声 明  私たち被爆者はイラク派兵に反対です

 自衛隊が武器をもって他国へ進駐する―これまでには夢にも考えられなかった恐ろしい事態がいま生じています。しかもイラクについては先の湾岸戦争のとき大量に使われた劣化ウラン弾の放射能被害がしきりに報道されており、さらに昨年3月20日から始まったイラク戦争でもふたたび使用されたと言われています。バグダッドをはじめイラク全土で米英その他の進駐軍への攻撃はおさまらず、自衛隊が駐屯するサマワも安全な場所ではなくなっています。
 59年前のあの日、私たちは核戦争地獄をさまよい歩き、この世の終わりを目の当たりにしました。原爆は二つの都市を一瞬にして死の街に変え、生身の人間を虫けら同然に、いやそれ以下の「もの」そのものにおとしめました。
 原爆は生きた人間を人間でないものにし、死者にかぎりないはずかしめをくわえました。かろうじてこの地獄を生き延びた被爆者は、からだと心に永久に癒えることのない深い傷を負って苦しみつづけました。いまも、国内に28万、国外に数千人の被爆者が人知れず、苦痛にみちた日々をすごしています。
 私たち被爆者がこの体験から引き出した教訓は、この苦しみを他の人たちに二度とふたたび味わわせてはならないということ、核兵器は人間と共存できない非人道残虐きわまりない兵器であり、1日も早く廃絶しなければならないということです。
 日本国憲法がその前文で「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうに」と明記し、第9条で、戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否定を謳いあげたのは、原爆被害を頂点とするあの戦争の痛切な体験から導かれた結論であり、英知であったのではないでしょうか。ここにはまた、どのような理由にもとづくものであっても、戦争そのものを悪として拒否する思想があると私たちは信じます。この思想は私たち被爆者のゆるぎない信条でもあります。
 この立場から私たちはいま進められているイラクへの自衛隊派遣に大きな危惧を覚えずにはいられません。たとえそれが復興支援であろうとも、武器をもって兵士が他国へ行くことは戦闘行為をまねくおそれがきわめて大きいからです。平和憲法のもと、59年の間、兵器を使って人を殺傷したことのなかった日本が、はじめて他国の人を殺すことになるかもしれません。なんとも恐ろしいことです。胸が張り裂けそうです。
 そのうえ、いまでは、イラクが保持しているとされた大量破壊兵器の脅威が根拠のないものであったことが確かになってきました。米軍の先制攻撃の大義がくずれたいま、自衛隊の駐留に何の根拠もありません。
 内閣総理大臣をはじめ、閣僚、政府関係者、および与野党国会議員のみなさまに訴えます。
 日本国憲法の立場をつらぬき、イラク派兵をやめ、自衛隊員をただちに撤収させてください。

  2004(平成16)年2月27日
            日本原水爆被害者団体協議会 第303回代表理事会 

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