語る会モニター報告


     テレビはどう伝えたか「さようなら原発10万人集会」

                    2012722 放送を語る会モニターグループ

 716日、代々木公園と、隣接する明治神宮から代々木八幡に続く道路は人、人、人で埋まりました。内橋克人・大江健三郎・瀬戸内寂聴氏など著名人9氏と「さようなら原発1000万人市民の会」がよびかけた「さようなら原発10万人集会」。主催者発表では17万人が参加、原発に反対する集会としてはかつてない大規模なものになりました。集会後のデモは午後2時過ぎにスタート、最後尾の出発は5時を回りました。
 放送を語る会有志も集会に参加、予想を上回る盛り上がりを直に体験しました。会場上空にはヘリが何機も旋回、登壇者のあいさつが聞こえないほど。メインステージ正面にはテレビカメラがずらりと並びました。
 では、テレビメディアはこの集会をどう伝えたのでしょうか。

 会員が手分けして各局のニュースをモニター、以下はそのまとめの速報です。(各放送局の見出しは、番組の字幕スーパーをそのまま使用しています)

「荻上が見た“17万人”反原発デモの“いま”」(TBSNEWS23クロス」)

 従来のデモ取材と異なって、今回の大集会をネットの可能性を最大限生かした新しい動きとして、コメンテーター荻上チキ氏が現場取材に入って937秒を使い丁寧に伝えた。
 冒頭で幼児連れの夫婦の声、妻「今までデモは身近ではなかったが、自分の思いを届けたい」、夫「SNSのネットワークが有効に機能している」を紹介、見物人にもマイクを向け、「別に団体に入っていない、個人で歩きたい」など、今回の集会の特徴を伝えている。
 呼びかけ人のあいさつは、大江健三郎氏「私たちは侮辱の中で生き、その思いを抱いてここに集まっている」、坂本龍一氏「たかが電気のために、なんで生命を危険に曝さねばならないのか」の二人を紹介した。
 スタジオでも、膳場キャスターが「かつては一部の人たちの専有物の感があったデモに、普通の人が参加」とコメントするなど、大手メディアが伝えなくともネットを利用して情報を拡散し、参加者が増えている現状をよく伝えている。
 結びでは、荻上コメンテーターがこれからの注目点2点を挙げた。①今後、官邸前のデモをいかに拡大させうるか ②次の選挙で政治を動かす論点いかに作っていくか、政治家がこうした声にきちんと応えるか。
 ニュースの中で、「SNS」(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の用語解説が欲しかったなどの気になる点もあるが、毎週金曜日に行われている官邸前デモの推移をグラフで示すなど、「脱原発」世論の高まりを詳しく的確に伝えていた。

「都心では大規模『反原発』集会 意見聴取会またも“紛糾”」(テレビ朝日「報道ステーション」)

「さようなら原発10万人集会」と政府主催の「意見聴取会」を抱き合わせで取り上げ11分30秒、その内原発集会部分は約5分30秒を当て丁寧に伝えた。
 呼びかけ人のあいさつは、「NEWS23クロス」と同様大江健三郎・坂本龍一両氏をピックアップしているが引用部分はやや異なる。大江「私たちは政府のもくろみを打倒させなければならない」、坂本「福島の後に沈黙していることは野蛮だ」。
 参加者では、福島県浪江町津島地区住民の菅野みずえさんにスポットをあてた。菅野さんは昨年12月のインタビューで、事故直後に避難を進めた息子に「こんな時だから国の指示に従わなきゃ」と怒られたいきさつを語りながらこう答えていた。「息子が国を信じていたのに国は息子の信頼に応えてくれたのでしょうか」と。そして今日、デモに加わった菅野さんは、半年以上たっても国への不信は変わらない。「放射能があることも知らされずに出て行けと言われる。本当のことも知らされないで。そのことを気付いている(経験した)私たちが言わなきゃいけない。」と訴える。原発事故被災者菅野さんの思いは、この日の集会参加者の深い思いをよく代弁していた。
 最後に「デモだけでは現実の政治は変えられない。この民意を受けてどこの政党がどう動くのか、あるいはこの熱自体が新しく政党の枠組みを変えていくのか、そこを見なきゃいけない。国政を変えるには何らかの政治の力学っていうのがいる。時間もかかるし根気もいる。すぐ飽きてしまったり、政治的に無関心になってもいけない。安易な解決策に飛びついてもいけない」との三浦コメンテーターの結びも視聴者への的確な呼びかけになっている。

