放送を語る会


                                  200512月○○日

NHK経営委員長 石原 邦夫 様
NHK会長 橋 本 元 一 様

ETV2001」番組改変問題に関する公開質問書

                                    放送を語る会

 「ETV2001」(4回シリーズ「戦争をどう裁くか」第2回「問われる戦時性暴力」)番組改変問題は、113日長井暁NHKチーフ・プロデューサーの内部告発以後多くの事実が明らかになり、本質的構図が「政治介入による番組改変」だったことが浮き彫りになりました。
 しかし、その後の報道は、「政治家が呼び出したのか」、「面談は放送日の前か後か」、取材方法の是非などに焦点があてられ、NHK、安倍・中川両議員対朝日新聞の、報道のあり方をめぐる争いに論点がすりかえられてしまいました。
 そのため、問題の核心である「政治介入による番組改変」の事実解明や再発防止への議論は深まらないままになっています。

 まもなくNHKの予算提出、国会審議の時期を迎えます。
ETV2001」番組改変問題は、まさにこの時期に起こりました。
 私たちは、メディアに対する政治介入、言論・表現の自由にたいする重大な侵害が再び繰り返されないことを強く願って、改めて質問書を送ります。
 
2006125日までに文書で回答いただくようお願いいたします。

1.政治家に対する個々の番組内容の事前説明はやめるのか?

 NHKが行った「政治家に対する番組内容の事前説明」は、言論・報道機関の魂とも言うべき「放送の自主・自律」の原則を自ら投げ捨て、権力におもねって事前検閲を求めるものであり、視聴者の非難が最も集中したところです。
 
橋本会長は就任直後、政治家への事前説明を「好ましくない」と発言、10月の国会決算審議でも「必要とは全く考えていません」と答弁しました。
 1110日記者会見でも、「うかがいを立てるような形での事前説明はしていないし、これからもしない」と重ねて表明しました。
 これは、
視聴者への「NHKの“約束”」なのでしょうか。

 NHK部内でも制作現場有志が「政治との距離をおくこと」「番組内容の政治家への事前説明をやめること」を倫理・行動憲章に明記するよう求めています。

  視聴者の信頼を回復し、番組制作に自由と活気を取り戻すために、NHKは視聴者にもNHK職員にも、明確に、わかる形で、「政治家への番組内容の事前説明をやめる」ことを約束すべきだと考えます。
 誠意ある回答を待ちます。

2.制作現場・編集過程に国会担当役員など番組制作・編集責任者以外のものの関与を排除する明確な部内ルール確立が必要ではないか?
 「ETV2001」番組改変をめぐっては、放送直前の大幅改変作業の際、番組制作現場の責任者をさしおいて、国会担当の野島総合企画室担当局長(当時)が主導的役割を果たし、政治家の意向を反映した変更・削除が行なわれたことは、NHK自身の公開した資料でも明らかです。(別紙資料1参照)ここから学ぶべきことは、政治介入を繰り返さないためには、制作現場・編集過程に、国会担当役員など番組制作・編集責任者以外のものが関与することを厳しく排除し、番組制作現場の自主性・自律性を保障し、制作の自由を確立する内部ルールを明確にすることではないでしょうか。  
 倫理・行動憲章、番組制作ハンドブックなどへの明記、あるいは新たなガイドライン設置など、内外に明確にわかる形でこのような新しいルールを確立すべきだと考えますが、どのような見解をお持ちですか。

3.予算・事業計画の説明は、国会審議を重視して個別議員あるいは政党の部会に出席しての説明をやめ、公共放送にふさわしく公開性・透明性を高めるべきではないか?
 (別紙資料2)に示すように、密室協議になる個別議員への予算・事業計画説明の場が、「政治介入」の温床になっていることは明らかです。
 国会審議に先立つ各政党への説明も、視聴者にもメディアにも閉ざされた党内の部会・政務調査会・総務会などで行われ、ここでも「政治介入」の危険が高いことは誰もが危惧するところです。公共放送にふさわしく公開性・透明性を高めるためにも、放送に対する外部からの干渉を排除し、「自主・自律」を貫くためにも、予算・事業計画の政治家への個別説明、政党内部の部会での説明をやめ、メディアにも各政党にも開かれた公開説明会を開くなど、この際新しいルールを確立すべきだと思います。現在、どのような見解をお持ちかお尋ねします。

                                     以上   
                                                 

(資料1)国会担当役員主導の番組改変経過

  当該番組放送の2日前、2001年1月28日には吉岡民夫教養部長(当時)もOKを出した「完成版」ができあがっていたにもかかわらず、29日、安倍氏ら国会議員と面談した後、NHKに戻った松尾武放送総局長・野島直樹総合企画室担当局長(いずれも当時)らによって異例の大幅な番組改変作業が行なわれました。 
 NHKが公表した「編集過程を含む事実関係の詳細」によれば、改変箇所の検討は、「試写後、永田、長井らは退席した」ところで「松尾、伊東(律子番組制作局長=当時)、野島」の3人によって行なわれ、「変更箇所を、番組制作局長室前のソファで待機していた永田に対して、野島がつたえた」とあります。

 それまで番組を編集してきた永田チーフ・プロデューサー、長井デスク(いずれも当時)をはずしたところで、両議員と面談してきた松尾・野島両氏の主導で改変箇所は検討されたのです。
 特に国会担当の野島氏の「これでは全然だめだ」という試写直後の一声で改変作業が始まった(725日朝日)とされ、制作現場の意向を無視して国会対策上の理由が優先されたことは明らかです。

改変作業はこれにとどまらず、放送当日、放送時間の数時間前にも現場の強い反対にもかかわらず松尾・伊東氏の指示で大幅カットが行なわれ、作業終了は放送の1時間半前、しかも通常放送枠より4分短い40分番組として放送する異常な事態になりました。改変作業がそれまでの編集経過を無視して行なわれたことは、長井デスクの次の証言でも明らかです。

「こうした二度にわたる政治介入にともなう番組の改変によって、番組内容はオフライン編集完了時とは大きく異なるものとなり、番組の企画意図は大きく損なわれることとなりました」(113日記者会見発表文書)

(資料2)予算説明の場でも放送への「政治介入」

 NHK「編集過程を含む事実関係の詳細」によれば、NHK予算案の総務大臣への提出と前後して、与党衆参両院議員250名、予算案の国会提出後には野党衆参両院議員200名程度にそれぞれ個別に予算説明を行なったとされています。
 この説明の実態は、予算説明だけだったのか。

 安倍晋三議員への予算説明の際には、「一部で噂されているように本件番組が女性法廷を4夜連続で取り上げるものでないこと等について説明を行なった」とされています。 中川議員への説明に際しても、「本件番組はただ単に慰安婦を取り上げたものではないことを説明」し、番組内容について議論しています。

さらに、「古屋圭司議員など、自民党総務部所属の複数の議員を訪れた際、『日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会所属の議員らが昨年12月に行なわれた女性国際戦犯法廷を話題にしている』『NHKがこの法廷を番組で特集すると話も聞いているが、どうなっているか』」とあるように、他の多くの議員への予算説明の際にも、番組内容が話題になっています。
 NHK自身の公表した資料によっても、予算説明の場が「政治介入」の場にもなっていることは明らかです。


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