語る会モニター報告


      あれから1年 テレビはフクシマをどう伝えたか
         20123月 各局ニュース番組を記録して


                             20126月放送を語る会


 東京電力福島第1原子力発電所の事故から1年が過ぎた。政府の「収束宣言」とは裏腹に、依然放射能に怯えながら暮らしている人や、就業が再開できない農・漁業者は多い。にもかかわらず除染の有効な手段も見出せず、原因究明もはかばかしい進展が見られないまま迎えた2012年の3月だった。
 昨年4月、私たち「放送を語る会」では、テレビのニュース番組が原発事故をどのように伝えたかを詳細に記録し、幾つかの問題点を指摘した。その中には、被害者の状況は多様で幅広い取材が行われている反面、脱原発、再生可能エネルギーの問題などが伝えられていないこと。原子力行政の歴史的検証や行政への責任追及の姿勢が弱いことなどが盛り込まれていた。
 あれから1年、テレビニュースにおける原発事故の報道姿勢は変ったのか、あるいは変っていないのか。私たちは再びこの問題を各局のニュース番組の中に探ることにした。ただ、今回は視聴する期間を前回より短くし、35日から15日の11日間に限定した。311日大震災発生の日にあわせて、各局が集中的に震災、あるいは原発事故関連の報道を展開するであろうことが予測されたからである。しかし、これはあくまでニュース番組に関する集計であって、その局の原発関連番組すべてを対象にしたものでないことをはじめにお断りしておきたい。なぜなら、この間NHKを始め多くの局が特集番組を企画し、原発事故に関連した優れた作品を送り出していることは承知しているからである。その中でニュース番組を選んだのは、日常的に視聴者に情報を提供し、与える影響も大きいと考えたからである。
 そうした観点に立って、今回も各局の代表的なニュース番組について記録し、検討することにした。

対象としたニュース番組と原発関連報道の概要

NHK 「ニュース7」(月~日 19001930
    「ニュースウオッチ9」(月~金 21:0022:00
日本テレビ「news every」(月~木 第116:5317:50 第217:5019:00
    金  第117:0017:50 第217:5019:00
テレビ朝日「報道ステーション」(月~金 21:5423:10
TBSテレビ「ニュース23クロス」(月~木 22:5423:45 金 23:300:15
フジテレビ「スーパーニュース」(月~金 16:5319:00
テレビ東京「ニュースアンサー」(月~金 16:5217:20

なお、昨年の同時期と大きく異なるのは、原発事故に関するデイリーの情報がそれほど多くなかったことだろう。モニター期間中に発生ないし発表された事柄としては、39日「政府 原子力災害対策本部の議事要綱公表」、311日「各地で脱原発集会」、312日「東京大学の研究グループ 水・食品の放射性物質 人体への影響 発表」くらいのものか。
 したがって、この期間各局が扱った原発事故関連のニュースは、震災一周年特集の一部として企画された独自の調査報道が主であった。たとえばNHKの場合「ニュースウオッチ9」では5日~9日の5日間「シリーズ・災後社会」を企画し、7日を除く4日間を原発関連に当てている。一方TBSでは、「ニュース23クロス」中に「いのちの記録」を5日~9日の5回シリーズとして組み込み、毎回10分前後を原発事故関連の報道に費やしている。フジテレビでは、「特別報道番組 東日本大震災から1年『希望の轍』」「スーパーニュース」「Mr.サンデー特別編 3.11とニッポンと私」で報道。また日本テレビの場合、news everyのなかで昨年後半から不定期に放送されてきた、「シリーズ・食と放射能」の第6回として「 ひろがる市民測定所」が37日に放送された。一方、シリーズとしては括らないものの、毎日テーマを決めて調査報道の結果を伝えていたのがテレビ朝日「報道ステーション」NHK「ニュース7であった。
 以上の理由もあって、昨年のように、たとえば「レベル7」「工程表」といった一つの項目をめぐって、各局の報道姿勢を比較することは難しかった。しかし、事故から1年という時点でニュースは何を伝えなければならなかったか、それをやりおおせていたのか、といった問題点は見えてくると思う。以下、いくつかの項目にしたがって検討していくことにする。

設定した項目

1)被災地の暮らしや生活はどのように伝えられたか(放射能の実態、食物、健康への不安、避難生活、除染活動、雇用、医療問題、教育など)
2)国・自治体など行政の救済・支援・復興活動などはどのように伝えられているか。
3)原子炉の現状や事故後の対応、事故の検証作業はどのように伝えられているか。
4)原発への批判(国や東電への責任追及、脱原発の世論、市民運動)はきちんと伝えられているか。
5)原子力・エネルギー政策の転換、今後の方向はどのように取り上げられているか。
6)報道姿勢全般の傾向
  原発推進・容認路線、安全神話、発表ジャーナリズム依存体質などをめぐるスタンスは変ったか。

記録と集約

 1人のモニター担当者が1つの局を受け持ち(NHKは2人)、視聴した各局のニュース番組の詳細な記録を作った。その記録をもとに上記の項目に添ってレポートを作成した。

分析と報告

(1)被災地の暮らしや生活はどのように伝えられたか(放射能の実態、食物、健康への不安避難生活、除染活動、雇用問題、医療問題、教育など)

