語る会モニター報告


         2012年総選挙・テレビはどう伝えたか
             ~各局ニュース番組を検証する~

                                20131月26日
                                  放送を語る会

 はじめに

Ⅰ、選挙結果とテレビ報道の特徴

Ⅱ、“二大政党”・“第三極”偏重。「政権選択の選挙」という誘導

Ⅲ 政策の争点と改憲問題の埋没

 キャスター、コメンテーターの姿勢をめぐって

Ⅴ、テレビ選挙報道の弱点と解消の方向

おわりに― 民主主義に資する放送のあり方を

 別表・番組が主に取り上げた政党と関連報道


  資料・各番組モニター担当者のコメントから


はじめに

 2012年暮れの第46回衆議院選挙は、自民党圧勝、民主党大敗、日本維新の会が第三党に躍進する結果となった。
 1116日の国会解散前後から、テレビ、新聞などのメディアで、大量の選挙関連報道が展開された。これまで、放送を語る会は重要な政治的な動きについて、テレビニュース番組をモニターし、その都度報告をまとめ、公表してきたが、今回の総選挙報道についても、会をあげてモニター活動に取り組んだ。
 モニター期間は、衆院解散2日前の1114日から投票日前日の1215日までのおよそ1か月である。対象としたのは、首都圏のチャンネル順に、NHK「ニュース7」「ニュースウオッチ9」、日本テレビ「NEWS ZERO」、テレビ朝日「報道ステーション」TBS「NEWS23クロス」、テレビ東京「ニュースアンサー」、フジテレビ「NEWS JAPAN」、の7番組である。
 モニターの方法としては、各番組1名ないし2名の担当者が毎日の放送の概要を記録したうえで、批評のコメントを作成し、会の内部で共有する形で進めた。本報告は、その記録の集積に基いている。
 担当グループは、開始時に、次のようないくつかの視点で番組を視聴することを確認した。各番組のモニターは、この4つの視点を意識して作成された。
1、各党・各候補者の政策や主張、選挙活動が公平に伝えられているか。
2、政治的争点がどのように報道されているか(原発再稼働・脱原発・今後のエネルギー政策、東日本大震災からの復興、消費税増税・富裕税創設などの税制改革、経済政策、雇用、福祉・社会保障、子育て・教育、TPP、領土問題など。現実に照らした各候補者の政策の検証、各候補の政策の踏み込んだ比較などの視点があるか)
3、キャスター・コメンテーター・ゲストなどの論評は、公平・正確か
4、報道姿勢、編集方針に偏りはないか(ニュースの配列、取り上げ方、専門家・ゲストの起用など)

 当会が続けてきた、担当者が分担した番組を一人で記録し、それを集めるという手法は、極めてシンプルで素朴なものである。その記述は担当者の主観によるところがあり、またあくまで対象はニュース番組に限定したので、その局の選挙報道全体の評価は行っていない。しかし、7番組の1か月、A4およそ300ページに及ぶ番組記録を全体として検討することによって、少なくとも今回のテレビ選挙報道の基本的な傾向や問題点は明らかになったと考える。

Ⅰ、選挙結果とテレビ報道の特徴

 以下の報告の主要な目的は、この間の総選挙報道の特徴と問題点を明らかにすることであるが、同時に考察したいテーマとして、テレビ報道と選挙結果の関連性の問題がある。今回の選挙報道は、選挙結果とどのような関係があるのだろうか。
 確定的、定量的に証明できることではなく、メディアの報道だけが結果を導くということはあり得ない。しかし、結論的に言えば、モニター担当者による番組記録を詳細に見るかぎり、テレビ選挙報道が、今回の選挙結果を導く要因のひとつになったことは否定できない。この点についても、このモニター報告を判断材料の一つとして提供したい。

選挙結果の特徴は幾つかあげられる。
 第一に、自民党が、小選挙区制という民意を歪める制度の援けもあって、4割の得票で8割の議席を獲得した。自民党は勝利した前々回の総選挙から大きく得票を減らしており、実質的には民主党の沈下によって勝利したといえる結果となった。その一方で、新党の日本維新の会が躍進した。

