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ワールドトレードセンターが襲われた日、ボストンのローガン空港で旅行鞄が一つ見つかった。アメリカン航空011便のボーイング７5７機をノースタワーへと操縦したテロリストのパイロット、アタのもので、同機への積み替えが間に合わなかった荷物である。書類のなかに、1996年4月に書かれた彼の遺志が残されていた。

「全能なる神の名において」

私ムハンマド、ムハンマド・アル・アミール・アワド・アル・サジードの息子は、私の死後に以下のことが行なわれることを希望する。私はムハンマドが神の使者であることを信じ、神が全人類を墓から蘇らせる時が来ることを確信している。私の家族および誰であれこれを読む者が、全能なる神を畏れ、道を過たないことを願う。彼らが神を畏れ、真の信仰を持つ神の預言者達に続く努力をすることを望む。彼らは私を偲んで、息子に良きイスラム教徒として死ぬことを課した（預言者）アブラハムの範に従うこと。私が死亡した場合、私の財産を継ぐものは以下のことに注意すること。

1. 私の遺体を安置する者は、良きイスラム教徒であること。それによって私は神と神のゆるしに近くなるからである。
2. 私の遺体を安置する者は、私の目を閉じて私が天に昇るよう祈ること。私に新しい衣服を与え、私が死亡した場所に私を残さないこと。
3. 私のために泣いたり、叫んだり、ましてや衣服を裂いて顔を打つことは誰もしてはならない。それは愚かなジェスチャーである。
4. 過去に私と交際のなかった者は、誰も私の死後に私を訪ねたり、接吻したり私に別れを告げることをしてはならない。
5. 妊婦も不浄な人も、私に別れを告げてはならない。私はそれを拒否する。
6. 女性は私の死に対して許しを請わないこと。安置された私の遺体の前のいけにえについて、私は責任を持たない。イスラムの教えに反するからである。
7. 遺体の監視をする者は、神を忘れず、私が天使の元にいることを祈ること。
8. 私の遺体を洗う者は、良きイスラム教徒でなくてはならない。またどうしても必要な場合を除いて、その人数が多すぎないこと。
9. 私の体の性器周辺を洗う者は、そこに触れないよう手袋をすること。
10. 死衣装は白い布を使い3部分からなるものであること。ただし絹やその他の高価な素材ではないこと。
11. 女性は葬儀に参列してはならない。また後日私の墓を訪れてもならない。
12. 葬儀は静かにとり行うこと。コーランを読むとき、埋葬のとき、そして祈りのため地に身を伏せる時の三つの機会には静寂を重んじると神が言ったからである。葬儀は私のために祈る人が多くいる場において素早く行なうこと。
13. 墓に入れるときには、良きイスラム教徒と共にし、顔をメッカの方へ向けて埋葬すること。
14. 私は体の右側を下にして埋葬して欲しい。「君は塵から生まれ、塵であり、塵に帰る。そして塵の中から新しい人間が生まれる」と唱えながら、私の体の上に土を三度かけなければならない。その後皆が神の名を呼び、私が神の宗教を信じるイスラム教徒として死んだことの証人となること。私の葬儀に参列する者は皆、私のためにゆるしを請わなければならない。
15. 私が人々の集いを楽しめるよう、人々は私の墓で一時間を過ごすこと。いけにえを捧げ、その肉を必要とする人々に分け与えなければならない。
16. 40日に1度、あるいは一年に一度死者を偲ぶ風習がある。これはイスラムの慣習にそぐわないので行なわないでほしい。
17. 葬儀では、言葉を紙に書き付けてそれを後日お守りとしてポケットに入れて歩くようなことは誰もしないこと。これは迷信である。その時間は神に祈るために使う方が良い。
18. 私が残す遺産はイスラム教の規則に従って配分しなければならない。全能なる神が我々に課された通りに、3分の１は貧しい人、それを必要とする人に分け与えること。私の本はモスクの所有物とすること。私の遺言を執行する者は、スンニ派の指導者であること。それが誰であろうと、私が育った地方の出身かあるいは私の祈りに従った者であること。儀式がイスラムの信仰に沿ったものでなければ、儀式に関係した者がその責任を負う。私が後に残した者は神を畏れなければならない。人生が供するものに惑わされてはならない。その代わりに神に祈り良き信者であること。この遺言の指示に沿わない者あるいはイスラムの戒めに背く者はその責任を負うことになる。

これは1996年4月11日、イスラム暦1416年Dhu al-Kadaに書かれた。

書き記した者：ムハンマド・アル・アミール・アワド・アル・サジード
証人：アブド・アル・ガーニー・マスワディ（署名）
証人：アル・ムタサディーク・ムニール（署名）