「靴擦れ」(1)

痛む足を引きずるようにして何とかバスを降りると、バス停にあるベンチへと座り込んでしまう。
お祖母ちゃんのところへ訪ねてきたお客様を、最寄りの駅まで送った帰り。
せっかく駅前まで出てきたのだからと、周辺のお店を見て回ることにした。
洋服や小物、雑貨などを見て回った後、靴屋さんの店先に飾られていた春色のパンプスが目に留まる。
一目惚れしたその靴を、私はすぐに買うことに決めた。
着ていた洋服にも似合いそうだからと、さっそくその場で履き替えることにする。
そしてお店巡りを再開した私は、気付いたときには踝の辺りに、
真っ赤な靴擦れを作っていた。それも両足に・・・。
 「こんなことなら、薬局で絆創膏を買って来れば良かったな」
駅前にあったドラッグストアに立ち寄ろうとしたとき、バス停には季封村行きのバスが停まっていた。
これを逃すと、また1時間以上待たされることになる。
私はドラッグストアに立ち寄ることを諦めて、そのままバスに乗って帰ることに決めた。
村まで戻れば、ゆっくりでも歩いて帰れる。その考えは、どうやら甘かったらしい。
バスを降りたときには、歩くたびに靴が踝に当たって、足を前に出すことすら困難になっていた。
出かけるときに履いていた靴も、運の悪いことに、同じ部分が擦れてしまって履き替えられそうもない。
 「やっぱり、誰かに迎えに来てもらわないと、ダメかな」
困り果てた私は、つい誰かに頼ることを考えてしまう。
最初に浮かんだのは、真弘先輩。
でも、すぐにその考えを、頭の外へ追い払った。
 「ううん、真弘先輩はダメ。一人にすると問題ばっかり抱え込む、って言われてるんだもん。
 こんなことで頼ったら、本気でトラブルメーカーのレッテルを貼られちゃう。
 ・・・それに、迷惑ばかり掛けてたら、嫌われるよね、きっと」
こんなことも満足にできないのか、って・・・。
心に浮かんだ不安を振り払うように、一度頭を大きく振る。
それから、次に浮かんだのは美鶴ちゃんの顔。
でも、同じように彼女にも、頼ることができなかった。
 「美鶴ちゃんも、ダメだよね。今ごろは、お夕飯の仕度で忙しいはずだもん」
諦めたように溜め息を吐いていると、いつの間に影から出ていたのか、
おーちゃんが私を見上げるように、足元に座っていた。
 「そっか、おーちゃんがいたんだ。ねぇ、おーちゃん。ちょっと人型になってくれる?」
私の言葉に従うように、ポンっと空中で一回転すると、人型に変身する。
 「ぼく、たまきのやくにたつ。おてつだい、するのー」
おーちゃんは、片言の人語でお手伝いを買って出てくれた。
 「うん、じゃあ、お願い。お家に帰って、私のサンダルを持ってきてくれる?
 もし判らなければ、美鶴ちゃんに聞いてね。
 『足が痛くならない靴、欲しい』って言えば、きっと美鶴ちゃんなら判ってくれるから」
私は、ゆっくりと発音しながら、おーちゃんにお遣いの内容を伝える。
 「あし、いたくないくつ。もってくる。ぼく、ちゃんとできる。いってきまーす」
私の言葉を復唱すると、にっこり笑ったおーちゃんは、元気良く家に向かって走り出した。
これで、何とか家まで帰れそうかな。私は安心したように、ホッと息を吐いた。
 
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