 第二に、投票率が59.32パーセントと、戦後最低となった。また、白票などの無効票が204万と、過去最高となった。棄権はしたくないので投票所には出かけたが、投票したい政党、候補者がない、という有権者の姿が浮かび上がる。

 第三に、改憲をめざす勢力が、衆院で優に3分の2を超える結果となった。近年の憲法9条に関する世論調査では「9条は変える必要がない」という意見が60パーセントを超えたという例がある。(20105月『朝日新聞』の世論調査では67パーセント)選挙後、国会とこの国民の意識のねじれ現象が顕わになった。

 一方、モニター記録から判明したテレビ選挙報道の特徴はどうだったか。

1)解散直後からの報道では、圧倒的に民主党、自民党、それに「第三極」維新の会の登場回数が多く、政策や争点の解明よりは政治家の動きを追う「政局」報道が支配的だった。この傾向は公示直前までのテレビ報道の大きな特徴となっていた。
 とくに「政権選択の選挙」という表現が繰り返され、民主か自民かの選択肢が主要なものという印象が作り出された。何回も行われた世論調査は、民主、自民の比較を軸として伝えられ、選挙の結果は予め決まっているかのような予断を与えた。

2)選挙の争点は一定程度伝えられていたが、その背景となる日本の現実の提示や解説が充分に行われず、各党の主張のみが伝えられ、争点が掘り下げられない傾向があった。
 とりわけ、自民党、日本維新の会が政策として掲げた改憲問題は、どちらかといえば埋没させられ、充分な論議とはならなかった。この争点は、戦後日本の平和主義の原則や、政治権力と国民の関係の原則を変えるかどうかという、国家のあり方に根本的にかかわる性格のものであった。したがって、他の争点とは質の違うものとして、テレビ報道の側が何よりも重視すべき争点であった。

3)上記のような特徴をもった報道の中で、キャスターやコメンテーターの見識が問われたが、傾聴に値する発言がある一方で、疑問を持たざるを得ない発言、態度もあり、番組によってレベルの違いが感じられた。また、取材、報道の姿勢の面でも疑問の残る放送があった。

4)選挙報道に充てられる放送時間量が、政党数が増え、争点が多岐にわたるにもかかわらず充分とはいえなかった。政治家の発言は断片的であることが多く、テレビで印象のよい政治家が有利という、テレビの宿命的な弱点が露呈した。

 以下、これら4項目の特徴に添って、モニター内容を報告することにする。なお、巻末資料として、各番組のモニターコメントから、典型的な批判を抜粋して提示した。

Ⅱ、「二大政党」と「第三極」偏重。「政権選択の選挙」という誘導

1)「第三極」報道の異常
 まず本報告末尾の「別表」から見ていただきたい。
 解散の翌週から二週間、1119日から30日まで、放送に主に登場した政党名を番組別に示したものである。
 すぐわかるように、民主党、自民党の「二大政党」と、維新の会を中心とする「第三極」に関する報道が圧倒的な部分を占めている。後半の二週目では未来の党が毎日登場する。
 その他の政党が登場する場合もあるが、ショートコメントが羅列される場合が多い。
 このケースは枚挙にいとまがない。19日から23日までの期間で、代表的なのはNHK「ニュース7」「ニュースウオッチ9」で、ほぼ毎日、「二大政党」の動向のあとに「第三極」の動きを伝えるというパターンが繰り返された。
 フジテレビ「NEWS JAPAN」などは、1120日は民主・自民・公明・維新の会のみ、21日は「二大政党」と維新の会のみ、23日も「二大政党」と維新の会の動き、24日も「二大政党」のみ、といった状態だった。その他の局も大同小異である。(個別の番組の特徴については巻末資料「担当者コメント」を参照)
 今回の選挙での、新しい政治勢力の離合集散は選挙史上かつてない事態であり、ニュース番組が注目し、報じるのは当然のことである。しかし、これほど頻度が多く、量的にもこの期間の選挙報道の大半を占めるというのは異常である。
 また、民主党、自民党の登場時間、回数も非常に多い。このような「二大政党」偏重の中で、既成の少数政党は、ほとんど後景に追いやられてしまった。
 こうした報道は、選択肢が「二大政党」のうちどちらか、あるいは「二大政党」に対抗するのは維新の会などの「第三極」であるという限定された印象を作り出した。「第三極」の維新の会は、消費税増税、原発維持、TPP参加、といった政策で自民党や民主党と共通する部分があり、「二大政党」と「第三極」とは政策的に真の対立とはいえないものであった。この期間、いわば「見せかけの対立」がテレビによって作り出されたとも言える。

