「一番」(1)

どうして、今日に限っていないんだろう。あんなに約束したのに・・・。
放課後。私は真弘先輩を探して、学校中を歩き回っていた。
教室にも、屋上にもいない。まだ靴が残っていたから、校舎の外にいるとは考え辛かったけど、
念のためにと思って、校門も、校庭も、裏庭だって探しに行った。
でも、真弘先輩は、何処にもいない。
 「こういう時、祐一先輩や慎司くんみたいに、気配が辿れたら良いのに・・・」
 「僕がどうかしたんですか?」
不安な思いを口にしていると、後ろから声を掛けられた。
振り向くと、優しい笑顔を浮かべた慎司くんが立っている。
 「珠紀先輩。まだ、残ってたんですか?」
 「うん・・・まぁ。慎司くんの方こそ、こんな時間まで、どうして?」
 「僕は掃除当番だったんです。もう、帰るところですけどね」
良かったら一緒に帰りませんか?と、誘ってくれた。
 「ん、ありがと。でも、今、真弘先輩を探してるの。慎司くん、何処かで先輩、見なかった?」
私がそう尋ねると、慎司くんの笑顔が、ちょっとだけ淋しそうに曇った気がした。
 「真弘先輩なら、ごみを捨てに行った時、図書室の方へ行くの、見かけましたけど」
 「図書室!!真弘先輩が?」
図書室なんて、まるで縁がないと思って、探しにも行かなかった。そっか、図書室ね。
 「ありがと、慎司くん。もぉー、大好き。じゃ、気を付けて帰ってね」
早口でお礼を言うと、私は図書室に向かって走り出す。
 「えっ、えー!!た、珠紀先輩、あの・・・」
何故か動揺してる慎司くんの声が気にはなったけど、この際スルーさせてもらおう。
図書室まで走ってくると、そのままの勢いで大きくドアを開け放つ。
 「真弘先輩、やっと見つけたぁー!!」
図書室の中に、ずっと探していた真弘先輩の姿を見つけて、声を上がる。
 「もぉ、どうして、普段いそうのない場所にいるんですか。あちこち、探しちゃいましたよ」
 「えっと・・・わりぃ」
 「今日は買い物に付き合ってくれる、って約束してたじゃないですか・・・って、あれ?
 何だか顔が赤いですけど、大丈夫ですか?熱でもあるんじゃ・・・」
ツカツカと真弘先輩の傍まで歩いていくと、先輩の顔が赤いことに気が付いた。
もしかして、具合、悪いんですか?
心配になって、額に手を当てようとしたのに、あっさり遮られてしまった。
 「な、何でもねぇーよ。それより、買い物、行くんだったよな。わりぃ、忘れてた」
忘れてた・・・んですか?私との約束。
 「一緒に買い物、か。何だ、心配する必要はなかったな。すでに吊り橋の効果はないようだ」
 「祐一先輩!!ごめんなさい。もしかして、真弘先輩とお話中のとこ、邪魔しちゃいました?」
そっか、ここは図書室。祐一先輩の憩いの場所。放課後、祐一先輩はいつもここにいる。
真弘先輩が図書室に来た、ってことは、何か祐一先輩に話があったってことだよね。
私との約束を忘れるくらいの、何か大切な・・・。
 「いや、話しは終っている。気にするな。それより、二人で何処へ行く予定だったんだ?」
恐縮している私に、祐一先輩は安心させるように微笑むと、あっさりと話題を変えた。
 「毛糸を買いに手芸屋さんへ。そろそろ寒くなってきたんで、何か暖かそうなの、編もうかな、って」
よく考えたら、私はまだ、真弘先輩にきちんとしたお礼、していなかったんだ。
あの戦いの最中、何度も死にそうなめにあったのに、ずっと私を守ってくれていた真弘先輩。
鬼斬丸を破壊するのには、私の持てる力すべてを出し切っても、到底叶いそうになくて・・・。
自らの命を力に変えようとしたとき、私一人では逝かせないって、一緒に力を貸してくれた。
いつもいつも、私を支えてくれていた優しい先輩。そんな真弘先輩に、私は何かお礼がしたい。
そう思って、先輩が喜んでくれそうなこと、ずっと考えてたんだけど・・・。
美鶴ちゃんに相談したら、ニットなら季節的にも調度良いんじゃないか、って教えてくれた。
それで、今朝、何気なく話題を振ってみたんだよね。今度、編物をしようと思う、って。
先輩の好きな色を教えて欲しいから、一緒に手芸屋さんへ付き合ってください。
そうお願いしたのに・・・。。すっかり忘れられていたなんて、かなりショックですよ、真弘先輩。
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