発色剤・静菌剤 その1

私は発色剤・静菌剤として硝酸カリウム・亜硝酸ナトリウムを使用しています
亜硝酸ナトリウムは毒性も強く、発ガン物質を作り出すことが知られています
使用することの意味と危険性を説明いたします


はじめに
長文になりましたが読んでください

ハム・ソーセージ等の食肉加工において上記薬品の添加は常識になっています。意識的に添加し始めたのは近代のことでしょうが、両物質は食肉加工が始まった当初からその役割を担っていたことは間違いありません。

岩塩には大量の硝酸塩が含まれており、塩漬けされた肉に浸透し、硝酸還元菌によって硝酸塩が亜硝酸塩に変化してその役割を全うしてきました。しかしそのことは不衛生な環境、行程があったからこそ起こり得た皮肉な結果でした。そのため近代においては管理された薬品を管理された量添加することによって不衛生な行程を経ずに安全で美味しい加工品を作り出すことに成功しました。

亜硝酸塩はボツリヌス菌に対する静菌作用と発色剤としての作用があり、また肉に独特の風味を付けて美味しい加工品を作る上で欠かせないものとなっています。無添加の豚臭いベーコンをたべたことのある人には分かっていただけると思います。

反面、両化合物による急性中毒および亜硝酸塩とアミンの結合によって生じる発ガン性物質であるニトロソアミンの問題も指摘されています。そのため古い歴史をもつ両物質が常に非難の的となっています。しかし本当はどうでしょうか。
以下、微力ながら非難に対する弁明を、というよりも正しい理解をいただけるように努力してみたいと思います。

注)硝酸塩および亜硝酸塩の活性はそれぞれ硝酸根・亜硝酸根にあるが、特別の場合はを除いて硝酸塩(主としてKNO3)・亜硝酸塩(主としてNaNO2)と表現しました。


急性毒性

非難のうち、亜硝酸塩による急性毒性に関しては1960年代のアメリカで発生したブルーベビー症候群がしばしば取り上げられます。この急性中毒は以下の条件で発生したと思われます。
状況:
  1. 硝酸塩濃度の高い地下水。
  2. 野菜に含まれている大量の硝酸塩。
  3. 大人より弱い乳児の胃酸分泌がもたらした消化管内の細菌分布。
  4. 日本の赤ちゃんより早期(生後3ケ月)に始まる離乳食。
経緯:
  1. 硝酸塩濃度の高い地下水に育まれた高硝酸塩ホウレン草をペーストし離乳食を作った
    ただし茹でると70%以上の硝酸塩が茹で汁に移行し、その後水に晒すと15%が流出する。
    しかし、茹でた水にも多くの硝酸塩が含まれていた。
  2. 茹でた後やペーストにしてからの放置により硝酸塩から亜硝酸塩が作られた可能性がある。
  3. 胃酸分泌が弱いため、硝酸塩が吸収される消化管上部まで腸内細菌が繁殖し、硝酸塩から亜硝酸塩が作られた。
  4. 腸で吸収された硝酸塩が唾液に分泌され、口腔細菌により硝酸塩から亜硝酸塩が作られ体内に吸収された。
  5. ヘモグロビンと亜硝酸塩が結合しメトヘモグロビンが発生した。
    メトヘモグロビンは酸素を運ぶことができないので酸欠状態になった。
  6. 生体にはメトヘモグロビンを正常のヘモグロビンに戻す酵素があるが、この酵素は乳児に大変少なく月齢を経て増加する。
    早い離乳食時期によってこの酵素が十分に働かなかった。
原料であるホウレン草と茹でる水にも多くの硝酸塩が含まれ、茹でた後の放置により亜硝酸塩が発生した恐れがあり、生体内では硝酸塩から亜硝酸塩が作られた。そのうえ乳児という特殊条件が加味されて一層深刻なメトヘモグロビン血症が発生したというのが正しい解釈だと思います。

