放送を語る会

ETV2001「問われる戦時性暴力」番組改ざんの真相解明を求めます

                             2005年1月18日
                                  放送を語る会

 113日、NHKチーフプロデューサー長井暁氏の内部告発によって、かねてから不当な番組改ざんをめぐって裁判で争われてきたNHK「ETV2001シリーズ 戦争をどう裁くか」第2回「問われる戦時性暴力」(2001年1月30日放送)の制作過程において、政治家の介入とそれに屈服したNHK上層部が繰り返し番組の手直しを現場に強制していた事実が明らかにされました。

 言うまでもなく、民主主義は多様な意見や情報が広く国民に提供され、その選択・判断が国民自身の自由な意志にゆだねられていることが前提であり、この点でメディアの役割は極めて重要です。
 今回の番組改ざんは、表現の自由を保障した憲法21条、外部からの放送への干渉を禁じた放送法第3条を乱暴に踏みにじり国民の知る権利を奪うもので、民主主義と放送の自律への重大な侵犯です。

私たち「放送を語る会」は、1988年の「天皇報道」をきっかけにメディアのあり方や放送現場の状況を批判的に検討しようと、視聴者・メディア研究者・メディアで働く人々が作った視聴者団体です。
 ETV2001「問われる戦時性暴力」放送直後から、私たちは番組改ざん事件に強い関心を抱き、直接制作にたずさわった番組ディレクターやその後の裁判の原告となった女性団体など関係者と研究・討論を重ね、裁判を見守ってきました。
 こうした経緯から、私たちは今回の内部告発を機に事件の全容と真相が明らかにされることが必要と考えます。

 長井暁氏の勇気ある行動に心からの支持と激励を送ります
  長井暁氏の内部告発は、NHKの番組制作現場にまだ脈々と良心的潮流が存在することの証であり、「放送を視聴者・市民の手に」と活動してきた私たちに大きな励ましを与えるものです。
 長井氏が、不当な圧力に屈せずこれからも番組制作の場で良心の灯を点し続けることを私たちは期待し、氏の行動を支援し、見守っていきたいと思います。

 安倍晋三自民党幹事長代理(当時官房副長官)・中川昭一経済産業相(当時衆議院議員)らに厳しく抗議するとともに、真相を明らかにし自らの責任を明確にすることを求めます
 安倍・中川両氏は放送直前にNHK幹部に対し内容の改変や放送中止を要求したと報道されています。
 これは法を守るべき国会議員・政府の一員が、民主主義の柱である表現の自由を踏みにじり、放送法に反して介入・干渉したこの行為は、憲法で禁じられた「検閲」にも該当するもので責任は重大です。
 その後の報道によれば、両氏以外にも自民党の国会議員数人がこの番組について放送前にNHKとの間で議論したとされ、組織的な事前介入・干渉の疑いさえ出てきました。
 このような行為に関わったすべての政治家が真相を明らかにし、責任を取って身を処すことを強く求めます。

NHKは、番組改ざんの全容と真相を明らかにし、会長以下の幹部は即刻辞任を
 NHKは安倍・中川氏との面談が放送後であったとしてあくまでも「自主的な判断で編集した」と繰り返しています。
 しかし、今回の証言にとどまらず通常44分の番組が40分で放送された異常な事態をみれば、NHKの説明は到底視聴者を納得させるものではありません。 最近設置されたコンプライアンス委員会も、長井氏の内部告発を一ケ月以上放置し、真相解明には機能しませんでした。NHKは、第三者による調査委員会の設置など視聴者に納得の行く透明性をもって番組改ざんの真相を明らかにすべきです。
 その上で、放送への政治家の不当な介入を許した会長以下の幹部は、放送法に定められた「放送の自律性」さえ守れなかったことの責任を取り即刻辞任することを要求します。
 私たちは、不誠実な態度で居座りを続けることが視聴者・市民の不信を増大させ、受信料制度・公共放送の崩壊を招くことを危惧します。

日放労(NHK労組の長井氏支援に心から賛同します
 日放労は、一連の不祥事への取り組み当初から「内部告発者に関しては不利益な扱いをしないこと」を要求に掲げ、今回の内部告発についても早くから援助の手を差し伸べ、14日には改めて長井氏支援を表明しました。
 
言論・報道の自由、番組制作者のメディア内部での自由を守るために私たち市民・視聴者も、労働組合はじめメディアに携わる広範な人々と連帯して闘うことを表明します。

NHK改革に向け国民的討議を
 間もなく国会が始まります。言うまでもなく私たちは、政治権力のメディアに対する干渉・介入に強く反対しますが、憲法の保障する「言論・表現の自由」、放送法に定められた外部からの干渉を排し「放送の自立性」を守る立場から、国会審議の場で番組改ざんの真相が明らかにされることを求めます。
 そして、今回の事件で明らかになった政府や与党に弱く、放送の自律性を守り抜けないNHKの体質をどう変えてゆくのか、国会審議だけに任せず国民的検討を呼びかけたいと思います。


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