語る会モニター報告


2013年参院選・関連テレビ番組を検証する

2013831
放送を語る会



  

 はじめに ~対象を「番組」に限定したモニター~
Ⅰ、参院選関連番組の概要と問題点
Ⅱ、“ねじれ解消”が選挙の焦点、という報道の偏向
Ⅲ、政権政党への批判の弱さ ~取材した事実を対置する報道はどこへ~
Ⅳ、自民党の圧力と政権のメディア戦略の中での選挙
Ⅴ、一部の番組に公正、公平を欠く内容~問われるキャスター、コメンテーターの姿勢~
Ⅵ、政党間討論番組の問題点と課題
おわりに― 選挙報道番組の質・量の抜本的な改善を
 【資料】 各番組モニター担当者のコメントから

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はじめに
~対象を「番組」に限定したモニター~

 2013年7月の参議院選挙は、自民党が圧勝、公明党とあわせて政権与党が過半数を獲得した一方、民主党が惨敗、という、昨年の総選挙の傾向を引き継ぐ結果となった。
 今回の選挙では、ネットによる選挙運動が可能となり、その効果が期待されたが、選挙後の世論調査を見る限り、ネット情報を参考にした有権者の比率はそれほど高くなく、依然としてテレビの影響が大きかったと見られる。
 放送を語る会では、テレビの選挙報道の影響を重視する立場から、繰り返し国政選挙の時期にモニター活動を実施してきたが、今回の参院選でもこの活動を継続した。
 ただし、今回はモニター対象を大きく変えている。これまではテレビ各局の毎日のニュースを対象にしたが、今回はニュースではなく、定時の「番組」、あるいは特集「番組」を対象にした。多くは週一回の、比較的長い放送時間の番組群である。
 したがって、本報告で指摘する参院選報道の問題点は、テレビ選挙報道全体に関するものではなく、「番組」のモニターから導き出された主張である。このことを最初に断っておきたい。
 デイリーニュースでは、その日に起こった社会的事件の報道が含まれ、選挙報道に割かれる時間量には限界がある。また、事実や情報の伝達にとどまる、というデイリーニュース特有の傾向や限界も否定できない。
 これに比べて、週一回の番組群では、比較的長時間、集中した選挙報道が可能であり、有権者にたいする影響も小さくないはずである。同時に、モニターする側からは、その中にあるテレビ局側の意図や姿勢を検証しやすい面がある。
 こうした「番組」の特徴に注目し、各種番組の特徴や傾向を明らかにすることを試みた。この作業は、本来どのような選挙関連番組が望まれるかを考えることでもあった。

 モニターした主要な番組は次のとおりである。なお、モニター期間は6月から720日までとした。

【NHK】 「日曜討論」(日曜日9001000また~1030
      「参院選特集・争点を問う」
7149:0010:30
      「参院選特集・参院代表に問う」
(7月1421:0022:30

【日本テレビ】「ウエークアップ!ぷらす」(土曜日800925 読売テレビ制作)
       「ズームインサタデー」
(土曜日500800
       「真相報道バンキシャ!」
(日曜日18001855

【テレビ朝日】「報道ステーションSUNDAY(日曜日100011:40
       「朝まで生テレビ!」
(金曜深夜125~)
       「そうだったのか!池上彰の学べるニュース」
(不定期)

【TBS】  「みのもんたのサタデーずばッと」(土曜日5457:30
       「報道特集」
(土曜日173018:50
       「サンデーモーニング」
(日曜日800954

【フジテレビ】「新報道2001」(日曜日730855
       「Mr.サンデー」
(日曜日22:0023:15 関西テレビ共同制作)

【テレビ東京】「田勢康弘の週刊ニュース新書」(土曜日11301205
       「報道特番 池上彰のニッポンの大疑問」
(不定期)

 上記の一覧にあげた番組の中で、モニターしたところ、それほど大きく参院選を扱わなかったり、主として解説的な内容だった番組、また全く参院選を扱わなかった番組などがあり、それらは考察の対象から外している。
 モニターの方法は、これまでの選挙報道モニターと同じく、各番組に1~2人の担当者を決め、担当者が、番組内容の記録とその日の放送についてのコメントを報告するという方法をとった。記録はメンバー全体で順次読めるように共有し、その上で意見交換を行って本報告をまとめた。
 このように、個々の番組のモニターは、担当者の個人的な評価、感想をベースにしている。そのため、本報告に主観的な部分があることを免れない。しかし、批判は可能な限り放送内容の事実に基づいて実証的であるよう心がけた。また、一定期間、多数の番組をモニターしたので、そこから選挙関連番組の共通の傾向や問題点はある程度明らかにできたと考える。
 本報告が、あるべき選挙報道番組をテレビ局側に要求していくうえで、一つの問題提起になれば幸いである。

 なお、各担当者がモニターする際、昨年の総選挙報道検証の作業と同じように、次の3点に留意して視聴することにした。本報告が、この3つの視点でモニターした結果であることを付記しておきたい。

1)各政党の政策や主張が公平に伝えられたか(各党発言回数・時間配分などに重大な偏りはなかったか)
2)政治的争点がどのように報道されたか (政局報道に偏らず、改憲問題、歴史認識、原発・エネルギー政策、TPP、消費税・経済政策、雇用・賃上げ・社会保障など、重要な争点が深められる報道になっていたか)
3)キャスター・コメンテーターの論評、報道姿勢や編集方針に問題はなかったか