2)「政権選択選挙」という限定
 選挙報道の後半、NHK「ニュースウオッチ9」などでは、今回の選挙に「政権選択を問う選挙」という枕言葉を必ず付けて報じた。これは、「二大政党」偏重の報道の当然の帰結としての表現であった。
 もちろん、政権が変わるかどうかが有権者の大きな関心事であることは否定できない。しかし、投票行動にあたっては、この選択肢だけがあるわけではない。脱原発の勢力がどれだけ伸張するか、また平和憲法を守る勢力がどれだけ国会に地歩をしめるか、という関心もあり、この選択肢のほうが日本の今後にとって重大な争点であるとも言える。
 「政権選択の選挙」という限定は、このような重大な争点を二次的なものにする効果を生むものであった。NHKはこの期間、何回か世論調査を行い、結果を公表したが、かならず総理大臣には野田代表と安倍総裁とどちらがふさわしいかという調査結果を紹介した。これもまた、選挙を「二大政党」間の選択に限定していく作用を果たした。
 選挙期間中の世論調査には批判が強い。例えばTBS「NEWS23クロス」は、最終盤の1212日に議席予想の世論調査結果を発表したが、議席予想などの世論調査は、投票行動に影響を与えるおそれがあり、選挙への関心を「どの政党が勝つか」というところへ誘導し、政策的争点を軽視する傾向を生む危険があった。
 このほかも幾つかのテレビ局が、世論調査でそろって自民有利の予想を公表した。このため、有権者に予め選挙結果がわかっていると受け取られて、投票への意欲を失わせた可能性がある。戦後最低の投票率は、世論調査を繰り返し報じた選挙報道と無関係ではないと思われる。

3)政党への時間配分の不公平 
 「二大政党」と「第三極」偏重の報道の中で、放送中の時間配分が政党によって偏り、とくに少数政党に与えられる時間量が少ない、というケースが通例となっていた。
 解散によって、いったんは議席数が白紙になったと考え、選挙期間中はできるだけ公平に各政治勢力の主張や動きを伝えるべきだが、日常の放送の慣行を踏襲して、従来どおり政党の大小をつよく反映する時間配分の放送が選挙期間も続いた。
 一例をあげると、日本テレビ「NEWS ZERO」は124日から14日にかけて党首インタビューを放送したが、民主党に14分以上、自民党13分以上の時間量に比べ、みんなの党、社民党、共産党には5分前後であった。これでも少数政党に比較的時間を配分しているほうである。
 各党の選挙公約の紹介でも偏りがあった。フジテレビ「NEWS JAPN」の例では、自民党の公約発表は310秒、民主党240秒、維新の会210秒プラススタジオ解説140秒、共産党はわずかに18秒にすぎなかった。
 TBS「NEWS23クロス」は、1127日、民主党のマニフェスト紹介に22分を、翌28日に自民党公約に1640秒を費やしたが、社民党のマニフェスト、共産党の改革ビジョンがすでに公表されているにもかかわらず、この番組ではまったく触れないという不見識な放送となっていた。
 小選挙区制のもとで、少数政党はもともと不利な立場に置かれている。その上、選挙報道でも少数政党が不利な位置に置かれれば、少数はますます少数に、多数はますます多数に収斂する、という傾向をメディアが促進してしまうことになる。

