未成年の主張−第二部恋のかけだし編第一話


乙姫 静香     



 ここは某県某市にある東月学園(とうげつがくえん)。中高一貫教育で知られる名門男子校である。国立私立を問わず、有名大学への進学率も高く、全国から優秀な生徒が集まることでも知られている。しかし学校の中は、そんな表の澄ました顔とは違って、どちらかというとのんびりのほほんとした雰囲気であることはあまり知られていない。

 生徒会室。今日も生徒会役員であるカオルとユキヤは居残って掃除をしていた。
 新入生もそろそろ学園に慣れはじめた4月の半ば、カオルは高校生になったが、中学生の頃と寸分違わずに、こうしてユキヤと一緒に掃除をしている。入学式も一緒に係をやったし、変な姉たちも鹿児島の空の下。俺らの関係、順風満帆?と、にこにこの日々が続いていた。
 と、掃除の途中、ユキヤが嬉しそうにカオルに言った。
「先輩。今日は面白いものがあるんです」
 箒を傍らに置き、何やら小さいものを鞄から出す。
「デジカメ?」
 ユキヤが取り出したもの、それは最近テレビでもよくCMしている最新型のデジカメだった。なんでまた、こんなハイカラなものをユキヤが・・・。
「姉が送ってきたんです。使い方覚えろって」
 ユキヤをマニュアル代わりに使おうと考えている、上二人の姉の姿が浮かぶ。カオルは春休みの騒動を思い出しかけ、頭を振った。
 いやいやいや、もう高校生になったんだから、ちょっとは落ち着かねば・・・と、自分に言い聞かせる。
「何か撮ったのか?」
「はい。とりあえずは寮にあったものを。ほら、これでこのテレビで見られます」
 生徒会室に置いてあるテレビにユキヤがケーブルをつなぐ。
「えい」
 ユキヤの言葉と同時に、徐々に画像が現れる。
 何?・・・字?
「あ、これは失敗なんです」
 ユキヤが言った瞬間に気がつく。この画面いっぱいに映るピントのずれたものは・・・。
−あ!救心の「救」の文字だ!!ユキヤの奴・・・こんな至近距離で、なぜ救心・・・。
「こっちが本当です」
 まだ操作になれないらしく、あーでもないこーでもないと呟いては、ユキヤがカメラをいじくる。そして、次の画面に出たものは。
 青い・・・。
「ユキヤ、なにこれ?」
「ドラえもんの後頭部です。近すぎたみたいですね。あっ!でも、次を見てください!!」
 全面に広がるぼやーんとした青いものを消して、ユキヤが意気揚々と次の写真を見せる。
 あ、今度はドラえもんということが分かるぞ。横向きに立っている。
「あ、ドラえもん!」
 とりあえずは、ちゃんと撮れてるよ〜という意味も込めて、カオルがユキヤに微笑む。ユキヤが嬉しそうにそれに応え、更に次の写真を見せた。
「あ、またドラえもん」
 再び横向きのドラえもん。ユキヤ、嬉しそう。次。
「また・・・・ドラえもん」
 再び横向きのドラえもん。ユキヤ、嬉しそう。次。
「・・・・・・・ドラえもん」
 再び横向きのドラえもん。ユキヤ、嬉しそう。次。
「ユキヤ、これ間違い探しかなんか・・・?」
「違いますよ!良く見てください先輩!このドラえもん、歩いてるんです!!えっと・・・えっと」
 ユキヤが勢いよく最初の横向きドラえもんに戻す。
「いいですか、これが最初のドラえもん。この、ドラえもんの足元、テーブルの木目に注目して下さい。スタートがこの、ちょっと濃い茶色ですね・・・・で、次が進んで左足を出してるでしょ?このちょっと薄い木目の所に・・・」
 ユキヤが一生懸命に解説をしながら、写真を変えていく。言われてみると、確かにちょっとづつ進んでいることが分かるような・・・。
「本当だ・・・歩いてる」
「でしょでしょ。すごいでしょ、このドラえもん!!歩いてるってことを先輩に見せたくて、俺なりに表現して見ました!」