Ⅰ、参院選関連番組の概要と問題点

 この期間の選挙関連番組は、大別すると二つのタイプに分けられる。
 ひとつは9党の代表がスタジオ出演する「政党間討論タイプ」、もうひとつは、政党間討論ではなく、番組独自の視点で参院選の争点をとりあげる「論評タイプ」の番組である。
 これには、参院選の動向をニュースとして伝えるもの、また特定の政党代表を選んでインタビューする番組が含まれる。
 この期間の「政党間討論」の番組数は、NHKが、各政党リレー式インタビューを含む「日曜討論」で3回、特集番組で2回の合計5回、読売テレビ「ウエークアップ!ぷらす」(日本テレビ系列)で3回、TBS「みのもんたのサタデーずばッと」で1回、フジテレビ「新報道2001」で3回、テレビ朝日「朝まで生テレビ」1回、合計13本を数えた。このほかにも複数の政党が出演する番組があったが、全党出演ではないのでカウントしていない。
 政党間討論というスタイルをとらない「論評タイプ」の番組の典型はTBS「報道特集」「サンデーモーニング」であろう。そのほか日本テレビ「真相報道バンキシャ!」テレビ朝日「報道ステーションSUNDAY」テレビ東京「田勢康弘の週刊ニュース新書」、ジャーナリスト池上彰氏の名前を冠した番組などがこのタイプになる。
 こうしてみると、政党討論がけっこう多いという印象がある。しかしこのスタイルの番組には特有の問題があり、これについては後述する。
 「政党間討論」についても、「論評番組」についても、この間の参院選関連番組には概略次のような問題点を指摘できる。

1)いくつかの番組で、「ねじれ解消が焦点の参院選」という決まり文句が使われた。この選挙の位置づけに従うように、世論調査による「自民党圧勝」の議席予想が各局で伝えられた。この点についてはすでに多くの批判がある。

2)選挙期間中の、政権に対する批判、検証の弱さがあり、テレビ局側が調査した事実を政権政党の主張に突き付けるという姿勢を欠いた。この傾向によって、公示前までに、アベノミクスが効果を上げている、という全体的な印象が作り出された。

3)一部の番組で、各党派に公正、公平とは言えない番組の進め方や、政権寄りのキャスター、コメンテーターの発言が目立った。

以下、番組の内容に即して、これらの問題点を見てゆくことにする。

Ⅱ、“ねじれ解消”が選挙の焦点、という報道の偏向

 「衆参のねじれ解消」が参院選の焦点だという表現は、いくつかの番組で繰り返された。
 「国会のねじれ状態が解消されるかどうかが焦点の参院選ですが…」(7月14日、NHK「参院代表に問う」司会の城本勝解説委員)、「今回の焦点は国会のねじれが解消するか否かです」(7月6日、読売テレビ「ウエークアップ!ぷらす」司会の三浦隆志キャスター)、「ねじれが常態化して、この碇(参議院)が暴れ出して船の沈没が続く、という事態がずっと続いてきた」(7月7日、テレビ朝日「報道ステーションSUNDAY」後藤謙次コメンテーター)、などが典型的な発言だった。とくにNHKで、「衆参のねじれ解消が焦点」という表現は討論番組では多くなかったものの、ニュースでよく使われた。
 このほか、国会の「ねじれ解消」のために自公がどれだけ議席を獲得すればよいか、というグラフを示して解説する番組も少なくなかった。これも焦点が「ねじれ解消」だという意識を拡大する作用を果たした。
 「ねじれ」には、ものがねじれた状態は不正常、という語感がつきまとう。「解消は良いこと」、という心理的な効果を生む言葉である。
 重要なことは、改憲問題や原発政策、TPP、消費増税などの争点で、参院でどのような対抗する勢力地図が描かれるかであり、それが焦点であるべきだった。「ねじれ解消」論は、主要な問題が「ねじれ」にあるとして、重要な政治的争点の比重を相対的に低下させる作用を果たした。
 選挙翌日のNHKの政党討論で、自民党の石破幹事長は、「今回の選挙をねじれ解消を争点として闘った」と明確に述べたが、この言葉は政権側の主張であって、それをメディアが言うことは明らかに偏向だったはずである。
 しかし、番組には、ニュースに比して、より多彩なゲスト、コメンテーターを登場させる余地がある。その人選によっては、全体の空気に流されない発言を聞くこともできる。「ねじれ解消」についても批判の発言があったことを付記しておきたい。
 TBS「みのもんたのサタデーずばッと」7月7日放送では、ゲストの片山善博氏の、「政治がうまくいかない点を全てねじれのせいにしてよいのか」、吉永みち子氏の、「ねじれがあったからこそ出来たこと、分かったことがあった。ねじれていないと二院制の意味が薄れる」などの発言が注目された。

