーん」と言うしかない,聴きどころのよくわからない演奏でした。「セーケイ・フォノー」の方は日本人には一風変わったハンガリーおよびルーマニア民謡調メロディーが満載で,演出も踊りも民族風,マニアから観光客まで幅広く楽しめそうな舞台だったと思います。その日は体調最悪だったのが残念,また見に行こう。


2005.09.08 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
Ivan Fischer / Budapest Festival Orchestra
Choir of the Hungarian Radio
Lisa Milne (S), Birgit Remmert (Ms)
1. Mahler: Symphony No. 2

 国内実力No.1のオーケストラ,祝祭管の今シーズンオープニングは「マーラーフェスト」と称して,マーラーの「復活」と「大地の歌」をメインに据えた2プログラム4公演でスタートしました。
 「復活」の方は,ダイナミックレンジが広くメリハリの効いた,大変迫力ある感動的な演奏でした。フィッシャーの指揮はどちらかというと最近誰でもそうなように,構造主義的な側面が若干優っているように感じられましたが,きびきびとした進行で非常に格好良いものでした。シカゴ響を振ってた頃の昔のアバドに近い気もしました。
 それにしてもブダペストの聴衆のマナーは相変わらず悪い。絶えずざわざわごそごそしていて,ところかまわず「ごっほーん」をやる人は今年も後を絶たないし,二つ隣りに座ったおばあさんは静寂な箇所でもかまわずバッグのチャックを「ち〜」と開けておもむろにティッシュを取り出し,「ぶーん」と鼻をかみ,バッグにしまい込んで,またチャックを「ち〜」と閉める。せめて閉めるのは演奏が終わってからにしろ!あげくは,4楽章冒頭でメゾソプラノが歌い出す,この長大な曲中最も集中すべき厳かな箇所で携帯鳴らすヤツまで出てくる始末。前から3列目のど真ん中に座っていた,お前だお前!さすがに周りから指を指されていました。
 というわけでブチキレ寸前,せっかくの好演も嬉しさ半減というところでした。しかし9月でさっそくこれでは,寒い冬がきて風邪の流行る季節になったらいったいどうなることかと,今から非常に心配です。


2005.09.07 Palace of Arts, Festival Theatre (Budapest)
Ivan Fischer / Budapest Festival Orchestra
Andrea Melath (Ms-1), Cristina Zavalloni (Ms-2), Nathalie Stutzmann (Ms-3),
Howard Haskin (T-1,3)
1. Tihanyi: Mahler's Wunderhorn (world premier)
2. Berio: Folk Songs
3. Mahler: Lied von der Erde (arr. by Schonberg & Riehn)

 シェーンベルク編曲の室内楽版「大地の歌」を初めて聴きました。伴奏の音の厚みはもちろん激減しているのですが,違和感は全くありません。元々この曲は交響曲というより全くの歌曲で,主役はあくまで歌手ですので,むしろ全体的にすっきりして原曲よりある意味良い感じ,好感持てる編曲です。ただ,終楽章でオケパートが長く続く箇所はちょっと間が持たないと言うか,変化に乏しく中だるみしてしまう印象も持ちました。演奏は,オケはトップメンバーの名手揃いでなかなかのもの,黒人テナーHaskinは張りのある美声だがちょっと音程危ういところあり,メゾは渋く手堅い,でもちょっと地味な歌唱でしたが,全体的には良くまとまった好演でした。


2005.07.10 Szent Istvan Square (Budapest)
Zoltan Kocsis / Hungarian National Philharmonic Orchestra
1. Tchaikovsky: The Nutcracker - suite
2. Tchaikovsky: Romeo and Juliette - overture fantasia
3. Tchaikovsky: Symphony No. 4 in F minor

 イシュトヴァーン大聖堂前広場での野外コンサート。オケメンバーのほぼ一人一人にマイクが立てられ,音は基本的にPAスピーカーから聴くことになるのは野外だからしょうがないとしても,音量が大きすぎてバランスも悪かったため,演奏に集中する気を失わせるには十分なデリカシーのなさでした。チャイコ4番の冒頭で救急車がサイレンならして通過したため演奏をやり直すなど,何か非常に落ち着かないコンサートで,二度と野外コンサートには行くまいと思いました。