 35日、NHK「ニュース7」は原発事故の避難区域で「5人が餓死した疑い」と伝えた。
 このニュースは「ニュースウオッチ9」にも引き継がれた。検証に関わった医師は、「原発事故がなければ、捜索で何人かは助かったはず」と証言。放射能の危険がなければ救えたはずの命が失われた、と報じた。これはNHK独自の取材によって明らかになったことで、その発掘の意義は大きい。ただ、この重大な問題について責任の所在の追及は甘い。東電や政府の責任は大きく、補償問題がどうなるのかまで踏み込んだ取材が要求されるはずだが、そこまで徹底した報道はなされていない。

 あれから1年、放射能は今も生活の様々な局面に影響を及ぼしている。日本テレビ「news everyで放送された「捜索を阻む放射能」(3/7)は、福島第1原発から7kmに位置する浪江町請戸地区の実態を伝えていた。居住が制限されているこの地域では、遺体の捜索が現在も進んでいない。それに反して空巣が横行し、家の持ち主達を不安に陥れている。その解消のため、全国から大勢の警察官が現地に派遣されているという話なのだが、肝心の汚染の実態は詳細に伝えられなかった。

 一方、「食と放射能」に関しては各局とも様々な形で取り上げている。312日、東京大学の研究チームが東京都での食品による被ばく量の調査結果を発表した。結果は、都民の発がん性のリスクや死にいたる危険性が、ジーゼル車の排気ガスや交通事故と比べて非常に低いとするなど、被ばく線量は高くない、との印象を与えるものであった。この話題はNHK「ニュース7」「ニュースウオッチ9」テレビ朝日「報道ステーション」、TBS「ニュース23クロス」が報じていたが、総じて、低線量被ばくにあまり神経質になるな、とも取れる報道姿勢である。「ニュースウオッチ9」を例にとっても、この結果が客観的に信頼しうるものかどうかの検証がなされておらず、また、低線量被ばくの研究者を起用することもないまま報道されていたことは問題が残る。  これとは別に、各局は企画ものとして「食と放射能」枠を設けている。news everyでは「シリーズ・食と放射能」を昨年後半から不定期に取り上げ、3月7日にはその第6回「ひろがる市民測定所」を放送した。今年3月現在、全国60か所に民間の放射能測定所があり、そのいくつかの測定所を取材して、食品の放射能測定の様子を伝えたものである。ただ、こうした設備は本来公的機関がもっときめ細かく目配りしなければいけないはずなので、そうした問題にまで言及されていないことには不満が残る。
 TBS「ニュース23クロス」は、「シリーズ・いのちと放射能」の第2回で、「福島の海はよみがえるか」と題して海の汚染と漁民の現状をリポートした(3/6)。原発事故で休業に追い込まれ、苦境に陥っている浪江町やいわき市の漁民や漁協の実態に迫ったもので、番組からは復活が難しい漁業の未来が伝わってくる。しかし、損害賠償の行方、消費者の食の安全への不安などについての具体的なデータに乏しく、突っ込んだ取材がなされていない。
 フジテレビ「FNNスーパーニュース」の中で漁業問題に触れている。311日放送の「『魚が売れない』風評被害に苦しむ茨城大洗漁港」は、わずか3分ほどの短い企画ではあったが、悔しさをにじませる漁協女性部長や漁師のインタビューを取り込んだ好企画であった。
 フジテレビは同じ11日、Mr.サンデー特別編」22002345)の中で、「放射能1年後の真偽」を放送している。飛び交ううわさを科学的に検証するスタイルをとりながら、放射能汚染の実態を丁寧に、様々な角度から検証した企画である。しかし、ナレーションやキャスターのコメントには疑問や違和感が残った。たとえば、避難区域の段階的解除、訪日外国人の増加、暫定基準値を超える食品の減少などを理由に、「事態は沈静化している」と受け止めているキャスターの現状認識は、低線量被ばくへの不安や風評被害に苦しむ漁民など、被災者感情とのギャップを感じる。不安や批判の根拠を軽視し、「必要以上に騒がない」よう上から目線でものをいうニュアンスが感じられるキャスターやナレーションのコメントも、素直には同調できない部分が付きまとった。

