平成18年11月19日掲載

  「特別投稿作品」

   旅にしあれば

        小泉 遊子 (川西市)

松籟に波音の和す淑気かな

餅花や京は老舗の簪屋

一人居の七種囃しくぐもれる

白粥の七種色に染まりけり

人日や気ままに老いの筆硯

一鉢の福寿草愛で恃みもす

葬送や離愁の白き薔薇胸に

白いぼたん赤いぼたんと相寄らず

新涼やするりと肌に絹を着る

オペラ果つブラボー旺んなる夏よ

なかんずく気を漲らせ大夏木

羅を着て断髪の人なりし

羅に透けておんなの白き夕

花茗荷愉しきことに物忘れ

老鶯や石碑一つの関所跡

石庭に白砂の波風の秋

流星や出会いはいつも唐突に

寝そびれて良きこともあり流れ星

余生なお夢捨てきれず天の川

木道の続くや花野何処まで

身ほとりに母御座すごとおかん箸

戎笹掲げて吾も善女なり

なだれ咲く水仙よ海鳴り止まず

一寒燈見えつ隠れつ能登荒磯

軽々と二月のメリーゴーランド

梅雨寒やどの間に入るも落ち着かず

吾が脳の輪切診断走梅雨

是よりは女人禁制夏の蝶

紫の雲あらば遠き花樗

門一つ平城京址草の花

竜神を祀りて暗き泉かな

須磨寺に流る横笛松の月

ことごとく竹の葉先に今朝の露

化野の墓となりたる露の石

懇ろに髪染めいたり夜半の秋

うそ寒や病み痛む日も廚妻

雛古りて姫さずからぬ悔い少し

艶やかに愛しき加太の雛流し

人気なき雛の間雛のさんざめき

色紙を机辺に散らし浅き春

橋灯り消えし海峡春の闇

手を打って灯明を消す春の宵

橋一つ渡れば四国暮れの春

ほうたるの二つ相寄りつと離れ

行々子竿音もなく舟流る

水道は凪ぎ造船の町暑し

奥能登の庄屋継がれて夏炉焚く

三輪山は御神体なり夏木立

化野は葬りの地なり草の月

小春空まぼろしのごと柩車発つ

飲めますと小さき張り紙山清水

病む父に床屋出張りし小春かな

西京の手入れ隈なき竹の春

竹の秋並ぶ傘亭時雨亭

奥能登の山並み低し稲架高し

秋風や露天の茶碗括られる

長き夜のパソコンという玉手箱

車椅子押して春光あまねくす

種袋縦に振ったり横に振ったり

山の端の吐息にも似て春の月

角切の鹿の瞳の憂いかな

この国の何処を行けども桜かな

花に酔い三年坂のジャズ喫茶

白壁の延々御所の夕桜

ミモザ揺れトパーズ色の香を放つ

是よりは花の山城関所跡

船遅々と尾道水道花ぐもり

新松子海が見えると芙美子の碑

地表より手品のごとくクロッカス

奥能登の海に落ち込む青田かな

沙羅の雨比丘尼と話す小半時

一山の芽吹き初めの一樹かな

夕焼けや海に裾ひく利尻富士

入り江には今日も釣人蘆の角

藻塩焼くいつか崩れる沖の雲

馬柵沿いの露草色のあたらしき

かねたたき煩悩幾つ数えおり

秋黴雨机辺に物の堆し

境内に松蔭の家神の留守

幾万の杉に北山時雨かな

寺田屋の刀痕昏き初時雨

風見鶏海峡に風きらめきぬ

比良見えず湖鈍色に初時雨

落柿舎の軒借る嵯峨の時雨かな

瀬音より他は聞えず冬紅葉

手袋の赤きを振って遅れ来し

外宮より内宮よろし冬木立

東に陽光野には霜柱

寒林に日のさし通し翳らぬ時

内親王御誕生祝十二月

年の市外れまで来て折り返す

幸せは平凡な日々日記は果つ

骨壺を抱けば音する寒さかな

主婦という長き年月冬菜刻む

湯豆腐や夫見送りてから死なん

子の幸は母の幸なり日向ぼこ

めずらかや雪の曽根崎近松忌

新築はなべて洋風花水木

芽楓の朱の目に立つ吉祥天

初時雨狐人恋うこんな夜は

 

 

自己紹介
小泉遊子(60歳半ば主婦)
兵庫県川西市在住
夫と二人暮らし

 俳句サロン「電脳坩堝」が開店された2000年4月のその年の9月に私はパソコンを買いました。
 そして、ヤフーから検索した支配人様の「挨拶・自己紹介・主義主張」を読み、感動し、仲間に入れていただき、投句を始めました。
 それまで友達に誘われ、月2回の俳句教室に通っていましたが、初心者の域を出ずにいました。
 支配人様の長きにわたる御指導、添削により、この100句に至りました。
 俳句は「言葉遊び」、楽しくをモットーに、これからも一週3句をつづけていけたらと願っております。

 

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