Ⅲ、政策の争点と改憲問題の埋没 

1)取材事実を踏まえた争点の提示 
 
選挙における政策上の争点については、各局ともさまざまな工夫をこらして整理し、伝えようとしていた。しかし、政治家の動向を伝える「政局的」報道が肥大化する中で、政策中心の報道が充実していたとは言い難い。争点紹介の時間が少ないため、政党の対立する主張を並べるだけという傾向が根強くあった。
 また、争点も、時間の関係のためか、限定されることが多かった。消費税増税、原発、TPP、という三つの争点の設定がよく見られたが、沖縄基地問題や、改憲問題がともすれば脱落した。
 争点を提示して、各党の見解をきく、というときに、望ましいのは、その争点に関して局側の調査、取材が行われ、現実に何が起こっているかを明らかにした上で、政治家の見解を訊く、という方法である。各局モニター報告の中では、残念ながらこのような形の放送はあまり見当たらなかった。
 しかし、まったくないわけではなく、テレビ朝日「報道ステーション」では、争点を伝える際、事実関係をVTRにまとめてまず提示する方法がとられた。例えば、1121日の放送では、工場閉鎖やリストラの現状のあとで各党の政策を紹介した。原発政策については山口県上関の原発反対の動きを伝えたあと、各党の政策を整理している。1213日には、“核のゴミ”の未解決の実態をVTRで伝え、対応を各党に聞いている。
 原発に関する主張を、分類して並べる報道が一般的な中で、核廃棄物の問題まで踏み込んで政党に問うのは他に例がない。「報道ステーション」は、このほかかなりの回数で局側の取材VTRと組み合わせた争点のシリーズを組んでいる。このような姿勢は、他局ではあまり見られず、評価に値する。

2)憲法をめぐる争点の埋没 
 
今回の選挙では、自民党が、天皇を元首とし、自衛隊を国防軍と位置づける「憲法改正草案」を掲げ、憲法改正を政権公約に含めて選挙戦を展開した。また、日本維新の会も、「自主憲法」の制定を公約とした。そればかりか石原代表は核武装のシミュレーションまで提案した。
 このような政治勢力の台頭は、今回の選挙の大きな特徴であった。これらは戦後日本のあり方を根底から変えようとする動きであり、報道側は、この争点を特別に重視しなければならなかったが、モニター報告を見るかぎり、対立する政治家の発言を並列する程度の争点提示に止まっている。
 この問題を時間をかけ、正面から取り上げた番組は、「報道ステーション」が123日、「憲法改正と国防軍」というテーマを設定した例のほか、ほとんど見当たらない。NHK「ニュースウオッチ9」は、1127日から3日間、「違いを問う」と題して、争点を整理したが、「消費税増税と経済政策」「原発政策」「対中国政策」の三つが選択され、改憲問題は選ばれていない。
 放送メディアは、新聞など活字メディアとは違って、放送法の規制を受けるので、局として改憲反対、といった政治的立場に立つことはできない。しかし、歴史的事実の提示や、国際世論の動向取材などを通じて、この争点がいかに深刻なものかを示すことはできたはずである。また、自民の草案の重大な内容を、9条改廃部分に限らず視聴者に明らかにし、検討を呼びかけることもできた。しかし、選挙後半、自民党が憲法問題を積極的には主張せず、経済政策を前面に立てたこともあって、報道でのこの争点の追及は弱く、後退した。
 これが、憲法9条改定を望まない有権者が相対多数でありながら、改憲を主張する政治勢力が大勝する、という「ねじれ」現象を生んだ要因のひとつとなった疑いがある。
 現在のテレビジャーナリズムが、憲法問題に対する敏感さを欠くと言わざるをえない経過であった。