 NHKでは、仮設住宅に暮らす人々600人を対象に、原発事故から1年を経た人々の意識や生活実態をアンケートの形でまとめた。35「ニュース7」「ニュースウオッチ9ともにその結果を報じている。その答からは、仮設住宅暮らしで引きこもりがちになった人々の様子や、家族関係がギクシャクしてきているといった、孤立する避難生活者の現実が浮かび上がってくる。しかし、その孤立をどう解決していくのかという点で、行政の対応などの問題点は指摘されない。むしろ「ニュースウオッチ9」では、こうした悲惨な状況の解決の方策を、国民一般の善意や自助努力に求めている場合が少なくない。キャスターの最後のコメントがその典型で、「私たちはそのことを胸に刻みこんで、災後社会を築いていかなければならない」という表現は、事態の解決が国民の意識の持ち方に委ねられている、という主張に聞こえる。
 NHKではこのほかにも、福島県をのぞく原発30キロ圏内にある142の自治体を対象に、原発に対する意識調査を行っている。その結果は、原発再稼動について79%の自治体が慎重姿勢を示し、再稼動の条件として、福島の事故の検証、地元住民の理解、国の新たな安全規制を上げている。8日、「ニュース7はこのアンケート結果を論評なしで報じた。また、同じ日「ニュースウオッチ9」では、枝野経済産業大臣をスタジオに招き、インタビューの材料の一つとしてこのアンケートを利用している。枝野氏へのインタビューについては後述するので、ここでは事実だけの記述にとどめる。

2)国・自治体など行政の救済・支援・復興活動はどのように伝えられているか

20111216日、国は福島第1原発の原子炉が「冷温停止状態」になったとして「収束」を宣言し、18日には警戒区域と計画的避難区域を、放射線量に基づいて三区域に再編する案を示した。さらに28日には福島県に対し除染土の中間貯蔵施設を双葉郡内に設置するよう要請。明けて2012126日、環境省は除染ロードマップを発表した。こうした動きを受けて、131日福島県川内村の遠藤雄幸村長は帰村宣言を発した。事態を一刻も早く収束させようとしているようにも見える国の慌しい動き。3月、テレビ各局はそれをどう捉えていたのだろうか。

 私たちのモニター期間中、川内村については、NHK、TBS、テレビ東京の3局が取り上げている。
 36日のNHK「ニュースウオッチ9」は、大越キャスターと川内村の遠藤村長との会見をVTRで紹介した。この中で遠藤村長は「国や業者まかせでは村を再建できない」と述べている。これは放射能が安全な水準にある、というよりは「この程度であれば避難でバラバラになるストレスよりリスクが低い」という、いわば政治的な判断であり、絶対視してはいけない態度であろう。しかし、大越キャスターは川内村の判断を「放射能を正しく恐れるということですね」と評価するような発言をしている。この日、スタジオでのキーワードは「ひとりひとりの判断」だった。
 たしかに、最終的には個々人の判断が問われる場合はあるであろう。しかし、この考え方では放射能に対する態度が自己責任に委ねられ、国民一人一人の責任に解消されてしまう。問題は「判断」の基になる情報の開示が、政府や自治体から充分に行われていないことにある。ジャーナリズムとしては、「一人一人の判断」という情緒的な言葉を使う前に、客観的に現状を批判することから始めねばならないであろう。
 TBS「ニュース23クロス」の「いのちの記録」シリーズ第3回で川内村を扱った。ここでは、「帰村する33%、しない28%、わからない34%」という村民の意識調査を含め、揺れ動く村民感情を丁寧に追っている。帰村宣言はしても、それが最良の選択とはいえないのではないか、という思いが行間から読み取れる構成である。
 私たちは今回のモニターにテレビ東京も加えた。この局のニュース番組「ニュースアンサー」では、35日~9日「興 明日の力」と題した震災関連のシリーズを組んでいる。ただ、5日間の放送のうち原発事故を扱ったのは5日のみで、その対象が川内村だった。この番組のキャスター大浜平八郎氏が川内村役場前から生中継するところから番組は始まる。内容は帰村宣言が出されても帰れない人、帰ることを拒んだ人などをVTRで紹介し、この中に村長も登場する。問題は大浜キャスターが「この村の放射線量は少ない」と断定していることであり、帰れない理由を「産業基盤がない」ことだとしている点である。村長も新たな産業の創設などの話をしている。もちろん、産業基盤の問題は大切であるが、放射能に不安を持つ母親の話もなければ、原発事故によって避難生活を余儀なくされている住民の姿も見えてこない。国や東電の責任を追及する姿勢も皆無だった。

 除染土の中間貯蔵施設問題についてはどうか。日本テレビ「news every1 0日、福島県郡山市で開かれた政府と双葉郡町村長の意見交換会の様子を伝えた。この席で大熊町の渡辺町長は「中間貯蔵施設は必要。検討する」と述べたのに対し、双葉町井戸川町長は「絶対反対ではなく、最終処分場も同時に考える」と発言している。このニュースはあくまで事実を伝えたのみ、住民のリアクションも知りたかった。
 除染と抜きがたく関わっているのが、がれきの処理である。津波によって発生した膨大ながれきの処理は放射能の危険と絡んで容易に受け入れ先が決まらない。312日、「報道ステーション」では「進まない“がれき”処理問題、総理要請で事態の打開は…」として野田総理の国会答弁の様子を紹介した。この時の発言「災害時に助け合った日本人の気高い精神を世界が賞賛した。日本人の国民性が再び試されている」という言葉は、すべてを精神論にすり替えようとする問題発言に思えるが、スタジオでのコメントは一切なかった。
 NHK「ニュース7で、13日、15日の2回にわたってがれき問題を取り上げた。静岡県三島市が3ヶ月かけて受け入れを表明した。反対する市民グループは「環境汚染の可能性が高い」と主張、一方環境省は「被災地以外のがれきで問題はない」としている。放射能を含むがれきの処理は、専門家からも「被災地への同情から受け入れるべきだ」という意見がある一方で、「汚染されていない地域を残すことも一つの見識」との発言もある。住民の反対の声に答える上でも、政府の「問題ない」という根拠を調査、分析する報道が緊急に必要である。