  でもやっぱり、俺にはドラえもんよりもユキヤだよ・・・と、カオルは心の中で呟く。そんなことにさえも無邪気に喜ぶユキヤが、可愛くてたまらない。
「でも、どうして動画で撮らなかったんだ?動画で撮れば、もっと動いてるのが分かりやすかったのに」
「動画・・・?なんですか?それ」
 きょとんとするユキヤ。もしや、またよからぬことを姉から吹き込まれたのだろうか?
「だってそれ、デジカメだろ。動画・・・ようするに、ビデオカメラみたいに動いてる画が撮れるんだぞ」
「えええ!?そうなんですか!?」
 目を大きく見開いて、ユキヤがおののく。カオルは「またか・・・」と思った。
「マニュアル送ってくれなかったのか?お姉さんたち」
「送ってくれましたけど、同室の奴が身体で覚えた方がいいって・・・」
−はっ、そうか。そこにもユキヤを弄ばんとするやからが・・・。
 と、カオルが新たなる障害に警戒心を募らせた時だった。
「あれ?」
 ユキヤが更に次の写真をめくった時に、見なれた顔が映る。
 カオル自身だった。しかも、これは教室の移動中か?
「あっ!だっ、駄目です!」
 途端に顔を真っ赤にして、ユキヤがテレビの前に立ちはだかる。さっさと画面を消すという方に頭が回らないところが、カオルにはまた可愛かった。
「俺・・・?」
「あっ・・あの・・・・・・はい」
 耳まで真っ赤にしてユキヤが俯く。なんかこの隠し撮りちっくな所が、カオルの心をくすぐった。
−そうかぁ。ユキヤの奴、俺のこと・・・。く〜〜!可愛い!!!!
 満足げに何度もカオルが肯く。
「見かけたんなら声かけてくれればいいのに」
「でも、先輩急いでるようだったから。邪魔しちゃいけないと思って」
−ユキヤのためなら、どんな用事も二の次さ!!
 と、カオルが早くも落ち付きを無くしかけた時だった。
「あれ?」
 ユキヤが立ちはだかる隙間から、カオルがあるものに目をつける。この・・・教室の影・・・。
「どうしました?」
 ユキヤもカオルの変化に気がついて、一緒に画面を見る。教室の影に一人カメラ目線の男がいる。背が高い。カオルよりも高いような気がする。でも丸刈り。任侠モノに出てきそうな目つきで、カメラを凝視している。
「あ!」
 カオルが指差した先を見て、ユキヤが小さく声を上げる。
「どうした?」
 カオルが聞くと、ユキヤが画面の前にしゃがんで言った。
「この人、俺知ってます。最近よく見かけるというか・・・・なんか、よく目が合うんですよね。誰なんだろうって、ちょと気になってたんですけど・・・」
 ピキリーン
 カオルの中で、危険信号の鳴る音がする。
−絶対にユキヤのこと狙ってる!!しかも、俺より背が高い・・・。
 いままでそういう邪魔が入らなかったこと自体が不自然だったのかもしれない。もともと可愛くて人気者なユキヤだったが、逆にこの天然ボケっぷりに告白を断念するものが多かったのも事実だ。でも、この目は違う。こいつはやる気だ・・・と、カオルは野生の勘で感じ取っていた。
 ガタッ
 物音に、二人が顔を上げる。と、まさしく今、画面に映っている男がそそくさと走り去った。
「あれ、今の人・・・」
 ユキヤが立ち上がって廊下に顔を出す。
「行っちゃいました」
 変なの。と言いたげにユキヤが首を傾げる。カオルはそんなユキヤそっちのけで、来るべきにライバルに敵意を奮い立たせていた。
「あ、先輩」
「なに?」
 瞳の中で炎がメラメラと・・・。
「ゴールデンウィーク・・・なにか用事あります?」
「試合のある時があるけど・・・」
「ない時もあるんですね?」
 にこっとユキヤが微笑む。なに?デートのお誘い??
 瞳の中の炎がしゅるしゅると消えていく。
「実家から、姉たちが来るんですけど、一緒にこの辺の案内してもらえませんか?俺よりも、先輩の方が地元に詳しいし」
−何ーーーーーっ!!姉が来る!?

  怖いのは、姉かライバルか?
 もうすぐ夏だぞ、カオル君。