「悩みごと」(6)

 「あの・・・、私が同窓会へ出席したの、覚えてますか?」
おずおずと口にする言葉は、珠紀の悩みごとのきっかけとなった出来事。
同窓会から帰ってきてから、珠紀の様子がおかしくなった。美鶴はそう言っていた。
 「同窓会に持って行くからって、みんなに撮ってもらった写真があるんですけど」
そういや、こっちでの暮らし振りを同窓会の参加者に見せるんだって、
俺たちの写真を何枚も撮ってたっけな。でも、それがどうかしたのか?
 「初めての彼氏ができた・・・って紹介したつもりだったんですけど・・・。
 あの・・・どうも、判ってもらえなかったみたいで・・・」
俺の腕から抜け出した珠紀は、俯きながら、ボソボソと小声で説明する。
 「真弘先輩の写真も、ちゃんと見せたんですけど、その・・・気付いてもらえなくて・・・」
 「彼氏、ってか?何で?」
 「何でって・・・その・・・年齢差?」
 「年齢差ぁ?んなの、拓磨以外、みんな差はあんだろーが。
 まさか、拓磨を彼氏だと思われた、ってのか?」
 「いえ、そういうことではなく・・・」
真っ赤になって小さくなっている珠紀の姿を見て、ピンっとくるものがあった。
そういや、こいつも最初は俺のこと、小学生だって勘違いしてたよな。
 「そういや、初めて逢ったとき、お前も俺のこと、すっげー年下扱い、してくれたよなー」
 「うっ・・・。忘れてください」
図星かよ。ったく。どうして、制服着てるのに、小学生に間違えるんだ!!
 「本命の写真をもう一度送れ、って頼まれちゃったんですよ。
 でも、こんなこと、真弘先輩には頼めなくて・・・。だって、どう言っても傷付けちゃいそうで。
 悩んでる内に催促の手紙は届くし、やっと勇気を出したら、今度は真弘先輩が不機嫌に」
拝殿の前で逢ったとき、一緒に写真を撮るのを頼もうとしていたってわけか。
俺が勘違いさえしなければ、こんな風に悩む必要もなかったんだな。
まてよ。手紙の内容が、珠紀を都会に呼び戻すことでなかったとしても、
卒業アルバムにはどういう意味があったんだ?
 「じゃあ、なんで、卒業アルバムなんか見てたんだよ」
自分の勘違いを正すために、疑問に思ったことを口にする。
 「あの頃に出逢ってたら、一緒に並んでても、釣り合うのかな・・・って」
 「んだよ、今は釣り合わねーみたいじゃんか!!」
 「そういう意味じゃないですよ。みんなに、ちゃんと判ってもらえるって」
不満そうに言う俺に、珠紀は首を振って否定する。判ってるよ、んなこと。でも・・・。
 「いーや、許さねー」
わざと憎まれ口を叩くと、俺は再び珠紀を引き寄せる。唇を奪うために・・・。
俺の悩みも、珠紀の悩みも、その温もりで溶かすくらいの、深い口付けを交わす。
もう二度と、こんな勘違いで、珠紀を泣かせたりしない。そう、心の中で誓いを立てた。
 「もし、私が実家へ帰る・・・って言ったら、真弘先輩、止めてくれましたか?」
俺の腕の中で落ち着いていた珠紀が、まるで試すようにそう言った。
俺は暫く考えてから、正直な気持ちを口にする。
 「止めねーな。多分・・・」
今回と同じだ。俺は、止めない。珠紀がしたいことを、俺が止められるわけがない。
 「そんな・・・」
 「んで、帰っちまった珠紀ん家に、毎日のように手紙、送りつけてやる。
 こっちは、こんな楽しいぞって。だから、早く戻って来い、ってな」
珠紀の意志を尊重する。ただ、黙ってそうさせておくつもりも、ない。
こいつが、俺の傍を離れたくないって、そう思えるようになるなら、俺は何だってする。
 「・・・貰ってみたいかも」
 「バーカ。・・・行くなよ。何処にも」
小さな声で囁いた俺に、まるで返事をするように、珠紀が俺の胸の中に顔を埋めた

完(2010.08.10) 
 
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