「被団協」249号  2000.8月

主な内容(全8ページ)
1面 原爆松谷裁判勝利
2面 鳥取−介護保険福祉系サービスも被爆者負担ゼロ 東京都議会−意見書採択 20世紀に思う−新藤兼人
    核かくしかじか
3面 長崎−被爆地域の拡大・是正を 「原爆と人間展」−神奈川 
4-5面 てい談「20世紀から21世紀へ 被爆者運動の期待を語る」
7面 「原爆と人間展」−群馬県庁内で  フランス・ルノー社内で
8面 相談のまど「介護保険の保険料」 


原爆松谷裁判−最高裁判所が国・厚生省の上告を棄却

 長崎の被爆者・松谷英子さんが全面勝利しました。最高裁判所は7月18日、国側の上告を棄却する判決を言い渡しました。福岡高裁判決どおり、松谷さんの疾病は「原爆症」と認定されました。
 松谷さんは記者会見で、「この勝利は、被爆者と支援してくださった国民みんなの勝利です」と語り、12年ぶりの笑顔で、長く、苦しかった裁判が決着したことを心から喜びました。
 日本被団協は直ちに声明を発表し、「判決は、実態を無視した被爆者対策の冷酷さと被害の過小評価の不当性を明らかにした。厚生省は係争中の訴訟をただちに中断し、被爆者の実態に即した対策を充実せよ。原爆被害の全体像をとらえるため科学的調査を実施せよ」と要求しました。
 判決は、国側が原爆症認定の基準としている被曝線量評価評価方式=DS86について、「なお未解明な部分を含む推定値であり、現在も見直しが続いている」として、DS86の「機械的適用」には「ちゅうちょを覚えざるをえない」と判断。そのうえで松谷さんの傷害について、「放射線を相当程度浴び、放射線により治ゆ能力が低下したために重篤化した結果、現に医療を要する状態にある」と認定することが「経験則上許されないものとまで断ずることはできない」として、国の上告を棄却したものです。

 原章夫弁護士の話
 最高裁判決は、被爆者の救済を指向して、ゆるやかに因果関係を認定しており評価できます。
 DS86の機械的な適用がしりぞけられたことは、遠距離被爆であるために原爆症と認定されなかった被爆者の多くに原爆症認定の道を開いたといえます。

松谷・長崎勝利集会

 松谷訴訟勝利の判決から4日目の7月21日の夜、長崎市桜町の県勤労福祉会館で「裁判勝利報告・祝賀集会」がひらかれ、会場には勝訴認定をよろこぶ140人を超える人たちの熱気があふれました。
 会は、「うたごえ」のみなさんの合唱ではじまり、冒頭、「支援する会」の山口仙二代表委員は、判決は被爆者だけでなく核兵器廃絶を願う多くの人々への大きなはげまし、とあいさつ。弁護団長の横山茂樹弁護士は、全国に広がった裁判支援の運動こそが勝利の判決を導いた原動力、と述べました。
 判決の報告に立った弁護団の原章夫弁護士は、弁護士として仕事をはじめたのは松谷訴訟が長崎地裁で始まった年だったとと前置きし、最高裁判決は松谷さんを救済しているものの、簡単に一般化しないように厚生省のための逃げ道も作っており、これからこの判決をすべての被爆者のものとするためのたたかいが必要だと指摘しました。
 このあとの祝宴でも、各界からお祝いの言葉が述べられました。

最高裁判決要旨

主文
 本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理由 
 原審が、放射線起因性の証明の程度について、「高度の蓋然性」でなく「相当程度の蓋然性」の証明があればで足りると判断したことは、法の解釈を誤っている。
 放射線起因性を肯定した原審の判断について検討すると、被上告人(松谷英子さんのこと)は原爆かわらで重傷を負い、下痢症状があり、頭髪が抜けた。避難先では頭髪は一層薄くなり、頭部の傷口からは腐臭の強いうみなどが流出し、一応の治ゆをみたのは被爆後2年半ほどたってからであった。放射線被爆の人体におよぼす確定的影響には、一定線量以上の放射線を浴びないと影響が起こらないというしきい値理論と、原爆放射線の線量評価システムであるDS86がある。DS86はいまも未解明な部分を含む推定値であり、現在も見直しが続けられている。DS86としきい値理論を機械的に適用する限りでは発生するはずのない地域で発生した脱毛を栄養状態や心因的なものなど放射線以外の原因によるものと断ずることにはちゅうちょを覚えざるを得ない。放射線起因性があるとの認定を導くことも可能であって、それが経験則上許されないものと断ずることはできない。



フランスのルノー社内で原爆展

 今年2月から3月にかけて、パリ郊外のギィアンクールにあるルノー社テクノ・センターで「原爆と人間展」パネルが展示されました。
 これは、日本の日産と提携したルノー社の「企業委員会」*によって主催された、日本を紹介する「日本祭」のなかで採り入れられたものです。
 同センターには6000人が働き、外部からも大勢の人が訪れます。「原爆と人間展」はたいへんに効果的で、「原爆について無知であったことを反省した」「核兵器の恐ろしさを実感した」という意見が多数寄せられました。主催者によると、他のどんな展示や講演よりも反響が大きかった、とのことでした。
*〈各組合代表によって構成され、文化・スポーツ・社会活動・レジャーを企画する委員会〉

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