2005.05.26 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
Zoltan Kocsis / Hungarian National Philharmonic Orchestra
Ilya Gringolts (Vn-2)
1. R. Strauss: Macbeth
2. Prokofiev: Violin Concerto No. 1 in D major
3. Brahms: Symphony No. 2 in D major

 Ilya Gringoltsは見た目がオカマチック(失礼!)なだけでなく,演奏はそれ以上に女性的でデリケートなものでした。それがこのプロコフィエフの1番にあまりにハマっていたので,休憩時間に彼が演奏する同曲のCDをつい買ってしまいました。メインのブラ2は後くされのないというか,早めのテンポでぐいぐい進むのは良いとしても,もう一つ何か面白みに欠ける演奏でした。コチシュの指揮はどうも私には相性が良くないです。


2005.05.01 Hungarian State Opera House (Budapest)
Sir Simon Rattle / Berliner Philharmoniker
(Europakonzert 2005)
Leonidas Kavakos (Vn-2)
1. Berlioz: Le Corsaire - overture
2. Bartok: Violin Concerto No. 2
3. Stravinsky: L'Oiseau de Feu (Firebird)

 ベルリンフィルが毎年創立記念日の5月1日に欧州各都市で開催している「ヨーロッパコンサート」が,今年はブダペストにやってきました。会場がコンサートホールではなく国立歌劇場なのは,古都の雰囲気を重視したからでしょうか?
 普段ここを本拠地としているブダペストフィルが,いつ聴いても音が汚くアンサンブルが悪いように感じられるのはもしかしたら国立歌劇場の音響のせいかもしれないと少し思っていたのですが,ベルリンフィルが演奏すれば弱音の何と繊細なことよ,トゥッティの何と決まっていることよ,弦の音色の何と美しいことよ,全てがブダペストフィルとは雲泥の差で,これはやはりオケの実力なのだなと確信が持てました。
 バイオリンのKavakosは2月に祝祭管で見たときとはだいぶ印象が異なり,荒い鼻息で必死に弾いていて余裕がほとんど感じられませんでした。曲想のせいでもあるでしょうし,体調が悪かったのかもしれませんし,ベルリンフィルとの共演はプレッシャーだったのかもしれません。真相はわかりませんが,しかし演奏そのものは始終緊張感を保った好演でした。この日のベルリンフィルは先日のシカゴ響ほどノーミス,完璧な演奏ではありませんでしたが,メインの火の鳥は繊細な箇所はとことん繊細に,盛り上げる箇所は驚くほど大胆に,非常に良くコントロールされた,いかにもラトルらしい演奏でした。ラストに頂点を持ってくるよう全体の流れを周到に作り上げたその術中に私もまんまとはまり,最後はじゅわーんと涙腺を揺さぶられました。素晴らしい,の一言です。例年通りだと来年春にはこの演奏会のDVDが出ると思いますが,絶対買いです。自分も映ってるといいな。


2005.04.27 Erkel Theatre (Budapest)
Gyula Harangozo, Jr. (Choreography), Valeria Csanyai (Cond)
Irina Tsymbal (Snow White), Katalin Hagai (Stepmother), Zoltan Olah (Princess),
Zoltan Nagy (Huntsman), Levente Bajari (Old Woman), Balazs Delbo (Dopey)
1. Kocsak: Snow White and the Seven Dwarfs - Ballet

 エルケル劇場が「子供が楽しめる演目を」ということで新たに委嘱し,今年プレミアとなった新作バレエです。大もとの原作はもちろんグリム童話ですが,タイトルからも分かるとおり全くディズニーのアニメを下敷きにしています。子供向けと言うだけあってメロディーも憶えやすく,舞台装置,演出,振り付け,どれを取っても楽しさあふれるバレエに仕上がっています。あまりの人気で急きょ公演を追加したのも納得できます。もちろん音楽的にもプレイ的にも目新しい志向や試みは何一つありません。恥ずかしいくらいにディズニーの踏襲です。まあややこしいことは何も考えず子供と一緒に楽しむには良いかな。