 「復興のいま」を考える上で、フジテレビ「特別報道番組 東日本大震災から1年」は様々な問題提起をしてくれる。安藤優子キャスターが取材した原発事故関連コーナー「警戒区域…終りなき絶望」の最後で、彼女は「福島は『復興』のウーンと手前。簡単に『復興』といってはいけないと感じた」と締めくくっている。たしかに、行政の復興支援活動の遅れについては番組を通じて縷々指摘している。しかし、復興政策の具体的な批判、代案・対案についてはコメントなどを含めてほとんど言及されていないし、取材もされていない。被災地の現状、告発には力が入れられているが、今後どのような施策が必要かへの言及が甘いことは、視聴者への訴える力を弱めているのではないだろうか。

 賠償問題についてはどうか。 「原発の賠償金に課税」と報じたのはテレビ朝日「報道ステーション」だった(3/12)。風評被害によって減った収入を補うために支払われた賠償金、避難指示によって給与が減った分に対する賠償金も一時所得とみなされ、課税されるというのだ。この件に関しては福島県から国に申し入れがあったにもかかわらず、安住財務大臣は「初耳」と答える。この無責任な発言を報道は追及していない。事実を伝えることも大切だが、今一歩踏み込んで論評することもジャーナリズムの使命であろう。
 日本テレビnews everyのなかにあるコーナー「今週のお値段」で賠償請求のあれこれを紹介している(3/7)。福島県にあるゴルフ場は114億円を請求。相馬市からの避難者・家族7人は、1800万円の賠償を請求した。職を失った上、避難先での他人への気兼ねなど精神的な苦痛も大きいとし、その精神的負担や教育費、交通費などに対する補償を要求したのだ。「一人当たり10万円の見舞金だけではおかしい」と請求者は語っている。一方蔵王温泉から出された風評被害による修学旅行キャンセル代を、東京電力は対象外として退けた。
 「今週のお値段」とは一見くだけたタイトルである。しかし、扱う数字によってそれは深い意味を持ってくる。一度放出された放射能は際限なく、多方面に害を及ぼしていく。つまるところ、原発が稼動するかぎり、こうした恐れはこれからも起こりうることをジャーナリズムは肝に銘じて報道していく必要があるだろう。

3)原子炉の現状や事故後の対応、事故の検証作業はどのように伝えられているか

 昨年12月、冷温停止状態に達したとして政府が「収束宣言」を発して以来、ニュース番組での「原子炉のいま」に関する報道は急速に薄れていった感がある。そして迎えた今年311日、その取り組みは息を吹き返したのだろうか。

 原発の取材に対しては、東京電力の厚い壁が立ちはだかっていることも事実である。が、その壁を突破して、少しでも現況を伝えようとする努力、それを果した局もある。
 312日、日本テレビ「news everyでの原発作業員へのインタビューと、それを受けてのスタジオ解説がそれだった。この日、出演した2人の原発作業員は、3号機が水素爆発した直後からまた現場に戻って作業を続行した人たちだった。Aさんはいう。「今も苦労しているのは、汚染水の処理」そして「将来的には使用済核燃料をどうするかという問題」。コメントの補足「汚染水をためるタンクは1000基以上作ったが、7割以上は使用済、タンクを増設しても夏までには満杯になる」。Bさんが指摘したのは「床、地べたの高放射線量」だった。「限られた時間内で作業するのは一番大変」と彼は訴えている。
 こうしたやり取りを引き取る形で、倉澤治雄解説主幹はスタジオで次のようなことを述べた。「福島第1原発には、合計で1万本に及ぶ使用済核燃料がある。余震で建屋が壊れると熱をだして融ける。プールには格納容器がないから非常に大きな事故につながりかねない。アメリカが一番心配していたのは4号機プールだった」。倉澤氏は「事故収束宣言とは裏腹に、心配なことがたくさんあります」と結んでいる。原発の現状を伝えるこうした貴重な発言は、モニター期間中、日本テレビを除いて1件もなかった。