Ⅲ、政権政党への批判の弱さ ~取材した事実を対置する報道はどこへ~

 今回の参院選は、自公政権下での国政選挙であった。政権政党の掲げる政策は、国民に直接影響を与えてきたという点で、本来ジャーナリズムの厳しい批判、検証の対象となるべきである。選挙期間中であってもこの任務は変わらない。
 とくに、総選挙以来、半年にわたって自公政権が展開してきた政治にたいして、参院選で国民がどのように判断するか、その判断に資する報道がなければならなかった。しかし、参院選関連番組を全体として見る限り、この姿勢は弱かったと言わざるをえない。
 自民党は、「ねじれ解消」とアベノミクス効果を前面に立て、原発政策や改憲問題を積極的には打ち出さない選挙戦を展開したが、モニター対象の番組、とくに政党代表が出演する番組では、政権政党の出演者に対して、貧困と格差の広がり、非正規雇用の実態、ブラック企業の横行、といったアベノミクスの陰にある経済社会の実態を突き付ける追及はほとんど見当たらなかった。
 改憲問題でも、軍事法廷も含む国防軍実現、国民の権利の制限、といった重大な内容をもつ自民党の改憲意図の追及が弱かったし、政権が進めているTPP交渉についても、TPPで必然となる日本社会への重大な影響について、独自の姿勢で追及する番組はほとんどなかった。
 政党代表が出席する番組でも、司会者やキャスターが、こうした重要な問題について、政権政党を問い詰める、という姿は、NHK「日曜討論」をはじめとして、モニター報告の記録を調べても見当たらない。こうした報道の状況があるために、選挙までの間に、「アベノミクスで経済は上向き」といった支配的な空気が形成された。これが自民圧勝を導く要因の一つになった疑いが強い。
 具体的な事実の問題でも、一部のニュースを除いて、充分には追及されない例が見られた。7月3日の記者クラブ主催の党首討論で、共産党の志位委員長が、自民党のゼネコンにたいする金額明示の献金請求書の存在を暴露した。また、TBS「NEWS23」7月7日の放送でも、同委員長が、安倍首相の「雇用が60万人増えた」という発言に対し、「正社員は1年間で47万人減っている」、と反論した。
 こうした発言の真偽について、テレビ局は取材し、調査できる能力を持っている。しかし、このような重大な事実について独自に調査し、司会者が政党代表を追及した例は、番組のモニター報告では見当たらない。
 いわゆる「歴史認識」問題でも同じである。安倍首相は、日本軍「慰安婦」について、強制連行の証拠はない、と主張し、先の戦争について「侵略の定義はない」と言い続けてきた。しかし、事実は、強制連行の資料は存在し、「侵略の定義」は、かつて日本が参加した国連決議で明確にされている。こうした政権の明白なウソに対して、事実を検証して安倍政権にせまる報道は選挙期間中ほとんどなかった。
 「歴史認識」問題は、参院選の争点としては表面化しなかったが、安倍政権への投票行動に影響する判断材料の一つである。こうしたテレビジャーナリズムの劣化、怠慢は厳しく批判されるべきである。
 しかし、この間のテレビ番組が押しなべて批判的精神を欠いていた、というわけではない。直接参院選をテーマにしていないものの、選挙の重大な争点にかかわる調査報道や、論評を繰り返し伝えた番組も存在した。
 TBS「報道特集」は、6月22日の放送で、安倍政権の原発輸出トップセールスの実態を売り込み先の国の取材を通じて明らかにし、金平茂紀キャスターの「事故の収束もままならない国が原発輸出に踏み込むことが妥当か。根源的な議論が置き去りにされている」という厳しい批判のコメントを伝えた。
 また同番組は、7月6日の放送で原発再稼働の問題をとりあげ、国会が国会事故調の報告にまともに向き合っていない現状を批判した。同時に選挙の争点が景気、経済政策に偏っていると指摘、金平キャスターは「選挙の争点をつくるのは有権者でもある」と結んだ。これは、ともすれば受動的な立場でテレビ報道に接しがちな有権者にとって刺激的な呼びかけであった。
 同じTBSの「サンデーモーニング」は、この期間、毎週欠かさず原発問題を取り上げたほか、「風をよむ」というコーナーで改憲問題も繰り返し番組で議論した。直接参院選と結び付けて政党の見解を質すという放送ではなかったが、選挙でのもっとも重要な争点に有権者の注意を喚起し続けたことは評価できる。
 しかも、政権政党の原発政策や改憲の主張にたいし、常に批判的なスタンスを保持していたことは、番組出演者のコメントへの賛否は別として、テレビジャーナリズムのひとつの在り方を示していた。

Ⅳ 自民党の圧力と政権のメディア戦略の中での選挙

このように、一部の番組で、現実の政治に批判的なスタンスが保たれていたものの、モニター記録全体を通じてみれば、やはり政権への弱腰の態度が支配的であったと言わざるをえない。
 こうした政権批判の弱さの背景に、自民党の圧力や政権のメディア懐柔策があるのではないか。そのことを強く疑わせる象徴的な事件が、選挙期間中に起こった。
 7月上旬に明らかになった、自民党のTBSへの出演・取材拒否の動きである。この事件の意味するところは重大である。
 6月26日のTBS「NEWS23クロス」は、国会で重要法案が軒並み廃案になった問題を取り上げたが、その中で自然エネルギー財団の関係者が、電力事業のシステム改革の法案が廃案になったことを、「経過から見て自民党が通す気がなかったのでは」、と批判した発言を番組中に組み込んだ。
 この放送を不服として、7月4日、自民党は幹部のTBSへの出演と取材を当面拒否すると表明した。TBSは謝罪はしなかったが、「指摘を受けたことを重く受け止める」など釈明する文書を提出し、自民党は5日、これを事実上の謝罪だとして出演拒否を解除した。
 番組の局外出演者のコメント内容を理由に、このような強硬な措置をとるのは常軌を逸している。こんな事例で政権政党が圧力をかけるようなことが是認されれば、自律的であるべきテレビ報道が危うくなる。
 これはTBS対自民党の関係にとどまらない問題であり、各テレビ局は、一斉に抗議の声を上げるべきだった。しかし、そのような動きはなかった。これもテレビメディアの、政権に対する弱腰の態度として批判されるべきである。
 参院選を控えた2013年3月から5月にかけては、安倍首相とメディア幹部の会食・懇談が続き、著名なキャスターが首相公邸に招かれるなどの動きもあった。それと符合するかのように、安倍首相がテレビに出演する番組が数多く放送されている。
 今回の参院選報道の一方に、上記のような自民党の圧力と、政権の周到なメディア戦略があったことに注意を向ける必要がある。

