「手紙」(2)

俺は我慢できなくなって、屋根の上から飛び降りると、そのまま珠紀を抱きしめた。
こいつを、誰にもやりたくなんか、ない。
俺の行動に、初めは驚いて抵抗しかけた珠紀も、すぐに俺の腕の中で大人しくなる。
そして、言い辛そうに、口を開いた。
 「あの・・・、真弘先輩。何か誤解してます。
 祐一先輩に渡そうとしていたあの手紙、私が書いたんじゃないですよ」
 「あれ、お前からの手紙じゃないのか!!」
 「友達に頼まれたんです。でも、祐一先輩って、こういうの嫌がりそうじゃないですか。
 だから、何度も断ったのに、どうしてもって押し切られちゃって・・・。
 あの手紙、後で友達に返さないといけないと思うと、何だか気が重いです」
そう言って珠紀は、俺の肩に額を乗せて溜め息を吐いた。
うわっ、思いっ切り、勘違いしちまってた。俺ってば、チョー恥ずかしいやつ!!
 「そ、そうだよなー。俺様以外の男に、お前が手紙なんか書くわけねーか。あはは・・・」
勘違いしていた事実に気付いた俺は、照れ隠しに笑って誤魔化しながら、慌てて珠紀から離れる。
 「こういうの、結構恥ずかしいんですよ。だからなるべく、人が居ない場所を狙って行ったのに・・・。
 もしかして、拓磨や慎司くんのところへ渡しに行ったときも、誰かに見られてたのかなぁ」
 「あいつらのところにも、行ったのか!!」
珠紀の何気ない一言に、俺は驚いて声を上げる。他の連中にも渡していたのかよ!!
 「みんな強引で、断れなかったんです。
 恥ずかしいのを我慢して行ったのに、誰も受け取ってくれないし・・・。
 卓さんだけですよ。自分で返事をするから、って受け取ってくれたの」
 「お、大蛇さんにもか!! あいつら全員貰ってるのに、何で俺んとこにはないんだよ」
 「知らないですよ、そんなの」
俺を除いた守護者全員が、誰かから手紙を貰っていた。その事実に、俺はショックを受ける。
そんな俺の気持ちが判らないのか、珠紀はムッとした顔をすると、ソッポを向いた。
 「そんなのってなんだ、そんなのって。
 だいたい、この鴉取真弘先輩様の魅力を、誰も理解していないなんて、それこそあり得ねー!!」
 「真弘先輩の魅力は、私だけが理解してれば良いんです!!」
つい力説した俺に、珠紀はそう言い返してくる。やべっ、本気で怒らせちまったかな。
珠紀に泣かれるのは、苦手だ。
 「だー、違う!!そういう変な意味じゃなくてだな。
 なんつーの、ホラ、人気者ではいたいじゃんかよ。男としてはさ」
 「私は女ですからね。そんなこと、知りません!!」
珠紀はそう言うと、ツーンっと、更にソッポを向いてみせる。
 「悪かったってば。俺だって、他の女からの手紙なんか、受け取らねーぞ。
 俺の女は、お前以外いないんだからよ。だから、機嫌治せって、なっ!!」
そう必死で訴えると、漸く珠紀がこっちを向いてくれた。
 「・・・まぁ、良いです。そういう風に言うってことは、私の知らないところで、手紙を貰ったり、
 告白されたりしていない、ってことですもんね。少し、安心しました」
 「んだよ、それ」
俺は、『モテないやつ』ってレッテルを貼られちまった、ってことか?
まぁ、いっか。珠紀が俺の隣で笑っていてくれるなら、んなこと、もうどっちでも良い。
俺は軽く息を吐き出すと、珠紀の手を引いた。
もう一度、俺の腕の中で、珠紀の存在を確かめるために・・・。

完(2010.05.30)  
 
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