Ⅳ キャスター、コメンテーターの姿勢をめぐって

 今回に限らず、選挙報道では、ニュース番組のキャスター、コメンテーターの見識や姿勢が問われる。しかし、日本のテレビ局では、現実社会の取材の体験を背景に、政治家の発言に迫る、というタイプのキャスターはなかなか存在しない。
 わずかにその可能性を感じさせたのは、テレビ朝日「報道ステーション」のキャスター、コメンテーターの発言だった。
 127日の放送では、11党首に聞く、として、スタジオに党首を招いて討論を行った。古舘キャスターは、司会進行にとどまらず、重要な問題について提起して党首に問うスタイルを貫いていた。
 維新の会の石原代表に、「核のシミュレーション」の発言について問い、それに対する石原の憲法攻撃の発言について、「その憲法のおかげで今があるのではないか」と返し、「平和憲法に感謝の気持ちはないのか」と食い下がっている。
 同番組の三浦俊章コメンテーターも、しばしば重要な指摘をしている。1213日の放送では、維新の会の石原代表の「憲法9条が日本を駄目にした。北朝鮮になめられるのも、戦争できないからだ」といった過激な発言を含む各党首の主張を並べたあと、「最近、党首の言葉が乱暴になってきている。しかし、国民の意識はもっと穏やかなのではないか。(中略)もっと身近な問題点を詰めなければいけないところを、乱暴な言葉で切り捨てていくのは、国民の意識と乖離しているのではあるまいか。」とやんわり批判した。
 12月3日の放送では、前記のように「憲法改正と国防軍」という争点を取り上げた。各党の主張のあと、古舘キャスターは「選挙後の結果によっては、政権の枠組みを考えると、衆議院の3分の2は320、もしかするとスッと早めに動きが起きることも視野に入れておかねばならない。有権者はここをしっかり考えなきゃいけない」と、有権者に「憲法改正」が現実のものになることへ注意を喚起した。
 こうしたセンスは他の番組ではなかなか見られなかった。今回の選挙報道では、「報道ステーション」が、争点中心の企画を展開したこともあって、他局の番組と一線を画したという印象がある。
 これと対照的に、TBS「NEWS23クロス」のキャスター、コメンテーターの発言について、モニター報告では疑問の声が上がっていた。
 1122日は、民主党内のTPP反対の議員の動きを伝えたが、これを受けた播摩卓士コメンテーターは「TPPは交渉に参加しないと内容もわからないし、自分たちの条件をのんでもらうこともできない。だから参加するなら、早く交渉に入ったほうが良い」と解説している。TPPの本質はすでにかなり明らかになっており、その広範な影響は、ジャーナリストであればある程度予測できるものである。この発言はそうした取材に基く見識を欠いた、あまりに素朴な主張と言わざるをえない。
 1213日の「12党首に聞く」という特集でも、同コメンテーターは、出席党首への質問で「日米同盟を強固にしないと、北朝鮮に対抗できないという意見がありますね」と問いかけていた。こうした一方の立場にたった発言を問題だと感じる視聴者は少なくなかったはずである。
 全体に、日本のテレビ局には、もっと見識のある練達のキャスター、コメンテーターが必要だといえる。とりわけ選挙報道ではこの要請は切実である。

Ⅴ、テレビ選挙報道の弱点と解消の方向

 以上のような報道の特徴に加え、政党数が増え、争点が多岐にわたるにもかかわらず、選挙報道に充てられる放送時間量が充分ではなかったため、政治家の発言が極端なまでに短く編集されて伝えられることが多かった。その事例はあらゆるニュース番組全体に及んでいる。1011人の党首の発言が、全体でわずか6分程度にまとめられるなどという例もあった。
 こうした報道のあり方が支配的な中、短い時間で、断固とした調子で歯切れよく発言する政治家の印象が、その容姿も含めて有利になる、という、テレビの特性による作用は避けがたいものとなった。
 たとえば、日本維新の会の石原代表や橋下代表代行の、かなり過激な発言が強い印象を残し、投票行動に影響を与えたことは充分考えられる。この党の飛躍的な勝利は、露出度が抜群に多かったことと併せて、テレビの特性が影響していた、という見方もありうる。 
 テレビで伝えられる政治家の発言は、どの党の場合もきわめて短く、その党の政策、主張の全体に比べれば、ごく一部に過ぎない。しかし、テレビメディアでは、視聴者がその短い発言をあたかも政党全体の表現であるかのように受け取る危険が常に存在している。