Ⅴ、一部の番組に公正、公平を欠く内容
  ~問われるキャスター、コメンテーターの姿勢~

 モニター担当者からの報告の中で、問題視されることが多かった番組がある。フジテレビ「新報道2001」である。
 6月2日の放送では、安倍政権の対中国、北朝鮮政策を取り上げたが、出演した政党関係者は自民党中谷元副幹事長と民主党前原誠司議員のみで、その他の政党は出演していない。司会者も局側コメンテーターも、安倍政権の外交政策を肯定的に評価する発言で番組を進行した。ゲストも安倍政権に近い論者で占められていた。
 翌週6月9日には、「アベノミクスで日本は勝てるか」と題して安倍政権の経済政策を取り上げたが、出演政党は自民党、公明党、民主党、みんなの党、維新の会に限定され、アベノミクスに批判的な生活の党、共産党、社民党の出演はない。この回も全体にアベノミクスをもっと推進せよ、という基調で進められていた。
 「新報道2001」では、局側コメンテーターの、際立った政権寄りの発言も批判を浴びている。平井文夫フジテレビ解説副委員長は、「世論調査では内閣支持率は下がっていない。国民は痛みを伴う改革に時間がかかるのは理解している。ここは安倍政権で3年あれば改革ができる」(616日放送)「原発再稼働が参院選の争点ではない。衆院選で一旦民意が出ている。民意は現実路線を選択している」「原発完全ゼロは不安。能天気な議論はダメ」(630日)などと発言し、番組を進めた。
 局側解説者が、自らの政治的信念に基づいて発言すること自体は、否定されることではない。しかし、選挙直前の期間であることから、こうしたあからさまな政権側の主張にたいしては、スタジオにこれとは違う主張の論者を置いて、多角的な観点から議論を進めるべきである。しかし、番組記録を仔細にみるかぎり、そのような論者の存在も発言もなかった。
 6月前半の番組内容や、コメンテーターの発言を総合すると、この番組が突出して政権寄りの放送を展開していたことがわかる。放送法は、放送に、「政治的に公平であること」「意見が対立している問題については、出来るだけ多くの角度から論点を明らかにすること」を原則として求めている。「新報道2001」は、この観点から要注意の番組であり、視聴者の批判、検証の対象とする必要がある。

 このほか、モニター報告では、安倍首相や閣僚を単独で登場させ、結果として政権の宣伝に力を貸すと批判される番組もあった。
 テレビ東京「田勢康弘の週刊ニュース新書」6月8日の放送では、菅官房長官をスタジオに呼び、政権の政策について聞いた。番組ホストの田勢氏は、「何人もの総理の演説を聞いたが、最も迫力と説得力がある」と安倍首相を持ち上げ、菅官房長官のアベノミクス宣伝に放送時間を割いた。
 オスプレイ配備についても、「世界中のヘリコプター事故をみてもオスプレイの事故率が飛びぬけて高いわけではない。そんなに危険ではないという(政府の)説明がたりない」と発言している。政権寄りとの批判を免れない発言である。
 読売テレビ「ウエークアップ!ぷらす」(日本テレビ系列)6月8日放送では、「安倍首相vs辛坊治郎対談第2弾」として安倍首相の単独インタビューを放送した。
 記録を見る限り、この単独インタビューのコーナーが、あからさまな安倍政権の宣伝とまでは言えないものの、憲法96条改定、TPPと農業政策などで、安倍首相の主張が、とくに突っ込んだ批判もなくそのまま放送されている。これは選挙戦直前の放送としてはやや公平さを欠くと言わなければならない。
 こうした政権側の単独出演というスタイルは、選挙を控えた期間では自粛すべきではないかと考えられる。面と向かって厳しく権力側を質すジャーナリストが見当たらない日本の放送界では、このスタイルはおおむね「お説拝聴」という結果になる危険が大きい。

Ⅵ、政党間討論番組の問題点と課題

 冒頭に触れたように、この期間、政党間討論、各政党インタビューなどを内容とする放送は13本を数えた。いくつかの番組で数回にわたって放送された政党間討論は、各政党の主張の違い、対立点を明らかにするうえで有用であり、将来の国政選挙において、さらに工夫が重ねられるよう求めたい。
 しかし、この種の番組にはいくつか見過ごせない問題がある。

 第一は、司会者の力量や姿勢によって、特定の党派に発言が偏る可能性があり、ときに公平を欠く結果になる、という問題である。
 たとえば、前項で触れた「新報道2001」がひとつの典型例である。この番組では6月30日から3週連続で9政党出演の政党討論を放送したが、この番組の場合、各党の発言回数、発言時間量に顕著な偏りがあり、この点で批判が多かった。
 たとえば、7月7日の党首討論では、多い順に、自民10回(13分)、維新4回(550秒)、公明4回(230秒)、みんな3回(340秒)、民主3回(330秒)、社民2回(250秒)、みどりの風2回(245秒)共産2回(210秒)、生活2回(145秒)、となっている。テレビ番組で発言回数が10回と2回では、印象に大きな差が生じてしまうことになる。
 政権党には各党から批判があり、自民党の発言回数が多くなるのは避けられないが、この番組では、司会者が各党の問いに、いちいち自民党に答えさせる方法をとったため、このような偏りが生じた。こうした不公平は可能な限り回避されるべきである。
 NHK「日曜討論」は、6月9日に「参院選へ 政治はどう動く」と題して、10党の党首、代表のインタビューを順次伝えた。
 各党に配分された時間は、自民(2820秒)公明(11分)民主(17分)維新(13分)みんな(9分40秒)生活(7分50秒)共産(8分)社民(6分)みどり(550秒)改革(450秒)となっており、自民党のへの配分時間が圧倒的に長い。
 放送を語る会は、これまでの選挙報道モニターの報告で、選挙での各党の政策、主張を聞くような番組では、議席数に応じるような時間配分の放送はすべきではないと主張してきた。民放でもNHKでも、この慣例は見直すべきである。