 フジテレビ「スーパーニュース」で類似の企画を放送している(3/9)。ただし、撮影されたのは昨年7月。作業員として実際に原発で作業した、ジャーナリストの鈴木智彦氏の撮影した映像と彼の証言を、8分半にまとめたもので、汚染水浄化装置「サリー」での作業風景、および作業員へのインタビューからなっている。使命感に燃えて作業を買って出た者がいた反面、高額の報酬につられて従事した者がいたことがこの映像から分かる。ただ、この企画の最後を、将来子どもたちが「事故処理に当たった偉い父親、といえるような働きをしたい」という発言で締めくくっているのは、美談としての原発作業を印象付ける意図が透けて見え、原発の現実とかけ離れている感がある。
 一方、東電発表の「事故後初めての2号機」の映像を「報道ステーション」など複数の局が取り上げている。
 2号機の階段を下りて地下の圧力抑制室に向かう東電社員。しかし、圧力抑制室の扉を開けた途端レンズは曇ってしまった。作業員は高い放射能に阻まれて、中の破損状況を調べることは出来ない。3号機の地下にも入ったが、扉が変形していて開けることができなかった。「報道ステーション」の古舘キャスターはいう。「2号機の実態が知りたい。しかし相変わらず入口のあたりを行ったり来たりしているだけ。東電はこれでいいのか」(3/15)。
 作業員の証言、近づくことさえ出来ない原子炉建屋の内部、そうしたことから見えてくるのは、とてつもない高濃度の放射性物質がこの建物の中に現存するということだ。それらが、何らかの理由で空中に、あるいは海中に漏れ出したとき、我々の暮らしはどうなるのか、そうした検証も当然必要になってくるであろう。

 39日、原子力安全・保安院は、昨年311日官邸で開かれた「原子力災害対策本部 第1回議事概要」を発表した。今回の原発事故の対応に当たって、政府は一編の議事録も残していなかった。それを補う形でとられた処置が、関係者の記憶を断片的に編んでいくことであった。議事概要には詳細な記述はない。発言者も曖昧なままである。それであっても官邸の混乱振りは伝わってくる。とくに、早い時点でメルトダウンの危険性を複数の人が懸念していたことは重要である。この日の各局のニュースはそろって発表を伝えている。ただ、発表を受けての各局の対応は大きく異なっていた。

 NHKは「ニュース7」「ニュースウオッチ9とも「断片的で検証に耐えない」と論評し、アメリカの原子力規制委員会の議事録と比較している。それによれば、アメリカでは10日間の記録を3200ページにわたって公表しているという。両番組ともこの事実の紹介のあとに「アメリカは3200ページ、日本は70数ページ。国民の知る権利に答えになっていない」という、名古屋大学大学院特任教授、春名幹男氏の談話を載せている。
 テレビ朝日「報道ステーション」は、関係した大臣の談話も交えながら議事概要をドラマ仕立てにした。VTRとナレーションで構成された部分は「真相を追究する」姿勢が感じられ見ごたえがあった。古舘キャスターの「大変な事故を歴史から抹殺しようとしているのか」との発言にも共感できた。ただ、スタジオ出演したノンフィクション作家、佐野眞一氏の「国民を安心させるべき国家が、不安を撒き散らしたまま今日に至っている」との発言は、あまりに一般的。もう少し深い言葉を引き出せなかったものか。
 「震災直後にメルトダウン想定」。9日のTBS「ニュース23クロス」の副題である。TBSは当時の枝野官房長官の談話を入れ、名古屋大学大学院、春名幹男特任教授の談話を載せている。「大事故にどう対応したかの記録は、将来の緊急事態、危機管理に役立つ。国民の財産というべき記録が、メモ、記憶による議事概要になってしまったのは残念」と述べている。
 それにしても何故議事録が作られなかったのか。勘ぐった見方をすれば、都合の悪いことは隠したがる日本の官僚の悪癖が、故意に議事録を無きものとしているとは考えられないだろうか。官僚とは己の役割分担は忠実に果たす人たちである。誰も議事録がないことに気がつかなかったとは考えにくいのだ。  フジテレビはこの日、枠広げの「スーパーニュース」の中で、この発表記事には直接言及せず、「あの日、原発で起きたこと… 細野大臣直撃 あの時 首相官邸で何が」を放送した。内容は議事概要に述べられていることがほとんどだが、なぜかメルトダウンについては一言も触れていない。インタビューアーが意図的に避けたのか、編集の過程で落としたのか、はたまた最初から考えていなかったのか、いずれにせよ議事概要の流れから考えると不自然である。「首都圏住民避難も想定された最悪の事態」が、混乱回避を理由に公表されなかったことについても、一方的な弁明に終わらせた追及の弱さが、視聴者に欲求不満を残した。
 こうして、3月9日の発表を各局一律に並べてみて思うのは、政府の杜撰さは糾弾しても、なぜ記録が残せなかったのかに言及した局が一つもないことである。さらには、この時語られたメルトダウンの可能性が何故その後消えていったのかの検証も行われていない。この日の発表報道を受けて、さらに調査報道で真相に迫っていく、といったことも必要であろう。

 「首都圏住民避難も想定」については、TBS「ニュース23クロス」の、「シリーズ・いのちの記録」第4回でも「最悪シナリオに見る原発危機」として取り上げられた(3/8)。事故から1週間以上たって、政府が極秘の内に制作したという原発事故の最悪のシナリオをまとめた非公開文書である。スタジオには細野豪志・原発担当相を招いてこの非公開文書について話し合われた。 最悪のシナリオとは、①1号機が重大な水素爆発―作業員退避 ②4号機のプールの燃料溶融 ③2,3号機の格納容器破損―放射性物質の大規模な放出 ④強制移転(半径170キロ)任意移転(250キロ)であるが、これを公開することでパニックを起こすことを恐れた、と細野氏は語っている。が、政府としてはどこかで国民の目に触れさせることを考えていた節もある。ただ、この文書が出来た時点で、メルトダウンという深刻な事態が進行していたことは分かっていたはずだ。高い線量の放射性物質が風に乗って広範囲に拡散していった事態を、文書作成に携わった人たちは最悪と考えなかったのか。現在私たちが知りうる事実と照らし合わせながら、キャスターたちはもっと詰めて質問すべきではなかったか。

