「雪遊び」(2)

 「うりゃあぁぁ」
 「うおぉぉぉぉ」
右に左にと雪玉が飛ぶ。真弘先輩と拓磨の戦いは、当分決着が付きそうにない。
 「随分と形になりましたね」
 「そうだな。もう中へ入っても大丈夫だろう」
手にしたスコップで雪を慣らしていた私は、額に浮かぶ汗を拭きながら言う。
中に開いた空洞を確認していた祐一先輩も、大きく頷きながら完成を保証してくれた。
 「ゆーいち。もうなかへはいってもいいの? なら、ぼくがいちばん!!」
卓さんと一緒に雪だるまを作っていたおーちゃんが、祐一先輩の言葉に反応して、
嬉しそうな顔で走ってくる。
 「ああ、もう大丈夫だ。だが、中は狭い。暴れたりすると雪が壊れる」
 「わかった。そーっとね」
収拾の付かない雪合戦に飽きた私たちは、掻き集めた雪を使って雪だるまやかまくらを
作って遊び始めた。
いつもなら寒くて影から出てこないおーちゃんも、珍しく一緒に雪遊びを楽しんでいた。
 「うりゃあぁぁ」
 「うおぉぉぉぉ」
そんな私たちに気付いていないのか、真弘先輩と拓磨だけは、未だに雪合戦を続けている。
 「おーちゃん。中はどんな感じ?」
 「たまきもおいでよー。ゆきのおうち、あったかい」
 「これは“かまくら”って言うんだよ。実は私も、作ったのは初めてなの」
手招きするおーちゃんに続いて、私もかまくらの中に入ってみる。
雪に晒される冷たい空気を遮るせいか、かまくらの中はとても暖かい。
 「珠紀さん。中に入っているついでに、これを敷いてくれませんか。
 私や狐邑くんでは身体が大きくて、小回りがききにくいですから」
入り口から覗く卓さんが、下に敷く茣蓙を手渡してくれた。
おーちゃんと二人で茣蓙を地面に敷き終えると、漸くかまくらが完成。
 「お待たせしました。熱々のおでんですよ」
 「おにぎりもありますからね」
さっきまで一緒にかまくらを作っていた慎司くんが、冷えた身体に暖かいものを、と
宇賀谷の家まで取りに行ってくれていた。てっきり飲み物だとばかり思っていたのに。
大きなお鍋を抱えた慎司くんと、その後ろに大きなお盆を抱えた美鶴ちゃんが、
笑顔を浮かべながらやってくる。
 「随分と大きなかまくらを作られたんですね。これならみんなで入っても大丈夫そうです」
 「テーブルの大きさを目安にしたから。あれ? どこに置いたんだっけ?」
二人を出迎えるためにかまくらから出てきた私は、用意していたテーブルを探す。
 「ここにありますよ。茣蓙と一緒にかまくらの傍に置いておきましたから」
今度は卓さんに手伝ってもらいながら、かまくらの中にテーブルを置く。
子供の頃に絵本で見たかまくらのイメージに、どんどん近付いていくのが嬉しくて、
私は顔中に笑顔を浮かべていた。
 「ねー、みつる。ぼくはすぐるといっしょに、ゆきだるまをつくったよ。みてー」
 「それは良かったですね。楽しかったですか?」
 「うんっ」
雪だるまの周りをぴょんぴょん跳ねて喜ぶおーちゃんと、それを笑顔で見つめる美鶴ちゃん。
卓さんも、祐一先輩も、慎司くんも、楽しそうに笑っている。
それが嬉しくて、私の顔には更に笑顔が浮かぶ。もうこれ以上はないというくらいに……。
 「うりゃあぁぁ」
 「うおぉぉぉぉ」
みんながかまくらの中に入っていくのを確認して、私は雪合戦をする二人に声を掛けた。
 「真弘先輩も拓磨も、かまくらの中に入りませんか?」
私の声に気付いて、漸く二人の雪合戦が終わった。勝敗は引き分けかな。
 「みつるのおにぎり、うまーい。ぜんぶぼくがたべるー」
かまくらの中から聞こえてくるおーちゃんの声に、真弘先輩が慌てて駆けてくる。
 「おい、待て、チビ!! 俺たちの分も残しておけよ」
 「真弘先輩がチビって言えるのは、あのおさき狐だけっすよね」
 「んだと、拓磨!! 食ったら、さっきの勝負の続き、やるぞ!!」
 「えー、もう良いじゃないっすかー。かまくらや雪だるま用に使った雪で、
 真弘先輩の分担場所も、雪掻きは終わってるんだし」
 「うるせー。男と男の勝負は、決着が着くまでやるって決まってんだよ!!」
そんなやり取りを交わす二人の顔にも、とびきりの笑顔が浮かんでいる。
眩しいくらいに雪を反射して、楽しい時間に笑い声が重なっていく。

完(2012.03.04)  
 
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