第二に、テーマに比して放送時間量が少なく、充分に討論が深められない、という問題がある。
 期間中の政党討論番組は、長くて90分、多くは1時間程度で放送されることが多く、9党の出演で複数の争点が扱われる場合には、議論が断片的で煮詰まらず、消化不良のまま終わる傾向が強かった。
 読売テレビ「ウエークアップ!ぷらす」は、629日から3回連続で政党討論を放送した。独自の取材映像で丁寧に争点を解説しながら各党の主張を聞く、という内容は、各党に比較的公平に発言させるという進行もあって、評価できるが、いかにも全体の時間量が少なかった。
 たとえば7月13日の放送では、取り上げられた争点の時間配分は、消費増税(約15分)、雇用・限定正社員(約15分)、憲法改正(約21)、「わが党だけができること」の主張(約2)。計約53分となっていた。全体で1時間25分の番組で、選挙以外の項目もあるため、限界があるのはやむを得ないかもしれない。
 こうした番組にたいして、テレビ朝日「朝まで生テレビ!」6月29日放送の、「激論!参院選と日本の選択」は、3時間にわたる各党間の討論でこの番組の独自の持ち味を発揮していた。さすがにこの時間量では、それぞれの争点にかける時間が長く、モニター報告では、見応えのある放送だという評価があった。司会やゲストの発言については視聴者によって評価が分かれるかもしれないが、こうした長時間の選挙関連番組が、視聴好適時刻に放送され、視聴者の選挙への関心を高めるのに貢献することが望ましい。

おわりに―  選挙報道番組の質・量の抜本的な改善を

 6月初めから投票日前日まで、選挙関連番組をモニターしてきたメンバーの声として、意外に選挙関連番組が少なかったのではないか、という指摘があった。
 参院選を正面から扱った番組の中心は政党討論番組であったが、NHKと民放5系列の放送局で、50日の間にこの種の番組が13本という数は、けっして多いとは言えないのではないか。このことも含め、選挙期間中の番組については、なおその質と量について検証が必要である。
 放送を語る会では、昨年の総選挙時に、テレビ局に対し、日本ジャーナリスト会議と連名で申し入れを行ったが、今回の参院選でも「参議院選挙に際し、公正、公平で充実した選挙報道を求めます」と題した要請文をテレビ局各社に届けた。
 その骨子をあらためて掲げておきたい。

1)政党、政治家の動きを追う「政局報道」に偏ったり、「衆参のねじれ解消が最大の焦点」とするなど、争点の矮小化報道に陥ることなく、各政党の政策・主張を丁寧に伝え、有権者の判断に資する、政策中心の報道を充実させること。
 各党、各政治勢力に、できるだけ多くアピールする時間を保障し、放送での政党間の相互討論の時間を確保するなど、争点を明確にするための番組を数多く放送すること。

2)政党の政策・主張を紹介するにあたっては、現在の議席数の多少にしたがって放送時間量を配分するのではなく、少なくとも選挙期間中は、各政治勢力にできるだけ公平に主張の機会を与えること。

3)選挙の争点報道に関しては、単に各政党の政策を整理、比較するだけでなく、独自の調査報道に基づいて、各政党の主張を問う、という姿勢をもつこと。
 また、ジャーナリズムに期待される「権力の監視者」としての役割を、選挙期間中封印することがあってはならない。今回の参院選は、自公政権が維持される中での選挙であり、原発政策、オスプレイ追加配備を含む普天間基地問題、TPP、消費税、生活保護費切り下げや社会保障政策など、政権の政策が国民生活に大きな影響を与えている状況を踏まえ、選挙期間であっても、その政策を現実と照らし合わせて検証し、有権者に判断材料を提供する姿勢を欠かさないこと。

4)争点のなかで、とりわけ憲法改定問題は、国のありようと民主主義の根幹にかかわる問題であり、他の争点とは質の違う重大性を持っている。この争点をあいまいにしたり、後景に置こうとする傾向にたいして、報道機関としてこれを特別に重視し、多角的に検証する姿勢で報道すること。

5)昨年の総選挙時に繰り返された世論調査や議席予想は、世論誘導の恐れがあるとして、視聴者市民から批判が強かったものである。頻繁な議席予想の発表など、有権者に予断を抱かせるような報道は自粛すること。

6)上記のような放送は、過去の選挙報道の延長線上では実現が困難であることから、選挙関連番組を、長時間、数多く放送できるよう、編成の姿勢を抜本的に見直し、選挙報道の量と質を拡充すること。