「さよなら原発に数万人、著名人も・・参加者の思い」(NTVNEWS ZERO」)

 現場取材にアナが入り、「若者や親子連れの姿も目立つた」とリポート、2分45秒で比較的丁寧に伝えている。デモ参加の女子大生の声、「家族と来たんですけど。反対してどうするか、考えられる方向に国自体が向って行ったら、それが一番なのかな」。子どもをベビーカーに乗せて参加した夫婦の感想「こんな人数はみたこともない。それだけ生活に密着する死活問題ですね。一部の過激な人たちだけではない」など、人々の率直な声を拾っている。
 呼びかけ人あいさつは、こちらも大江健三郎・坂本龍一の二氏。どの局も壇上であいさつする呼びかけ人の選択が、判で押したように大江・坂本氏と画一的なことに疑問が残る。
 「主催者の発表で17万、警備関係者によれば7万5000人が集まったという」とコメント。「デモ参加者数を警視庁は発表していない」との報道を受けて言い回しを変えている。
 ニュースは続いて、名古屋市で開かれた「将来どれだけ原発に依存すべきか国民の声をきく会」の中部電力社員発言などを237秒。スタジオで村尾キャスターが「政府による意見聴取会、本当に国民の声が届く仕組みになっているのでしょうか。疑問の声が上がっているのも事実です。今日、先ほどVTRにありましたが、代々木公園に集まった人々の中にも政府のやり方に疑問や反発を抱く人々も少なくないと思うんです。」と、ここでも素直に市民感情を代弁している。「福島原発事故がわたくしたちに与えた社会的な影響を考えたとき、国民投票をわたくしたちの民意をくみ上げる選択肢の一つとして検討できないかどうか」との問題提起も時宜を得ている。

「反原発の集会・デモ 都内で過去最大規模」(NHK「ニュースウォッチ9」)

 市民運動に冷淡な「ニュースウォッチ9」だが、16日の大集会はさすがに伝えてはいた。それでもわずかに1分半ほどの時間しか割いていない。「国民の声を聞く」名古屋の政府主催聴取会に、スライドさせてしまい、まるで脱原発集会はインサート映像扱いとなったようにも見えた。 
  
アナが現場取材に入り、参加者の声も伝えているが、民放の「NEWS23クロス」「報道ステーション」などと比べると、きわめて表面的であり、大江氏や坂本氏らの発言も組み込んでいない。
 「主催者側の発表でおよそ17万人、警視庁によるとおよそ75000人。 東京で行われた反原発デモとしては過去最大の規模になったということです」と集会の規模はコメントしていたが、なぜ過去最大となったのか、という集会にこめた市民の心情や、盛り上がった背景について考えようという意識は驚くほど希薄である。
 これがNHKの、市民運動の報道姿勢の基本であるとすれば、それはどこからくるのか、また「報ステ」など、民放との違いは何が理由かを、きちんと考察する必要がある。

反原発東京集会は1分程度(NHK「ニュース7」)(ここのみ字幕スーパー記録失念)

 大雨被害・猛暑・水難事故ニュースの後、集会のエアショット、呼びかけ人大江健三郎・鎌田慧氏のあいさつ、デモの映像などを一分ほど。コメントは「過去最大の集会」として「主催者発表17万、警視庁発表75000」と字幕スーパー。
 
流れた映像は、活気がないようなショットを選択したのではないかと勘繰りたくなる。集会参加者のカットは年配者ばかりで、まるで若い人は参加しなかったような印象になっていた。
 呼びかけ人鎌田慧氏の「780万人の署名を集め、政府に提出した翌日に大飯再稼動するとは…」という会場の音声を生かしているけれど、この集会の背景などの説明はなく、報道する側の意欲や主体性が感じられなかった。
 