(4)原発への批判(国や東電の責任追及、脱原発の世論、市民運動など)

 311日、震災発生1年を機に、福島県郡山市で作家の大江健三郎氏らも参加して「さよなら原発」集会が開かれた。同日、東京など全国27都道府県の40を越える地域で脱原発集会が開かれた(インターネット検索による)。これらの事実は報道されたのだろうか。結論から言えば、モニターの対象にした番組がウィークデイの放送であるため、日曜日であった11日は、放送そのものがなかった。私たちがモニターしたのはNHK「ニュース7」、フジテレビ「FNNスーパーニュース」、それに特集番組として放送された、テレビ朝日「報道ステーションスペシャル 愛おしきあなたへ」JNN報道特別番組「Nスタ×ニュース23クロス」だけである。
 このうち「ニュース7では、福島県郡山市と東京・日比谷2か所の脱原発集会を取り上げている。この日「ニュース7」は、いつもより30分延長した1時間の枠で放送されているが、デモに参加した人へのインタビューも交えてNHKがこうした集会の様子を伝えたのは、極めて異例というべきであろう。脱原発の世論を無視できなくなっている表れではないか。「FNNニュース」は、30分の枠の中で原発関連のニュースを3項目扱っていたが、この日の脱原発集会などの動きについては全く触れなかった。
 テレビ朝日は報道ステーションの古舘伊知郎氏をキャスターに2時間半のナマ番組「報道ステーションスペシャル 愛おしきあなたへ」を放送した。この日の脱原発集会については一言も触れていないが、岩手県大船渡市からの中継の中で古舘キャスターは、大都会の繁栄を維持するために、一方で原発に頼るしか生きられない地域を生み出してしまった旨の発言をしている。そしてこう結んでいる。「その根本を徹底的に議論しなくては、生活の場を根こそぎ奪われてしまった福島の方々に申しわけが立たない。私は日々の報道ステーションの中で、それを追求していきます。もし圧力がかかって番組を切られたとしても、それは本望です」。
 レギュラー番組の司会者がここまで踏み込んで己の決意を表明したケースは、これまでほとんどなかったのではないか。古舘キャスターの勇気は大いに称えたい。ただ、彼の表現には追及すべき対象がなんであるかが語られていない。それが原発事故の真相究明であったり、日本の産業構造の歪みであったりするであろうことは言外には感じ取れるのだが、明らかではない。心情的には共感できるだけに、もう一言言葉を深めて欲しかった。
 一方、TBS「Nスタ×ニュース23クロス」3時間の長時間番組であったが、この集会は言うに及ばず、原発に関する話題が15分程度という、全体から見れば極めて短時間の扱いだった。「放射能が分断する地域と住民」と題した原発関連コーナーでは、飯館村、福島市渡利地区を取り上げ、国の明確な基準もない線引きのため、自治体や地域のつながりが分断されてしまった実態を細かく取材していた。そのこと事態は必要な情報であるが、この日、この時の原発に対する動きもナマ放送という利点を生かして伝えて欲しかった。

 TBSが脱原発について報じたのは、日本ではなく海外での動きだった。「世界でも反原発のうねり」(3/12)では、大震災1年目を機に開かれた世界各国の反原発集会の様子を紹介した。ベルリン(ドイツ)、リヨン(フランス)、サンオノフレ(アメリカ・カリフォルニア州)、韓国が取り上げられている。ナレーションは「フクシマを合言葉にした反原発の機運は衰えない」と結んでいる。これだけ世界各国の実情を伝えながら、日本国内の動きを伝えないのはなぜか。報道の姿勢が問われるであろう。
 フジテレビが脱原発の世論や市民運動の動向を伝えたのは、唯一「原子力安全委員会 関西電力大飯原発のストレステストの評価」(3/14)だった。傍聴者で埋まり、市民の激しい批判にさらされた審議風景。ナレーションでは「密室審議だとして猛烈な非難をうけた」ことを伝え、斑目委員長の「再稼動はしかるべきところで判断を」という責任逃れの発言と、野田総理の「地元の賛同が得られるかを判断して政治決断する」という国会答弁を付け加えていた。

 その反面、フジテレビは東電たたきともいえるほど、東電批判に力を入れていた。「震災まもなく1年 東電トップ‘会見しません‘」(3/8)、「福島県知事に謝罪 被害者 素通りにあきれ声」(3/9)、「東電の対応は…」(3/12)、「電力料金値上げに猛反発・・東電ついに“不払い運動”も」(3/14)などがそれで、いずれも被災者に対する誠意が感じられない東電の対応を批判する内容だった。ただ、根底にある原発推進の政府・財界の意向には全く触れておらず、結果的に東電の裏に隠れた政府の責任を見えにくくしている感はぬぐえない。