2005.04.14 Hungarian State Opera House (Budapest)
Janos Kovacs (Cond), Sandor Zsoter (Dir)
Eszter Wierdl (Donna Clara-1), Anna Herezenik (Ghita-1), Jozsef Csak (Dwarf-1),
Zoltan Batki Fazekas (House Master-1), Maria Zempleni (Woman-2)
1. Zemlinsky: Der Zwerg (The Dwarf)
2. Schonberg: Erwartung (Expectation)

 本来はお互い全く関連のないミニオペラの二本立てですが,中央にエレベーターがある二階建てビルという舞台装置を両方で共有していました。この一文で早速ご推測の通り,演出はかなりシンボリックなものになっていて,もちろんこれらのオペラを見るのは初めての私には何が何だかちんぷんかんぷんでした。事前にあらすじも調べましたが,全然ちがうじゃん,みたいな。「こびと」では主人公が鏡を覗き自分の醜い姿を知る代わりにお姫様が逆立ちしながらお乳をポロリと出すし(ホンモノかどうか良く確認できなかったのが残念ですが),「期待」の方もエレベーターに乗って上がったり下がったりしながら(モノオペラですので)一人で切々と歌っていて,なぜこのオペラにそのシチュエーション?という疑問は最後まで拭えませんでした。まあ音楽が新ウィーン楽派なだけに,ドン・ジョヴァンニをモダンな演出でやるようなのに比べたらはるかに違和感は少なかったですが。


2005.04.08 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
Gilbert Varga / Hungarian National Philharmonic Orchestra
Ingrid Fliter (P-1)
1. Beethoven: Piano Concerto No. 5 in E flat major
2. Shostakovich: Symphony No. 10 in E minor

 アルゼンチンの若手美人ピアニスト,フリッターがどうにも期待外れでした。「皇帝」とはうらはらのメリハリのないふにゃふにゃした演奏で,オケも負けじとへらへらしていて,何だかやる気がほとんど感じられませんでした。今日はダメな日かなと半ば諦めていたところ,メインのショスタコでは雰囲気が一変,非常に鋭く迫力のある,かつ奥行きの深い演奏だったので,良い方向に期待が裏切られました。
 ヴァルガはいかにもハンガリー系の名前ですが実は英国生まれで,これまで室内管弦楽団の指揮を中心に活動してきたということを解説で読み,さらにびっくり。この人の指揮ならまた是非聴いてみたいと思いました。


2005.03.31 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
Pierre Boulez / Chicago Symphony Orchestra
Daniel Barenboim (P-2)
1. Bartok: Four Pieces for Orchestra
2. Bartok: Piano Concerto No. 1
3. Bartok: Concerto for Orchestra

 これ以上はないという豪華な取り合わせと選曲で,チケット発売は半年以上前だったにもかかわらず即完売,立ち見席の当日売りカウンターにも今まで見たことないような長蛇の列で人が並んでいました。私は特にブーレーズが好きというわけではなく,むしろ苦手な部類ですが,それでも「リファレンス」の演奏としてむしょうに聴いてみたくなることがあります。
 さて,第1番はバルトークの3つのピアノ協奏曲の中でも特に硬派でストイックな曲なので,今や結構お年を召してしまったバレンボイムにはどうかと最初は思ったのですが,どうしてどうして,鋭くパーカッシブなピアノはみじんの衰えや弛緩も感じさせず,全くの杞憂でした。ああこの人は元々こういう曲を超得意としていたのだったなあということを思い出しました。オケコンは数あるクラシック曲の中で最も好きな曲の一つなのですが,私の好みからするとブーレーズの指揮はやや面白みに欠けるもので,それは最初からわかっていましたが,この日はとにかくシカゴ響のクオリティーに脱帽でした。ご当地でオールバルトークプロということもあって手抜きはなく,この難曲でミスなし,アンサンブル完璧,音圧十分,もう言うことなしです。世界最高峰の実力をとくと聴かせていただきました。願わくば,席がもう少しステージに近かったら。この演奏会は本当にチケット入手が難しく,1階席(日本で言うと2階席)正面を取るのがやっとでしたので。


