平成12年12月30日掲載

     去年今年

月のクルス もっとも寒き妹の指

ハレルヤ 宙に冬星の黙示録

神と人のあわいに睦み雪だるま

雪を来しトナカイにして滂沱の洟

夜鳴鶏主は来ませりな裸形にて

反乱雪鶴ごまんとロシア正教会

聖樹の幹瑞き寒さを放ちけり

十二月神父に乙女就きたがる

降誕祭の菓子食うつくりわらいも食う

聖劇やひもじさ知らぬみ母にて

闇に祈らば爪むらさきにこごるなり

聖夜のくさめ神の手帳に記されしか

躓いてストーブを消す年の市

螺旋階昇る いつまで十二月

数え日の時間を抜いてスパイク車

寒いビール 極楽蜻蛉が舞い上がる

子の無い彼奴が深酔いしける年忘れ

居住まいを胎児のごとく去年今年

大旦穢れを掴む目覚めもあり

児に溺れ歳におぼれて家郷の冬

電子レンジ鎮鎮正月のしじま

こめかみの鼓脈めでたき松の内

悴んだ耳輪が揺れる 音あるべし

日当たりのいつも中心 寒き雀

雪国や男耳朶光ることなく

雪曼荼羅泥曼荼羅にふるさとは

                  平成二年 坩堝二・三月号より 


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