 NHKの場合はどうか。39日の「ニュースウオッチ9では、作家の高村薫氏を登場させ、未来を見据えて震災後の日本社会を根本的に変えるべきとの趣旨の発言を伝えたのは評価できる。たとえば、目先のことだけで「原発再稼動」云々が言われるが「少し遠い未来を眺め、切るべきものは切り、捨てるべきものは捨てる選択が必要。切るべきものの中には『核燃料サイクル』が含まれる」としている。こうした識者の発言はあったものの、「シリーズ・災後社会」期間の「ニュースウオッチ9」では、脱原発の市民運動の紹介は皆無であった。3・11前後各地で繰り広げられた脱原発の動きも紹介されなかった。この番組の、市民運動に対して距離をおく姿勢は昨年来変っていない。

(5)原子力・エネルギー政策の転換、今後の方向はどう取り上げられたか

 この項目については、各局別に記述する(ただし、あくまでモニター期間中のことのみ)。

日本テレビ
 「news every
該当するニュースなし

テレビ朝日
 「報道ステーション」
316日、東京大学大学院教授・姜尚中氏をレポーターに「17年続く『廃炉』作業も… 姜尚中が見た‘脱原発‘の真実 ドイツでいま起きていること」を放送。
 脱原発を宣言したドイツで、まず廃炉の実際の行程、期間、費用などについて報告。次に、ドイツのエネルギー政策の転換について紹介した。「脱原発」の決断をきっかけに、多くの競争が生まれ、再生可能エネルギーのコストが劇的に下がったこと。再生可能エネルギーが安くなることで、逆に原発のエネルギーのコストが高くなっていることなどを紹介した。そして、日本の国民が、こうしたエネルギー政策の転換を受け入れれば、原発から脱して、再生可能エネルギーに転換できる大きなチャンスになるであろうと提言していた。再生可能エネルギーの問題にまで踏み込んだ示唆に富んだ番組だった。

TBS

「ニュース23クロス」該当するニュースなし

フジテレビ
 「Mr.サンデー特別編」
3/11)の中で、VTRレポート「放射能1年後の真偽」を受けて、ゲストの杉良太郎氏が「これだけ突きつけられてもまだ原発続けますか? 節電すればいいんです」と脱原発を明言。国際ジャーナリスト竹田圭吾氏も「長期的には脱原発、再生エネルギーに。間をどうするかのオプションがあってもいい」と妥協的姿勢ながらも脱原発を支持した。ただ、これだけの会話がなされたのは結びの部分2分ほど。踏み込んだ議論も、何もなかったのは淋しい限りである。

(6)報道姿勢全般の傾向(原発推進・容認路線、安全神話、発表ジャーナリズム依存体質などをめぐるスタンスは変ったか)

昨年のレポートの中で、私たちは報道姿勢の特徴や問題点を以下のように集約した。
 ①被災者の状況について多様で幅広い取材が行われている
 ②一方、原発事故に関しては、原発そのものを問う立場の意見なり世論なりが明確に排除されている
 ③多角的視点の欠如、歴史的視点の欠如
 ④行政に対する被災者の要求を探し当て、伝える姿勢が弱い
今回の分析結果をこの項目に添ってまとめてみる。

 ①被災者の状況については、1年前同様多様で幅広い取材が行われていて、多くの優れたレポートが報告されている。とりわけ、フジテレビ311日放送の特別番組「東日本大震災から1年」では、4時間の生放送の内、1時間以上を原発事故関連に当てている。この中で「スーパーニュース」の安藤優子キャスターが警戒区域内の上空と地上から取材を敢行し、事故から1年経った現地の様子を伝えたのは好企画であった。
 しかし、④と関連してくるのだが、実態を指摘し告発するところまでは鋭くても、背景や原因の追究、行政に解決を求める具体的提起は1年前同様甚だ弱い。事故後、時間が経過するにしたがって被害者も視聴者も、現状告発だけにとどまらず、解決を求めることへの要求が強まっているが、メディアはそれに答えきれていないのではないか。

②原発に物申すことに消極的である姿勢は、1年後のいまも変っていない。
 3月11日、全国で繰り広げられた脱原発集会を報じたのが、NHK「ニュース7」だけだった、ということは先に述べた。当日が日曜日で、放送そのものがなかったという事情があるにせよ、扱おうと思えばその前後の放送日に、脱原発についての世の中の動きは伝えられたはずである。日本のテレビ界が全体的に脱原発、反原発に対しては冷淡であることは嘆かわしい。
 原発そのものの「いま」が伝えられなかったことも問題である。原発はいまも放射能を放出させ続けているのか、冷却は問題なく行われているのか、強い余震に耐えられるのか、国民の間には数々の不安が鬱積している。さらには、原子炉を廃炉にする問題もある。その処理のためには想像を絶する困難さがあるだろう。そうしたことの調査、取材が今の時点では重要な課題であるはずだ。しかし、何も報じられていない。
 とはいえ、初期の頃の政府発表の「垂れ流し」、いわゆる原子力村の専門家を起用する傾向はさすがに影を潜めた。1年前の、批判的意見・世論の「明確な排除」の様相も変ってきている。被害の深刻さと、原発批判の広がりを無視できなくなったことや、原発をめぐるメディア批判が「明確な排除」を貫けなくなった背景にあるのではないか。ただ、推進派を登場させない代わりに、反原発派も登場させないというバランスをとっているようにも見える。