2005.03.25 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
Jukka-Pekka Saraste / Budapest Festival Orchestra
Dezso Ranki (P-2)
1. Berlioz: Beatrice et Benedicte - overture
2. Mozart: Piano Concerto No. 9 in E flat major, K 271
3. Nielsen: Symphony No. 4

 ピアノは当初ポルトガルのベテランMaria Joao Piresの予定だったのですが直前にキャンセルになり,地元の英雄ラーンキが代役に抜擢されました。おそらくハンガリーの聴衆にはその方が良かったのでしょう,開演前に主催者がピアニスト交代の旨を告げると大きな拍手がおこっていました。「ジュノームコンチェルト」はたいへん軽やかで柔らかい,これぞモーツァルトの基本とでも言うべき模範的演奏でした。
 しかし私の目当ては何といっても「不滅」。かつてティンパニストのはしくれだった者として,一度は一流の実演で聴いてみたかった曲でした。サラステは祝祭管初登場だそうですが,全くそんな感じがしない巧みな棒さばきで引き締まった演奏を聴かせます。左右に配置されたティンパニがまた素晴らしくバランスが良かった。この曲の魅力と祝祭管の実力を共に十分に引き出して見せたサラステ,ただ者ではないと思いました。またその立ち姿がかっこいい。スマートな長身にピンとのびた背筋,拍手に答えてオケを立たせるのも非常にスマート,前日のコバケンの泥臭さ(それはそれで微笑ましかったですが)とは月とスッポンの違いでした。


2005.03.24 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
Ken-ichiro Kobayashi / Hungarian National Philharmonic Orchestra and Choir
Szilvia Ralik (S), Bernadett Wiedemann (Ms), Attila Fekete (T), Istvan Kovacs (B)
1. Kobayashi: Passacaglia
2. Beethoven: Symphony no. 9 in D minor

 ハンガリーでのコバケン人気は相変わらずで,チケットは早い段階でソールドアウトになっていました。またこの日はスプリング・フェスティバル中の公演で,当地で最も著名な日本人であるコバケンの第9ということもあり,日本大使はじめ多数の日本人が聴きに来ていました。「パッサカリア」は自作だけあって聴かせどころを知り尽くした好演,オルガンや和太鼓も登場するその派手なオーケストレーションが聴衆の心をがっちりとつかんでいました。コバケンの第9は日フィルのを昔聴いたことがありますが,うなる箇所も全く同じ,基本的に何にも変わっていませんでした。ただこの日は「炎のコバケン」にしては演奏は意外と盛り上がらず,中途半端に流れた印象でした。拍手もわりとすぐに下火になっていったせいか,アンコールなしでした。


2005.03.10 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
Zoltan Kocsis / Hungarian National Philharmonic Orchestra
Barnabas Kelemen (Vn-2), Miklos Perenyi (Cello-2)
1. Rossini: La Gazza Ladra (The Thieving Magpie) - overture
2. Brahms: Double concerto in A minor
3. Dvorak: Symphony No. 7 in D minor

 ベテランPerenyiと若手Kelemenの世代闘争バトルが繰り広げられるかと思いきや,二人とも穏健派で比較的遠慮がちにお互いをいたわるような,もう一つ刺激のない演奏でした。まあこれはこれで良いのかもしれません。メインのドヴォルザークは余計な情感なしにキリっとした演奏で,この曲にはよくマッチしていたのではないかと思います。


