「居場所」(2)
「それにしても、こんなに早く帰ってきちまって、良かったのか?
友達に逢うとか、色々あったんだろ。お前は元々、向こうの人間なん・・だ・・・し」
俺の言葉に、珠紀は何故か、顔を曇らせた。
「あ? どした?」
「まだ、ダメなのかな。私自身はもう、季封村の人間になれたって、思ってたんだけど。
まだ、受け入れられて・・・なかったんだ」
どんどん小さな声になりながらそう言うと、珠紀は完全に下を向いてしまった。
「ちがっ!!そういう意味じゃねーって」
珠紀がそんな風に思っていたなんて、俺は全然気付かなかった。
別の場所から来たってことに拘っていたのは、俺だけだったんだ。
「お前はもう、季封村の人間だよ。誰がなんと言おうとな。
季封村を覆ってる力は、お前の霊力だ。カミがそれを、受け入れてる」
「・・・それは、判ってます。でも、そんなことじゃなくて・・・。じゃあ、先輩は?
真弘先輩、前に、向こうへ帰れって言ってましたよね。
まだ、そう思ってるんですか?」
鬼斬丸を巡る戦い。生贄になる俺を逃がさぬよう、ババ様が珠紀を利用する。
そう思った俺は、珠紀を逃がすために、親元へ帰そうとした。
絶対に、こいつを苦しめたくない。戦いになんて巻き込ませず、ずっと笑っていて欲しかった。
その一心で、俺はこいつに、”帰れ”って言ったんだ。
「もう、思ってねーよ。つーか、んなの、関係ねーだろ。季封村とか、そんなんよ。
お前のいる場所は、俺の横だけなんだから」
今更、帰せるわけねーだろ。戦いは終ったんだ。そして、俺は生きてる。
この先もずっと生きて、こいつを護るって、そう決めたんだからよ。
「ありがとう・・・ございます。すごく、嬉しい」
そう言いながら、珠紀は幸せそうに笑った。
その笑顔があんまり可愛いんで、思わず抱きしめちまいそうになる。落ち着け、俺!!
顔が赤くなっているのを見られたくなくて、俺は慌ててソッポを向いた。
照れ隠しに、手に持っていたカップに口を付ける。
「あっちぃ〜!!」
表面に膜が張ったココアを、一気に口に入れてしまった。中、全然冷めてねー。
「やだ、先輩、大丈夫ですか?今、水持ってきますね」
「いーよ、自分で行くから!!」
口の中を火傷した俺を気遣って、珠紀が台所へと走る。その後を追い駆けるように、立ち上がった。
ったく、サマになんねーな、ホントによ。でも、まぁ、俺たちはこれで良いよな。
俺の横に、お前がいてくれる。ただ、それでけで・・・。
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