地元の脱原発集会に参加しNHK地方局ニュースをモニターした語る会メンバーからも次のような意見が届いた。「反原発・東京集会に呼応した全国の集会・デモを放送すべき。地元でも参加者が『東京にいけないから、ここに来た』とデモ行進の中で隣の人に話していた」

「猛暑の中『さようなら』 脱原発10万人集会」(フジテレビ「ニュースJAPAN」)

 字幕は意味不明なところも。映像は35秒ほど。集会とデモ風景+坂本龍一氏のあいさつ。大江氏のあいさつは音声なしでコメントバック。ナレーションで「東京代々木公園で『さようなら原発10万人集会』。集会後、新宿・渋谷・原宿方面にデモ。『脱原発』を訴え」。デモの規模、参加者数などには触れず。 猛暑・水難事故、野田首相の民放(フジテレビ)でのネット地方局アナとの記者会見、増殖しすぎるオーストラリアのカンガルーなどがメインニュース。脱原発集会は、ニュースフラッシュのトップだったが、簡単な事実報道のみ。名古屋市開催・政府のエネルギー政策意見聴取会でのやらせ(30秒)と並べて取り上げていたが、市民運動へのメディアの関心の低さをこの日も感じた。
 メインニュースでオーストラリアのカンガルー急増に410秒を割いて、脱原発集会・エネルギー政策意見聴取会のヤラセはニュースフラッシュ回し。脱原発の機運が高まる今、編集者の政治感覚を疑う並べ方。

「反原発で10万人 『普通の人』が参加するワケ」(テレビ東京「ニュースアンサー」)

 全体は530秒だが、代々木公園の集会は冒頭に「マクラ」で使った程度。内容の大半は713日首相官邸前デモ。「普段デモに参加しない人達をも巻き込んだ反原発デモ、社会を変える力になるのか?」とのナレーションを受けて、大浜キャスターは「何人かの人達に聞いたが、『今までデモには悪いイメージを持っていた。でも違うんですよね』、どんどん一般に開放されている。参加する側も、警備するほうも戸惑いがあると思うが、新しいかたちが日本にもやってきたのは間違いではない」と形の新しさのみに取材の目が向いている印象。
 メインキャスターがデモ現場(13日官邸前)に取材に出かけるなど、一見意欲的な取材に見えるが、代々木公園の大集会とは本質的に関係のない報道内容。集会に集まった多くの人たちが何の為に、どの様な思いで参加しているのか、福島原発事故の原因も明らかになっていない状況で、早々に原発再稼働を決定した野田総理をはじめとする原子力村の面々が、10数万人の大集会を受けてどんな反応だったのか、など伝えることはいくらでもあるのに(750万もの再稼動反対署名が集まったことも触れていない)「デモの形態が様変わりした」などはワイドショーの領域。

終わりに

7月16日の大集会は、以上のように各テレビ局とも報道しました。
 3月から毎週金曜日行われていた首相官邸前の脱原発デモが、当初全く無視されていたにもかかわらず最近は度々各局で報道されるようになっていることと考え合せると、マスメディアの市民運動の報道のしかたに変化の兆しがうかがえます。
 変化の要因の第一が、脱原発の市民運動の、かつてない拡がりと盛り上がりにあることはいうまでもありません。同時に、インターネット、ソーシャルメディアなどを通じて、大きく展開されているマスメディア批判、私たち視聴者・市民のメディア検証活動が報道取材の現場に届いて一定の影響を及ぼしていることも考えられます。
 
それを裏付けるように、7月16日の10万人集会取材に際して「報道局長の『脱原発の大きな動きは見過ごせない。バランスから言っても取り上げないわけにはいかない』との意向が伝わってきた」との取材現場からの報告もあります。
 脱原発の市民運動がどのように報道されるのか今後も注視していきたいと思います。

 文責小滝)
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