2005.02.23 Hungarian State Opera House (Budapest)
Janos Kovacs (Cond), Gergely Kesselyak (Dir),
Tamas Busa (Don Giovanni), Klara Kolonits (Donna Anna), Istvan Kovacshazi (Don Attavio),
Kolos Kovats (Commendatore), Zsuzsanna Fulop (Donna Ervira), Pantea Ionel (Leoporello),
Viktor Massanyi (Masetto), Cleo Mitilineou (Zerlina)
1. Mozart: Don Giovanni

 昨シーズンからの新演出だというのでイヤな予感がしていたら,やっぱり演出はモダン系でした。衣装はまだ中世的なものの,舞台にはらせん状のステージがでんと置かれ,どの幕でもそれをベースに,引き出しから小物を取り出したりしつつ展開していきます。最後の地獄落ちでは舞台装置ではなくオーケストラピットの方がせり上がってきたのにはびっくりしました。とりあえずこれでモーツァルトの4大オペラ(フィガロ,コシ,魔笛とこれ)は無事制覇。


2005.02.20 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
Charles Dutoit / Budapest Festival Orchestra
Leonidas Kavakos (Vn-2)
1. Berlioz: Roman Carnival Overture
2. Tchaikovsky: Violin concerto in D major
3. Stravinsky: Petrushka (1911)

 世界中を飛び回っているギリシャ人の人気バイオリニストKavakosは期待に違わず大したテクニシャンで,この難曲をこれほど軽々と余裕のよっちゃんで弾きこなす人は初めて見ました。この曲に関しては非常に私の好みに合うスピーディでクールな演奏でした。ペトルーシュカはいかにもデュトワが得意そうな曲ですが,1911年版という重いスコアを選びつつもフレンチテイスト満開の軽やかな演奏を聴かせていました。しかしこれならもっと音がすっきりと整理された1947年版を選んだ方がよかったのでは,という感想も持ちました(そっちの方が私の好みでもありますし)。デュトワの指揮を生で見るのはモントリオール響,N響に次いで3度目でしたが,やっぱりこの人にN響はずいぶんと役不足だったのではないかと思ってみたり。


2005.01.31 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
Zoltan Kocsis / Hungarian National Philharmonic Orchestra
Katalin Kokas (Vn-2)
1. Berlioz: Roman Carnival Overture
2. Sibelius: Violin concerto in D minor
3. Dvorak: Symphony No. 9 in E minor (From the New World)

 チケットを買ってから気付いたのですが,これはどうもチャリティーコンサートで,1階席(日本で言うと2階席)から上は全て入場無料だったようです。0階席も一律料金で全席自由だったので,早めに入って最も音響の良さそうと思える席を陣取りました。
 コカシュは目下売出し中のハンガリーの若手バイオリニストで,たいへん美人です。一生懸命演奏するそのけなげな姿がまた良いのですが,まだまだ線が細すぎる印象も持ちました。ただ,この日のシベリウスはその女性的なバイオリンが曲によく合っていたようにも思います。新世界は,コチシュらしく快速でさらりと走り抜ける演奏でした。ピアニストとしてはエキセントリックで個性的ですが,彼の指揮者としての力量は果たしてどんなもんかと,私は常々疑問に思っています。


2005.01.29 Erkel Theatre (Budapest)
Gergely Kaposi (Cond), Geza Oberfrank (Dir),
Lajos Miller (Hary Janos), Erika Gal (Orzse), Apollonia Szolnoki (Mary Louise),
Tamas Albert (Napoleon), Sandor Kecskes (Emperor Francis), Csilla Otvos (Empress)
1. Kodaly: Hary Janos

 ハンガリーでは老若男女問わず知っている最も著名なオペラ(正確には音楽劇ですが)でしょう。私はそれまで管弦楽の組曲版しか知らず,子供でも楽しめるコミカルなものを想像していたので休日昼の公演に娘も連れていったのですが,あてが外れました。確かに子供に見せても良い喜劇的内容ではありますし,実際子連れの客もたくさんいたのですが,いかんせん言葉がわからないとこの長丁場はけっこう辛いです。娘も早々に飽きてしまい,後列の女学生グループ(彼女らも全然舞台に集中していなかった)に愛想を振りまいて遊んでいましたので,そのうち大声出さないか,走り出さないか,と親はヒヤヒヤものでした。なかなかよさげだったので,子供抜きでもう一回ゆっくりと見たいです。