 今回の参院選報道番組でも、残念ながらこうした申し入れが生かされることはなかった。
 参院選は3年に1回、この間総選挙もあるかないかである。公示から投票日までわずか3週間足らずしかない。上記申し入れにあげた要請が具体化されることが前提であるが、この期間に集中して多様で充実した選挙特集番組を編成することは可能ではないか。
 しかし、現実はそうなってはいない。NHKは、政党討論以外に選挙関連の大型の特集番組を組まなかった。市民参加の長時間討論がよく放送されたNHKスペシャル「日本新生」の選挙期間中のテーマは「観光」であった。
 民放の週一回の番組でも、イギリス王室のロイヤルベビーのニュースが選挙関連の報道の倍の時間を占める、といった状況もあった。
 NHKはもちろん、民放も、国民の財産である電波を独占的に使用しているという点で、公共的な任務を持っている。選挙の短い期間に限ってでも、視聴率優先の放送の在り方を転換して選挙報道の拡充に取り組むべきである。
 昨年の総選挙と、今回の参院選関連番組のモニター活動を通じ、当会は、わが国のテレビ選挙報道にはなお多くの問題があることを指摘してきた。民主主義の根幹にかかわる国政選挙で、影響力の大きいテレビ放送が、ジャーナリズムの精神に立ちかえり、有権者の判断に大きく資するよう抜本的に改善されることを強く求めたい。


【資料】各番組モニター担当者のコメントから

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 モニター活動に参加したメンバーに求めた報告には、放送内容の記録と、担当者のコメントの二つの部分が含まれている。
 以下に掲げるのは、そのうち、担当者のコメントで比較的重要な提起、指摘のあるものを抜粋したものである。これには個別の番組の批評と、担当した番組全体を通じた批評の二種類がある。

 前ページまでの報告本文と違って、視聴したメンバーの個人的感想であり、団体としての統一した見方ではないこと、また数多くのコメントのごく一部であることを断っておきたい。
 
当会でモニターに取り組んだメンバーは、放送批評の専門家でも、メディア研究者でもない。一般の視聴者の立場で番組を録画し、記録し、批評したものである。
 こうした一般市民によるコメントの実例が、同じようなモニター活動をめざす市民の方々の参考になれば幸いである。

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NHK「参院選特集・参院代表に問う」(7月14日)
 
参議院の各党代表の討論は、①選挙戦の反応②賃金・雇用問題③消費税・財政健全化④ねじれをどう見るか、参議院のあり方⑤選挙終盤、これからの課題についてという問題を司会者が各党代表に尋ねた。
 たんに順番ではなく、挙手での発言、その場での反論もさせながら、特に景気に関して賃金・雇用という角度から論じたことは問題点が明確になってよかった。腑に落ちないことは、司会者が何度となく自民党・中曽根氏に発言の機会を与えたことだ。
 NHKが参議院選挙のまくらことばとして、かならず「ねじれ」の解消が焦点だという言い方がある。討論のなかで、ねじれはどこの国でもあること、また自民党と国民とのねじれだという指摘も複数の政党からあったわけで、もう「ねじれ解消」という位置づけはやめたほうがよいと思う。
 最後になって、社会保障の問題について、自民と民主にだけ、あとから公明もいれなければと考えたのか、3党にのみ発言時間を与えた。大事な問題だから短時間でも各党の意見をたずね、有権者の選択に待つべきではないかと思った。
 奇異に感じたのは、この討論で、憲法「改正」に関してまったく取り上げなかったにもかかわらず、討論の最後に司会者が自民党にだけに、選挙後に「憲法改正で連携があるのかないのか」にしぼって質問したことだ。それには端的に答えず、中曽根氏は「国民の皆さんにも考えていただく」と、いかにも自民党が民主的であるかのように、ふられた時間を利用した。96条改正を提起し自民党は憲法9条を変えようとしている時に、この討論でまったく憲法問題にふれなかったのはなぜなのか。時間をとるべきではなかったのか。

読売テレビ「ウエークアップ!ぷらす」6月15日(沖縄・オスプレイ問題)
 
沖縄が抱える問題や悩みが、比較的ていねいに取り上げられていたが、「政府と沖縄の溝は埋まらない、難しい」と指摘しながらも、基地の存在やオスプレイの配備は「今の尖閣をめぐる日中関係であるとか、北朝鮮情勢とか考えれば、ある程度どうしても必要性というのは認めざるを得ないところがある」というコメンテーターの発言に見られるように、日米同盟の維持を前提とし、首相などが足しげく沖縄を訪問し、丁寧な説明を行い、相互理解を深めることによって解決するしかないとの論調で話が進められていた。 沖縄問題の根本的な解決の道は、日米安保条約をなくし平和・友好の外交を行うことによって、基地の撤去・返還とアジアの平和を実現することにあるという意見や考え方は誰からも出されなかった。コメンテーターの人選にも偏りがあると感じた。

読売テレビ「ウエークアップ!ぷらす」(全体を通じて)
 
当初の辛坊キャスターの時(首相との対談など)は、かなり体制迎合の感があったが、福澤、三浦キャスターに代わってからは一部コメンテーターの体制側に立った発言があったものの、かなり、客観的で公平な報道になっていたように感じた。
 特に公示直前から続いた3週連続の各党代表の討論では、毎回、主要な9党を登場させ、発言や時間配分も公平に扱っていたことは評価できると思う。
 ただ、9党討論では各党の政策、主張の紹介が中心で、時間の制約もあったと思うが、政党間の討論や、問題点の掘り下げが十分でなかった点は物足りなく感じた。しかし、それなりに各党の政策、主張、争点が視聴者に伝わり判断材料を提供したことは選挙報道としては評価できると思う。局側の事前取材、調査もかなり丁寧で行き届いていたと思った。(私の主観が入っているかも知れないが。)
 東京の日本テレビでなく、大阪の読売テレビの制作であったことも関係しているかもしれない。
 なお、「ウェークアップ!ぷらす」のまとめで一つ付け加えたいことは、他局もほぼ同じだと思うが、参院選の争点を「衆・参のねじれ解消」と位置づけていた点である(7/6放送)。現象的にはそういう側面はあるが、政権側の願望の代弁でもあるわけで、国民にとっての最大の争点は、世論調査でもはっきり現れていた原発再稼動反対、消費税増税反対、憲法改正反対など国民の過半数の声と、安倍政権の政策との「ねじれ」をどう解消するかという問題でなければならないはずであるが、そういう観点からの討論のリードが弱かったと思った。

