「外の世界へ」(1)

熱い砂地を蹴って、太陽から身を隠すように、慌ててパラソルの下へと潜り込む。
シートの上に座ると、置いてあったクーラーボックスから、冷えた缶ジュースを取り出した。
そのまま、火照った顔に缶ジュースを当ててみる。
 「うわぁ、冷たくて気持ち良い」
ジュースを一口飲んで人心地付くと、ゆっくりと辺りを見回す。
行楽地からは少し離れた場所のせいか、海水浴場の割にそれほど混んではいないが、
たくさんの老若男女達が、水着姿で夏を楽しんでいる。
 「さすが清乃ちゃん。いい場所、知ってるよね。無理言って連れてきてもらって、ホント良かった」
夏休みの思い出に、どうしても海へ行きたい。そう我侭を言って、連れてきてもらった。
守護五家のみんなと美鶴ちゃん、そしてアリアを連れ立って・・・。
更に、今回のメンバーは典薬寮も一緒。
車の運転には芦屋さん。『海までの案内は私に任せて』と、ずっと助手席を死守していた清乃ちゃん。
 「それにしても・・・。みんな、何処へ行っちゃったんだろう?」
卓さんを含めた大人組は、『ビーチは若者達だけでどうぞ』、と早々に旅館でビールを飲んでいる。
私はさっきまで、美鶴ちゃんやアリアと一緒にビーチバレーを楽しんでいたのだけれど、
ちょっと疲れちゃったので一休み。二人はまだ、近くで遊んでいるばず。
あと残るは、卓さんを除く守護者のみんな・・・なんだけど。
そう思って辺りを見回していると、人の合間を縫うようにして歩いてくる、真弘先輩の姿があった。
 「つっかれたー!!」
パラソルの下まで戻ってくると、真弘先輩はそう言って、シートの上に寝転がる。
さっきまで海に入っていたらしい。髪も身体も、随分と濡れていた。
私は慌ててタオルを手渡す。
 「ずっと泳いでたんですか?」
 「拓磨たちと、沖まで競争してた」
 「沖まで競争・・・。それで、誰が勝ったんです?」
 「あ?それ、誰に向かって言ってんだ、お前。俺様は、鴉取真弘先輩様だぞ」
そう言って起き上がると、手にしたタオルで、無造作に髪を拭き始める。
 「んで、お前は何してたんだ?」
 「さっきまで、美鶴ちゃんたちと一緒にビーチバレーを・・・。
 でも、少し疲れちゃったから、今は休憩中です」
 「んだよ、その年寄りくせー発言は」
呆れたような言い方をして、拭き終わったタオルを放って寄越す。
そして、私の手から飲み掛けの缶ジュースを奪うと、それを一気に飲み干した。
 「それ、私の・・・」
こういうの間接キス、って言うんだよね。そう思った瞬間、顔が赤くなるのが、自分でも判った。
ドキドキと高鳴る心臓の音が、真弘先輩にまで聞こえていそうで、ソッと先輩の方を盗み見る。
そんな私の慌てぶりに、まるで気付いてない様子の真弘先輩は、何だか遠い目をして海を眺めていた。
 「・・・お前さ。何で、海だったんだ?」
 「えっ?」
暫く無言で海を眺めていた真弘先輩が、急に口を開く。
 「急に、海だ、海だって騒ぎ出したと思ったらよ。
 場所を決めたり、宿を手配したり、一人で全部やっちまって。
 それに、あんな連中まで引っ張り出してきて、いったいどういうつもりなんだ、ってよ」
あんな連中とは、芦屋さんと清乃ちゃんのことらしい。
本当は海でなくても良かった。夏っぽくて、みんなで遊べるところなら、何処だって・・・。
そんな場所を知らないか、そう清乃ちゃんに尋ねたら、
 『海よ、海!!恋する若い男女が、夏にすることと言ったら、それしかない!!
 サンオイルを塗ったり、塗られたり・・・。うーん、羨ましい。そうだ、私も行く。
 運転手って名目で、芦屋さんも連れ出してやろう。うん、それで決まり。
 じゃ、詳しいことが決まったら、また連絡するから』
そう一人で捲くし立てて、粗方のお膳立てを一人でやってくれた。
 
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