「お弁当」(2)

翌朝。いつもより早起きをして台所へ行くと、すでに美鶴ちゃんが食事の仕度をしていた。
 「おはよう、美鶴ちゃん。早いね」
 「おはようございます、珠紀様。
 朝食の用意と、珠紀様の分のお弁当は、既にできておりますので・・・。
 ごゆっくり、鴉取さんの分をお作りください」
美鶴ちゃんはにっこり微笑むと、すでにラッピングされたお弁当箱を両手で持ち上げた。
私の分、作ってくれたの?ついでだから、自分で作ろうと思ってたんだけど・・・。
真弘先輩のお弁当作りに専念できるように、って、気を使ってくれたのかな。
美鶴ちゃんのお弁当と比べられても良いように、気合入れて作らなくちゃね。
台所を一人で占有させてもらって、お弁当を作り始める。
そして、期待と緊張の入り混じるお昼休み。
みんなの前で、っていうのは、さすがにちょっと恥ずかしいので、
真弘先輩には登校前にお弁当を手渡していた。それなのに・・・。
 「これを見ろ!!珠紀の手作り弁当だぞ!!」
見せびらかすようにお弁当箱を掲げながら、真弘先輩が大声を出す。
 「珠紀の弁当」
 「手作りの、っすか?」
 「真弘先輩、ズルイです」
真弘先輩の言葉に、祐一先輩、拓磨、慎司くんが、すぐに反応する。
 「あっはっは、何とでも言え。これは、彼氏である俺様の特権だ」
真弘先輩、恥ずかしいから止めてください。
仁王立ちになってお弁当箱を掲げている真弘先輩に、他の三人が群がる。
 「真弘、それはみんなで分かち合うべきだ」
 「そうっすよ。真弘先輩には、いつものやきそばパンもあるじゃないっすか」
 「真弘先輩。僕のお弁当と交換しませんか?」
そんな風に言ってもらえるなら、みんなの分も作ってくれば良かったな。
私はみんなのやり取りを傍観しながら、自分の分のお弁当を広げた。
 「珠紀のそれも、自分で作ったのか?」
テーブルの上に置かれた私のお弁当を、拓磨が目ざとく見つけて聞く。
 「ううん、私の分は美鶴ちゃんが作ってくれたから・・・」
見比べられたらちょっと恥ずかしいな。そう思いながら、お弁当箱の蓋を開ける。
 「ほぉ、これはまた、斬新な弁当だな」
 「で、でも、色合いは綺麗だと思いますよ」
祐一先輩と慎司くんは、私の前に置かれたお弁当を覗いて、そう言った。
美鶴ちゃんが作ってくれた私のお弁当。
白いご飯の上に、綺麗なピンク色の桜でんぶが、ハート型に敷き詰められていた。
何でなの?美鶴ちゃぁ〜ん。

完(2009.11.03) 
 
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