この恐ろしい症候群の直接的原因は亜硝酸塩であるが、亜硝酸塩の原料は硝酸塩である。硝酸塩は野菜に大量に含まれ、生産性を上げるための過剰な施肥によってますます含有量が増加しています。

含有量の比較:

それでは硝酸塩として、日常食べている野菜と、添加された加工肉での含有量の比較はどうであろうか。

国立医薬品食品衛生研究所大阪支所食品衛生部1998.4による調査では、ホウレン草の平均的な硝酸根は3,560mg/Kgとなっています。このホウレン草を湯がくと70%が流れだし、水に晒すことによって15%の流失がありますので残留量は硝酸根で534mg、硝酸塩に換算して約800mgになります。この残留量は1Kgのホウレン草から作ったおひたしに含まれる硝酸塩です。

同一の調査でポークソーセージの硝酸根濃度は8.8mg/Kgで硝酸塩に換算して約13.2mg/Kgとなります。1980年原田によって報告された硝酸塩の平均値は、燻製ベーコン140.9、ロースハム149.0、プレスハム143.3、ウインナー149.4mg/Kgであり、最高は938.3最低は9.9mg/Kgであった。

WHOでは硝酸塩の単独致死量を4,000mgとしていますので、どちらも致死量には遠いのですが、どちらの食品に多く硝酸塩が含まれているか、野菜と加工肉のどちらを多く摂取しているかを思い浮かべてください。

硝酸塩の濃度においては通常の食事を摂っているかぎり、急性中毒は考慮しなくてもよいことがわかりました。ただし、ベビーフードについては注意が必要です。

硝酸塩の代謝 亜硝酸塩の発生:

ブルーベビーの例にあるように体内に取り込まれた硝酸塩(LD50:2.3g/Kg マウス 経口)は結局、亜硝酸塩(LD50:0.22g/Kg マウス 経口)に変化し強い毒性を発揮しました。

摂取した硝酸塩は小腸上部で吸収され、血液に移行して約75%は腎臓を経由して尿中に排泄され、約25%は唾液中に分泌されます。分泌された硝酸塩は口腔内の細菌によって約20%が亜硝酸塩になるらしく、結局摂取した硝酸塩の5%が亜硝酸塩になる計算です。

1976年の調査で日本人は食事や唾液からの亜硝酸塩は平均17.7mg/dayであり、そのうち唾液からが16.5mg/dayですから、生体内の亜硝酸塩の約93%が唾液により供給されていることになります。
ホウレン草1Kgからつくられたおひたしに含まれる約800mgの硝酸塩は口腔内で40mgの亜硝酸にになり、ロースハム1kgに含まれる約150mgの硝酸塩は口腔内で7.5mgの亜硝酸塩になります。本当は、亜硝酸塩にならなかった硝酸塩が再吸収され、唾液に分泌されて亜硝酸塩になる循環を繰り返すので、それぞれ49.5mg、9.28mgと考える方が厳しい条件で考察できると思います。

これに各食品に含まれている亜硝酸塩を加算すると、ホウレン草のおひたしは49.5+0=49.5mg、ハムは9.28+27=36.28mgである。
青酸カリに匹敵すると指摘された亜硝酸塩の最低致死量(多くのHPに書かれている量)180mgを摂取するには、ホウレン草3.6Kgから作られたおひたしか、または4.9Kgのロースハムをとらなければならないことになります。

結語:

確かに亜硝酸塩(硝酸塩から体内で生成されるものも含めて)は劇物です。でも食肉加工には安全な量を計って使用しますから、亜硝酸塩そのものが危険であるといって製品が危険であるという事ではないことを理解いただけると思います。

一般的には加工された肉をたべるより同量の野菜を食べる方がより多くの硝酸塩を摂取することになります。また日常生活では加工肉よりも野菜のほうを多量に摂取しています。
硝酸塩を何から摂取したとしても体内で亜硝酸に変化することにはかわりありません。

関連リンクは発色剤・静菌剤 その2にあります