③「多角的な視点」という点で言えば、原子力・エネルギー政策の転換もこの項目に入るであろう。
 しかし、このテーマに関わる放送は、ドイツで取り組まれている再生可能エネルギー問題の実情を扱った、テレビ朝日「報道ステーション」での姜尚中レポートのみであった。
 1年前にも少なかった再生可能エネルギー問題の番組は、野田総理が原発再稼動へ舵を切って以来、メディアからほとんど姿を消してしまった。発送電の分離、電力の自由化など関連の問題も多々あるはずなのだが、いずれも取り上げられていない。権力追随の姿勢が透けて見える。

④①でも触れたが、事実は提示しても解決の方向性を示さない、それは1年前と基本的に変っていない。
 ここでは、「ニュースウオッチ9」を例に、少し詳しく述べてみよう。  この番組でもしばしば悲惨な事実は描かれる。しかし、その解決の方向が人々の自助努力や、ボランティアの善意に求められる傾向が根強い。いわば報道の基調が「美談」紹介に傾いているきらいがあるのだ。しかも、キャスターのコメントも、情緒的、心情的にすぎ、本来のジャーナリズムへの期待からすると疑問を持たざるを得ない。
 たとえば、大越キャスターが「守るべきその最たるたるものが、震災を機に強まった支えあいの精神ではないでしょうか」とか、「支えあいの精神がもっと広がっていくように」(取材を続けたい)といった趣旨の発言をすることは、報道番組の姿勢としては違和感がある。こうした主張は、個人のレベルでは尊重されるべき言葉である。しかし、ジャーナリズムの任務を考えたとき、このような常識的で手垢のついた安易な表現が適切かどうか、疑問が生じる。
 報道は視聴者同士の援けあいを求める前に、災害の実相と、その原因追及のため、冷静で客観的な調査報道こそが求められているではないだろうか。

終りに

 あれから1年、フクシマについて伝えるテレビニュースの姿勢は変ったのか、変っていないのか。それについての考察は(6)で述べた。ここでは、それに加えてさらに深く掘り下げて欲しい問題を二つばかり述べておきたい。
 一つは、使用済核燃料の処理問題である。野田総理は、関西電力大飯原子力発電所の再稼動を決定した。安全に対する不安が消えていない中での決定である。したがって、その問題を追及していくことはもちろん重要なことである。が、原子炉が稼動すれば、使用済の核燃料や放射性廃棄物も増えていく、という視点に立った報道もニュース番組に必要なのではないか。福島第1原子力発電所だけでも、1万本に及ぶ使用済核燃料がある、と報告したのは日本テレビの「news every」だった。安全な処理方法が確立していないまま、使用済の核燃料や危険な廃棄物だけを増やしてもいいものなのか。
 二つ目は、エネルギー政策の転換に関する問題である。テレビ朝日が「報道ステーション」で放送したドイツの再生可能エネルギーのレポートのように、原発以外のエネルギーの可能性について、もっと報道すべきである。日本の技術がどの程度進んでいるのか、どのようなシステムにすれば再生可能エネルギーは有効活用できるのか、政策的な問題はどこにあるのか、ここでも取り上げるべきテーマは数多ある。
 この二つの問題は、昨年の報告でも「終りに」で触れている。あれから1年、いまだに使用済核燃料や再生可能エネルギーについての報道が、ニュース番組で極端に少ないのだ。

 この報告書を認めている6月はじめ、原発をめぐって国の動きが活発になっている。この夏にまとめられる「新エネルギー基本計画」に向けて、2030年のわが国における原子力発電の割合をどの程度にするかが、4つの選択肢として発表された。原子力規制庁設置に向けての国会審議も始まった。原発事故を検証する「国会事故調査委員会」も集約の最終段階に入っている。
 だが、座して発表を待つ態度に安住するなら、事態は国の思惑通りに進んでいってしまうだろう。結果は「原発必要論」である。それでいいのだろうか。原発事故はいまだ進行形である。真相はいまもって明らかにされていないし、放射能汚染の問題も何一つ解決していない。にもかかわらず、再稼動は既成事実のような形で進められ、事故は過去へ過去へと押しやられようとしている。それを阻むのがジャーナリズムの使命であろう。
 特に日々多くの人が接触するニュース番組は、世論形成にも影響を及ぼす。「原発は本当に必要なのか」、この問題を様々な角度から検証していくことで、あるべき未来を提示することが、ニュースの喫緊の課題なのではないか。子や孫に健全な日本を手渡すことが出来るよう、各テレビ局報道担当者の見識ある行動と、真実を追及し続ける努力を強く求めたい。


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