「かぐや姫」(1)

我が家の居間で催す夕食の宴。
賑やかで楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。
 「腹一杯だー!! もぉー、これ以上は入らねー」
上機嫌で箸を置く真弘先輩の声が、宴の終わりを告げる。
それを聞き付けたように、美鶴ちゃんがお茶を運んでくると、
みんなは思い思いに寛ぎ始めた。
それを眺めていた私は、徐に口を開く。
 「あのさ、ちょっと良いかな。みんなに、聞きたいことがあるんだよね」
 「聞きたいこと、ですか? 何でしょう。私で判ることなら、何でも聞いてください」
私の言葉に、みんなが一斉に顔を向ける。
代表して、卓さんが微笑みを浮かべて答えてくれた。
 「そう改まって言われると、困るんですけど……」
 「んだよ、改まってんのはお前だろ。どうした、心配事か?」
みんなに見られていることに、急に恥ずかしくなった私は、つい口籠ってしまう。
それを真弘先輩が促すように、真剣な声で尋ねてくる。
 「ううん、違うんです。そういうんじゃなくて……。
 あの、季封村って言ったら、何を思い浮かべますか?
 名産品とか、村ならではの物って」
 「名産品、ですか?」
 「あ? 何言ってんだ、お前」
 「随分と、唐突な質問だな」
 「俺が叩き過ぎて、頭、壊れたんじゃないのか?」
 「拓磨先輩、それはちょっと、珠紀先輩に失礼ですよ」
意を決して口にした問いに、みんなの表情が一変した。
不思議そうな表情で、それぞれが反応する。
そんなに突然だったかな? 私は慌てて、真意を説明した。
 「実はまた、両親が一時帰国してるんです。
 週末に顔を見せに行くことになったんですけど。
 その時、季封村らしい物を何か、お土産に持って行きたいんです。
 こんな素晴らしい処に居るんだよって、両親を安心させてあげられたらって」
母は季封村の出身だから、ここが素晴らしい処だってことくらい知っているだろう。
でも、私が玉依姫を受け継いだことを、快くは思っていない。
既に鬼切丸は破壊され、母が心配しているような事は、もう何もないんだって
きちんと判ってもらいたい。その切っ掛けになるような何かが、あると良いんだけどな。
 「そうですか。そう言うことでしたら、“あれ”しかないですね」
 「あぁ、そうだな。“あれ”が良い」
 「“あれ”っすね。確かに、持っていくには調度良いかも」
私の言葉に、卓さん、祐一先輩、拓磨が同調する。
 「“あれ”って、何ですか? それじゃ判らないですよ。
 私にも判るように、ちゃんと教えてください」
 「さぁ、何でしょうね」
不満を漏らす私に、卓さんが笑顔を向ける。
でも、教えてくれる気はないらしい。
 「じゃあ、こういうのはどうですか? この村で一番素晴らしい物を持って来い。
 そう珠紀先輩が所望するんです。その命に従って、各々が思う一番素晴らしい物を
 先輩の目の前に持参する。その中から、珠紀先輩が一番気に入った物を、
 ご両親のお土産にすれば良いんですよ。折りしも、週末は満月ですからね。
 月に帰るかぐや姫みたいで良いでしょう?」
 「くだらねー。んだよ、それ。じゃあ、何か。珠紀の気に入る物を持ってきた奴が、
 珠紀と一緒になれるとでも言うのか。かぐや姫って、そういう話だろ」
慎司くんの提案に、今度は真弘先輩が不満の声を上げる。
真弘先輩にも、みんなが言う“あれ”については、心当たりがないらしい。
 「少し違う気もするが、でも、それも良いな。そういう褒美があった方が、気合が入る」
 「決まりっすね。じゃあ当日、バス停に持ってくるってことで」
真弘先輩の抗議の声は、その意図に反して受け入れられてしまった。
 
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