平成12年12月17日掲載

 

ふたりずみの冬

 

熟れ極む林檎に狎れしふたりずみ

飽くまでも澄む柿の木に鵙嵌めよ

魚の腹陥ちて中天高き鵙

銀杏黄落ひかりとひかり擦れ違い

また出産ありし残菊日和かな

花八手宙を一人の姉が逝く

語彙あまた舌頭に載せ夜寒かな

霜の華 指のひとつが悪事為す

大音響の航跡を曳き霜柱

木のかたちして菊枯るる大藁屋

立ち枯れの薄 異郷の月満ちて

老人に冬の日向の神詣で

銀杏落つぶすぶすぶすと胎焦がし

街央の森 国ぶりに時雨けり

時雨あがりの黒門『告別式コチラ』

しぐれ町灯がひとつ点きさまざま点き

小夜時雨今朝初雪の街の森

ゴムの木のぬらりと外に雪女

狂いたる時計がひとつ冬の家

ホオジロが来て亡母を呼ぶ十二月

薄氷を踏んで臍まで乾きゆく

地獄の水で真夜中を呑む咳薬

ふくふくと四足しびるる炬燵猫

極月や揺れて柩に似る湯船

共鳴音の中を痩せおり年忘れ

風景の一つに父子 雪崩れけり

電話からそして電話へ雪のこと

憫然と髭剃るは父 餅は焼けて

蜜抜けし林檎美し女正月

紅灯や病雁ここに滞る

大寒や火の粉のごとき子の遊び

闇に闇点じて移る猫の恋

時計屋に時計花屋に花吹雪いてる

盆紅梅女の文の来るや来ず

二月商戦雛のものなど敷き詰めて

脱俗の書を積み重ねファンヒーター

春の泥わが還る地にまぎれなし

昭和61・62年冬 『坩堝』より収録


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