本来、歯は一本ずつが独立して顎の骨に植わっているわけで、このことには大きな意味があるのです。それを敢えて連結するのには、それなりの理由(リスクを上回るだけのメリット)が必要であることはいうまでもありません。

 ・・・にもかかわらず、けっこう安易な理由で連結されているケースが多いというのが現状です。

 そこで、歯を連結することによって生まれるメリットとデメリットについてみなさんにも知っておいて頂きたいと思い、本項を書くことにしました。


 歯はそれぞれが歯根膜というものを介在して一種の関節として顎の骨に独立した形で植わっています。ちなみに、このことから私達は歯を抜くときに「脱臼させる」という言葉(表現)を使います。

参照 : 歯の解剖学的構造と正常な歯の本数

 そして、この歯根膜というのは歯を顎の骨(歯槽骨)とつないでいると同時に歯にかかる力に対する「感覚受容器+ショック・アブソーバー(クッション)」の役割を果たしています。

 歯周病などによる病的な動揺と混同しないようにしていただかなければなりませんが、健康な歯でも指で揺さぶるとほんの少し動くのは、この歯根膜が存在しているからです。(インプラントには、この歯根膜が存在しません。)


 以上のことを前提に、本項を通して私がみなさんに知っておいて頂きたい連結することによって生まれる可能性のあるリスク(デメリット)は、ざっと下記のようなことになります。

@

歯を連結すると、前述のような歯が本来もっている生理的動揺を止めてしまうことになりかねない

A

連結の手法によっては歯の軸面形態(特に、隣接面形態)を変えることになり、それによって食べ物の流れが変わり、逆に歯周病を誘発、悪化させかねない

B

連結が一部で外れたことに気づかず、そのままにしていたことでその歯が虫歯になってしまった・・・というような事態になる可能性が高い

C

連結された歯のうち一本でもダメになった場合、他の歯が共倒れする危険性を持っている

D

etc.


 さて、外傷や歯周病により病的動揺をしている歯を隣在歯と連結することで固定し、その負担を軽減すると共に固定することにより動揺を止めようというのが本来の固定の目的であり、これには永久固定と暫間固定があります。

 永久固定というのは連結されたクラウンなどを装着することで行いますが、これは部分入れ歯のバネがかかる歯(鈎歯といいます)に対して行うなど、主に補強を目的として行われる場合と、歯周病によりその歯の骨植状態に不安のある場合、或いは歯の移動(伸び上がりや伸び下がり、傾斜移動など)を阻止するためにつかわれる場合などがあり、補綴物のひとつとしてのパーマネントのものです。

 これに対して暫間固定というのは、可撤性(撤去可能)の装置により一時的に連結固定する方法であり、最終的には除去することを前提とした固定をいいます。つまり、暫間固定はあくまでも治療用具であり歯周病に対する固定などでは通常こちらを使うことになります。

 暫間固定は撤去できるぶんあまり大きな問題にはなりませんが、永久固定をする場合は十分慎重に行わなければならないことはいうまでもなく、歯周病をもつ歯などに安易に永久固定を用いると、確かに一時的にはその動揺は止まったように見えるでしょうが、ヘタをすると固定源として使われている歯までもが足を引っ張られる結果になりかねません。

 つまり、固定することによるメリットとデメリットを十分に考慮した上で、固定すべきかどうかの判断はなされていなくてはならないということです。

 それでは、以下にその連結の種類を書いておきます。

@ ブリッジによる連結

 歯を失った部分を補う方法(欠損補綴)の代表的なものとしてブリッジというものがありますが、通常これは欠損部分の両隣の歯を使って橋渡しをすることになり、特殊な構造を持ったブリッジの場合以外、結果的にその橋脚として使う歯(支台歯)を互いに固定することになります。

 つまり、ブリッジという方法は、歯を削った上に固定するというデメリットと欠損部分を補うというメリットを天秤にかけ、メリットのほうが重く下がることにより結果的に導き出される手法なわけです。

 そして、欠損部位や欠損歯数、噛み合わせやそれぞれの支台歯の状況などによっては、そのブリッジの強度計算から支台歯数を増やさなければならない場合がありますが、このときにやたら不必要に支台歯を増やすというのは・・・決してすべきことではないのです。

A 連結冠

 クラウンの連結については前述のおりなのですが、この場合、型採りをしてできた模型上で連結された状態のクラウンをつくる場合と、おのおののクラウンのフィットが悪くならないよう、一歯ずつ完成させたクラウンを口腔内に入れ、それぞれの歯にきちんとフィットさせた状態であらためて型採りをし、それに基づいて連結するという方法があります。もちろん、後者の方法のほうが精度は高いですね。

 ちなみに、ポスト・クラウンと呼ばれる歯茎のラインに合わせて根っこだけを残し(勿論、神経を抜かれた歯です)、その根っこに杭をを差し込むような形のクラウンがあるのですが、このポストクラウンによる連結冠はフィットも悪く最悪です。

 ところが、中には「このクラウン(ポスト・クラウン)は単独では外れやすそうだから、連結してしまえ!」といったムチャな発想をする歯医者がいます。当然、こんな考え方をする歯科医の作るクラウンですからフィットもいいはずはなく、その結果は・・・多くの場合が言わずと知れた「共倒れ」です。

B DBS(ダイレクト・ボンディング・システム)

 接着用のレジンを用いて歯と歯を直接くっつける方法ですが、基本的に歯には力がかかるわけで、これだけではあまり長期の固定には耐えられないでしょう。

C 結紮固定

 連結固定する歯同士を結紮用のワイヤーなどで繋いでゆく方法で、簡単な暫間固定法としてはこの結紮法とDBSを併用する場合が多いと思います。

D 歯に合わせて事前に曲げておいたワイヤーや事前に型採りをして鋳造した固定装置を装着する

 鋳造体はレジンかセメントにて固定されますが、ワイヤーは通常レジンで固定されます。この方法は、外科手術の後などに多く用いられます。

E テンポラリー・クラウンやブリッジにて一時的に固定する方法

 テンポラリーというのは一時的にとか暫間的にという意味で、最終的なクラウンやブリッジができるまでの仮歯のことですが、これによって暫間固定をする場合もあります。

Fインレーや充填物による連結

 これは、基本的にありえません。なぜなら、こういった手法をとった場合まず間違いなく端っこの歯のインレーなどが外れるからです。

 例えば、2本の歯をインレーにより連結したとすると、九分九厘どちらか一方にインレーがついたままもう一方のインレーが歯から外れて宙に浮いた形となり、結果的にその歯は虫歯になる・・・ということになるでしょう。レジンなどの充填物による場合も、同様ですね。

 歯には、必ず何らかの力が加わります。その力に耐えうるだけのものでなければならないのは当然のことです。


 その必要性はいろいろな場面で出てきますし、そうすることによって得られるメリットもたくさんあるわけですがしかし、だからといって何でもかんでもむやみやたらに連結すると、かえってデメリットのほうが大きくなる・・・というのが、歯を連結固定するということなのです。

 「「審美歯科」とか「歯のエステ」って・・・」という項でも書きましたが、上下合わせて13本ものはを削りまくり、挙句の果てに神経を抜いてポスト・クラウンなるもので連結してしまう・・・こんな治療は、あってはならないのです。

 ついては、みなさんのお口の中に装着されるクラウンが連結されていたならば、或いは必要以上に支台歯数の多いブリッジなど、事前説明なく歯同士が連結されそうな場合には、「どうして、歯を連結するんですか?」とその理由を担当医に訊いてみて頂きたいと思うわけです。