未成年の主張−第三部恋のからまり編第四話
乙姫
静香
「だからなんでアイツがいるんだよ」
座った瞳でカオルはトモキに詰め寄った。
やっときた顔合わせの日、カオルは教室に当然のように入ってきたマルガリ頭に開いた口がふさがらなかった。即座にトモキの腕を取り、教室の端っこに連れて行く。切羽詰まったカオルに対して、トモキは涼しい顔で答えた。
「なんでって・・・出るから」
「出るって・・・まさか、この映画に!?」
認めたくなかった可能性をあっさり肯定され、カオルの目の前が暗くなる。
「まさかもなにも、この映画のための顔合わせだろ?」
あぁ無情。レ・ミゼラブル。
「だ・・・で・・・どどど・・どうしてアイツなわけ?いつからお前、あいつの知り合いになったんだよ!!やだ!絶対にやだ!アイツが傍にいるとロクなことがないんだもん。俺下りる!この映画出ない!!」
目を丸くしたカオルは、うろたえながらトモキに訴える。が、トモキの方もこうなることははなから分かっていたのか、ふふふんという顔で続けた。
「あ、いいのかそんな事言って?せっかくユキヤも出るって言ってくれてるのになぁ。忙しい中、お前のために!!!!時間を割いてくれるって言ってくれてるのにな・・・・」
グサ。カオルの胸に刺さる矢。ユキヤが・・・俺のために?と俯くカオル。
実はカオル、ユキヤが白雪姫の台本をいつも持ち歩いては台詞を一生懸命覚えているのを知っている。クラスの演劇、部活のお茶室、おまけに生徒会の活動もあって、忙しさに輪がかかって睡眠時間も減らしているのだ。そんなユキヤが自分のために時間を割いてくれるといっている。それを無にすることができるだろうか?いや・・・・そんなこと・・・。
「でも・・・・」
でもでも、やっぱり映画をやめてユキヤに時間を返してあげた方がユキヤのためにも良いのかもしれない。これ以上ユキヤが睡眠時間を減らして、倒れでもしたら?考えるだけで胸が痛む。
「でも・・・なんだよ。ミソノだって、ユキヤが紹介してくれたっていうのに」
「へぇっ!?」
そ・・・それは驚きだ。だって、ユキヤには『アイツには近付いちゃいけません』って言ったのに。
「あ、でも交渉したのは俺だから。ユキヤは一言もアイツとは話してないぞ」
フォローの一言。それなら確かにユキヤ自身は近付いてないのか・・・・いやいやいや。にしたって、なんでユキヤは??
カオルは首をブンブンと振りながら、部屋の真ん中で椅子に座っているユキヤを見る。と、その時ユキヤがカオルを見て、微笑んだ。
ニコッ
う。可愛い。なんて愛くるしいんだろうか。
「お前の役者人生のために、ユキヤも頑張るって言ってくれたんだよ。これでお前が頑張らないでどうするんだ!?」
トモキはユキヤの微笑みに心動かされているカオルの心中を察し、まさにトドメの一言をさす。と、カオルは壁に向かって頭をうな垂れながら呟いた。
「ユキヤが・・・・俺のために?」
「そうそうそう。一緒に仲良く映画に出てれば、二人の愛のメモリーにもなるぞ。将来、二人で『こんなこともあったねー』って見返せるし。そんなのって滅多に無いぞ!」
言われてみればそうである。芸能人でも無い限り、自分と恋人の映画なんてそうそう残るもんでもない。そのことに、ちょっとカオルの心が揺さ振られた。
「そ・・・そうだよなぁ・・・」
「そうそうそうそう。・・・さ、そうと決まれば顔合わせ。さっさとしようぜ!」
そうと決まったのか?半ば強引に決められたような気がしながらも、ユキヤの微笑みを見るとすべてがどうでもよくなってしまう。まさに、麻薬のようなモノ。
カオルがモジモジしながら教室の前の椅子に座る間に、トモキはさっさと円状に組んだ机の議長席の前に立つ。そして、適度に人が集まっている様子を見て言った。
