「彼氏の証明」(5)
俺は一度大きく息を吐くと、心に圧し掛かっているコンプレックスを口にする。
「珠紀、あのさ・・・。お前、やっぱり、拓磨みたいに背のでかいやつの方が、好きか?」
「そういうのは・・・気にしたこと、ないです。真弘先輩が、真弘先輩なら、私は・・・」
「でもよ。背が高けりゃ、上の方でも楽々届くし、色々便利だろ」
学園祭の準備中、珠紀が拓磨に言った言葉。
あの言葉が、俺の心に棘のように刺さって外れない。
「それは、便利だとは思いますけど。何なんですか、それ?
私、真弘先輩を、便利に使おうと思ってるわけじゃないですよ。
それに、上の方に用があるなら、脚立とかそういうのを使えば良いじゃないですか」
俺の問いに、珠紀がムッとしたような声で答える。
「良いですか、先輩。私は、真弘先輩だから、好きなんです。
身長も拓磨も、全然関係ありません。
なら、真弘先輩は、私が玉依姫だから、傍にいてくれるんですか?」
「それは違う!! 俺も・・・、お前だから、その・・・」
「私だから、何ですか?」
今日の珠紀は、なんだかやけに強気だ。
俺は、珠紀の勢いに負けて、自分の気持ちを素直に告げた。
「す・・・好き・・・なんだ」
言わせんなよ、んな、恥ずかしいこと・・・。
俺の言葉に、「嬉しいです」と小さく呟いて、胸に顔を埋める珠紀を見れただけでも、
まぁ、言って良かったのかな・・・とは、思うけどよ。
そして、珠紀を抱く腕に力を入れる。全身で珠紀を感じられるように。
「もう一つ、聞いても良いか?
学園祭、二人だけで一緒に回りたい・・・って言ったら、お前OKするか?」
「当たり前じゃないですか!!元々そのつもりでしたよ。真弘先輩は、違うんですか?」
心外だ、という顔で、珠紀は俺の顔を見返す。やっぱ・・・そうだよな。
「いや・・・そうかな、とは思ったんだけどよ。
夕飯のとき、大蛇さんと美鶴と一緒に、って言ってたじゃんか。だから・・・」
「学園祭は、二日あるんですよ?一日はみんなと回って、もう一日は二人で・・・って。
あの、勝手に決めちゃってたこと、怒ってるんですか?」
途端に心配そうな顔になる。
そっか、一日は俺と一緒に。そう思ってくれてたんだ。
ったく、俺ってば、どうしてこう情けねーんだろうな。
「怒ってねーよ。ホント、わりぃ。勝手に拗ねちまってた。
お前にとって、俺っていったい何なんだろうな・・・って不安に思っちまってよ」
暗闇がそうさせるのか、俺は素直に抱えている不安を口にしていた。
普段だったら、こんな俺、絶対、人に見せたくないのによ。
「そんなの、決まってます。私の、一番大切な人・・・ですよ」
「ん、そっか、・・・なら良かった。お陰で、自信も復活した。サンキューな」
今度こそ、自然に笑うことができた。
そんな俺を見て、珠紀が頬を赤らめながら、自分の願いを伝えてくる。
「じゃあ、私もお願いがあります。
真弘先輩の気持ち、もう一度、聞かせてもらえませんか?」
もう一度言うのか、あれを・・・。照れくさくなった俺は、珠紀と同じくらい、顔が赤くなる。
一瞬天を仰ぎ、小さく息を吐く。そして、珠紀の耳元へ口を近づけると、小さく呟いた。
「俺は、珠紀が・・・好きだ」
珠紀の顔に極上の笑顔が浮かんだ。
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