お茶の間ロッケンロール通信 2002.08.11号
還暦ロック

 1年ぶりに更新の「お茶の間ロッケンロール」、今回のテーマは「還暦ロック」である。

 1960年代、ロックという音楽は花開き、世界中に広まっていった。ロックの旗手的存在のジョン・レノンもボブ・ディランもミック・ジャガーも、みんな二十代の青年だった。つまり、ロックは若者が演奏する、若者のための音楽だったのだ。
 しかし、今は21世紀。1960年代なんて遥か昔のことだ。中学生の時にビートルズの「アビーロード」をむさぼるようにして聴いていたぼくは、今年40歳になる。そして、ぼくのアイドルだったロックアーチストたちは、日本でいうところの還暦、60歳になってしまった。
 でも、ぼくは今でも日常的にロックを聴いている。そして、60歳を越えたボブ・ディランはニューアルバムをリリースし、ローリング・ストーンズは21世紀初のツアーに出ようとしている。いったい誰が21世紀になっても、ローリング・ストーンズが世界ツアーを続けていることを想像できただろうか?
 
「還暦ロック」は、当然のことながら、もはや若者の音楽ではない。しかし、彼らのロックには今も60年代のビートが流れ続けている。
Love and Theft
Love and Theft

ボブ・ディラン
●ボブ・ディランの21世紀最初のアルバムタイトルは「ラブ・アンド・セフト」、直訳すると「愛と窃盗」、実に意味深なタイトルである。
 このアルバムの発売日は2001年9月11日で、ボブ・ディランの未だ衰えぬ同時代性を感じる。あのテロの日に「愛と窃盗」という名のアルバムをリリースするなんて、やはりオヤジは只者ではない。

 肝心の内容は、意外にもバラエティーに富んでいる。カントリー、ジャズ、ブルース、フォーク、ロカビリーと様々な曲調が詰め込まれているのだ。ボブ・ディランによるアメリカのポピュラーミュージック絵巻と表現すればいいだろうか。
 正直に書くと、現時点ではそれほど良いアルバムとは思えない。しかし、七年殺しがボブ・ディランの必殺技である。ある日、突然に今まで気にもとめていなかったメロディーや詩が頭から離れなくなるのが、ボブ・ディランなのだ。

 おそらく、ぼくが「ラブ・アンド・セフト」の良さに気づくのは時間が掛かるだろう。しかし、すぐには理解できない奥深さが、ボブ・ディランの魅力のひとつである。
ブリッジズ・トゥ・バビロン・ツアー
ブリッジズ・トゥ・バビロン・ツアー

ローリング・ストーンズ
●もうすぐアメリカでローリング・ストーンズのワールドツアーが始まる。冒頭にも書いたが21世紀になってもローリング・ストーンズがツアーを続けているとは、誰も想像できなかっただろう。

 今度のツアーではストーンズは一つの都市につき、スタジアム級の大会場、一万人クラスのアリーナ、千人程度のライブハウスの合計3ヶ所で、コンサートを行なうようだ。70年代にストーンズのメンバーだったミック・ティラーや、豪華なゲストが各地のステージに飛び入りするらしい。
 実は、ぼくはこれが最後のローリング・ストーンズのツアーの予感がしている。というのも、いつもはツアーの前にニューアルバムがリリースされるのが、今回は未発表曲を数曲含むベスト盤なのだ。また、ストーンズのかってのメンバーがゲストとして予定されているのも、異例のことである。以上のことから推測するに、今度のツアーはローリング・ストーンズの集大成的なものになるのではないだろうか。
 
 期間限定でローリング・ストーンズの前回のツアーのDVDが1500円で店頭に並んでいた。このDVDに収録されている「ブリッジ・トウ・バビロン・ツアー」の目玉はセンターステージの存在である。メインステージから架けられた橋を渡って、ローリング・ストーンズのメンバー達がアリーナ中央に設けられた小さなステージ上で演奏するのだ。
 このツアーのことは「優雅な石ころ達とロックンロールの終焉」に詳しく書いたので、そちらを読んで欲しいが、1年前にその文章を書いた時に見たヨーロッパツアーのビデオでは、ミック・ジャガーが以前のように動き回らないので、少し年老いたように感じた。
 しかし、このDVDでのミック・ジャガーは違う。やけに元気が良いのだ。ステージの袖から延ばされた花道を軽やかに走り抜けて、卑猥なポーズで客を煽り、ステージ中央に戻って、息を切らすこなく歌に戻る。普段からトレーニングや摂生を続けているのだろうが、還暦前の人間の動きではない。

 センターステージは客との距離がとても近く、色々なモノが投げ込まれる。「イッツ・オンリー・ロックンロール」が始まろうとする瞬間に、客席から投げ込まれたブラジャーがミック・ジャガーの足元に落ちる。それをすぐに拾い上げ「たかがロックンロール。でも、そいつが好きなんだ」と唄う60歳直前のミック・ジャガー。ロックの道は深く険しいと感じさせる、名シーンである。
Hard Rain
Hard Rain

ボブ・ディラン
●このところ、ボブ・ディランにどっぷりとはまっている。アマゾンのネット通販で買うのも、ボブ・ディランの過去にリリースされたCDばかりである。おまけで、もう一枚、ボブ・ディランのアルバムを紹介しておく。

 膨大な数があるボブ・ディランのアルバムの中で、近頃特に気に入っているのが「激しい雨」だ。このアルバムでは、30代の気合の入りまくったボブ・ディランが堪能できる。

 「激しい雨」は1976年に行なわれたローリング・サンダー・レビュー(なんとかっこいい名前!)というツアーのライブアルバムである。
 このツアーは少し特殊で、ライブと並行して映画が撮影されたり、ボブ・ディランが化粧してステージに上がり、演劇的な要素も盛り込まれていたらしい。このような状況からすると計算された緻密なステージが行なわれていたように思えるが、「激しい雨」の中のボブ・ディランは自分の昔の曲をぶち壊しまくるラフでワイルドなパンクロッカーなのだ。

 CDをトレイにセットするとチューニングともイントロともつかぬ、ミック・ロンソン(デビット・ボウイの「ジギースターダスト」でギターを弾いている)のペナペナしたギターの音が流れてきて「マギーズ・ファーム」という曲に雪崩れ込んでいく。あとは一気にラストの「愚かな風」まで、パンクロッカーのようなボブ・ディランが全力疾走で走り抜けていく。バックのラフな演奏、ボブ・ディランの強烈にシャウトする声、ぼくはこれほどまでに勢いのあるライブアルバムを他に知らない。

 「ロックって、なーに?」と訊ねられたとき、「これを聴け」と差し出したいアルバムが「激しい雨」である。
●6月にノートPCを買った。出先でも仕事をする必要に迫られたのと、バックアップしておくべきファイルが増えたのが、購入の理由だ。
 ノートPCの意外な効用は、場所を変えて原稿を書けることだ。いつもは仕事部屋のディスクトップPCでガシガシと原稿を打っているが、ノートPCだといつもと違った環境で文章が書けるので、少し新鮮だったりする。

 ノートPCにはコンボドライブが付いていて、DVDが見られるのだが、これが良い。居間のテレビは今や子供専用なので、こそっと別の部屋にノートPCを持ち込み、寝転びながら気楽に映画などに没頭できるからだ。液晶画面で見るローリング・ストーンズ、時代も変わったものだなと思う。
 携帯用のDVDプレイヤーが未だに10万円近くすることを考えると、買ったノートPCは15万円だったので、安い買い物のように感じる。