日本テレビ「真相報道バンキシャ!」6月30日(東京選挙区情勢)
 
今だに、候補者を伝える順が国会での勢力順位からだ。今から選択するのであるから、順位にこだわらなくてもいいのではないか。内容の長さは、候補者の数が、2名で多いことを考慮しても、自民と民主が長く、公平とは言えない。まだ、2大政党であってほしいとの願望が読み取れる。
 各党候補者の発言は、取材時のものでリアルである。国民のくらし、国の進んでいく方向など重要なテーマ・公約について、具体的には、景気、増税、憲法、TPP、原発、雇用、格差社会、普天間、外交、などについてどのように考えているか発言している候補者が少ない。
 少ない時間という制約があるから、例えば課題(消費税増税など)を一つに絞って、各候補者が訴えたいことを時間も公平にして紹介する手法を繰り返して、各党、各候補者の公約、活動をたくさん伝えることに努めてほしい。

テレビ朝日「報道ステーションSUNDAY」714日(医療費負担増問題)
 老人医療費の負担増の政府方針は、参院選の重要争点の一部だが、スタジオのコメンテーターからは、政府の姿勢に対するジャーナリステイックな批判や卓見は見られなかった。
 むしろ、財政危機をそっくり追認し、仕方が無いとする意見を述べる政治部ベテラン記者出身のコメンテーターにそれ以上を期待するのは見当違いか?
 このコーナーの占めた時間が12分、「英国にロイヤル・ベイビー誕生まじか」という話題のコーナーが占めた時間が2倍の25分、「特集」と銘打ってはいたが、内容はありきたり。さらにこの日は20分近く掛けて、自衛隊に入った女性新兵を長野キャスターがルポ、ここ近年、若い女子たちが自衛隊に占める割合が増えているということからの、ルポらしい。コーナーの冒頭、尖閣に迫る中国船の脅威をあげての番組導入は、首をかしげた。

テレビ朝日「朝まで生テレビ!」6月29日 (激論!参院選と日本の選択)
 選挙前の「朝まで生テレビ」、各党の代表が論戦を繰り広げた。「憲法改正」について各人が激論を交わす様子はなかなか見ごたえがあったし、選挙近くになって自民党が巧みに避けてきた(と思われる)テーマでもあったので、番組後半にしっかり時間をとっていたことは評価したい。

TBS「報道特集」7月6日 
 (毎日新聞・JNN選挙情勢調査 自民単独過半数の勢い。原発再稼働の動きなど) 投票日前のメディアによる各党獲得議席予想の弊害が批判されている中、一定の参考にはなるといえ、相も変らぬ手法での議席数予測と発表の仕方には疑問がある。しかも、有権者の3割を超す人が態度を明らかにしていない中で、細かい数字まで挙げての予測が果たしてどれほどの意味を持つのか、シビアな検討が必要ではないか?
 福島第1原発事故の原因究明や廃炉処理も済まないうちに、全国の原発の再稼働へ向けて動き出している現状をどう見るか、関係住民や識者の意見を中心に多角的に聞いたのは、多くのメディアが再稼働の動きをまともに批判しない中で、注目に値する。
 中でも、原発事故の直後から、経産省が再稼働を当然とする姿勢で関係者に迫った、という斑目氏の驚くべき証言を引き出したのは評価できた。さらに、衆院特別委員会での審議の際、通り一遍の意見陳述だけで事を終わらせようとする力が働いていたと告発した元国会事故調委員の話も印象的だった。
 参院選の中で原発問題がなかなか争点にならないことについて、スタジオのキャスターが最後に、選挙の争点を作るのは有権者の責任でもあると結んだのは、メディアとして勇気のある発言だった。

TBS「みのもんたのサタデーずばッと」6月8日 
    (アベノミクスと年金、医療費など社会保障問題)
 早朝からこのような喫緊の重要なテーマを長時間にわたりとりあげていることを評価したいのだが、その内容に問題あり。
 司会者は、問題の内容、本質を十分に理解していないため、討論を深める進行ができていない。「10年後、GNIが150万円増えることが何を意味するのか」「社会保障支出を聖域とせずに見直す」「年金支給年齢の切り上げはされるのか」など、いずれも問題の提示だけに終わったのは残念。
 ゲストコメンテーターの政治家二人は、自民党対民主党という枠組の中での選択なのだろう。政党のゲストには、問題を基本的に議論する明確な対立軸を示すことができる政治家を選ぶべきではないか。