「さ、お待たせ。今日来てもらったのは他でもない。うちのクラスの文化祭の出し物についてなんだけど・・・・・」
淀みない口調で話し出す。まさに水を得た魚のような姿だった。
「・・・というわけで、全体のストーリーが事前に知れ渡ると困るので、台本は極一部の出演者とスタッフにしか渡せないけど、面白い作品になることを信じて協力してください」
出演者の紹介やら、スタッフの紹介やらが済んだあとのトモキの一言。すると、教室の後ろの方でスッと手が上がった。
「はい。そこ」
トモキがその腕をさす。立ち上がったのは、他でもないミソノだった。カオルの表情が自ずとゲンナリする。
「すみません。僕もこの映画の成功を願うものの一人として、ちょっと提案してもいいでしょうか?」
「あぁ、大歓迎だ」
トモキがペンを片手に、ノートを広げる。と同時にミソノが言った。
「やはり、より多くの観客を得るために見せ場は多い方がいいと思うんですよ」
「あぁ、そうだな」
トモキが快く返事をする傍らで、見せ場?とカオルが眉をひそめる。
「ここはひとつ、カーアクションと車の爆発炎上シーンを入れた方が」
「ちょっと待てい!無免許の高校一年生がなんでカーアクションできるっちゅーねん!」
思わずカオルが立ち上がる。すると、カオルに目を見てもらえたことが嬉しいのか、ミソノがちょっと頬を緩めて返した。
「じゃあ、車の爆発炎上だけでも・・・」
「そんな金どこにあるんじゃい!」
「しょうがないですねぇ。なら、主人公の変身シーンでキューティーハニーのように全裸を披露とか・・・」
「いつからヒーローものになったんだよ!」
「15禁覚悟の濃厚ベッドシーンとか」
「作った自分らが見れねぇじゃねぇか!」
「カオル先輩・・・・。脱げない役者は使ってもらえなくなりますよ」
本気で心配そうに呟くミソノ。あーのーなーーーーっとカオルはすさんだ瞳でミソノを見返す。
「この話は一介の学生の青春モノなの!だいたいベッドシーンっつったって、男子校で相手なんか・・・・」
といいながら、ユキヤとだったら・・・・とも思いカオルが思わず言葉を止める。いやいやでもでも、人の見てる前でそんなこと!!くっはーーーーだめだめ!!ユキヤの素肌なんか誰にも見せられない!!(←寮の風呂場で腐るほど見られているのでは・・・・)
が、次の瞬間同じような事を違うキャストで想像し、悦に入っているミソノの顔を見てカオルの背筋に寒いものが走った。
「・・・・・面白い」
そんな二人を現実に引き戻したのはトモキ。カオルは嫌な予感がしながらトモキを見つめた。
「確かに、日本映画のワビサビ感っていうのは素人映画だとかったるくなるだけだし、だったらいっそのことハリウッド的にドンパチがあった方が楽しいかもな。それか、インド映画みたいなのとか・・・」
「な・・・お前、なに言ってんだよ。そんなの脚本と全く違うじゃないか」
うろたえながら手でトモキを制するカオル。と、その手に何故か握手で返してトモキが言った。
「じゃあ、飾子さんにも相談してみよう。な。ユキヤはどう思う?」
「俺はよく分からないですけど・・・・でも、カオル先輩が主役なんだから、できるだけのことはしたいです」
グサグサ!
またもやカオルの胸に刺さるユキヤの愛の矢。この場合、ちょっと複雑ではあったものの。
「ということで、じゃあ今日はこの辺にしておこうか。スケジュールに関してはうちのクラス荒垣と各自話し合うようにしてくれ。今日はありがとう。解散」
トモキの爽やかな言葉と同時に、それぞれが席を立って教室を出て行く。
カオルは一気に消耗した顔で立ち上がり、近付いて来るミソノを睨み付けた。
「お前なぁ・・・・」
「・・・・・・・濃厚ベッドシーン」
嫌な笑顔で、カオルとすれ違い際にポソリと呟く。
カオルは瞬時に石化すると、瞬きすら出来ずにその場に立ち尽くした。
一体、ストーリーって・・・・・・?