「暗雲」(3)
真弘先輩の掃除が終るまで、私は自分の教室で待っていた。
「わりぃ、遅くなった」
程なくして戻って来た真弘先輩は、疲れたーと言いながら、椅子に座り込む。
「あれだけ暴れまわってたら、疲れるに決まってるじゃないですか」
「掃除してたんだっつーの。だいたい、この時期、落ち葉ばっかりで、キリねーしよ。
庭掃除なんて、意味ねーって」
うんざりした顔の真弘先輩は、途中で買ってきたらしい紙パックのジュースを1つ、
私に放って寄越した。
「あ、ありがとうございます」
「んー。で、さっきのは、何だったんだ?」
自分の分のジュースにストローを刺しながら、思い出したように尋ねる。
「えっと、・・・特に意味はありません」
「はぁ?ふざけんなよ!!意味ないわけ、ねーだろーが!!」
私の言い訳に、真弘先輩が声を上げる。
だって、本当のことなんて、言えるわけがない。
もし、この気持ちを知られたら、真弘先輩は絶対に私のことを嫌いになる。
真弘先輩の友達に嫉妬してるなんて・・・。
私は自分の気持ちに蓋をするように、表面上の言い訳を口にする。
「本当にないんですよ。強いて上げれば、羨ましかった、って言うか・・・」
「羨ましい?」
訝しげな表情をしている真弘先輩に、私はつとめて明るい声を出す。
「ほら、真弘先輩、みんなといて、楽しそうだったから。
それ見てたら、私も仲間に入りたいなー、みたいな?」
「何ガキみたいなこと、言ってんだよ」
「真弘先輩だって、仲間ハズレ嫌いだって、言ってたじゃないですか。
それと同じですよ」
「俺は、言ってねー!!つーか、あれは祐一が勝手に言っただけだろう。
じゃあ、何でその祐一と、あんな風にベタベタひっついてたんだよ」
「ベタベタなんてしてません!!
あれは祐一先輩が、真弘先輩をからかおうとしてただけで・・・」
ベタベタしてるようには、見えなかったと思うんですけど。
祐一先輩の名誉のためにも、ここだけは全力で否定しなくては!!
「・・・本当に、それだけなんだな?」
低い声でそう尋ねる真弘先輩は、とても真剣な表情をしていた。
「ほ、本当です。ちょっと、淋しくなった・・・だけなんです」
これは嘘じゃない。あの先輩と並んでいる所を見たとき、真弘先輩が、
遠くへ行ってしまいそうで、すごく淋しかった。
「ったく、あんま、心配させんなよな。寿命が縮まんだろーが」
全身の力を抜いて息を吐き出すと、無造作に頭を掻き毟る。
「・・・ごめんなさい」
そう言いながら、私は俯いた。今は笑顔を作るのが、とても難しいから・・・。
ごめんなさい、真弘先輩。どうか、お願いです。ずっと私だけを見ていてください。
このまま、あの先輩の視線には気が付かないで・・・。
そうして私の心の中は、一段と深い闇色に塗り潰されていった。
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