TBS「サンデーモーニング」721日の放送、および全体を通じて
 
投票日の今日にいたるも、この番組はまったくスタイルを崩さなかった。
 その中で必ず取り上げるのが原発問題だということは、特筆すべきであろう。
 司会の関口宏氏は、この項目に入る際、必ず「選挙の争点の一つになるはずだが」と前振りする。与党がこの問題を避けて選挙戦を進めようとしてきたことへの抗議とも受け止められた。
 8週にわたってモニターしてみて、この番組がかなり原発問題に力を入れていることがわかってきた。
 特に6月23日以降今回まで トップ その週の大きな出来事の解説 2、原発関連の報道 3、スポーツ 4、1週間の出来事のダイジェスト 5、天気 6、「風をよむ」というオーダーが変更されることはなかった。
 選挙関連の報道は「風をよむ」で扱われたのだが、その内容は政策や政局を云々するものではなく、選挙の争点とすべき問題を、本質から考えようとするものだった。そのもっともいい例が憲法だったと思う。

フジテレビ・関西テレビ「Mr.サンデー」 全体を通じて
 担当した「Mr.サンデー」では、モニター期間中、参院選関連の放送はまったくなかった。
 この番組は自ら~「政治・経済・社会・流行・エンタメなどあらゆるニュースを宮根誠司と椿原慶子がしゃべり倒す!日曜夜の生放送大型情報番組」と謳っている。
 モニターを通して、この番組が「再現映像を駆使して事件の経過を伝える」、「ネット上での関心事を取り上げる」…など、多分野の新しい情報を分かりやすく伝えることを目指しているという印象を受けた。それだけに、期間中、参院選に全く触れない姿勢に奇妙さを感じた。

フジテレビ「新報道2001」6月2日(拉致、尖閣・歴史認識問題など)
 安倍政権の外交政策をテーマにした議論だが、政党代表は、自民・民主のみでその他の政党は除外されている。その他のゲストも、宮家氏は第一次安倍内閣の総理公邸連絡調整官、野村氏は総務省法令順守調査室室長など中央省庁の仕事に多く携わり、最近では橋下大阪市長の下で特別顧問だったことも記憶に新しい。安倍政権に近いメンバー、右派の論客を多く並べている。
 話題設定も右派的視点で貫かれている。当然のことながら議論は、右派の“コップの中の嵐”の感。
 番組が政権よりのスタンス(現政権の政策に無批判)だと感じさせる点をいくつか。① VTRリポートで、「安倍政権の中国包囲政策」を無批判に肯定的にとりあげている
② VTRリポートで、「資源確保のために執拗に尖閣領有権を主張する」中国に対置して「安倍首相、5カ月で10か国訪問、TICAD加えれば61か国。積極的外交展開は、歴代内閣でも異例のペース」とコメント、現政権が平和的外交を積極的に展開しているかのような無批判なとらえ方
③ 解説副委員長の現政権迎合姿勢
1)中国のTPP交渉参加示唆に対し、他のコメンテーターから「望ましい方向。日本の経済の最大のパートナーが中国」、「中国が入るのは歓迎。中国に枠をはめられる」などの意見が出る中で、解説副委員長は10年前のWTO交渉を引き合いに「中国は、(TPPを)潰すために入る」と中国包囲政策をとる安倍政権の見方を代弁。
2)「河野・村山談話見直しは、相手に批判材料与える」との民主前原に、「強硬姿勢だった前原さんが安倍政権の強硬姿勢批判はちょっと・・?」と口を挟んで「事実誤認」と反論されたり、「中国包囲あり得ない。本気なら的外れ」と指摘する前原に「前原さん、野党になって親中派に?」と茶化すなど、解説副委員長の民主批判、現政権擁護のスタンスが露骨。
④ 司会者の安倍政権迎合 自民中谷が安倍政権の歴史認識・中国包囲政策を棚に上げて「中国が(対話を)受け付けない」と発言すると、司会者が「安倍政権、トビラ開いてますよね!」と助け舟。
 ゲストのキャスティング、話題設定、司会者・局解説者のスタンスなど、あらゆる点で右派的偏りがうかがえる番組で、放送法に言う「公平・公正」「多角的論点の提示」が意識されているか疑問。

フジテレビ「新報道2001」 全体を通じて
 権力とマスコミのすりよりが一段と進んだ中での選挙報道がどのようなものだったか、モニターを担当した「報道2001」では、 政権側の政策や考え方を聞いたうえで、野党からの質問・疑問に対する 回答・弁明の機会を取る方式で進行し、あからさまではないが 結果的に政権側の宣伝に寄与し、争点隠しになっていたと考える。
 政権の暴走をチェックするのが公明党の役割として、政策論議・選挙争点をあまり論議しない公明党幹部に、なんら突込みがなかったのは、この番組だけだったのだろうか?

テレビ東京「田勢康弘の週刊ニュース新書」6月8日 (菅官房長官スタジオ出演)
 この番組は土曜日のランチタイムに送る "大人"のためのニュースショーを謳い、「その週のニュースに関連したホットなゲストをスタジオに迎え、ジャーナリスト・田勢康弘の視点で核心に迫ります」となっているが、田勢氏は、番組冒頭のコメント、終了の纏めまで手放しで安倍総理を持ち上げ、とても核心に迫るどころではない。極めつけの発言は、「オスプレイの事故率は高くはない、危険ではないと説明すべき」と、菅官房長官に迫っており、とてもジャーナリストのコメントとは思えない。
 番組全体としても菅氏に対して突っ込んだ質問もなく、質問に十分答えていないのに、再質問もしない迫力に欠けたものになっている。しかも法人税減税や、混合診療の解禁、農業への株式会社参入、解雇規制の見直しを督促するような質問まで見られる。
 唯一、評価できる点があるとすれば、オスプレイ問題で、八尾地域住民の訓練押しつけ反対の声を取り上げたことぐらいか。

                                   【資料】以上
      
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