「被団協」新聞 1999.6月号


厚生省の上告理由に14万字の反論 原爆松谷裁判弁護団が最高裁に提出

 原爆松谷裁判弁護団は5月6日、最高裁第三小法廷に、松谷裁判についての国側の上告理由を全面的に粉砕する「反論書」を提出しました。

 反論書は、本文が144,000字、資料として21点165枚の文書コピーがついている膨大なものです。

 反論書は4部構成になっています。

 第1部は、広島、長崎での原爆被害の実相についてです。ここで弁護団はいっています。「核兵器が人間に対して使われたのは広島、長崎しかない。被爆国である日本が被爆者に対し、そして、原爆の人間に対する影響についてどのような認識と態度をもって臨むのか、そのことが問われているのが本件である」と。

 第2部は、国側の上告理由のポイントとなっている被爆者側の証明の程度についてです。国側は高度の証明がいると主張しています。これに対し反論書は、原爆被害の複合性をあげながら、「このような複合的な被害について、厳密に原爆被害における放射線の寄与のみを切り離して証明することは実質上不可能である」とのべ、「原爆被害の特殊性を考慮すれば、証明の負担は軽減されるべきである」ことを明確にしています。

 第3部は、原爆症の起因性認定と、国側が金科玉条としているDS86の評価についてです。DS86については、理論数値と実際とが合わないため日米の科学者の間で見直し作業が行なわれていることをあげ、「すべての理論計算は、実際の結果と適合して初めてその正しさが立証される」とのべて、「DS86を絶対的尺度として適用することに躊躇がある」とのべた福岡高裁の判決を支持しています。

 第4部は、福岡高裁判決を非難する国側の主張が的外れであることを手短に反論して、上告棄却の速やかな棄却を求める結論になっています。

 反論書は、法律書の常識を破る構成になっているのが特徴です。

 「松谷英子は緊張の朝を迎えた」。これが本文の書き出しです。

 反論書は、最高裁に対して要望します。「何よりもまず、被爆の実相、とりわけ被爆者が『地獄』と呼ぶことの本質……を確認していただきたい」。

 法律を知らない人が読んでも理解しやすく、読んで確信を深める内容になっているすばらしい内容です。

 日本被団協はこの反論書を、松谷裁判運動の教科書として活用する方針です。

松谷署名 上告棄却求め39万人

 原爆松谷裁判弁護団の「反論書」提出にあわせて、原爆松谷裁判ネットワークは、「松谷裁判の上告棄却を求める署名」の個人署名を68,658人分、団体署名を730、上申書を77通、新たに提出しました。

 これで累計は、個人署名389,604人分、団体署名は1,904、上申書は306通となりました。 今回提出分の署名は、各県被団協から寄せられたのが主流です。岡山5,600、東京5,600はじめ、愛知1,300、長野500、宮崎400、岐阜200などとなっています。

胸うつ最高裁への上申書 便せん16枚に切々

 松谷裁判弁護団の反論書提出に合わせ、77通の上申書が提出されました。心のこもったその一部を紹介すると――。

 佐賀県松浦市の寺沢喜助さんの上申書は、便せん16枚におよんでいます。被爆体験から戦後の大変だった暮らしぶりを書き、最近も病気治療ばかりでいることをのべ、「松谷さんに一日も早く原爆症の認定を」「核兵器完全禁止と悠久平和を」と結んでいます。

 京都の梅田勝さんは、衆議院議員時代、原爆特別措置法改正案審議にたずさわったことをのべ、「原爆症の認定については被爆者の実情に即応するよう制度と運営の改善を行うこと」を付帯決議をしたのに、これを無視する「厚生省の態度は許せない」として強く上告棄却を要請しています。

 大阪市の藤永延代さんは、脳腫瘍の手術のため剃りあげた被爆者の頭には、40個のガラス片が突き刺さっていて、その下に腫瘍ができていた例をあげて「原爆の悲惨は目に見えないところで進んでいることです」とのべ、一日も早い上告棄却を要請しています。


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