◎8月11日(火)(11日目)
トク〜チキン

荒野の真中で車が故障!

今日は約200キロの未舗装路テイラーハイウェイを通り、アメリカとカナダの国境を越える。その後、カナダ側のトップ・オブ・ザ・ワールド・ハイウェイ経由で、ゴールドラッシュで有名なドウソンシティに向かう予定。妻と、「今日はダートばかりで町もないので、故障だけはしたくないね」と話しながらキャンプ場を出発。

トクを出て20キロほどでテイラーハイウエイに入る。30キロ程は簡易舗装がしてあり、スムーズなドライブ。天気もよく、途中の景色をエンジョイする。その後、予想通りダートにはいり、約70キロほどダートを走りつづける。道は昨日の工事中のものよりはましであり、ほっとしていた。

スタートして約2時間ほどで、小さな町が見えてきた。町はチキンと呼ばれ、昔の金鉱掘りたちの名残がある。ダウンタウンチキンと呼ばれる町並み(4軒)が昔をしのばせる。人口は37名。

チキンで休憩。そして、いざカナダ国境を越えてドウソン市に向かおうとすると、車の床から激しいノッキングのような音が聞こえた。ここからが、悪夢の始まりであった。

車自体は動くのだが、途中で大故障になるといけないと思い、Uターンをして、パンハンドラーという土産物屋に戻る。そこで車のメカに詳しい人に床下みてもらうと、「ドライブシャフトベアリングがいかれているんで、どうしようもないね。一番近い112キロ先のトクか、174キロ先のドウソンまでレッカー移動して直すしか方法はないよ」と言われ、目の前が真っ暗になった。さらに追い討ちをかけたのが、「電話もトクかドウソンに行かないとないんで、ヒッチハイクしてそこへいくしかないよ」との言葉。

やむを得ず、レンタル契約書と各種連絡先の記されたバインダーをデイパックに詰め、妻と子供達には、「もしかしたら2〜3日帰ってこれないかもしれない」と言い残して、悲愴な気分でキャンピングカーを離れた。幸い、キャンピングカーには3日分程度の食糧・水・燃料が積んである。しかも、故障した場所が簡易キャンプ場で、売店も横にあるという好条件に恵まれていたため、家族の安全面にはあまり心配がなかった。これがダートの途中であったなら、真剣に熊の心配までしなければならなかっただろう。

ここから先は、いろいろな幸運が重なることになる。生まれて初めてのヒッチハイクをすべく、「ダウンタウンチキン」を訪れている観光客の数名に「トクかドウソンに行く人はいませんか」と尋ねる。すると、3人目の中年のカップルが「ゆっくりだけどトクにいくよ」と言ってくれた。

レンタカーがカナダのものであり、また次の目的地もドウソンであったので、本当はそちらに行きたかった。しかし、せっかく乗せてくれるということなので、「ままよ」という気持ちで乗りこんだ。後で気が付いたのだが、動転していてパスポートをもっていなかったので、これが正解だった。

このカップルは、カナダ・ブリティシュ・コロンビア州のケン&リンダ・ウイリアムス夫妻で、トラックキャンパーでアラスカの旅に向かうとのこと。大変親切な人達で、気持ちが落ち込んでいる私を何やかやと励ましてくれた。

朝来た道を2時間かけて戻り、トクに到着。すぐに、ウイラード・オート・エレクトリックというRV、トラック修理を専門にした修理工場を発見。そこが24フィートのキャンパーのレッカー移動ができることが確認できるまでウィリアム夫妻は見届けてくれ、次の目的地に向かった。本当に、同夫妻には感謝感激。

このウイラードの修理工場は油で汚れ、機材もいかにも古ぼけており、若干不安に思えた。しかし、壁を見ると、GMでの各種トレーニングを受けた証書が掲げられており、GMが専門とわかり一安心。ここの親父ウイラードは、いかにも職人という風体で、腕はよさそう。

そこからやっとのことRVのレンタカー会社に電話をいれると、「メカニカルトラブルなので、修理代は全部うちでもちます」と言ってくれ、ひとまず金銭面での心配は消えた。

ガレージではすぐにレッカー車を出すといっていたが、結局やりかけの仕事が片付くまで2時間も待たされた。その間に、私が故障したチキン周辺で、さらに2件の路上故障が発生したとの連絡があった。午後6時、ようやくレッカー車が始動。

このレッカー車は車齢20年ぐらいで、途中で故障するのではないかとの私の心配をよそに、猛スピードでダートを疾走。最初に見つけたのは、ファンベルトの切れた30フィートのクラスAキャンパー。これは後で処理する、とのことでやり過ごす。、チキンから約2キロ手前で出会ったのは、右半分が路肩をはずれ、45度右に傾いた30フィートのバスキャンパー。これをレッカーで引き揚げている間に、私は歩いてチキンに向かった。6時間ぶりに家族に再会。レッカー車を連れ戻り、ヒーローになった気分であった。

1時間後、レッカー車が到着。念のため、とウィラード親父は交換部品とメカニックを連れてきてくれた。幸運にも故障は重大でなく、その場で修理できるとのこと。結局、修理が終わったのは、深夜の11時であった。白夜のアラスカでなければ到底不可能なこと。それにしても、その場で直してしまったウィラード親父の職人気質には感心。レッカー移動すれば、彼らは1マイル$7.50請求できたはずなのに…。

色々な幸運が重なり、結局ダウンタイムは半日ですんだ。その夜は、そのままチキンにキャンプ。本当に長い一日であった。