「不在」(3)

宴が終わり、家へ帰ってから、三度目の電話を掛けた。
先ほどと同じように、冷たい機械音が珠紀の不在を告げる。
 『 あっちで、元彼にでも逢って・・・ 』
 『向こうの方が楽しくて、こっちに戻りたくなくなってるんじゃ・・・ 』
さっきの拓磨や慎司の言葉が、頭から離れずにいた。
判ってる。珠紀がそんな女じゃない、ってことくらい・・・。
でも、向こうで生活していた頃の、俺の知らない珠紀が、どうしても俺を不安にさせる。
あいつは元々、成り行きで季封村に来ただけだ。
両親の海外転勤のために、一時的にババ様に預けられただけで・・・。
俺や他の守護者と逢い、鬼斬丸の戦いを通して玉依姫の力に目覚め、
カミとの調停を使命と思って季封村に留まることを決意した。
だが、あいつは普通の女だ。
使命とかそんなこととは関係なく、普通に生きることを、あいつは知っている。
俺たちと違って・・・。俺たちは、生まれた時から、カミの力を持ち、
玉依姫の守護と鬼斬丸の封印維持のために生きることを、課せられていた。
これ以外の生き方を、俺たちは知らない。
季封村を離れたあいつが、普通に生きることを望んだとしても、
それは誰にも責められるものじゃない。俺だって、あいつがそれを望めば・・・。
 「くそっ、何で電話に出ねーんだよ!!」
あいつの声を聞けば、少しは安心できるのに・・・。
今すぐ、あいつを迎えに行って、季封村に連れ戻したい衝動に駆られる。
すでにバスの運行時間は過ぎているが、俺の翼なら難なく最寄駅まで行けるはずだ。
たとえ電車が走っていなくても、一晩掛ければ珠紀のいる都心にだって・・・。
でも、そんなことをして、珠紀が喜ぶのか?
都心に残ることを望む珠紀には、俺はもう不要かも知れないってのに・・・。
 「何だよ、さっきから!!どんどん後ろ向きになっちまってんじゃねーかよ!!」
俺らしくもない。頭を振って、気持ちを切り替える。
もう一度、珠紀に電話を掛けてみよう。
そして、あいつが電話に出なければ、俺があいつを迎えに行く。
たとえ、珠紀自身が都心に残りたいと願っても、無理矢理にでも季封村に連れ戻す。
・・・さすがにそれは無理か。玉依姫の言葉に、俺たち守護者は逆らえねーからな。
そんときは、潔く、諦めてやるさ。それこそ、無理かも知れねーけどよ。
 「拓磨たちが変なこと言うから・・・。暗いぞ、俺」
空元気のように、わざと明るい声を出すと、一度大きく息を吐く。
 「よし、これが最後の電話だ」
そう言って、覚えてしまった電話番号を押す。
緊張しながら聞いた数回のコール音の後、フイにその音が途切れた。
受話器の向こうから聞こえてくるのが、三回まで聞いた機械音なのかを、
息を殺して待つ。
 「・・・もしもし」
ずっと聞きたいと思っていた声が、ようやく俺の耳に届いた。

完(2009.11.28)  
 
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