 これらの作用は、活字メディアとは違うテレビ特有のものであり、とくに選挙報道のみにあるわけではない。しかし、有権者の判断に重大な影響を与える選挙報道にあたっては、報道側は、このようなテレビの限界と弱点にたいする充分な自覚が必要である。
 解決の方向としては、各政治勢力に丁寧に政策を問う時間を確保し、政策や争点を中心にした報道を強化するために、選挙報道に充てる放送時間量を拡大することがまず必要である。この方策を含め、選挙時の番組のあり方を再検討し、根本的に見直すことが求められる。

おわりに― 民主主義に資する放送のあり方を

上記のような選挙報道の傾向がしだいに明らかになった11月末、当会は、日本ジャーナリスト会議と連名で、テレビ各社に以下の3点を骨子とする申し入れを行った。
 ここに再掲するのは、前述のモニター報告にみられるように、今回の選挙報道でこの申し入れの内容がかならずしも実現されなかったからである。これらの要求は、今後予定される国政選挙の報道において、いっそう重要な意義をもつものである。

1)政党、政治家の動きの報道に偏らず、各政党の政策・主張を丁寧に伝え、選挙の争点を明らかにして、有権者の判断に資する、政策中心の報道を充実させること。
 その際、単に政党の主張を伝えるだけでなく、重大な争点となっている、脱原発、暮らしと雇用、消費税増税、TPP、沖縄の米軍基地、安保・外交、改憲、といった諸問題について、有権者の理解を助ける解説番組、記事を充実させること。

2)政党の政策・主張を紹介するにあたっては、現在の議席数の多少にしたがって放送や記事の量を配分するのではなく、少なくとも選挙期間中は、各政治勢力に公平に主張の機会を与えること。とくに民主・自民の「二大政党」偏重の報道姿勢を改めること。

3)選挙報道を、従来の報道の延長線上ではなく、その量と質を抜本的に拡充すること。とくに放送メディアでは、上記のような報道は、過去の選挙報道の延長線上では実現が困難である。政党数が増大したこともあり、編成の姿勢を抜本的に見直し、政策論議中心の番組を、長時間、数多く放送すること。
 (放送を語る会・日本ジャーナリスト会議「有権者の判断に役立つ公正、公平で充実した選挙報道を求めます」より。20121128日申し入れ)

 放送法は、法の目的を、「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が民主主義の健全な発達に資すること」(第1条3号)としている。放送法を遵守すべき放送事業者は、この精神にしたがい、日常の放送を通じて、民主主義の発達に資することを心がけなければならない。
 こうしてみると、選挙報道は、放送が民主主義の発展に貢献するもっとも重要な機会である。今回の報道は、そのような責任に応える質と量を持ちえただろうか。
 現実には、これまでモニターで明らかにした問題点がある上に、テレビ全体では、選挙期間中も膨大なバラエティ番組、グルメ番組、紀行番組などが放送時間の大半を埋めていた。
 幅広く深い取材に基いて政治的争点を掘り下げて提示し、ひとつの争点で長時間の番組を連続して組むこと、その際、局側キャスター、コメンテーターが、各党の政策、公約を問いただすだけの見識をもつこと、各党、各政治勢力に、できるだけ多くのアピールの時間を保障し、放送での政党間の相互討論の時間を確保すること、など、従来型報道の見直しを含む抜本的な改革を求めたい。それが有限の電波を使う社会の公器としてのテレビ放送の責務である。

別表・番組が主に取り上げた政党と関連報道(PDF)   

資料・各番組モニター担当者のコメントから
(PDF)

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