2005.01.21 Erkel Theatre (Budapest)
Adam Medveczky (Cond), Miklos Szinetar (Dir),
Peter Kalman (Figaro), Ottokar Klein (Count Almaviva), Tamas Szule (Bartolo),
Apollonia Szolnoki (Rosina), Jozsef Gregor (Basilio), Csilla Otvos (Berta)
1. Rossini: Il Barbiere di Siviglia (Hungarian version)

 エルケル劇場では昨年見た魔笛やこうもり同様に,大衆的な演目は基本的にマジャール語版で上演されます。この「セビリアの理髪師」もその一つ。去年オペラ座の方で見た「フィガロの結婚」でフィガロ役をやっていた人がここでもフィガロを演じるという,妙な一貫性を保っていました。基本はトラディショナルな演出でしたが随所でギャグ的にユーロ紙幣だのクレジットカードだの携帯電話だのノートパソコンだのが小物で出てきて面白かったです。今度はオペラ座の方で原語でやってくれないかなあ,フィガロはこの人のままで良いので。


2005.01.08 Palace of Arts, National Concert Hall (Budapest)
Zoltan Kocsis / Hungarian National Philharmonic Orchestra
Andrea Rost (S-3,5,9), Zoltan Kocsis (P-5), Barnabas Kelemen (Vn-2,7)
Laszlo Gal (Hr-4), Anita Szabo (Fl-6)
1. Mozart: Symphony No. 25 in G minor, K. 183
2. Mozart: Rondo for Violin in B major, K. 269
3. Mozart: Nehmt meinen Dank, ihr holden Gonner!, K. 383
4. Mozart: Rondo for Horn in E flat major, K. 371
5. Mozart: Ch'io mi scordi di te, K. 505
6. Mozart: Andante in C major, K. 315
7. Mozart: Rondo for violin in C major, K. 373
8. Mozart: Bella mia fiamma, K. 528
9. Mozart: SymphonyNo. 40 in G minor, K. 550

 ブダペストに新しく完成した国立コンサートホールの「非公式」こけら落とし公演です。公式なオープニングは3月14日で2ヶ月以上も先であるため,まだまだ工事中の箇所が随所に見られました。壁やステージにベニヤ板むき出しの箇所が残っていたり,前3列の座席の工事が間に合わずパイプ椅子であったり。
 さてここを新しいホームグラウンドに獲得した国立フィルによるオープニングコンサートは,首席指揮者コチシュのタクトによるオール・モーツァルト・プログラム。ロシュト,ケレメンといった国民的人気演奏家が花を添えます。2つのト短調交響曲ではケレメンが何とコンサートマスターをしていました。最初オケ団員と一緒に出てきたとき,いつもと違うコンサートマスターがケレメンに良く似た顔だなあとは思いましたが,まさかソリストがそんな酔狂なことはしないだろうという思い込みから本人とは最初は信じませんでした。演奏が始まると,ソロの時と何ら変わらぬ大げさな身振りと表情,荒い鼻息から,ようやくその「まさか」が現実だと分かりました。
 ロシュトを見たのは初めてだったのですが,さすが,ハンガリー人現役歌手で最も世界的に有名なソプラノだけあって,たいへん美しい,というか,かわいらしい人です(実は大きな子供もいてそんなに若くないはずなのですが…)。もちろん歌の方も素晴らしい美声でしたが,本人はもう一つ満足していないような表情が印象的でした。何にせよ,このようなエポックメーキングな演奏会を最前列ど真ん中のかぶりつきで見ることができたのは一生の思い出として残るでしょう。(後日,ホールのホームページでランダムに出てくる写真の1つにしっかり写っている我々夫婦を発見して,恥ずかしいやら驚くやら。)


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